宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
72 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第72話 彼女が今、幸せなら

しおりを挟む
 その日は全ての事を前倒しで終わらせた。
 朝まで起きていて、疲れが抜けきっていなかったからだ。

 朝の内に実家の方にゼロードの兄上とカイラスの兄上を集めてくれるように父上に頼もうとしたら、シアが代わりに届けてくれた。父上は特に何かを言うことなく了承して、日時が決まれば連絡してくれるらしい。意外とあっさり決まって、少し拍子抜けしたくらいだ。

 その後は仕事を素早く終わらせて、剣の稽古も軽くではあるけどしっかりとやって、シアと事前に軽く打ち合わせた通りに早めの夕食を食べた。
 朝の俺達の会話を聞いていたからか、ターニャが向けてくる目線も決意に満ちたものになっている。

 そうして一日を終えた俺はシアと一緒に疲れた体で自室のテーブルについた。シアも本を読みつつも少し眠そうにしているし、寝間着姿にも着替えている。それは俺も同じだ。

「……ねえシア、実は話しておきたいことがあったんだ」

「なんでしょう?」

 本から目線を俺に向けて、シアは首を傾げる。本当は昨日の夜に伝えておきたかったことを、今ここで伝えておきたかった。

「昨日の昼間の事だけど、ナタさんに作ってもらった機器でアークゲート家に行ったとき、オーロラちゃんに会ったんだ。そこでシアにティアラとのことが気付かれていたことを話した。
 ……で、そのあとで、オーロラちゃんが話してくれたんだ。彼女と……シアの母親の事を」

「……そうでしたか」

 ソニアちゃんの件がなければすぐに伝えるつもりだったことも伝えると、シアは少しだけ目じりを下げた。

「オーラは大丈夫そうでしたか?」

「……いや、大丈夫じゃなかったよ。聞いたけど、生まれてから一度も父親に会ったことがないって……それで寂しさをずっと抱えていて、最後は声を上げて泣いてた。
 いてもたってもいられなくて抱きしめたけど、本当に寂しかったんだと思う。泣き止むのに時間がかかったくらいだから……」

「そう……ですか。オーラは賢い子です。けれど自分の中に感情を閉じ込めてしまう子でもあります。そんなあの子の心を、ノヴァさんは引き出してくれたんですね……」

 少し寂しげだけど、安心した表情を浮かべたシアは続ける。

「私がアークゲート家の当主になって最初に行ったのは家の内部の処理です。オーラに関してはその一環として、塔に行って彼女を解放しました。
 彼女は当時、最強のアークゲートを作るために監禁され、どう見てもやりすぎな指導を受け続けていました。本当、人の事を何だと思っているんだって感じですよね」

 シアの言っていることは、以前王都であったティアラが言っていた事なんだろう。彼女はオーロラちゃんの事を母親の最高傑作だって言っていた。
 結局母親もティアラも、オーロラちゃんをオーロラちゃんとしては見ていなかったってことだ。
 それを知って、沸々と怒りがこみ上げてくる。

「初めてオーラに会ったときの事はよく覚えています。今とは全く違って、光のない目で私を見上げていました。ざっくりとした報告はリサから受けていますが、苦しい幼少期を過ごしたんだと思います」

「……オーロラちゃんも、ってことだよね?」

 才能に満ち溢れたオーロラちゃんがそういった扱いだったなら、才能が全くないとみなされていたシアだって同じくらい、あるいはそれ以上の扱いだったかもしれない。
 けどシアはにっこりと微笑んで、首を横に振った。

「私はそこまででもありません。何もできなくて、期待もされていませんでしたから。
 それよりもオーラの事、ありがとうございました。姉として、これからもあの子を見てもらえると嬉しいです。今でも十分すぎるくらいにノヴァさんはあの子を気にかけてくれていますけどね」

「あ、ああ……」

 流れるような話題の変え方だったけど、これ以上自分の事について触れて欲しくないっていうシアからの拒絶だって感じた。いや、拒絶っていう強い感情ではなくてお願いのような、縋るような。

 シアは自分の過去をあまり語ろうとしない。というよりも、アークゲート家の話をあまりしない。過去に俺がなぜかシアの魔力を安定させて、そしてその結果シアが当主になったっていうのは聞いたけど、その過程がどんな道のりだったのかは、ほとんど知らない。

「…………」

 聞けばきっと、シアは教えてくれるだろう。けど聞き出すようなことはしたくなかった。なにより今はその時じゃないような気がした。
 オーロラちゃんは話してくれた。それならシアも話してくれる日が来るかもしれない。

 だから今は。

「ねえシア。シアは今、幸せ?」

「え? はい、とても幸せですけど……」

「それは今までよりも?」

「…………」

 俺の言いたいことが分かったのか、シアは目を一瞬だけ見開いて、微笑んだ。

「はい、今の私は、これまでの人生の中で一番幸せです。だってこんなにも私の事を思ってくれるノヴァさんがいるんですから」

「……そっか」

 それなら、それでいい。シアの過去に何があったとか、アークゲートの過去とかは気になることではあるけど、結局、今のシアが幸せに感じているのが一番大事だと思うから。

「そろそろ寝ようか。昨日あまり寝てないから、眠くてさ」

「ふふっ、私もです」

 椅子から立ち上がってベッドへと向かう途中で、シアは「あっ」と声を上げる。
 何事かと振り返ると、彼女は満面の笑みを俺に向けていた。

「ノヴァさん、これから始まるであろうゼロードとの当主争いですが、それが一段落着いたら一緒に王都に行きませんか?」

「王都に?」

「はい。オーラとユティとはカフェに行って楽しそうにお話したのに、私とはまだじゃないですか。私だってノヴァさんとデートしたいです。
 私達三人にサリアの街を案内してくれる前に、条件は同じにしておくべきです」

「条件って……でも、デートか……」

 直接的な言葉に少しだけ照れる。オーロラちゃんやユティさんとの時はそんなこと考えなくて、ただ話をしただけだった。カフェにいたとはいえ店員さんも多かったし。
 けどシアと一緒に出掛けるのは確かにデートって感じだ。サリアの街を一緒に歩いたとき以来だし、あのときもとても楽しかった。それに。

「……シアと一緒に王都を歩くのは、初めてだしな」

 一回目は路地裏で出会った。二回目は路地裏に駆け付けた。その後も研究所に行ったりはしたけど、王都を歩いて回ったことはない。

「一緒に街を歩いて、カフェにでも入って、ゆっくりとした休日を過ごしましょうね。
 あ、カフェについては任せてください。オーラの時よりも良い店に連れていきますよ」

「妹と張り合ってどうするのさ……でも、楽しみにしてる」

 意外と負けず嫌いかもしれない妻の言葉に苦笑いして、俺はベッドに向かう。
 シアとのデートの約束は楽しみだし、そのためには片付けないといけないこともある。
 決意を胸に、俺はシアと一緒にベッドに入った。

 その日はそれ以上語る元気もなく、俺達二人は深い眠りへと落ちていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語

石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。 本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。 『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。 「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。 カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。 大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...