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Ep.18:金ピカのライバル登場
しおりを挟む地下二階、「ダンジョン資源活用課」執務室。
かつてゴミ捨て場だったこの場所は、今や本社ビルの中で最も快適なワークスペースへと変貌を遂げていた。
俺はデスクで、昼食を摂っていた。
メニューは、コンビニで買ったブロックタイプの栄養調整食品と、水。
以前なら「味気ない」と嘆いていただろう。
だが、今の俺にはこれで十分だ。
味覚がない俺にとって、食事は単なる「栄養素の補給(チャージ)」でしかない。
パサパサした食感も、口の中の水分を持っていかれる感覚も、ただの物理現象として処理される。
「……さて、午後の業務に取り掛かるか」
最後の欠片を水で流し込み、モニターに向き直る。
現在のタスクは、ダンジョン内で廃棄された「壊れた武器」のリサイクル計画だ。
修理して中古市場に流すか、素材として還元するか。
利益率は悪くない。
その時、スマホが震えた。
通知画面には、『情報屋タナカ』の文字。
例の、勝手に弟子入りしてきた配信者の若者だ。
『ボス! 緊急事態っす! 今すぐ「Dチューブ」の急上昇ランキング見てください!』
文面から、唾が飛んできそうな勢いを感じる。
俺は眉をひそめた。
また何か、ネットで炎上でもしたのか?
俺はPCのブラウザを開き、動画サイトにアクセスした。
トップページ。
その一番目立つ場所に、サムネイルが表示されていた。
目が痛くなるほどの、金ピカ。
全身を黄金の鎧で包んだ男が、剣を掲げてドヤ顔をしている。
動画タイトル:
『【警告】貧乏人はダンジョンに来るな。一流と三流の違い、教えてやるよ』
……なんだこれは。
タイトルだけで、お腹いっぱいになる不快感だ。
俺は無表情で再生ボタンをクリックした。
◇
「ヘイヘイヘーイ! 全国一千万人のダンジョンフリークのみんな! クラン『金獅子』リーダー、ゴールド・レオ様だぜぇ!」
動画が始まると、金髪碧眼(たぶんカラコン)の優男が、大げさなジェスチャーで現れた。
場所は、東京第3ダンジョンの中層エリアだろうか。
彼の背後には、同じような高級装備で固めた取り巻きたちが控えている。
「今日はな、最近ダンジョンで見かける『目障りなゴミ』について、物申したいと思う!」
レオはカメラに指を突きつけた。
「最近さぁ、増えてんだよね。ホームセンターで買ったような安い作業着とか、自分で作ったツギハギだらけの装備でウロウロしてる貧乏人どもが!」
……俺のことか?
いや、俺以外にもDIY勢はいるだろうが、明らかに敵意を感じる。
「はっきり言うぜ。ダンジョンは遊び場じゃねえんだよ! 命懸けの戦場だ! そこに、そんなナメた装備で来るってのは、プロに対する冒涜だろ?」
レオは腰に差していた剣を抜いた。
刀身が黄金に輝く、美しい直剣だ。
柄には宝石が埋め込まれ、鍔には獅子の彫刻が施されている。
見るからに高そうな、業物だ。
「見ろよ、この剣! 『聖剣・レグルス』!正真正銘のSSR装備だ! 価格にして三千万円! お前らの生涯年収より高いかもなァ!?」
ギャハハ、と取り巻きたちが下品な笑い声を上げる。
典型的な「課金マウント」だ。
金に物を言わせて強力な装備を揃え、それで俺TUEEEをする。
ゲームならよくあることだが、現実でやられると痛々しい。
「いいか? 強さとは金だ! 装備の値段が、そのまま命の値段だ! ゴミ装備の連中は、視界に入るだけで景観を損ねるんだよ。特に……」
レオの目が、スッと細められた。
「最近話題の『漆黒マン』とかいう奴? 全身黒ガムテだっけ? 笑わせんなよ。あんな不審者がヒーロー気取りとか、探索者全体の品位に関わるんだよ」
名指しだ。
俺(漆黒マン)は、完全にターゲットとしてロックオンされているらしい。
「警告するぜ、ガムテ男。そして、それを真似してるDIYおじさんたち。今すぐダンジョンから消えろ。さもなければ……俺たち『金獅子』が、掃除してやるからな!」
レオが剣を一閃させると、近くの岩が爆発した(恐らく魔法効果だろう)。
ド派手なエフェクトと共に、動画は終了した。
◇
「……ふぅ」
俺は動画を閉じた。
LIMEの画面に戻ると、タナカからのメッセージが連投されている。
『見ましたかボス!? マジ許せねぇっすよあいつ!』
『DIYを馬鹿にするなんて!』
『漆黒マンさんをガムテ呼ばわりとか、眼科行った方がいいっすよ!』
タナカは激怒している。
無理もない。彼は俺のDIY動画のファンであり、漆黒マンの信奉者だ。
自分の好きなものを二重に侮辱されたのだから。
だが。
俺の心は、さざ波ひとつ立っていなかった。
怒り?
悔しさ?
そんな感情は、とうの昔にガントレットに食われてしまった。
俺の脳内にあるのは、冷徹な分析だけだ。
「……なるほどな」
俺は独り言を呟いた。
ゴールド・レオ。
彼の行動原理はシンプルだ。
ヒールを演じることで注目を集め、再生数を稼ぐ。
炎上商法。
マーケティング戦略としては、ある意味で正解だ。
DIY勢という「仮想敵」を作ることで、自身のクランの結束を高め、ブランド価値を向上させる。
賢いやり方だ。
だが。
エンジニアとしての俺の目は、別の部分に注目していた。
俺は動画をもう一度再生し、彼が剣を抜いたシーンで一時停止した。
画像を拡大する。
「……汚いな」
三千万円のSSR装備、『聖剣・レグルス』。
確かに、素材は一級品だ。ミスリルとオリハルコンの合金だろう。
だが、その表面は脂ぎっていた。
魔物の返り血や、手垢が酸化してこびりついている。
刃こぼれも数箇所。
さらに致命的なのは、柄と刀身を繋ぐ目釘の部分に、微細なクラック(亀裂)が入っていることだ。
「メンテナンス不足だ」
俺は断定した。
彼は、装備を「金で買えるステータス」としか見ていない。
道具としての愛着も、敬意もない。
ただ振り回して、威力を自慢するだけ。
それでは、どんな名剣もただのナマクラだ。
「……可哀想に」
俺が同情したのは、レオに対してではない。
その手で酷使され、悲鳴を上げている「剣」に対してだ。
道具への愛がない人間に、俺が負ける道理はない。
俺はLIMEを開き、タナカに返信を打った。
『放置でいい。騒げば相手の思う壺だ』
送信。
だが、俺の直感が告げていた。
向こうは放置してくれないだろう、と。
遅かれ早かれ、あの金ピカとぶつかる時が来る。
その時、どちらが「本物」か、道具たちに教えてもらうとしよう。
俺はPCをスリープモードにし、午後の業務へと戻った。
左手のガントレットが、期待するように低く唸った気がした。
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