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Ep.16:タナカの弟子入り志願
しおりを挟む『鉄亀』の撃破から数十分後。
俺は、ずっしりと重いミスリル銀と輝石をリュックに詰め、帰路についていた。
今日の成果は上々だ。
オフィスの照明問題は解決し、さらに予想外のレア素材まで手に入った。
あとは、誰にも見つからずに撤収するだけだ。
俺は「勝利」とプリントされたジャージの襟を立て、極力目立たないように通路の端を歩いていた。
今の俺は、ただの「怪しいおっさん」だ。
漆黒マンへの変装用の素材は使い切ってしまったため、もしトラブルに巻き込まれても変身できない。
リスク管理の観点から言えば、直帰一択だ。
だが。
マーフィーの法則とはよく言ったものだ。
「見つかりたくない時ほど、見つかる」。
「ああっ! そのモンキーレンチ!」
背後から、素っ頓狂な声が響いた。
ビクリと肩が跳ねる。
心拍数は上がらないが、脳内の警戒アラートが鳴り響く。
振り返ると、そこにいたのは一人の若者だった。
軽装の革鎧に、片手に持ったGoPro。
見覚えがある。
以前、俺がブレード・ウルフの群れから助けた新人探索者、タナカだ。
「……何か用か?」
俺は声を低くして答えた。
顔はヘルメットとマスクで隠しているが、体格や雰囲気でバレる可能性はある。
タナカは俺の全身をジロジロと見て、興奮したように鼻息を荒くした。
「やっぱりそうだ! そのモンキーレンチ! 三十センチ規格の、H型!」
「……ホームセンターに行けばいくらでも売っている品だ」
「いや、違うっす! あの時、俺を助けてくれた『漆黒マン』も、同じのを持ってた!」
鋭い。
特定班予備軍か、こいつは。
俺は冷静にシラを切ることにした。
「人違いだ。俺はただの設備業者だ。点検の帰りだ」
「嘘だ!」
タナカが食い下がる。
「さっき、奥のエリアで『謎の掘削音』がしたって噂になってるんです! 行ってみたら、アイアン・タートルが甲羅ごとぶち抜かれて死んでた! あんなことできるの、漆黒マンしかいない!」
……現場を見られたか。
やはり、ドリルの音は大きすぎたらしい。
だが、ここで認めるわけにはいかない。
俺は無言で背を向け、歩き出した。
無視が一番だ。
「待ってくださいよ!」
タナカが回り込んで、俺の前に立ち塞がる。
「あんた、あの人の『関係者』ですよね?」
「……は?」
俺は足を止めた。
関係者?
「隠さなくてもいいっす! 俺、動画何回も見返しましたから! 漆黒マンの動き、ありゃプロですよ。でも、装備は現地調達のDIYだった」
「……」
「つまり、漆黒マンには『協力者』がいるはずなんです。素材を集めたり、武器を整備したりする裏方が! あんた、そのモンキーレンチで、あの人の武器をメンテしてるんじゃないっすか!?」
……なるほど。
飛躍した推理だ。
だが、当たらずとも遠からず、といったところか。
俺(漆黒マン)の装備をメンテしているのは、俺(おっさん)だ。
同一人物なのだから当然だが、タナカの中では「実行部隊」と「技術部隊」に分かれているらしい。
俺は少し考えた。
ここで強く否定すれば、タナカはさらに疑って嗅ぎ回るだろう。
逆に、「そうだ」と認めれば、俺自身が漆黒マンだとバレるリスクは減る。
「俺はあくまで協力者だ」というポジション。
……悪くない。
スケープゴートとして使えるかもしれない。
「……想像力が豊かだな、若いの」
俺は肯定も否定もしない、曖昧な言葉を投げた。
だが、ガントレットの影響で感情が希薄になった俺の瞳は、タナカには「底知れぬ組織の人間」のように映ったらしい。
タナカがゴクリと唾を飲み込む。
「やっぱり……! あんた、エージェント的な人なんだ!」
「勝手に解釈しろ。だが、俺の仕事の邪魔はするな」
「し、しません! むしろ手伝わせてください!」
タナカがバッと頭を下げた。
「俺、あの人に助けられてから、人生変わったんです! 底辺配信者だったけど、あの動画のおかげで登録者も増えて……だから、恩返しがしたいんです!」
「恩返し……ねぇ」
「俺、情報収集には自信あります! SNSのトレンドとか、他のランカーの動向とか、なんでも調べます! だから、俺を……弟子にしてください!」
弟子。
面倒くさい単語が出てきた。
だが、ふと考える。
俺は会社員だ。平日はダンジョンの情報収集をする時間が取れない。
おっさんだから、ネットの流行り廃りにも疎い。
タナカのような、暇を持て余した……いや、フットワークの軽い若者を「情報屋」として使うのは、合理的な判断ではないか?
「……弟子は取らん」
俺は冷たく言った。
タナカががっくりと項垂れる。
「だが、『外部委託――アウトソーシング』なら考えてやらんでもない」
「えっ?」
「俺たちは忙しい。雑多な情報の整理に割く時間がないんだ。もし、有益な情報があれば、俺に流せ。内容によっては、彼、漆黒マンに伝えてやる」
上から目線の提案。
だが、タナカの顔がパァッと輝いた。
「やります! やらせてください! うおおお、漆黒マンと繋がれる……!」
「連絡はLIMEの捨て垢でな。本名は明かすなよ」
「了解っす! コードネーム『タナカ』、今日から稼働します!」
「タナカ……それ、本名だろ」
「はい! 本名も田中っす!」
「……」
タナカは敬礼の真似事をした。
単純な奴だ。
だが、こういう手合いは、扱いを間違えなければ便利な駒になる。
「早速ですがボス! 一つ、ヤバい情報があるんすよ」
タナカが声を潜めて、スマホの画面を見せてきた。
そこには、金色の派手な鎧を着込んだ、金髪の男が映っていた。
「『ゴールド・レオ』。大手クラン『金獅子』のリーダーっす。こいつが最近、動画でDIY勢や底辺探索者を煽りまくってるんすけど……」
「……煽り?」
「はい。『ゴミ装備の奴らはダンジョンの景観を損ねる』とか言って。で、次のターゲットに『漆黒マン』を名指ししてるんすよ」
俺は眉をひそめた。
ゴールド・レオ。Sランクに次ぐ実力を持つと言われる、トップランカーの一人だ。
そんな奴に目をつけられるのは、リスクでしかない。
「……くだらん。無視だ」
「それが、無視できないっすよ。奴ら、ダンジョンの入り口を封鎖して、装備チェックとか始め出してるんです。DIY装備の奴は通さない、とか言って」
それは聞き捨てならない。
俺の「通勤」に支障が出る。
業務妨害だ。
「……情報、感謝する。精査しておこう」
「はい! また何かあったら報告します!」
タナカは嬉々として去っていった。
俺はその後ろ姿を見送りながら、小さく溜息をついた。
弟子入り志願の若者に、厄介なライバルの出現。
平穏な週末ダンジョンライフが、徐々に騒がしくなってきている。
だが、不思議と悪い気分ではなかった。
「ボス」か。
会社では万年係長だった俺が、ここでは一人の若者のボスだ。
少しだけ口元を緩め、俺は地上へのゲートをくぐった。
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