生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

文字の大きさ
上 下
250 / 471

兄さん

しおりを挟む
sideルシアス


水の中でグルグル回されている。


体ごと回転していて、噛まれた腕が千切れそうだ。


食われる、このまま死ぬ。


嫌だ、死にたくない、怖い、死にたくない!!


でももう無理だ、息もできない、きっと助からない。


涙が水に溶けていく。

腕の感覚もなくなって来た。


このままきっと何もわからなくなる、苦しいのもきっと終わる。


楽になれるんだよ…きっと…




「ルシアス!!!!」


水中でも聞こえるほどの大きな声だった。



兄さんが俺を呼んでいる。


「ルシアス!!諦めちゃダメだ!!!ルシアス!!!」


兄さんはいつも無茶ばかり言う。


こんな状況で諦めるなだって?


そんなの無理だよ。


俺は今すぐ諦めたいし、そもそも諦めかけてたよ。


だけど俺は負けず嫌いだ。


ここで諦めて死んだら兄さんはきっと俺を弱いと認識する。


それだけは絶対に嫌だ。


兄さんに弱いと思われるのが一番の苦痛だ!!!



「離せ!!!!」


俺はこんな奴に食われない!


こんなところじゃ死なない!!!


腕を千切る決意ができた。



だって、このままじゃ殺されるから。



命が助かるならいい、こんな腕ワニに食わせてやる!!



もう片方の手でワニの鼻を掴んだ。



噛まれている方の腕を引きちぎるために力を入れた。


その瞬間、不思議なことが起きた。


水中でボワッ!!!と音がしたと思えば、ワニの花を掴んだ手から虹色の炎が出た。


水中に虹色の炎が溶けるように燃えている。



こんな状況なのに、俺は感動した。


綺麗だ……。



炎に見惚れていると、熱かったのかワニは口を開けた。



それと同時に体が引き上げられる。


「ゲホッゲホッおぇっ!!!」


窒息していた肺にいきなり空気が入り込んでむせ返る。


痛くて苦しい。


鼻も痛いし、気分が悪い。


「ルシアス!!」


兄さんは俺を背負って走ってくれた。


「僕が絶対に守るから死んじゃダメだよ!!」

「ゲホッゲホッ……」


兄さんが珍しくやけになってる。


それくらい状況が悪いということだ。

あぁ、俺の腕はどうなるんだろう...。


このままだと俺の腕はきっとなくなる。

さっきは腕なんかいらないと思った。

命が助かるならそれでいいって。

だけどいざ助かってみれば、腕を失う事実に耐えられなくなってきた。


それは欲張りなのかな...。


きっとこの腕は俺の命と引き換えについているものだ。


「ルシアス?大丈夫?」


兄さんが俺に話しかけているけど、今はそれに答える気力がないんだ。


ごめん、兄さん。


無視している訳じゃないからもう少しこのままで...。


*********************

 sideライアス


地面が崩れてから30分くらい経った。



僕とクロウは無事だけど、ルシアスが気を失ってる。


打ち所が悪かったのかな。



「ルシアス、起きて。もう30分も経ったよ。いい加減にしないと叩き起こすよ。」


クロウを庇ったのはいいとしても少し寝すぎだよ。


やることがまだまだいっぱいあるっていうのに。


「まぁそんなに言ってやるな。半分は俺のせいでもある。」

クロウは罪悪感でも感じてるのかな?

僕らヴァンパイアが人間を守ることは当たり前なのに。


「そんなことないよ。ルシアスは考え事でもしていたのかな。」

いくら何でも鈍すぎる。


「どうせリラのことだろう。」


「たしかにリラのことになるとルシアスは間抜けになっちゃうからね。」


僕がそう言うと、クロウは呆れた様子で僕を見る。


「それは自分にも帰ってくる言葉じゃないのか?」



冷静ではいられないのは一番僕がわかってるよ。


「否定はしないよ。」


僕だってリラにのぼせ上っているから。


気持ちはよくわかるけど、今回はかなり間抜けだよ。


そんな話をしていたら...



「ん...。」


ルシアスが意識を取り戻し始めた。



「ルシアス、平気か?」


クロウが呼びかけるとルシアスは完全に意識を取り戻した。


「ここは...」


意識を取り戻したけどまだ寝ぼけているみたいだね。


「兄さんは...。」


え???


「「兄さん?」」


あまりの衝撃にクロウと声が重なった。


「お前...ライアスのことをそんな風に呼んでいたのか...。意外だな。」


その呼び方で呼ばれるのは何年ぶりだろう。


兄さん、だなんて。



「あ?何言ってんだ。誰もそんなこと言ってねぇよ。」


ルシアスはそう言って起き上がった。



「あー………頭痛い。」

 
頭を打って気絶していたんだから痛いに決まってる。


ルシアスはヴァンパイアだし、治癒力も異常なほど高いから大丈夫だとは思うけど…


「ちょっと見せて。」



一応見ておこうか。


「必要ねぇよ、さっさと」「いいから。」


僕は無理矢理ルシアスの頭を見た。


外傷は特にない。

心配なのは内部の出血。

目を見たけど充血もしてない。


「一応大丈夫かな。」


ぽっくり死なれても目覚めが悪いからね。 



「大丈夫に決まってんだろ、ヴァンパイアなんだから。」


それもそうだね。

僕らはほぼ不死身の化け物だ。


変な話、頭が割れたって死なない。


僕は何を心配したんだろう。



兄さん、なんておかしな呼ばれ方をしたから調子が狂ったのかな。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

前世の因縁は断ち切ります~二度目の人生は幸せに~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:99,096pt お気に入り:2,256

自由に語ろう!「みりおた」集まれ!

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:461pt お気に入り:22

あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:2,286pt お気に入り:37

処理中です...