招き猫のまー君と癒しのマスター

浮気をされたサラリーマン3

「よろしければ、私が話を聞かせていただきますよ」

マスターは、優しく話を引き出す。

「実は、付き合っている女性に浮気をされていまして…」

男は静かに話を始めた。マスターは、相槌を打ちながら、聞き役に徹する。

「最近、いつもよりスマホを触っている時間が多いな、と思っていました。一緒にいる時でもよく操作してましたから」

マスターはビールをグラスに注ぐ。

「最初は気のせいだと思っていた。でも、それが三日前、確信に変わりました」

男は怒りよりも、悲しみの感情を見せていた。それほど本気で恋愛をしていたのだろう。

「知らない男と彼女が一緒に歩いてるのを見掛けて…つい後を追うと、恐らく、男の家であろうマンションに入っていきました」

話をしながら、泣きそうになるスーツの男。

「そうなのですね。彼女様と直接、話をしましたか？」

「いえ、振られる事が怖い。彼女の口から真実を聞く事が怖いんですよ…」

「ふむ…私としては、キチンと話をするべきだと思いますよ。それだけ真剣に交際をしている事は、お客様を見たら伝わってきますからね」

「でも！それでも、怖くて怖くて…」

「何か事情があるのかもしれませんよ。もし、お客様の想像通りだったとしても、話をされるのは時間の問題です」

マスターはまるで、先生の様に話に対して、アドバイスをする。

「それに、そのような事をする女性なのでしょうか？心当たりがないなら、やはり話し合いはするべきかと…」

男はビールを勢い良く飲み干した。

「分かりました。明日、明日に話をしてみます！その代わり、今日はもう少し飲ませてもらいます…」

「分かりました。飲みやすいお酒を用意しましょう。深酒はいけませんからね」

マスターは、薄めの割合でお酒を作る。

「とても大切な女性でいらっしゃるのですね」

「それは勿論です！付き合いこそ、まだ2年くらいですが…」

その夜、男はマスターに思い出話をたくさん語りながら飲んだ。

「悪酔いをする前に帰りますね。今日はありがとうございました」

「こちらこそ、たくさんのお話をありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

「明日は頑張ってきます！」

そう言って、男は街へ消えていく。

彼はマスターにたくさんの話をした事によって、スッキリした部分もあるだろう。後は、明日に全てが分かるはず。