124 / 159
123.悪女か聖女か。◆
しおりを挟む
◆◆◆
「呪いって中々使える人いないんじゃなかったっけ…。これで私何人解術したんだろ…。」
「今日で46人目だね。2日に一回は解術してる。ロティ…体大丈夫…?」
「それは平気!でも私の中に呪いの術式が溜まってるよ…。忘れられたら最高なんだけどなぁ。」
「忘れる魔法ってあるのかな…。僕…調べてみるよ。」
「ありがとう、ルーカス。」
「…ロティのためなら、それくらいやる。」
「…ありがとう。」
そんな会話を昼食を食べながら話す。
神父には忙しくなるとは言われたが、確かに忙しい。
回復魔法だけなら午前もお昼までには余裕を持って終われたのに、最近じゃ午後に突入して解術をしている事が多いのだ。
なぜ解術に時間がかかるのか。
それは解術をする時に何故呪いに掛かったのか、もしくは掛けられたかの説明を聞き、術式を読み取る必要があるからだ。
最初の人に解術した人を含め47人の人全て解術を出来てはいるものの、その呪いは様々で1日1回転ぶという呪いもあればじわじわと体が動かなくなるという怖い呪いもあった。
最初は呪いの術式自体よくわからなかったものの、3.4回も呪いを解けばコツが掴め術式を読み取る術を覚えられた。
解術を例えるなら、完成された衣服を解いていくかのような作業だ。
紡がれた術式の糸を一本一本解いて行く。太さや硬さによって解けにくかったり、ぐちゃぐちゃになってたり、あっという間に解けるものがある。
1日1回転ぶ呪いは10分ほどで簡単に解けたものの、体が動かなくなるものは10日掛けて呪いの術式を読み取り解術したのだ。
呪いは必ず体のどこかに痣のような模様があり、それに触れ術式を読み取るのだ。
中には呪いが掛かった経緯も、何の呪いかもわからない人もいてそういう人の解術はさらに時間を掛けて解術していった。
午後の自由時間があまり取れない日が続いたが、今日は呪いの解術がなかったため自由時間がある。
私は昼食を食べ終わりそうなルーカスに話し掛けた。
「ね、ね。ルーカス、たまには河原にでも遊びに行く?今日は少し暑くなりそうだから足くらいなら川につけても気持ちよさそうじゃない?」
「ロティの言うことに賛成。」
「やった!」
ルーカスが柔かに快諾してくれたのが嬉しい。私もあと二口で終わるパンとスープを口に放り食事を済ませた。
◇◆◇
昼食後、河原に行くのに一応タオルだけ持って出発だ。
タオルがあればもし仮に足以外が濡れてもなんとかなるだろう。
タオルを抱えて靴を履くと、ルーカスはおずおずと私に向けて手を差し伸べてきた。
「ロティ、なんかあったら嫌だし…。
手を繋いで行かない…?」
「手…い、いいよ!」
急なルーカスの提案に焦りながらも応じてルーカスの手を取る。久々に握るその手が嬉しくて舞い上がりそうだ。
ルーカスを見ると少し眉を下げて私を見ていたため首を傾げると、ルーカスはおずおずと口を開いた。
「ケードがいたら手は離すから。」
「うっ…、そうだね…。」
ケードに見られたらまたなんか騒ぎ出しそうで面倒になるのが目に見えている。
そうなるのは出来れば避けたいため私はルーカスに頷きを見せて返答した。
町中を2人で手を繋いで歩く。
幸いケードや他の孤児に合わずに川まで付けたことにほっとする。
だが珍しく川に大人が3人程居て、1人は横たわっており他の2人はせっせと動いていて何やら穏やかな雰囲気では無い。
「あれ、どうしたんだろう?人が…。」
ルーカスと共に少し近づくと横たわっている人から血が出ているのが見え、私とルーカスは慌ててその人達に走って近づいた。
「どうしたの!?」
声を掛けた私に頭に布を巻いた男性が驚きながらも両手を広げこれ以上行かせまいと立ち塞がってきた。
その奥にはやはりボロボロの状態の倒れた人が横になっているのがチラリと見え、その横でもう1人が介抱いるようだ。
「子供か!あっちに行ってろ!今救護中だ!出血が酷いし、至る所傷だらけなんだ!
子供に見せられるものじゃ」
「ならどいて!おじさん!早く回復したほうがいいよ!」
「なっ!回復魔法なんかっ!」
「私がやるの!その人に!」
というより貴方達に。
よく見ればこの人も傷だらけで自分の血なのか返り血なのかわからないが血塗れだ。
最も酷い状態が横たわっている人なだけで3人とも酷く傷ついている。
「な…君が…!?まさか教会の聖女…!?」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く!!」
「ああ…。」
立ち塞がった人が横にずれ介抱していた人も話をきちんと聞いていてすぐに避けてくれた。
介抱していた人のすぐ横にしゃがみ込み、横たわっている人に両手を向け魔法を放つ。
「《高回復__ハイヒール__#》」
緑の魔法の光が横たわっている人を包み込む。小さな傷はすぐ塞がったが大きな傷は中々塞がらない。
「《高回復__ハイヒール__#》!《高回復》!」
これでもかとダメ押しの高回復魔法を使うと大きな傷がみるみる塞がっていった。
血は魔法では戻らないため顔色はあまり良くないが、一命は取り留めただろう。
あとは後ろの2人も直してあげよう。
「《範囲回復》」
静かに私の治療を見守るルーカスまで範囲回復に入ってしまったが、悪い魔法ではないため良しとしよう。
緑の光が5人を包み込んで、体を回復していく。横たわる人も大丈夫そうと判断し、魔法を放つのをやめるとぽわぽわと浮かんだ魔法の光が次々に消えていった。
後ろにいた3人の方を振り返ると、2人の大人は自分達の体を見つめ驚きを見せていた。
「…あ…俺達の傷が…一つも…。っ!命を…取り留めてくれた…。」
「…ああ…ありがとう…!!」
「どういたしまして…。ねぇ、どうしてこんなに傷だらけなの?」
涙ぐみながら私にお礼をしてきた大人達に私は首を傾げながら尋ねると、大人達は苦い顔をしながら私に向け口を開いた。
「魔物の峡谷の近くを通ったから襲われたんだ…。俺達は冒険者なんだが、そんなに強くもなくてね。あの峡谷の近くにある花を取るために通って花を取った帰りに魔物にね…。
」
「魔物…倒せないの…?」
「無理だろうな…。国の大きな討伐部隊を組まないと到底無理な話だ。
君達も近づかないようにな。
本当にありがとう…。」
「だが、噂は違ったみたいだな…。
君の噂は聞いていたんだが、実際見ると真逆じゃないか。」
「どういうこと?」
「高い金を積まないと回復魔法を掛けてくれないという話を聞いていたんだ。最近は多少値段が下がったと聞いていたが…。
凄く傲慢な女の子で最低5万Gを払わないと話すら聞いてもらえず門前払いだと聞いていたが…。」
神父が治療者からお金を取っていたのは気付いてはいた。回復魔法で治療をする前と比べたら格段に孤児院の待遇は良くなって、食事の面から衣服、部屋の事に関しても困らない程度には皆暮らせている。
良くない環境から普通くらいの環境になって嬉しいと思っていた事がそういう風にできているとは思わなかった。
5万Gがどれ程の金額があまりよくはわからないが、それが最低ラインだとするともっと高いお金を皆神父に払っていたのだろう。
もっと細かく神父に言うべきだった。
私は回復魔法の価値を知らなかったし、あの時はルーカスを殺させないために必死だった。こうなることも予想出来なくて、過去の自分に物言いたくなってしまう。
だが目の前の大人達には何も言えずに黙り込んで目を逸らしてしまったが、私に構わず大人達は話を続けた。
「聞いた話だからなんかの間違いでもなさそうだし…。まぁ詳しいことは当事者じゃないから…なんとも。
あ、そうだ。俺達も少ししか払えないけどお金を」
「っい!いらないよ。怪我をして治しただけなのに!命を大切にしてくれればいいよ。」
落ち込んでいる私にお金を渡そうと鞄をゴソゴソ漁る2人を必死に止めた。
私自身が善意でやった事だ。お金をもらうつもりはない。
私が必死に止めたからか、すんなりと鞄から手を引きまじまじと私を見ながら大人達は話す。
「実物の方が聖女みたいだな。可愛いし。」
「ああ、ほんとに。将来は美人確定だな。こりゃあもてるぞ。」
それを聞いたルーカスは大人達の隙間を素早く通り、私の前に来てしゃがみ込みながら私にギリギリ触れるか触れないかの距離で手で私を囲い、大人達にきつい視線を向けていた。
「ロティは駄目だ。」
ボンッて音が鳴った気がしたがきっと私の脳内で鳴ったのだろう。顔が爆発しそうだ。
ルーカスは私の様子に気付いてないがきっと顔は真っ赤。
嬉しさと混乱で目を泳がせながら大人達を見ると私とルーカスを生暖かい目で見ていた。
「なんだ、恋人か。小さいのにやるな!
俺達の方が遅れてる。」
「ああ、俺達もそろそろ冒険ばっかじゃなく考えないとなぁ…。こんな小さいうちから羨ましいぜ。」
大人達が勘違いをし、褒めたからかルーカスの表情は安堵の色が見えて目付きも和らいだ。問題なのは私の方だ。
ルーカスにバレない内に話を変えて顔を冷やしたい。
「…それはともかく…私が…回復魔法かけたの内緒にしてくれる?」
「なぜ…?君はいいことをしたのに…。」
「あまりいい予感がしないから…。
それがお礼ってことじゃ駄目?」
「いやいや、こりゃあ聖女というより小さな女神だな…たまげた。ありがとう、女神様。」
冗談でも女神は言い過ぎだ。そんな崇拝される立場ではない。私はただの女の子なのだから。
「私…ロティだよ。」
「そうか…なら…、ありがとうロティ。君のおかげで助かったよ。本当に、ありがとう。」
名前を教えると大人達は顔を綻ばせ優しくお礼を言ってくれた。このお礼だけでも十分私は嬉しいのだ。
私もにこりと笑って大人達に返した。
「いいえ!どういたしまして。このタオルもあげるから血を拭うのに使って。」
「何から何まで世話になる。
困った時には助けてやるからな。ギルドにサヌーのパーティに用があると言ったら俺達が助けに向かうぞ。」
「心強いね。」
そう言うと大人達は私とルーカスの頭を撫でてくれた。
大人に撫でられるのが久々すぎて、少しだけ涙が出そうになってしまった。
◆◆◆
「呪いって中々使える人いないんじゃなかったっけ…。これで私何人解術したんだろ…。」
「今日で46人目だね。2日に一回は解術してる。ロティ…体大丈夫…?」
「それは平気!でも私の中に呪いの術式が溜まってるよ…。忘れられたら最高なんだけどなぁ。」
「忘れる魔法ってあるのかな…。僕…調べてみるよ。」
「ありがとう、ルーカス。」
「…ロティのためなら、それくらいやる。」
「…ありがとう。」
そんな会話を昼食を食べながら話す。
神父には忙しくなるとは言われたが、確かに忙しい。
回復魔法だけなら午前もお昼までには余裕を持って終われたのに、最近じゃ午後に突入して解術をしている事が多いのだ。
なぜ解術に時間がかかるのか。
それは解術をする時に何故呪いに掛かったのか、もしくは掛けられたかの説明を聞き、術式を読み取る必要があるからだ。
最初の人に解術した人を含め47人の人全て解術を出来てはいるものの、その呪いは様々で1日1回転ぶという呪いもあればじわじわと体が動かなくなるという怖い呪いもあった。
最初は呪いの術式自体よくわからなかったものの、3.4回も呪いを解けばコツが掴め術式を読み取る術を覚えられた。
解術を例えるなら、完成された衣服を解いていくかのような作業だ。
紡がれた術式の糸を一本一本解いて行く。太さや硬さによって解けにくかったり、ぐちゃぐちゃになってたり、あっという間に解けるものがある。
1日1回転ぶ呪いは10分ほどで簡単に解けたものの、体が動かなくなるものは10日掛けて呪いの術式を読み取り解術したのだ。
呪いは必ず体のどこかに痣のような模様があり、それに触れ術式を読み取るのだ。
中には呪いが掛かった経緯も、何の呪いかもわからない人もいてそういう人の解術はさらに時間を掛けて解術していった。
午後の自由時間があまり取れない日が続いたが、今日は呪いの解術がなかったため自由時間がある。
私は昼食を食べ終わりそうなルーカスに話し掛けた。
「ね、ね。ルーカス、たまには河原にでも遊びに行く?今日は少し暑くなりそうだから足くらいなら川につけても気持ちよさそうじゃない?」
「ロティの言うことに賛成。」
「やった!」
ルーカスが柔かに快諾してくれたのが嬉しい。私もあと二口で終わるパンとスープを口に放り食事を済ませた。
◇◆◇
昼食後、河原に行くのに一応タオルだけ持って出発だ。
タオルがあればもし仮に足以外が濡れてもなんとかなるだろう。
タオルを抱えて靴を履くと、ルーカスはおずおずと私に向けて手を差し伸べてきた。
「ロティ、なんかあったら嫌だし…。
手を繋いで行かない…?」
「手…い、いいよ!」
急なルーカスの提案に焦りながらも応じてルーカスの手を取る。久々に握るその手が嬉しくて舞い上がりそうだ。
ルーカスを見ると少し眉を下げて私を見ていたため首を傾げると、ルーカスはおずおずと口を開いた。
「ケードがいたら手は離すから。」
「うっ…、そうだね…。」
ケードに見られたらまたなんか騒ぎ出しそうで面倒になるのが目に見えている。
そうなるのは出来れば避けたいため私はルーカスに頷きを見せて返答した。
町中を2人で手を繋いで歩く。
幸いケードや他の孤児に合わずに川まで付けたことにほっとする。
だが珍しく川に大人が3人程居て、1人は横たわっており他の2人はせっせと動いていて何やら穏やかな雰囲気では無い。
「あれ、どうしたんだろう?人が…。」
ルーカスと共に少し近づくと横たわっている人から血が出ているのが見え、私とルーカスは慌ててその人達に走って近づいた。
「どうしたの!?」
声を掛けた私に頭に布を巻いた男性が驚きながらも両手を広げこれ以上行かせまいと立ち塞がってきた。
その奥にはやはりボロボロの状態の倒れた人が横になっているのがチラリと見え、その横でもう1人が介抱いるようだ。
「子供か!あっちに行ってろ!今救護中だ!出血が酷いし、至る所傷だらけなんだ!
子供に見せられるものじゃ」
「ならどいて!おじさん!早く回復したほうがいいよ!」
「なっ!回復魔法なんかっ!」
「私がやるの!その人に!」
というより貴方達に。
よく見ればこの人も傷だらけで自分の血なのか返り血なのかわからないが血塗れだ。
最も酷い状態が横たわっている人なだけで3人とも酷く傷ついている。
「な…君が…!?まさか教会の聖女…!?」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く!!」
「ああ…。」
立ち塞がった人が横にずれ介抱していた人も話をきちんと聞いていてすぐに避けてくれた。
介抱していた人のすぐ横にしゃがみ込み、横たわっている人に両手を向け魔法を放つ。
「《高回復__ハイヒール__#》」
緑の魔法の光が横たわっている人を包み込む。小さな傷はすぐ塞がったが大きな傷は中々塞がらない。
「《高回復__ハイヒール__#》!《高回復》!」
これでもかとダメ押しの高回復魔法を使うと大きな傷がみるみる塞がっていった。
血は魔法では戻らないため顔色はあまり良くないが、一命は取り留めただろう。
あとは後ろの2人も直してあげよう。
「《範囲回復》」
静かに私の治療を見守るルーカスまで範囲回復に入ってしまったが、悪い魔法ではないため良しとしよう。
緑の光が5人を包み込んで、体を回復していく。横たわる人も大丈夫そうと判断し、魔法を放つのをやめるとぽわぽわと浮かんだ魔法の光が次々に消えていった。
後ろにいた3人の方を振り返ると、2人の大人は自分達の体を見つめ驚きを見せていた。
「…あ…俺達の傷が…一つも…。っ!命を…取り留めてくれた…。」
「…ああ…ありがとう…!!」
「どういたしまして…。ねぇ、どうしてこんなに傷だらけなの?」
涙ぐみながら私にお礼をしてきた大人達に私は首を傾げながら尋ねると、大人達は苦い顔をしながら私に向け口を開いた。
「魔物の峡谷の近くを通ったから襲われたんだ…。俺達は冒険者なんだが、そんなに強くもなくてね。あの峡谷の近くにある花を取るために通って花を取った帰りに魔物にね…。
」
「魔物…倒せないの…?」
「無理だろうな…。国の大きな討伐部隊を組まないと到底無理な話だ。
君達も近づかないようにな。
本当にありがとう…。」
「だが、噂は違ったみたいだな…。
君の噂は聞いていたんだが、実際見ると真逆じゃないか。」
「どういうこと?」
「高い金を積まないと回復魔法を掛けてくれないという話を聞いていたんだ。最近は多少値段が下がったと聞いていたが…。
凄く傲慢な女の子で最低5万Gを払わないと話すら聞いてもらえず門前払いだと聞いていたが…。」
神父が治療者からお金を取っていたのは気付いてはいた。回復魔法で治療をする前と比べたら格段に孤児院の待遇は良くなって、食事の面から衣服、部屋の事に関しても困らない程度には皆暮らせている。
良くない環境から普通くらいの環境になって嬉しいと思っていた事がそういう風にできているとは思わなかった。
5万Gがどれ程の金額があまりよくはわからないが、それが最低ラインだとするともっと高いお金を皆神父に払っていたのだろう。
もっと細かく神父に言うべきだった。
私は回復魔法の価値を知らなかったし、あの時はルーカスを殺させないために必死だった。こうなることも予想出来なくて、過去の自分に物言いたくなってしまう。
だが目の前の大人達には何も言えずに黙り込んで目を逸らしてしまったが、私に構わず大人達は話を続けた。
「聞いた話だからなんかの間違いでもなさそうだし…。まぁ詳しいことは当事者じゃないから…なんとも。
あ、そうだ。俺達も少ししか払えないけどお金を」
「っい!いらないよ。怪我をして治しただけなのに!命を大切にしてくれればいいよ。」
落ち込んでいる私にお金を渡そうと鞄をゴソゴソ漁る2人を必死に止めた。
私自身が善意でやった事だ。お金をもらうつもりはない。
私が必死に止めたからか、すんなりと鞄から手を引きまじまじと私を見ながら大人達は話す。
「実物の方が聖女みたいだな。可愛いし。」
「ああ、ほんとに。将来は美人確定だな。こりゃあもてるぞ。」
それを聞いたルーカスは大人達の隙間を素早く通り、私の前に来てしゃがみ込みながら私にギリギリ触れるか触れないかの距離で手で私を囲い、大人達にきつい視線を向けていた。
「ロティは駄目だ。」
ボンッて音が鳴った気がしたがきっと私の脳内で鳴ったのだろう。顔が爆発しそうだ。
ルーカスは私の様子に気付いてないがきっと顔は真っ赤。
嬉しさと混乱で目を泳がせながら大人達を見ると私とルーカスを生暖かい目で見ていた。
「なんだ、恋人か。小さいのにやるな!
俺達の方が遅れてる。」
「ああ、俺達もそろそろ冒険ばっかじゃなく考えないとなぁ…。こんな小さいうちから羨ましいぜ。」
大人達が勘違いをし、褒めたからかルーカスの表情は安堵の色が見えて目付きも和らいだ。問題なのは私の方だ。
ルーカスにバレない内に話を変えて顔を冷やしたい。
「…それはともかく…私が…回復魔法かけたの内緒にしてくれる?」
「なぜ…?君はいいことをしたのに…。」
「あまりいい予感がしないから…。
それがお礼ってことじゃ駄目?」
「いやいや、こりゃあ聖女というより小さな女神だな…たまげた。ありがとう、女神様。」
冗談でも女神は言い過ぎだ。そんな崇拝される立場ではない。私はただの女の子なのだから。
「私…ロティだよ。」
「そうか…なら…、ありがとうロティ。君のおかげで助かったよ。本当に、ありがとう。」
名前を教えると大人達は顔を綻ばせ優しくお礼を言ってくれた。このお礼だけでも十分私は嬉しいのだ。
私もにこりと笑って大人達に返した。
「いいえ!どういたしまして。このタオルもあげるから血を拭うのに使って。」
「何から何まで世話になる。
困った時には助けてやるからな。ギルドにサヌーのパーティに用があると言ったら俺達が助けに向かうぞ。」
「心強いね。」
そう言うと大人達は私とルーカスの頭を撫でてくれた。
大人に撫でられるのが久々すぎて、少しだけ涙が出そうになってしまった。
◆◆◆
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる