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第20話 俺と彩夏ちゃんの初コラボ配信!(後編)

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 ついに俺と彩夏ちゃんの初コラボをやる日がやって来た。時間は16時になっている。

 既に彩夏ちゃんが俺の部屋でパソコン周りや、マイクの調整等を一緒に確認してくれている。この子もさすがに配信期間が長いので、他人のパソコンでも色々と扱いを理解していた。俺の周りには何でこんな機械に強い女子が多いんだろうな。女性は苦手だなんて、一体誰が言ったのやら。

 彩夏ちゃんが自分用に用意された椅子に座って、セッティングしながら聞いてきた。

「あの、渉さんのVTuber時の呼び名はどうしますの? お互いに」
「あー、そうだなぁ。セバスチャンで良いんじゃないか。彩夏ちゃんの方はお嬢って呼ばれてるし、リリムお嬢様ってのはどう?」
「それは、わたくしの使用人みたいな感じにしますのね。それはいつも通りな感じで良いですの」

 俺の2Dモデルはまさに使用人の服装をした、ブラックのタキシードの姿。それに引き換え、夢坂リリムはピンク色ロリータワンピで、ゆるふわウェーブヘアーのお嬢様みたいな容姿。これなら相性が良いかも知れないな。

「後はまぁ普段通りな感じで良いと思う。彩夏ちゃんもいつも通りでさ」
「分かりましたの。わたくしの配信もあまり普段と話し方も変わらないですので、そのまま行きますの」

 そうこうしている間に、配信時のセッティングを済し終えた。後は配信時間になるのを待つだけだ。もちろん、SNSにもお互いに配信の宣伝もしているので、夢坂リリム側の配信だし、視聴者さんがチェックしていれば見に来るだろう。ただ、俺の存在に違和感を感じないといいのだが。

 逆の立場で考えると、こいつ誰だろうって思うけど。まぁメインが夢坂リリムが見れれば良いだろうってなるか。それからテーブルの上には罰ゲーム用のお菓子の110味ビーンズマンが置かれている。使うのはこのお菓子に決める事にしたが、実際にまだ食べてないのでどんな味かは未知数だ。味が豊富で反応が違うとらしいとネットでは有名だ。

「渉さんはパーティーゲームはお好きですの?」
「昔は妹のすみれと竹中とやってた事もあったし、普通に好きだよ」
「ふ~ん。そうなんですね。でも今日はわたくしと2人っきりですの」
「う、うん。そうだね。じゃあそろそろ初コラボ配信いこうか」

 もう既に夢坂リリムの配信画面の待機画像に、視聴者さんのメッセージが流れている。

『今日のコラボ配信の相手って誰だ』、『リリムお嬢がコラボとか久しぶりだし、楽しみ』、『お嬢の配信ちょっと久しぶりと思ったら、コラボとかのこのためだったのかな』と、チャットが流れていく。俺が出て夢坂リリムの人気を落さないようにしないとな。

 そうして俺達は2人で初コラボ生配信を始めた。




 第一声をリリムお嬢様が言っていく。

「こんばんはーですのっ! 今日も元気いっぱい、夢坂リリムですのよ。最近配信してなくて心配かけましたの。そして――今日はゲストが来ておりますの!」
「えと、皆様こんばんは。セバスチャン渉です。本日は有名な夢坂リリムお嬢様の配信に呼ばれて嬉しい限りです。今日はよろしくお願いします」
「セバスチャンとは、以前格ゲーで戦った事がありますの。配信を見た方は知っているかも?」

『ああ、あの時の格ゲーでお嬢と良い試合した奴か』、『wataruさんはセバスチャンだったのか』と、納得したようだ。

「今日は2人で大富豪をやっていきますの」
「リリムお嬢様とはいえ忖度そんたくしませんからね」
「セバスチャンっつたらわたくしに勝てると思ってるなんて、甘いですのよ? それに今日はあれがありますの」

 視聴者さんのチャットも『お嬢やけに強気だけど大丈夫か?』、『セバスチャンとか完全に執事で草』、『今日はお嬢の無双を拝みに来ました』、『お嬢って基本これ系弱いはずだけど』。

「そうですね、リリムお嬢様。コラボ配信として、今日は企画としあれがありますね」
「そうですの! 皆さま、今日の注目は一戦事に負ける度、罰ゲームとして、この有名な激マズお菓子が入っている『110味ビーンズマン』を1つ食べていきますの!」

『おおおお! 良いね。これは大量に食べるの超期待!』、『俺もあれ食べたけど、ゲロ味とか衝撃だった』、『いやいや、土味も相当狂ってたからな!』、『お嬢罰ゲーム入ると強くなる説あるぞ』。

 何故か視聴者さんも味を知り尽くしているようだ。多分見ている人も経験した事があるみたいだ。これは噂以上に不味まずいのもあるようだなぁ。

「それではさっそくゲームをやっていきますの」

 俺達はそれぞれの、携帯とTV型にも使えるゲーム機の『shift』を起動する。当然パソコン画面に映せるようにキャプチャーボードを接続してある。映っている方の画面は当然夢坂リリムだ。

 ローカルでも可能な大富豪が入ったソフトを起動して、さっそく2人の対戦の幕が切って落とされた。

「さぁ勝負ですわよっ!」
「受けて立って差し上げますよ、リリムお嬢様」

 大富豪のルールはシンプルで、革命あり、8切りあり、階段、階段革命ありのルールとなっている。一応念のために配信詳細部分に、使われているルールを記載してある。

 Jバックやしばりのルールは入っていない。反則となるジョーカー上がりと、8上がりはあるが、それだけだ。もちろん都落ちも入っている。4人プレイ時の残り2人分のCPUは強いにしており、油断をすればCPUに負ける事もあるだろう。

 俺に配られたカードは13枚の中であまり強くない。一番強いカードがA2枚で、階段も出来ない弱小カードばかりだ。大富豪そのものが強くない上に、このカードだと早速負ける予感だ。とりあえず俺からだったので、無難なカードを出す事にする。

「いや。ちょっとこれは非常に情けないカードばかりだ」

 俺は3の2枚ペアを出す。

「あらあら、もう弱気ですの?」

 すかさずCPUが8切りで場を流し、5単体を出し、次々にカードが出される。

「わたくしは余裕がありますの」

 リリムお嬢様は強気にK13を出してきた。俺は当然何も出せず流す。Aを出したところで無駄だろうなぁ……。しかしCPUがAを出して、その場を流してきた。そのまま6を出して9が出たところで、リリムお嬢様がAを出す。そして場は流され、5の2枚を出していく。

「まだまだこっちの流れを取り戻しますの」

 CPUが7の二枚を重ねてくる。しかし俺にはJの三枚だけが唯一対抗できるが、これを出したら、もう最下位に近くなるだろう。8も一枚あるし、流すしかない。

「今回は無理ですね。これは相当厳しいですよ俺」

 しかしどうやらリリムお嬢様のカードは強いみたいで、『これお嬢が強カード占領してるじゃん』、『お嬢のカード、チートやん』、『もう勝負はついたんじゃないのかこれ?』と、視聴者さんも勝負の行方を分かってるようだった。

「ではこれで軽くいきますの」

 リリムお嬢様は9を出す。JやQとCPUも出していく。が、結局俺やCPUがちょこちょこ出したカードを2やAでリリムお嬢が封殺していき、勝負はあっけなく終わった。どうやらカード運が良かったらしい。

「今回はわたくしの運が良かったですのね。勝利ですの!」

 すると、早速チャット欄から『罰ゲームキター!』、『はよ罰ゲームいこう』、『罰ゲームターイム』と、連投されていく。

「さあ! さっそく運命の罰ゲームですの!」
「まじですかー。仕方ありませんね。早速この110味ビーンズマン食べさせて頂きます!」

 俺は机にある中身が見えない箱から一つ取り出す。

「ビーンズマンの見た目が分からないように、中が見えない箱に入っておりますの。だからそれを強制的に食べる事になってますの」

 俺は一粒口に放り投げた。形はジェリービーンズと同じだが、味は見た目では分からない。赤に黒の斑点模様でいかにも不味そうだと思い咀嚼してみると、土の苦みと生肉っぽいエグみが口を覆い尽くした。

「まっず! 不味すぎて吐きそう! うう。ちょっと待って水、水!」

 俺はペットボトルのミネラルウォーターを一気に飲み干した。何だ、この味。最初からハズレを引いてげんなりする。

「赤に黒の斑点模様って見た目だけで、もうハズレ臭が凄いですよ、これ」
「う~ん、それは……」

 リリムお嬢様が隣で味の一覧を確認している。一体何の味だ。これはかなり糞味のトップだろうと思っていると、

「どうやらそれはミミズ味ですわ。調べたらトップ3にも入る不味さらしいですのね。その期待を裏切らない引きはさすがですの!」

『さすが、セバスチャン。いきなり良い当たり引いてるな』、『ミミズ味、俺も食ったけど、触感もミミズ感があって吐き出したわ』、『食べ物の味じゃねぇよな、ミミズとか。リンゴ味とかもあるのにな』。

 画面を見ると763円のスパチャがいくつか飛んでいく。763円って南無さんって事かよ。視聴者さんが妙な気遣いをしてくれて苦笑してしまう。芸人ばりの当たりを引いたからか、いきなり3000円で『初手で期待を裏切らないの嫌いじゃないです』って書かれてる。まぁ皆が楽しんでくれたら、身体を張って良かったものよ。

 そして1位がリリムお嬢様、CPUが2、3と続き、俺が大貧民となる。

「では、続きをやって行きますの」

 こうして二回戦目が始まった。が、俺が大貧民になった以上、中々勝てるチャンスはなく、一度だけ自力で革命をして、勝機があると思ったものの、リリムお嬢様はしっかり3や4のカードをキープして、自らの座を落すことなく圧勝したのだった。

 どうやらリリムお嬢様の今日の運は良いみたいだ。こうなるとまた罰ゲームの時間がやってくる。

「さぁさぁ、セバスチャン。ビーンズマンを食べるですの!」

 うきうきなリリムお嬢様に促され、俺は一粒口にする。その見た目はオレンジ色をしている。もしかしらみかん味とか、レモン系の味かも知れないな。そう期待した瞬間、俺はさっきのミミズ味を遥かに超えた味に眩暈がする。

「吐きそう……」
「吐くですの?」

 リリムお嬢様が俺の食べた味が何か確認した。

「どうやらセバスチャンったら大当たりの、大当たりですの。ゲロ味ですのよ、それ!」

 ゲロ味って、ほんとゲロ呑み込んだ味じゃねぇか。まじでゲロ吐きそうだ。つまらん事言ってる場合じゃない。普通に気持ち悪いです、はい。

『一位のゲロ味きたー!』、『よく呑み込んだな、これは無理なレベル』、『まんまあれってゲロなんだよな。どうして作ったのか謎』。どうやら一番のハズレをチャット欄で見ると分かる。食べても口に残る味に、気分が悪い。

「大丈夫ですの?」
「なんとか、大丈夫です。げほげほっ」

 また水を飲み、何とか凌ぐ。リリムお嬢様が一応隣で俺の心配をしてくれている。やれやれ、もうこんな物を口に入れたくないなと、心の底から思う。

 それから何戦かして負けまくったものの、俺が運良く勝ってリリムお嬢様が罰ゲームとなり、何個か食べたが、バナナ味とかブルーベリー味と無難な物ばかりだった。だが一つ外れがあったらしく、それは鼻くそ味を引いて絶叫して、

「しょっぱいですの! こんなお菓子誰が作ったのか許しませんの!」

 と、激怒していた。しかし視聴者さんも『お嬢も洗礼を受けたね~』、『鼻くそ味、地味に不味いんだよな』、『お嬢の反応が見れて眼福ですぅ!』など喜んでいる。

 そうして俺達は1時間半程ゲームと罰ゲームをして、メインの配信を終えた。最後に挨拶で締めて今日の配信は終わりだ。

「今日はリリムお嬢様との配信楽しかったです。皆さん見てくれてありがとうございました」
「それでは皆さま、また次の配信も楽しみに待っておきますのよ。ごきげんよう~ですの」

 こうして俺は初の彩夏ちゃんとのコラボを無事に終えるのだった。
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