生まれ変わってでも結ばれたいっ!〜前世を覚えていませんけどっ!?〜

宮沖杏

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123.悪女か聖女か。◆

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◆◆◆
「呪いって中々使える人いないんじゃなかったっけ…。これで私何人解術したんだろ…。」
「今日で46人目だね。2日に一回は解術してる。ロティ…体大丈夫…?」

「それは平気!でも私の中に呪いの術式が溜まってるよ…。忘れられたら最高なんだけどなぁ。」
「忘れる魔法ってあるのかな…。僕…調べてみるよ。」

「ありがとう、ルーカス。」
「…ロティのためなら、それくらいやる。」

「…ありがとう。」

そんな会話を昼食を食べながら話す。

神父には忙しくなるとは言われたが、確かに忙しい。
回復魔法だけなら午前もお昼までには余裕を持って終われたのに、最近じゃ午後に突入して解術をしている事が多いのだ。

なぜ解術に時間がかかるのか。
それは解術をする時に何故呪いに掛かったのか、もしくは掛けられたかの説明を聞き、術式を読み取る必要があるからだ。

最初の人に解術した人を含め47人の人全て解術を出来てはいるものの、その呪いは様々で1日1回転ぶという呪いもあればじわじわと体が動かなくなるという怖い呪いもあった。

最初は呪いの術式自体よくわからなかったものの、3.4回も呪いを解けばコツが掴め術式を読み取る術を覚えられた。

解術を例えるなら、完成された衣服を解いていくかのような作業だ。
紡がれた術式の糸を一本一本解いて行く。太さや硬さによって解けにくかったり、ぐちゃぐちゃになってたり、あっという間に解けるものがある。

1日1回転ぶ呪いは10分ほどで簡単に解けたものの、体が動かなくなるものは10日掛けて呪いの術式を読み取り解術したのだ。

呪いは必ず体のどこかに痣のような模様があり、それに触れ術式を読み取るのだ。
中には呪いが掛かった経緯も、何の呪いかもわからない人もいてそういう人の解術はさらに時間を掛けて解術していった。


午後の自由時間があまり取れない日が続いたが、今日は呪いの解術がなかったため自由時間がある。

私は昼食を食べ終わりそうなルーカスに話し掛けた。

「ね、ね。ルーカス、たまには河原にでも遊びに行く?今日は少し暑くなりそうだから足くらいなら川につけても気持ちよさそうじゃない?」

「ロティの言うことに賛成。」
「やった!」

ルーカスが柔かに快諾してくれたのが嬉しい。私もあと二口で終わるパンとスープを口に放り食事を済ませた。


◇◆◇


昼食後、河原に行くのに一応タオルだけ持って出発だ。
タオルがあればもし仮に足以外が濡れてもなんとかなるだろう。
タオルを抱えて靴を履くと、ルーカスはおずおずと私に向けて手を差し伸べてきた。

「ロティ、なんかあったら嫌だし…。
手を繋いで行かない…?」
「手…い、いいよ!」

急なルーカスの提案に焦りながらも応じてルーカスの手を取る。久々に握るその手が嬉しくて舞い上がりそうだ。

ルーカスを見ると少し眉を下げて私を見ていたため首を傾げると、ルーカスはおずおずと口を開いた。

「ケードがいたら手は離すから。」
「うっ…、そうだね…。」

ケードに見られたらまたなんか騒ぎ出しそうで面倒になるのが目に見えている。
そうなるのは出来れば避けたいため私はルーカスに頷きを見せて返答した。


町中を2人で手を繋いで歩く。
幸いケードや他の孤児に合わずに川まで付けたことにほっとする。
だが珍しく川に大人が3人程居て、1人は横たわっており他の2人はせっせと動いていて何やら穏やかな雰囲気では無い。


「あれ、どうしたんだろう?人が…。」

ルーカスと共に少し近づくと横たわっている人から血が出ているのが見え、私とルーカスは慌ててその人達に走って近づいた。

「どうしたの!?」

声を掛けた私に頭に布を巻いた男性が驚きながらも両手を広げこれ以上行かせまいと立ち塞がってきた。
その奥にはやはりボロボロの状態の倒れた人が横になっているのがチラリと見え、その横でもう1人が介抱いるようだ。

「子供か!あっちに行ってろ!今救護中だ!出血が酷いし、至る所傷だらけなんだ!
子供に見せられるものじゃ」
「ならどいて!おじさん!早く回復したほうがいいよ!」

「なっ!回復魔法なんかっ!」
「私がやるの!その人に!」

というより貴方達に。
よく見ればこの人も傷だらけで自分の血なのか返り血なのかわからないが血塗れだ。
最も酷い状態が横たわっている人なだけで3人とも酷く傷ついている。

「な…君が…!?まさか教会の聖女…!?」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く!!」
「ああ…。」

立ち塞がった人が横にずれ介抱していた人も話をきちんと聞いていてすぐに避けてくれた。

介抱していた人のすぐ横にしゃがみ込み、横たわっている人に両手を向け魔法を放つ。

「《高回復__ハイヒール__#》」

緑の魔法の光が横たわっている人を包み込む。小さな傷はすぐ塞がったが大きな傷は中々塞がらない。

「《高回復__ハイヒール__#》!《高回復ハイヒール》!」


これでもかとダメ押しの高回復魔法を使うと大きな傷がみるみる塞がっていった。
血は魔法では戻らないため顔色はあまり良くないが、一命は取り留めただろう。

あとは後ろの2人も直してあげよう。

「《範囲回復エリアヒール》」

静かに私の治療を見守るルーカスまで範囲回復に入ってしまったが、悪い魔法ではないため良しとしよう。

緑の光が5人を包み込んで、体を回復していく。横たわる人も大丈夫そうと判断し、魔法を放つのをやめるとぽわぽわと浮かんだ魔法の光が次々に消えていった。

後ろにいた3人の方を振り返ると、2人の大人は自分達の体を見つめ驚きを見せていた。

「…あ…俺達の傷が…一つも…。っ!命を…取り留めてくれた…。」
「…ああ…ありがとう…!!」
「どういたしまして…。ねぇ、どうしてこんなに傷だらけなの?」

涙ぐみながら私にお礼をしてきた大人達に私は首を傾げながら尋ねると、大人達は苦い顔をしながら私に向け口を開いた。

「魔物の峡谷の近くを通ったから襲われたんだ…。俺達は冒険者なんだが、そんなに強くもなくてね。あの峡谷の近くにある花を取るために通って花を取った帰りに魔物にね…。

「魔物…倒せないの…?」

「無理だろうな…。国の大きな討伐部隊を組まないと到底無理な話だ。
君達も近づかないようにな。
本当にありがとう…。」
「だが、噂は違ったみたいだな…。
君の噂は聞いていたんだが、実際見ると真逆じゃないか。」
「どういうこと?」

「高い金を積まないと回復魔法を掛けてくれないという話を聞いていたんだ。最近は多少値段が下がったと聞いていたが…。

凄く傲慢な女の子で最低5万Gを払わないと話すら聞いてもらえず門前払いだと聞いていたが…。」

神父が治療者からお金を取っていたのは気付いてはいた。回復魔法で治療をする前と比べたら格段に孤児院の待遇は良くなって、食事の面から衣服、部屋の事に関しても困らない程度には皆暮らせている。

良くない環境から普通くらいの環境になって嬉しいと思っていた事がそういう風にできているとは思わなかった。

5万Gがどれ程の金額があまりよくはわからないが、それが最低ラインだとするともっと高いお金を皆神父に払っていたのだろう。
もっと細かく神父に言うべきだった。

私は回復魔法の価値を知らなかったし、あの時はルーカスを殺させないために必死だった。こうなることも予想出来なくて、過去の自分に物言いたくなってしまう。

だが目の前の大人達には何も言えずに黙り込んで目を逸らしてしまったが、私に構わず大人達は話を続けた。

「聞いた話だからなんかの間違いでもなさそうだし…。まぁ詳しいことは当事者じゃないから…なんとも。
あ、そうだ。俺達も少ししか払えないけどお金を」
「っい!いらないよ。怪我をして治しただけなのに!命を大切にしてくれればいいよ。」

落ち込んでいる私にお金を渡そうと鞄をゴソゴソ漁る2人を必死に止めた。
私自身が善意でやった事だ。お金をもらうつもりはない。

私が必死に止めたからか、すんなりと鞄から手を引きまじまじと私を見ながら大人達は話す。

「実物の方が聖女みたいだな。可愛いし。」
「ああ、ほんとに。将来は美人確定だな。こりゃあもてるぞ。」

それを聞いたルーカスは大人達の隙間を素早く通り、私の前に来てしゃがみ込みながら私にギリギリ触れるか触れないかの距離で手で私を囲い、大人達にきつい視線を向けていた。

「ロティは駄目だ。」

ボンッて音が鳴った気がしたがきっと私の脳内で鳴ったのだろう。顔が爆発しそうだ。
ルーカスは私の様子に気付いてないがきっと顔は真っ赤。

嬉しさと混乱で目を泳がせながら大人達を見ると私とルーカスを生暖かい目で見ていた。

「なんだ、恋人か。小さいのにやるな!
俺達の方が遅れてる。」
「ああ、俺達もそろそろ冒険ばっかじゃなく考えないとなぁ…。こんな小さいうちから羨ましいぜ。」

大人達が勘違いをし、褒めたからかルーカスの表情は安堵の色が見えて目付きも和らいだ。問題なのは私の方だ。
ルーカスにバレない内に話を変えて顔を冷やしたい。

「…それはともかく…私が…回復魔法かけたの内緒にしてくれる?」
「なぜ…?君はいいことをしたのに…。」

「あまりいい予感がしないから…。
それがお礼ってことじゃ駄目?」
「いやいや、こりゃあ聖女というより小さな女神だな…たまげた。ありがとう、女神様。」

冗談でも女神は言い過ぎだ。そんな崇拝される立場ではない。私はただの女の子なのだから。


「私…ロティだよ。」
「そうか…なら…、ありがとうロティ。君のおかげで助かったよ。本当に、ありがとう。」

名前を教えると大人達は顔を綻ばせ優しくお礼を言ってくれた。このお礼だけでも十分私は嬉しいのだ。
私もにこりと笑って大人達に返した。

「いいえ!どういたしまして。このタオルもあげるから血を拭うのに使って。」
「何から何まで世話になる。
困った時には助けてやるからな。ギルドにサヌーのパーティに用があると言ったら俺達が助けに向かうぞ。」

「心強いね。」

そう言うと大人達は私とルーカスの頭を撫でてくれた。
大人に撫でられるのが久々すぎて、少しだけ涙が出そうになってしまった。
◆◆◆
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