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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第3話 実家と暴虐の兄
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俺の一族、フォルス家は広大な領地を持つ貴族の家系だ。父上はフォルス家の当主であり、俺は父上の領地の内のほんの小さな領地を貰っているに過ぎない。俺の屋敷と父上の屋敷は近いものの、夜に屋敷を出て、翌日の朝方には父上の屋敷、つまりフォルス家の本邸に到着することが出来た。
ターニャを連れ添って馬車を降りれば、目の前には俺の屋敷などとは比べ物にならないほど大きな屋敷と一人の執事が出迎えてくれた。ローエン・アストレア。長年フォルス家を支えてくれている補佐官兼執事だ。
「ノヴァ様、突然のお呼び出しに応じて頂き、ありがとうございます」
「ローエンさん、おはよう。父上からの呼び出しなら、来るのは当然だよ」
ローエンさんは父上に仕える事にしか興味が無い人だ。他の使用人のように俺を裏で下に見たり嘲ったりしない。そのため俺にとってはありがたい、数少ない人物だと言える。
「旦那様がお戻りになるのは夜なので、それまでは屋敷でゆっくりとお過ごしください」
「あ、それなら中庭を借りていいかな? 一日でも剣を振っていないと落ち着かなくてさ」
「どうぞ、ご自由にお使いください」
頭を下げるローエンさんの横をすり抜けてまずは俺の部屋へと向かう。その途中でターニャが口を開いた。
「夜まで戻らないなら、夜に来るように伝えればいいじゃないですか」
「いや、父上が来た時に居なかったらそれはそれでマズイでしょ」
ターニャの言いたいことは俺自身も思うところではあるが、気にするようなことでもない。けど専属侍女の彼女はどうやら納得がいかないようで。
「というか、ここがあまり好きではありません。どいつもこいつもノヴァ様のことをひそひそと……」
「ターニャ、素が出てるよ……」
すれ違う屋敷の使用人たちは俺と知るや否や立ち止まって礼をしてくれる。けどその瞳にはどこか侮蔑の色が宿っているし、遠くではこちらを盗み見てひそひそと噂話をする様子も見える。
俺は別に気にしないけど、他の客人が来ているときにはそれをしないでくれと思わずにはいられない。
俺が部屋に向かうまでの間、ターニャはずっと不機嫌だった。
×××
「ふっ!」
一心不乱に剣を振るう。といっても振るっているのは木刀だ。今日は天気が良く、絶好の訓練日和。太陽の下でフォルス家直伝の剣術の練習をしていた。もちろんターニャは日陰に避難させてある。この強い日差しの下に女性を放置はできない。
「……今日は調子が良いな」
ついこの前あの夢を見たからか、今日の型は鋭く洗練されていると自分にも分かった。これまで何年も行ってきたフォルス家の剣術は体に染みつくほどになっている。覇気を使用しない剣の型なら、誰よりもやってきた自信がある。
そうして長いこと剣の修練をしていた時だった。
「まだやってるじゃねえか」
あまり聞きたくない声を聞いて、俺は剣を振る腕を止める。振り返れば、中庭の入り口に兄であるゼロード・フォルスが立っていた。俺と同じだがやや長い金髪に、好戦的な表情を浮かべている。ゼロードの兄上がこの顔をしているときはあまり良い思い出がない。
「お久しぶりです、ゼロードの兄上」
「親睦会の書類を提出するついでに寄ってみれば、我が家の恥さらしがいるってメイドから聞いてな。丁度良いから顔出してやったよ」
余計なことを言いやがって。誰かも分からないメイドに対して、内心で悪態をついた。
ゼロードの兄上は俺の事が嫌いだ。いや、嫌いというか圧倒的格下として見ている。彼からすれば俺は取るに足らない人間で、彼自身は選ばれた人間だからだ。悔しいと感じることはあるし、俺だって人間だから腹は立つ。けど兄上の言うことは事実で、言い返すことは出来なかった。
「剣の稽古してるんだろ? 一人じゃ可哀そうだから、俺が相手してやるよ」
「……ありがとうございます」
思った通り良くないことになったが、俺は心を押し殺して頭を下げた。ゼロードの兄上の言葉を否定すれば状況が悪化することは目に見えていたから。
そんな俺を無視して兄上は木刀を取りに行く。俺は俺で頭をあげて、少し離れた位置についた。訓練用に着替えた俺と、貴族の上品な衣服に身を包んだままの兄上。まったく同じフォルス家に伝わる剣技の構えで向かい合う。
俺達は誰からの試合開始の合図も受けることなく、ほぼ同時に地面を蹴った。
兄上の木刀と俺の木刀がぶつかり合う。ゼロードの兄上はフォルス家の次期当主候補筆頭。そんな彼は俺とは違い、優秀な教師や剣の師匠にもついてもらっている。そんな兄上と、「剣の腕だけなら」なんとか戦うことが出来る。例え良い師に恵まれなくても、例え孤独だとしても、訓練の時間は裏切らない。それを俺はよく知っている。
そして努力ではどうしようもない才能があるということも。
「相変わらず剣の腕だけはいいじゃねえか。でも、こっちは全然だろ? 出来損ないが」
瞬間、兄上の体から真っ白な力が放出される。兄上の体の表面を包むのは、俺に重圧を感じさせるほどの濃い覇気。フォルス家の一族にしか使えない、秘伝の力。
兄上の剣の重みが何倍にもなり、とてもじゃないが受け止められない力となる。これまで一日も欠かさずに鍛えてきた腕で支えていた剣が、あっさりと押し返される。
時間という時間を全て捧げて練り上げた剣は、才能という絶対に勝てない壁に裏打ちされた剣に弾かれた。
「やっぱお前、つまんねえわ」
押し返された後の振り上げは確実に見えていたし、対応できていた。けれど両手を使っても兄上の一撃は防ぎきれずに、剣を弾き飛ばされてしまった。また俺の負けか、そう思ったとき。
兄上の返す木刀が俺の肩を強く叩いた。
「ぐっ……」
巧い具合に骨に当たり、声が漏れた。上からの衝撃に膝をつき、両手で体を支えようとすれば、左肩に激痛が走る。
「あ、わりいわりい。ちょっと力入れすぎたわ。ほら、お前剣の腕だけは一流だろ? だから手加減できなくてな」
ヘラヘラと笑い声が頭上から降ってくる。なにが手加減が出来ないだ、と内心で呟いた。今の一撃は絶対にわざとだ。そもそも覇気を完全に使いこなせる兄上と俺では確固たる差がある。それこそ一兵卒と歴戦の勇士のような差がだ。兄上が手加減をしてもなお、俺と兄上の間には差がある。
しかし俺はそれを咎める事が出来ない。俺は出来損ないで、彼は選ばれた人間だから。
「いえ……訓練ではよくあることですから」
「……そうかよ」
顔を上げて強がりで笑えば、苛ついた兄上と目が合った。あぁ、これは訓練と称してまた痛めつけられるか、と思ったが。
「ノヴァ様!」
割って入る声があった。駆けてくる足音を聞いたかと思ったら、次の瞬間には背中に手が触れていた。確認するまでもなくターニャだと分かった。
「まあ大変! 酷い怪我ですね! これは今日の訓練はもう無理かもしれません!」
大きな声でおおげさにそう言うターニャ。彼女に肩を借りて、俺はなんとか立ち上がった。
「ということで、今日はこの辺で失礼しますね」
「はぁ? おいおい待てよ。この程度で体だけは頑丈なそいつが無理になるわけないだろ」
「いえ、無理です」
取り付く島もないようなぴしゃりとした発言に、兄上が青筋を浮かべるのを幻視した。このままではまずい、そう思ったが、俺が何かを言う前に兄上がにやりと笑った。
「ならお前が付き合えよ。俺の命令だ。逆らえないよな?」
下種な視線を向ける兄上。兄上は次期当主らしく力強い人だが、同時に英雄色を好むというか、女性関係に関しては見境がない。婚約者がいるのだが、その人との関係も冷え切っていると小耳に挟んだことがある。
そんなゼロードの兄上は俺の侍女であるターニャにも最近は目を付け始めたらしく、よくこうして言い寄っていた。
「私の雇い主は大旦那様であらせられるトラヴィス様です。さらに仕えているのはノヴァ様ですので、ゼロード様の命令は聞けません」
これまでゼロードの兄上がターニャに手を出さなかったのは、厳格な父上が弟の侍女を手籠めにするような行いを許すはずはないと彼自身分かっていたからだろう。礼節をもって決してメイドには手を出すな、暴力も許さない、というのは幼い頃からの父上の言いつけだ。
ゼロードの兄上は今となっては聞く気もあまりなさそうだけど。
けどターニャと兄上の間には確固たる身分の差があるのも事実。以前のこの屋敷にいたときなら、ターニャは何も言わずに頭を下げて兄上から逃げるばかりだった。俺がゼロードの兄上に稽古を願うことでターニャを逃がす手助けをしたのだって一度や二度じゃない。その度に泣きそうな彼女の顔を見て、俺は痛めつけられることでしか誰かを護れないのかと思ったこともある。
けれど今、はっきりとターニャは拒絶した。
「……ちっ、そうかよ。勝手にしろ。……女に庇われて女々しい奴だな」
もうどうすることも出来ないと悟った兄上は吐き捨てるようにそう言って木刀を投げ捨て、中庭から去っていく。嵐のように来て、嵐のように暴れて、嵐のように去っていく人だなと、そんな事を思った。
「ノヴァ様、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫。……でも、ちょっと休もうか」
肩を強く打たれただけなので空いている手で訓練は出来たが、今はターニャと共に休むことにした。そうしないと彼女が今にも泣きそうだったので、正解だったと思う。彼女に支えられながら大きな木の陰に向かう途中で、兄上の言葉が頭を過ぎった。
女々しい奴。兄上はそう言ったけど、実際にその通りかもしれない。
「ごめんな、俺のせいでまたゼロ―ドの兄上に……」
「いえ、私は大丈夫です」
本当に何でもないように答える彼女の声を聞いて、ターニャは強くなったんだなとしみじみと思った。
ターニャを連れ添って馬車を降りれば、目の前には俺の屋敷などとは比べ物にならないほど大きな屋敷と一人の執事が出迎えてくれた。ローエン・アストレア。長年フォルス家を支えてくれている補佐官兼執事だ。
「ノヴァ様、突然のお呼び出しに応じて頂き、ありがとうございます」
「ローエンさん、おはよう。父上からの呼び出しなら、来るのは当然だよ」
ローエンさんは父上に仕える事にしか興味が無い人だ。他の使用人のように俺を裏で下に見たり嘲ったりしない。そのため俺にとってはありがたい、数少ない人物だと言える。
「旦那様がお戻りになるのは夜なので、それまでは屋敷でゆっくりとお過ごしください」
「あ、それなら中庭を借りていいかな? 一日でも剣を振っていないと落ち着かなくてさ」
「どうぞ、ご自由にお使いください」
頭を下げるローエンさんの横をすり抜けてまずは俺の部屋へと向かう。その途中でターニャが口を開いた。
「夜まで戻らないなら、夜に来るように伝えればいいじゃないですか」
「いや、父上が来た時に居なかったらそれはそれでマズイでしょ」
ターニャの言いたいことは俺自身も思うところではあるが、気にするようなことでもない。けど専属侍女の彼女はどうやら納得がいかないようで。
「というか、ここがあまり好きではありません。どいつもこいつもノヴァ様のことをひそひそと……」
「ターニャ、素が出てるよ……」
すれ違う屋敷の使用人たちは俺と知るや否や立ち止まって礼をしてくれる。けどその瞳にはどこか侮蔑の色が宿っているし、遠くではこちらを盗み見てひそひそと噂話をする様子も見える。
俺は別に気にしないけど、他の客人が来ているときにはそれをしないでくれと思わずにはいられない。
俺が部屋に向かうまでの間、ターニャはずっと不機嫌だった。
×××
「ふっ!」
一心不乱に剣を振るう。といっても振るっているのは木刀だ。今日は天気が良く、絶好の訓練日和。太陽の下でフォルス家直伝の剣術の練習をしていた。もちろんターニャは日陰に避難させてある。この強い日差しの下に女性を放置はできない。
「……今日は調子が良いな」
ついこの前あの夢を見たからか、今日の型は鋭く洗練されていると自分にも分かった。これまで何年も行ってきたフォルス家の剣術は体に染みつくほどになっている。覇気を使用しない剣の型なら、誰よりもやってきた自信がある。
そうして長いこと剣の修練をしていた時だった。
「まだやってるじゃねえか」
あまり聞きたくない声を聞いて、俺は剣を振る腕を止める。振り返れば、中庭の入り口に兄であるゼロード・フォルスが立っていた。俺と同じだがやや長い金髪に、好戦的な表情を浮かべている。ゼロードの兄上がこの顔をしているときはあまり良い思い出がない。
「お久しぶりです、ゼロードの兄上」
「親睦会の書類を提出するついでに寄ってみれば、我が家の恥さらしがいるってメイドから聞いてな。丁度良いから顔出してやったよ」
余計なことを言いやがって。誰かも分からないメイドに対して、内心で悪態をついた。
ゼロードの兄上は俺の事が嫌いだ。いや、嫌いというか圧倒的格下として見ている。彼からすれば俺は取るに足らない人間で、彼自身は選ばれた人間だからだ。悔しいと感じることはあるし、俺だって人間だから腹は立つ。けど兄上の言うことは事実で、言い返すことは出来なかった。
「剣の稽古してるんだろ? 一人じゃ可哀そうだから、俺が相手してやるよ」
「……ありがとうございます」
思った通り良くないことになったが、俺は心を押し殺して頭を下げた。ゼロードの兄上の言葉を否定すれば状況が悪化することは目に見えていたから。
そんな俺を無視して兄上は木刀を取りに行く。俺は俺で頭をあげて、少し離れた位置についた。訓練用に着替えた俺と、貴族の上品な衣服に身を包んだままの兄上。まったく同じフォルス家に伝わる剣技の構えで向かい合う。
俺達は誰からの試合開始の合図も受けることなく、ほぼ同時に地面を蹴った。
兄上の木刀と俺の木刀がぶつかり合う。ゼロードの兄上はフォルス家の次期当主候補筆頭。そんな彼は俺とは違い、優秀な教師や剣の師匠にもついてもらっている。そんな兄上と、「剣の腕だけなら」なんとか戦うことが出来る。例え良い師に恵まれなくても、例え孤独だとしても、訓練の時間は裏切らない。それを俺はよく知っている。
そして努力ではどうしようもない才能があるということも。
「相変わらず剣の腕だけはいいじゃねえか。でも、こっちは全然だろ? 出来損ないが」
瞬間、兄上の体から真っ白な力が放出される。兄上の体の表面を包むのは、俺に重圧を感じさせるほどの濃い覇気。フォルス家の一族にしか使えない、秘伝の力。
兄上の剣の重みが何倍にもなり、とてもじゃないが受け止められない力となる。これまで一日も欠かさずに鍛えてきた腕で支えていた剣が、あっさりと押し返される。
時間という時間を全て捧げて練り上げた剣は、才能という絶対に勝てない壁に裏打ちされた剣に弾かれた。
「やっぱお前、つまんねえわ」
押し返された後の振り上げは確実に見えていたし、対応できていた。けれど両手を使っても兄上の一撃は防ぎきれずに、剣を弾き飛ばされてしまった。また俺の負けか、そう思ったとき。
兄上の返す木刀が俺の肩を強く叩いた。
「ぐっ……」
巧い具合に骨に当たり、声が漏れた。上からの衝撃に膝をつき、両手で体を支えようとすれば、左肩に激痛が走る。
「あ、わりいわりい。ちょっと力入れすぎたわ。ほら、お前剣の腕だけは一流だろ? だから手加減できなくてな」
ヘラヘラと笑い声が頭上から降ってくる。なにが手加減が出来ないだ、と内心で呟いた。今の一撃は絶対にわざとだ。そもそも覇気を完全に使いこなせる兄上と俺では確固たる差がある。それこそ一兵卒と歴戦の勇士のような差がだ。兄上が手加減をしてもなお、俺と兄上の間には差がある。
しかし俺はそれを咎める事が出来ない。俺は出来損ないで、彼は選ばれた人間だから。
「いえ……訓練ではよくあることですから」
「……そうかよ」
顔を上げて強がりで笑えば、苛ついた兄上と目が合った。あぁ、これは訓練と称してまた痛めつけられるか、と思ったが。
「ノヴァ様!」
割って入る声があった。駆けてくる足音を聞いたかと思ったら、次の瞬間には背中に手が触れていた。確認するまでもなくターニャだと分かった。
「まあ大変! 酷い怪我ですね! これは今日の訓練はもう無理かもしれません!」
大きな声でおおげさにそう言うターニャ。彼女に肩を借りて、俺はなんとか立ち上がった。
「ということで、今日はこの辺で失礼しますね」
「はぁ? おいおい待てよ。この程度で体だけは頑丈なそいつが無理になるわけないだろ」
「いえ、無理です」
取り付く島もないようなぴしゃりとした発言に、兄上が青筋を浮かべるのを幻視した。このままではまずい、そう思ったが、俺が何かを言う前に兄上がにやりと笑った。
「ならお前が付き合えよ。俺の命令だ。逆らえないよな?」
下種な視線を向ける兄上。兄上は次期当主らしく力強い人だが、同時に英雄色を好むというか、女性関係に関しては見境がない。婚約者がいるのだが、その人との関係も冷え切っていると小耳に挟んだことがある。
そんなゼロードの兄上は俺の侍女であるターニャにも最近は目を付け始めたらしく、よくこうして言い寄っていた。
「私の雇い主は大旦那様であらせられるトラヴィス様です。さらに仕えているのはノヴァ様ですので、ゼロード様の命令は聞けません」
これまでゼロードの兄上がターニャに手を出さなかったのは、厳格な父上が弟の侍女を手籠めにするような行いを許すはずはないと彼自身分かっていたからだろう。礼節をもって決してメイドには手を出すな、暴力も許さない、というのは幼い頃からの父上の言いつけだ。
ゼロードの兄上は今となっては聞く気もあまりなさそうだけど。
けどターニャと兄上の間には確固たる身分の差があるのも事実。以前のこの屋敷にいたときなら、ターニャは何も言わずに頭を下げて兄上から逃げるばかりだった。俺がゼロードの兄上に稽古を願うことでターニャを逃がす手助けをしたのだって一度や二度じゃない。その度に泣きそうな彼女の顔を見て、俺は痛めつけられることでしか誰かを護れないのかと思ったこともある。
けれど今、はっきりとターニャは拒絶した。
「……ちっ、そうかよ。勝手にしろ。……女に庇われて女々しい奴だな」
もうどうすることも出来ないと悟った兄上は吐き捨てるようにそう言って木刀を投げ捨て、中庭から去っていく。嵐のように来て、嵐のように暴れて、嵐のように去っていく人だなと、そんな事を思った。
「ノヴァ様、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫。……でも、ちょっと休もうか」
肩を強く打たれただけなので空いている手で訓練は出来たが、今はターニャと共に休むことにした。そうしないと彼女が今にも泣きそうだったので、正解だったと思う。彼女に支えられながら大きな木の陰に向かう途中で、兄上の言葉が頭を過ぎった。
女々しい奴。兄上はそう言ったけど、実際にその通りかもしれない。
「ごめんな、俺のせいでまたゼロ―ドの兄上に……」
「いえ、私は大丈夫です」
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