生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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奇襲

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sideクロウ


「おいおい、嘘だろ?」


俺は家の前に置かれた何だか分からないものに絶望した。


夕食が戻ってきそうだ。


人間の俺でも勘弁してほしい腐臭だった。


もちろん、人間の何百倍も嗅覚のいいラルフとルディは庭で胃をひっくり返している。


よくもまぁ、ここまで運んできたもんだ。


俺は急いで防衛魔法を死体の周りに貼る。


「あぁ……俺もう無理…」


「おい、ルディ。しっかり…っ」


2人はすぐに動けそうにないな。


「ラルフ、ルディ。話は後で聞くから水浴びでもして来い。運んできたお前たちは体を洗わないと匂いからは逃れられないぞ。」


永遠に吐き続けるのは嫌だろうからな。


「「はーい」」


2人はフラフラしながら森の方に歩いて行った。


なるほど、近くの川まで行くつもりか。


まぁその方がいいだろうな。


毎日帰る場所にあんな匂いが着いたら誰でも嫌だ。


それよりも……


「お前の正体はなんだ…?」


この死骸は調べようがない。


腐ってるからな。


何でラルフとルディはこんなもの持ってきたんだ?


何にしろ夜中のうちに終わらせないとな。


レディに見せるものじゃないことは確かだ。


*******************

sideダリア

ラルフ達は大丈夫かな。

明らかに生き物が腐った匂いだった。

2人は何を見つけてきたんだろう。

私ですらあんなに気分が悪くなったのに、ラルフとルディにしてみればあれは失神レベルだ。


「ダリアちゃん?」


いけない、考え事してたからリラちゃんに不審に思われた。


私が深刻そうな顔してたらリラちゃんが心配しちゃうよね。


気をつけないと。


「ごめんごめん、ぼーっとしちゃって!それよりどこまで話したっけ?」


私たちはカウンターに隣同士で座って話していた。


「ラルフと手を繋いだってとこまでだよ。」


あぁ、そうだった、そうだった。


「そうそう、それでね!」

カタッ!!


今日はよく邪魔の入る日ね。


外に誰かいる。


しかも1人じゃない。


「…………」


「ダリアちゃん?」


音からして裏口の方だ。

「ダリア…」


私はリラちゃんの口を塞いだ。


ただの泥棒ならいいけど嫌な予感がする。


とりあえず裏口へ行ってみよう。


泥棒なら捕まえるし、そうじゃなかったとしても何かいい情報が手に入るかもしれない。


こんな時間に彷徨いている輩は異常な奴が多い。


リラちゃんを守りつつ、捕獲開始ね。


********************

sideリラ

ダリアちゃんが優しく私の口を塞いだ後、しーっとジェスチャーしてした。

私が頷いたら、ダリアちゃんは近くにあった蝋燭の火を消して部屋を真っ暗にする。

私は何も見えないけど、ダリアちゃんは違う。


私の手を取り、進んで行った。


行ったのは裏口だ。


裏口は月明かりが入るから、薄暗いけどなんとか視界は確保できるようになった。


ダリアちゃんとドアの近くにしゃがんだら外からは声がする。


私たちはその声に聞き耳を立てる事にした。


「おい、ちゃんと持ってきたか?」

「あぁ、もちろん。これさえあればヴァンパイアの力も上回るって話だ。」


外から聞こえる明らかにおかしな話に私とダリアちゃんは顔を見合わせた。



「それはさすがに言い過ぎだろ?」

「言い過ぎだったとしても力を手に入れることは確かだ!さっさと飲んじまおうぜ!」


飲む?


何か液体を持ってるの?


話を聞いていた限り普通の液体じゃない。


絶対にクロウ先生に渡すべきものだ。


「あぁ!これを飲んで力を得たらこの辺の店全部を襲って金を頂くぞ!」


ダリアちゃんが一度頷いた。


私も同じように頷き返す。


その瞬間、ダリアちゃんが裏口のドアを激しく開けた。


「うわ!!何だお前!!」


ダリアちゃんは素早く裏口から出て1人の男に飛び蹴りをした。


私は裏口にあった空のワインボトルを持ち、遅れて外に出る。


ダリアちゃんは必死に男を抑えていた。


もう1人の男は私を見て路地を走っていく。


「待ちなさい!!!」


咄嗟に体が動いた私は馬鹿で無鉄砲だ。


ルシアス様がここにいたらきっと私を叱りつけてる。


「リラちゃん!!」


ダリアちゃんの声が聞こえたけど止まれなかった。


私は必死に逃げる男の背を追った。


「待てって、言ってるでしょ!!」


走りながらワインボトルを投げた。


頭に目掛けて投げたつもりが、ボトルは急降下。


運がいいことにそのボトルは男の足元に命中した。

「うわっ!!」

足がもつれた男はかなり派手に転んで地面に転がる。


私はすぐさま男に飛び乗った。


「っ!!!」


私が男の胸ぐらを掴んだ時に何か硬いものに当たった。



きっとさっき飲もうとしていた何かだと確信した私は、暴れる男の手を必死で抑えて胸ポケットに手を入れた。


「やめろ!!このクソ女!!」


もちろん簡単なことじゃない。


何をどう頑張っても男と女じゃ力の差がある。


「きゃっ!!」


私はすぐに押し退けられた。


だからって……諦めないけどね!!!


男が立ち上がる前にもう一度飛びついた。


何が何でも男が持っていたものを手に入れないと。


「離せ!!!」


殴られたって離さないから!!!


私はかなり気合が入ってた。


バキッ!!!
「っ!」

本当に殴られるまでは。


左頬に感じたことのない衝撃が走った。


頭の中で星が弾け飛んだ感覚は一生忘れることはない。


口の中は切れて血の味がする。


気分は最悪だ。


男には逃げられたし、私は再起不能だし。


でもいいことはあった。


「リラちゃん!!」

ダリアちゃんの切羽詰まった声が聞こえる。

「嫌だ!リラちゃん!!大丈夫!?」


私は焦るダリアちゃんに戦利品を見せた。


「え!?嘘!!すごい!」


私は痛む頬を押さえて笑った。


「ただでは殴らせないよ。」


殴られたと同時にちゃんと胸ポケットから頂いたんだから。


「さすが私の親友。でも、早く冷やそう?私のキスで少しは治るかもしれないけどあんまり期待しないでね??」


キスで傷を治すヴァンパイア特有のアレだね。


「ありがとう。よろしくお願いします。」


正直なところ少しでも効くなら嬉しいよ。


本当に痛くてたまらないんだから。
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