10 / 26
Ep.10:新人タナカと影のスーツ(英雄的行動)
しおりを挟む
悲鳴の主を見つけるのに、そう時間はかからなかった。
通路の奥、袋小路になっている広場。そこに、一人の若者が尻餅をついていた。
年齢は二十代前半だろうか。安っぽい革の軽鎧に、使い古されたロングソード。
典型的なDランク、駆け出しの探索者だ。
彼の顔は恐怖で引きつり、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。
その左手にはしっかりとアクションカメラ――GoProが握りしめられていた。
「あ、あ……終わった……」
若者は震える声で、カメラに向かってブツブツと呟いている。
「みんな、今までありがとう……俺、ここで死ぬわ……チャンネル登録、解除しないでね……」
遺言か? 今時の若者は、死ぬ間際まで配信のことばかり考えているのか。
俺は呆れつつも、状況を分析する。
敵は三体。
『刃狼』。
狼のようなシルエットだが、その前足には鋭利な骨の刃が生えている。
動きが素早く、集団狩りを得意とする厄介なモンスターだ。
Dランクのソロ探索者が相手にするには、荷が重すぎる。
(助けないと、死ぬな)
結論は一瞬で出た。
だが、問題がある。
俺の服装だ。
蛍光グリーンのジャージ。背中には『勝利』の文字。そして頭には『安全第一』のヘルメット。もし、あの若者のカメラにこの姿が映り込み、ネットで拡散されたらどうなる? 会社にバレる。娘にバレる。
「パパ、変質者みたいな格好で戦ってたよ」なんて言われた日には、家庭崩壊だ。
社会的死のリスクが高すぎる。
引くべきか? いや、目の前で人が食われるのを見過ごすのは、人として――いや、元現場監督として寝覚めが悪い。
どうする。
顔とジャージを隠す方法はないか。
俺はボストンバッグの中身を見た。
あるのは、大量に刈り取った『カーボン・グラス』の繊維束だけ。
(……待てよ)
脳細胞が、瞬時に閃きという名の火花を散らした。
隠せばいい。見られたくないなら、覆ってしまえばいいのだ。
ここには最強の素材――カーボングラスがある。そして、俺の左手には、万能の接着剤があるじゃないか。
「やるか。現場加工。DIYだ」
俺はバッグから繊維の束を鷲掴みにした。
ガントレットに念じる。
「出ろ。粘着質の影だ。接着剤のような!」
ドクン、と左手が脈打ち、ドロリとした黒い液体が染み出した。
俺はそれをカーボン繊維に塗りたくり、自分の体に巻き付け始めた。
ペタッ、グルグル。
ペタッ、グルグル。
足元から、胴体、腕、そして顔まで。
カーボン・グラスは柔軟性が高い。
体に密着させれば、動きを阻害することなく、鋼鉄以上の強度を持つ「装甲」となる。
見た目? 知ったことか。
今は機能性が最優先だ。
数秒で、即席の強化外骨格が完成した。
「よし。完璧な装甲だ」
俺は自分の体を見下ろし、満足げに頷いた。
全身黒ずくめ。
光沢のある黒いテープを、ミイラのように何重にも巻きつけたようなフォルム。
隙間から覗く目は、ヘルメットのバイザー越しに光っている。
これなら、誰がどう見ても俺だとは分かるまい。
完璧な偽装工作だ。
◇
「ギャルルルッ!」
一匹のウルフが、若者に飛びかかろうとしていた。彼は腰を抜かし、動けない。
その首元に、鋭い牙が迫る。
「ひいっ!」
若者が目を閉じた、その時だ。
ドゴォッ!!
横合いから飛び出した黒い影が、ウルフを蹴り飛ばした。
キャイッ! ウルフが悲鳴を上げて転がっていく。
「な……え?」
若者が目を開ける。
その視線の先に、俺は仁王立ちした。
全身を黒い帯でグルグル巻きにした、正体不明の怪人。
我ながら、威圧感は十分だ。
「さ……下がっていろ、新人くん」
俺は極力低い声を作って言った。
若者がポカンと口を開けている。
恐怖で声が出ないのだろうか。無理もない。こんな状況だ。
「グゥルルルッ……!」
仲間を蹴られた残りの二匹が、殺気立って俺を睨む。
来るか。俺はモンキーレンチを構えた。今の俺は、ただのおっさんじゃない。
カーボン複合材を纏った、DIY戦士だ。
ザッ! 右のウルフが地を蹴った。
速い。
だが、ガントレットの補正が入った俺の動体視力なら追える。
俺はモンキーレンチで迎撃しようとした。
だが、左からも同時にもう一匹が迫っていた。
連携攻撃か。小癪な真似を。
ガリッ!!
左のウルフの爪が、俺の脇腹を切り裂いた。
はずだった。
「……ん?」
衝撃はある。だが、痛みがない。
見ると、ウルフの爪は俺の体に巻き付けたカーボン繊維の上を滑り、傷一つつけられずに弾かれていた。
「硬っ!?」
若者が素っ頓狂な声を上げる。
俺はニヤリと笑った。マスクの下で見えないだろうが。
当然だ。
カーボン・グラスの繊維は、鋼鉄の数倍の引張強度を持つ。
たかが獣の爪ごときで裂けるような、柔な施工はしていない。
「勉強不足だな、ワンちゃん」
俺は説教を垂れながら、無防備になったウルフの頭上にモンキーレンチを振り下ろした。
ゴシャッ!
鈍い音がして、ウルフが地面に沈む。
一撃必殺。
いい手応えだ。手首のスナップも効いている。
「ギャッ、ギャウッ!」
残った一匹が、仲間がやられたことに動揺して後ずさる。
逃がすか。
ここで逃せば、また別の初心者が襲われる可能性がある。
害獣駆除は、徹底的にやるのがプロの仕事ってもんだ。
「逃げるなよ。耐久テストはまだ終わってないぞ」
俺は一歩踏み出した。
黒いテープ状の繊維が、体の動きに合わせてギチギチと音を立てる。
その異様な姿に、ウルフは戦意を喪失したようだった。
尻尾を巻いて、キャンキャンと鳴きながら闇の奥へと逃げ去っていく。
「……チッ。まあいいか」
深追いはリスクだ。
俺はモンキーレンチを腰のあたりのテープの隙間に差した。
戦闘終了。所要時間、約三十秒。素材の強度は実証された。
これで凛のバッグも、自信を持って修理できるというものだ。
俺は振り返り、へたり込んでいるタナカを見た。
彼はGoProを向けたまま、震える声で俺に問いかけた。
「あ、あの……あなたは……?」
名乗るべきか? いや、名乗れば身バレのリスクがある。それに、俺はヒーローではない。ただの、通りすがりの会社員だ。
「……君も探索するなら……安全第一でな」
俺はそれだけ言い残し、背を向けた。
現場における、至高のスローガン。
それを若者に伝えることこそ、年長者の役割だ。
俺は颯爽と、黒いテープをなびかせてその場を去った。
「く、黒い……変態……?」
背後で、タナカが何か失礼なことを呟いた気がしたが、きっと空耳だろう。
俺は足早に、誰もいないエリアへと向かった。
早くこのスーツを脱がないと、影の接着力が強すぎて皮膚呼吸ができなくなりそうだ。
◇
数時間後。自宅のリビング。
無事に帰還し、シャワーを浴びてさっぱりした俺は、缶ビール片手にPCを開いた。
今日の出来事を思い出し、少しだけ誇らしい気分になる。
人助けをした。
誰にも知られず、名もなき英雄として。
これぞ男のロマンだ。
ふと、気になって動画サイトを開いてみた。
あの若者、配信者っぽかったな。もし動画が上がっていたら、俺の勇姿が映っているかもしれない。「謎の黒騎士、現る!」とか、「最強の剣士!」とか。
そんなタイトルでバズっていたりして。
少しドキドキしながら、「東京第3ダンジョン 新着」で検索をかける。
あった。
再生数、すでに十万回超え。
サムネイルには、黒いミイラ男のような俺の後ろ姿がデカデカと映っている。
俺は期待に胸を膨らませ、タイトルを読んだ。
『【神回】ダンジョンに全身黒ガムテの変質者が出たと思ったら、モンスターを撲殺して去っていった件www』
ブホーーッッッ!!
俺はビールを吹き出した。
は? ガムテ? 変質者?
震える手で動画を再生する。
コメント欄が流れる。
『うわぁ……なんだこれ』
『全身黒ガムテwww』
『露出狂の逆バージョンか?』
『コナンの犯人かよwww』
『動きはガチだけど見た目が通報レベル』
『新手の妖怪「漆黒マン」爆誕』
「ふざけるなあああああっーーッッ!!」
俺は机をバンと叩いた。
変質者扱いされたことへの怒りではない。
いや、それも心外だが、もっと許せないことがある。
「ガムテじゃない! カーボン・グラスだぞ!」
俺はモニターに向かって叫んだ。
あれは、Sランク素材のカーボン繊維と、ガントレットの影を複合させた、最新鋭のハイブリッド装甲だ。それを、ホームセンターで数百円で売っているガムテープと一緒にするな! 素材に対する冒涜だ! 職人への侮辱だ!
「失敬な! 訂正しろ! 概要欄に『※素材はカーボン・グラスです』って書け!」
俺の悲痛な叫びは、虚しくガレージに響くだけだった。
画面の中では、ガムテ男(俺)が「安全第一でな」とキメ顔で去っていくシーンが、面白おかしくリピートされている。
『名言キタコレwww』
『安全第一(見た目は危険人物)草w』
『これ流行るわww』
俺は頭を抱えた。
バズった。
確かにバズった。
だが、方向性が致命的に間違っている。俺が目指していたのは「孤高のダークヒーロー」であって、「ネットの玩具」ではない。
……まあ、いい。
正体がバレなかったことだけは、唯一の救いだ。
あんな「黒ガムテ男」が、俺だなんて知られたら、それこそ会社に行けなくなる。
俺はそっとPCを閉じた。
二度と、あんな格好はしない。
そう心に誓った。
だが、俺はまだ知らなかった。
この「ガムテ男(漆黒マン)」が、今後、ネット民の間でカルト的な人気を博し、事あるごとに目撃情報が寄せられる都市伝説になっていくことを。
通路の奥、袋小路になっている広場。そこに、一人の若者が尻餅をついていた。
年齢は二十代前半だろうか。安っぽい革の軽鎧に、使い古されたロングソード。
典型的なDランク、駆け出しの探索者だ。
彼の顔は恐怖で引きつり、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。
その左手にはしっかりとアクションカメラ――GoProが握りしめられていた。
「あ、あ……終わった……」
若者は震える声で、カメラに向かってブツブツと呟いている。
「みんな、今までありがとう……俺、ここで死ぬわ……チャンネル登録、解除しないでね……」
遺言か? 今時の若者は、死ぬ間際まで配信のことばかり考えているのか。
俺は呆れつつも、状況を分析する。
敵は三体。
『刃狼』。
狼のようなシルエットだが、その前足には鋭利な骨の刃が生えている。
動きが素早く、集団狩りを得意とする厄介なモンスターだ。
Dランクのソロ探索者が相手にするには、荷が重すぎる。
(助けないと、死ぬな)
結論は一瞬で出た。
だが、問題がある。
俺の服装だ。
蛍光グリーンのジャージ。背中には『勝利』の文字。そして頭には『安全第一』のヘルメット。もし、あの若者のカメラにこの姿が映り込み、ネットで拡散されたらどうなる? 会社にバレる。娘にバレる。
「パパ、変質者みたいな格好で戦ってたよ」なんて言われた日には、家庭崩壊だ。
社会的死のリスクが高すぎる。
引くべきか? いや、目の前で人が食われるのを見過ごすのは、人として――いや、元現場監督として寝覚めが悪い。
どうする。
顔とジャージを隠す方法はないか。
俺はボストンバッグの中身を見た。
あるのは、大量に刈り取った『カーボン・グラス』の繊維束だけ。
(……待てよ)
脳細胞が、瞬時に閃きという名の火花を散らした。
隠せばいい。見られたくないなら、覆ってしまえばいいのだ。
ここには最強の素材――カーボングラスがある。そして、俺の左手には、万能の接着剤があるじゃないか。
「やるか。現場加工。DIYだ」
俺はバッグから繊維の束を鷲掴みにした。
ガントレットに念じる。
「出ろ。粘着質の影だ。接着剤のような!」
ドクン、と左手が脈打ち、ドロリとした黒い液体が染み出した。
俺はそれをカーボン繊維に塗りたくり、自分の体に巻き付け始めた。
ペタッ、グルグル。
ペタッ、グルグル。
足元から、胴体、腕、そして顔まで。
カーボン・グラスは柔軟性が高い。
体に密着させれば、動きを阻害することなく、鋼鉄以上の強度を持つ「装甲」となる。
見た目? 知ったことか。
今は機能性が最優先だ。
数秒で、即席の強化外骨格が完成した。
「よし。完璧な装甲だ」
俺は自分の体を見下ろし、満足げに頷いた。
全身黒ずくめ。
光沢のある黒いテープを、ミイラのように何重にも巻きつけたようなフォルム。
隙間から覗く目は、ヘルメットのバイザー越しに光っている。
これなら、誰がどう見ても俺だとは分かるまい。
完璧な偽装工作だ。
◇
「ギャルルルッ!」
一匹のウルフが、若者に飛びかかろうとしていた。彼は腰を抜かし、動けない。
その首元に、鋭い牙が迫る。
「ひいっ!」
若者が目を閉じた、その時だ。
ドゴォッ!!
横合いから飛び出した黒い影が、ウルフを蹴り飛ばした。
キャイッ! ウルフが悲鳴を上げて転がっていく。
「な……え?」
若者が目を開ける。
その視線の先に、俺は仁王立ちした。
全身を黒い帯でグルグル巻きにした、正体不明の怪人。
我ながら、威圧感は十分だ。
「さ……下がっていろ、新人くん」
俺は極力低い声を作って言った。
若者がポカンと口を開けている。
恐怖で声が出ないのだろうか。無理もない。こんな状況だ。
「グゥルルルッ……!」
仲間を蹴られた残りの二匹が、殺気立って俺を睨む。
来るか。俺はモンキーレンチを構えた。今の俺は、ただのおっさんじゃない。
カーボン複合材を纏った、DIY戦士だ。
ザッ! 右のウルフが地を蹴った。
速い。
だが、ガントレットの補正が入った俺の動体視力なら追える。
俺はモンキーレンチで迎撃しようとした。
だが、左からも同時にもう一匹が迫っていた。
連携攻撃か。小癪な真似を。
ガリッ!!
左のウルフの爪が、俺の脇腹を切り裂いた。
はずだった。
「……ん?」
衝撃はある。だが、痛みがない。
見ると、ウルフの爪は俺の体に巻き付けたカーボン繊維の上を滑り、傷一つつけられずに弾かれていた。
「硬っ!?」
若者が素っ頓狂な声を上げる。
俺はニヤリと笑った。マスクの下で見えないだろうが。
当然だ。
カーボン・グラスの繊維は、鋼鉄の数倍の引張強度を持つ。
たかが獣の爪ごときで裂けるような、柔な施工はしていない。
「勉強不足だな、ワンちゃん」
俺は説教を垂れながら、無防備になったウルフの頭上にモンキーレンチを振り下ろした。
ゴシャッ!
鈍い音がして、ウルフが地面に沈む。
一撃必殺。
いい手応えだ。手首のスナップも効いている。
「ギャッ、ギャウッ!」
残った一匹が、仲間がやられたことに動揺して後ずさる。
逃がすか。
ここで逃せば、また別の初心者が襲われる可能性がある。
害獣駆除は、徹底的にやるのがプロの仕事ってもんだ。
「逃げるなよ。耐久テストはまだ終わってないぞ」
俺は一歩踏み出した。
黒いテープ状の繊維が、体の動きに合わせてギチギチと音を立てる。
その異様な姿に、ウルフは戦意を喪失したようだった。
尻尾を巻いて、キャンキャンと鳴きながら闇の奥へと逃げ去っていく。
「……チッ。まあいいか」
深追いはリスクだ。
俺はモンキーレンチを腰のあたりのテープの隙間に差した。
戦闘終了。所要時間、約三十秒。素材の強度は実証された。
これで凛のバッグも、自信を持って修理できるというものだ。
俺は振り返り、へたり込んでいるタナカを見た。
彼はGoProを向けたまま、震える声で俺に問いかけた。
「あ、あの……あなたは……?」
名乗るべきか? いや、名乗れば身バレのリスクがある。それに、俺はヒーローではない。ただの、通りすがりの会社員だ。
「……君も探索するなら……安全第一でな」
俺はそれだけ言い残し、背を向けた。
現場における、至高のスローガン。
それを若者に伝えることこそ、年長者の役割だ。
俺は颯爽と、黒いテープをなびかせてその場を去った。
「く、黒い……変態……?」
背後で、タナカが何か失礼なことを呟いた気がしたが、きっと空耳だろう。
俺は足早に、誰もいないエリアへと向かった。
早くこのスーツを脱がないと、影の接着力が強すぎて皮膚呼吸ができなくなりそうだ。
◇
数時間後。自宅のリビング。
無事に帰還し、シャワーを浴びてさっぱりした俺は、缶ビール片手にPCを開いた。
今日の出来事を思い出し、少しだけ誇らしい気分になる。
人助けをした。
誰にも知られず、名もなき英雄として。
これぞ男のロマンだ。
ふと、気になって動画サイトを開いてみた。
あの若者、配信者っぽかったな。もし動画が上がっていたら、俺の勇姿が映っているかもしれない。「謎の黒騎士、現る!」とか、「最強の剣士!」とか。
そんなタイトルでバズっていたりして。
少しドキドキしながら、「東京第3ダンジョン 新着」で検索をかける。
あった。
再生数、すでに十万回超え。
サムネイルには、黒いミイラ男のような俺の後ろ姿がデカデカと映っている。
俺は期待に胸を膨らませ、タイトルを読んだ。
『【神回】ダンジョンに全身黒ガムテの変質者が出たと思ったら、モンスターを撲殺して去っていった件www』
ブホーーッッッ!!
俺はビールを吹き出した。
は? ガムテ? 変質者?
震える手で動画を再生する。
コメント欄が流れる。
『うわぁ……なんだこれ』
『全身黒ガムテwww』
『露出狂の逆バージョンか?』
『コナンの犯人かよwww』
『動きはガチだけど見た目が通報レベル』
『新手の妖怪「漆黒マン」爆誕』
「ふざけるなあああああっーーッッ!!」
俺は机をバンと叩いた。
変質者扱いされたことへの怒りではない。
いや、それも心外だが、もっと許せないことがある。
「ガムテじゃない! カーボン・グラスだぞ!」
俺はモニターに向かって叫んだ。
あれは、Sランク素材のカーボン繊維と、ガントレットの影を複合させた、最新鋭のハイブリッド装甲だ。それを、ホームセンターで数百円で売っているガムテープと一緒にするな! 素材に対する冒涜だ! 職人への侮辱だ!
「失敬な! 訂正しろ! 概要欄に『※素材はカーボン・グラスです』って書け!」
俺の悲痛な叫びは、虚しくガレージに響くだけだった。
画面の中では、ガムテ男(俺)が「安全第一でな」とキメ顔で去っていくシーンが、面白おかしくリピートされている。
『名言キタコレwww』
『安全第一(見た目は危険人物)草w』
『これ流行るわww』
俺は頭を抱えた。
バズった。
確かにバズった。
だが、方向性が致命的に間違っている。俺が目指していたのは「孤高のダークヒーロー」であって、「ネットの玩具」ではない。
……まあ、いい。
正体がバレなかったことだけは、唯一の救いだ。
あんな「黒ガムテ男」が、俺だなんて知られたら、それこそ会社に行けなくなる。
俺はそっとPCを閉じた。
二度と、あんな格好はしない。
そう心に誓った。
だが、俺はまだ知らなかった。
この「ガムテ男(漆黒マン)」が、今後、ネット民の間でカルト的な人気を博し、事あるごとに目撃情報が寄せられる都市伝説になっていくことを。
54
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。
夏見ナイ
ファンタジー
「役立たず」の烙印を押され、パーティを追放されたアルフォンス。彼のスキルは戦闘に不向きな【土いじり】。失意の彼は都会を離れ、辺境の地で静かに農業を営むことを決意する。
しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた!
ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。
噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。
一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。
これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~
川嶋マサヒロ
ファンタジー
ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。
かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。
それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。
現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。
引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。
あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。
そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。
イラストは
ジュエルセイバーFREE 様です。
URL:http://www.jewel-s.jp/
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい
夏見ナイ
ファンタジー
「お荷物」――それが、Sランク勇者パーティーで雑用係をするリアムへの評価だった。戦闘能力ゼロの彼は、ある日ついに追放を宣告される。
しかし、パーティーの誰も知らなかった。彼らの持つ強力なスキルには、使用者を蝕む”代償”が存在したことを。そして、リアムの持つ唯一のスキル【代償転嫁】が、その全てを人知れず引き受けていたことを。
リアムを失い、スキルの副作用に蝕まれ崩壊していく元仲間たち。
一方、辺境で「呪われた聖女」を救ったリアムは自らの力の真価を知る。魔剣に苦しむエルフ、竜の血に怯える少女――彼は行く先々で訳ありの美少女たちを救い、彼女たちと安住の地を築いていく。
これは、心優しき”お荷物”が最強の仲間と居場所を見つけ、やがて伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる