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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第77話 穏やかな夕餉
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扉を開けて屋敷の食堂に入る。食堂ではターニャとメイド達がいそいそと準備をしているところで、席にはジルさんとシアがついていた。
「おぉ、旦那様、今日も一日お疲れさまでした」
「ノヴァさん、お疲れ様です」
「ジルさん、ありがとう。シアも帰ってきていたんだね」
自室で書類を整理していたから気づかなかったな、と思いながら、定位置であるシアの隣に腰を下ろした。丁度準備が終わったのか、他のメイドやターニャも席に座る。
今日もまた、全員での楽しい夕餉が始まった。
並べられた料理に手をつければ今日も美味しい料理に舌鼓を打つ。食事という瞬間は好きだ。
特にある程度平らげた後の語らいは、この屋敷に来てからの楽しみの一つでもある。
今日もいつものように腹八分目くらいまで食事を堪能し、用意してくれた酒を楽しむ。
美味しい料理は勿論、好きなお酒を用意してくれるターニャ達には感謝しかない。
「それにしても旦那様、フォルス家当主就任おめでとうございます」
「いやターニャ、まだ次期当主になっただけで、当主になったわけじゃないよ」
「時間の問題だとは思いますがなぁ……」
豪快に笑って酒を呷るジルさん。もう酔いが回ってきているのか、少し顔が赤らんでいる。いつもは冷静沈着なジルさんだけど、彼はお酒を飲むと陽気な性格に早変わり。俺はこっちのジルさんもジルさんで好きだけど。
「……まあ、あんなフォルス家の当主の座なんて、って感じですけど!」
「ターニャさん、それについては一部同意ですが、ノヴァさんはフォルス家を中から変えようと考えているんですよ。第二第三のソニアちゃんを出さないためにも」
あれ? 俺、シアにフォルス家を中から変えること言ったっけ? と思って彼女を見てみれば、シアはにっこりと笑っていた。どうやらお見通しだったらしい。敵わないなぁ。
「フォルス家が旦那様の力で再誕する……そう考えるとありかもしれませんね」
「うーん、ちょっと大げさだけど、要はこの屋敷と同じことが出来ればと思うよ」
そう言ってターニャに笑いかけると、彼女は思い出したかのように、「あっ」と呟いた。
「そういえばソニアちゃんですが、最近ようやく体調も戻ってきたみたいで、この屋敷で働きたいって言っています。雇うってことで良いんですよね?」
「うん、それでいいよ。ただまだ病み上がりだから、あんまり大変な仕事はさせないでね」
「奥様のお陰でメイド達の負担も減っていますし、そもそもそんな大変な仕事なんてありませんよ」
ターニャの言う通り、シアは魔法でこの屋敷にかなり貢献してくれている。アークゲート家でやっていたようにメイドや執事達の業務量の軽減になっているみたいだ。
アークゲート家でもやっているから大変じゃないのかなと思って一度シアに言ったけど、全く問題ないって言っていたから大丈夫なんだと思う。
それにしても、ソニアちゃんが回復したみたいで本当に良かった。数日前に倒れる姿を見ているからずっと心配していたし、ちょくちょく彼女の元に顔を出したりしていたからね。
「ですが、その内あのフォルス家の屋敷に移るんですよね? ならソニアちゃんとしては戻る感じになるかもしれませんね」
「とはいえ父上から業務の引継ぎの問題もあるし、もうしばらくはかかりそうだけどね」
次期当主になったからと言ってもすぐ当主になるわけじゃない。じっくりと引継ぎをする必要だってあるし、しばらくは実家の方に顔を出すことにもなるか。
「ああ、そういう感じなんです――」
「旦那様ぁ!」
隣で何かつぶやいたシアの言葉を遮って、ジルさんが大きな声を上げる。陽気なようだけど、目じりが下がっていて、俺を見つめていた。
「た、例えフォルス家の方に行ったとしても、このジル! 旦那様の手伝いをいたします! いえ、させてください!」
「え? ええ?」
突然の事に困惑していると、手を添えたターニャが小さな声で教えてくれる。
「ジルさん、実はここ数日心配しているんです。もし旦那様が実家に行ったら、自分はここに置き去りにされるんじゃないかって」
「いや、ジルさんにはお世話になっているし、俺の事をよく知っている人でもあるから、フォルス家の屋敷に移ってもついてきて欲しいよ」
というか、この領地は父上の領地をごく小範囲で切り取っているだけだから、元通りに合併させてもほとんど問題がない。それに人が少なくなる可能性があるこの屋敷にジルさんを一人置いていくわけもない。
俺の言葉にジルさんは感激したのか、満面の笑みを浮かべた。
「おぉ! このジル、一生ついていきますぞ!」
そう言ってさらにお酒を呷るジルさんを、ターニャはジトっとした目で睨みつけた。
「……これは明日、素面の時に説教ですね」
「……まあ、そうだよね。あんまり飲み過ぎないように注意しておいて」
いつもはジルさんがターニャを説教することが多いんだけど、こと酒に関してはジルさんが注意されることが多い。流石に年が大きく離れたターニャに説教されるのは堪えるようで最近は酒の量が減っていたけど、心配で増えてしまったのかもしれない。
ごめん、ジルさん。でもターニャの説教は受けようね。俺は心の中で合掌した。
「実際、ローエンさん一人では当主に成り立てのノヴァさんを支えるのは難しいでしょうから、ジルさんの力添えはありがたいことです。むしろそれでも足りないくらいでしょうけど」
当主として活動するシアは業務量の大体の予想がついているのか、ちょっと心配になることを言う。けどその言葉の途中で、ふと気づいたことを聞いた。
「ねえシア、もしかしてだけど、あのときローエンさんになんか言った?」
「あのとき?」
「ローエンさんがソニアちゃんを頼むって言ったとき。頭を下げたローエンさんに近づいて、何か言ってたでしょ?」
思いついたように「あぁ」と呟くシア。
「大したことじゃないですよ。ゼロードを切り捨ててノヴァさんを支持してくださいってお願いしただけです。色々考えた結果、ノヴァさんを支持すると決めてくれたみたいですね」
「そういうことだったのか」
あの時はソニアちゃんの事しか考えていなかったけど、シアはその先も考えていてくれたらしい。ありがたいと思ったその時、ターニャが恐る恐る口に出した。
「あの奥様……まさかと思いますが今回のソニアちゃんの一件……」
ターニャの言葉に、シアはにっこりと笑って返した。
「ターニャさん? 心外です。私は確かにノヴァさんのために色々してあげたいと思っていますが、ノヴァさんが嫌だなと思うことは絶対にしないです。
ソニアちゃんをゼロードが害するような絵を描くくらいなら、その絵を破り捨てて別の絵を一から描きます」
「……そうですよね」
「ターニャ嬢、そんなわけないでしょう。奥様は旦那様第一優先。我らが旦那様を支える人は数多けども、奥様に勝る支えなど居ないのですから」
「……ジルさん、良いこと言ってますけど、酔ってるからどうせ全部明日忘れてるんだろうなって思うと、あんまり心に響かないです」
「あらあら、あんまり褒めても何も出ませんよ?」
ニコニコ笑顔でそういうシアを横目で見て、微笑む。
きっとシアなら、手段を選ばなければ何でもできるはずだ。そのくらいの力を彼女は持っている。
でもシアは俺の事を考えてくれて、しかも俺に考える余裕もくれる。妻として相談に乗ってくれることもある。それがありがたくて、心が温かくなった。
ふと、見られていることに気づいたシアが俺の方を向いて、微笑む。手が伸びてきて、テーブルの下でゆっくりと優しく、俺の手の甲に被せるように重ねる。。
左手を返してその手を握り返す。二人して微笑む雰囲気にゆっくりとだけど胸が高鳴り始める。
「そういえば奥様、あまりお酒は嗜まないので?」
不意に、ジルさんの声が響き渡った。
「おぉ、旦那様、今日も一日お疲れさまでした」
「ノヴァさん、お疲れ様です」
「ジルさん、ありがとう。シアも帰ってきていたんだね」
自室で書類を整理していたから気づかなかったな、と思いながら、定位置であるシアの隣に腰を下ろした。丁度準備が終わったのか、他のメイドやターニャも席に座る。
今日もまた、全員での楽しい夕餉が始まった。
並べられた料理に手をつければ今日も美味しい料理に舌鼓を打つ。食事という瞬間は好きだ。
特にある程度平らげた後の語らいは、この屋敷に来てからの楽しみの一つでもある。
今日もいつものように腹八分目くらいまで食事を堪能し、用意してくれた酒を楽しむ。
美味しい料理は勿論、好きなお酒を用意してくれるターニャ達には感謝しかない。
「それにしても旦那様、フォルス家当主就任おめでとうございます」
「いやターニャ、まだ次期当主になっただけで、当主になったわけじゃないよ」
「時間の問題だとは思いますがなぁ……」
豪快に笑って酒を呷るジルさん。もう酔いが回ってきているのか、少し顔が赤らんでいる。いつもは冷静沈着なジルさんだけど、彼はお酒を飲むと陽気な性格に早変わり。俺はこっちのジルさんもジルさんで好きだけど。
「……まあ、あんなフォルス家の当主の座なんて、って感じですけど!」
「ターニャさん、それについては一部同意ですが、ノヴァさんはフォルス家を中から変えようと考えているんですよ。第二第三のソニアちゃんを出さないためにも」
あれ? 俺、シアにフォルス家を中から変えること言ったっけ? と思って彼女を見てみれば、シアはにっこりと笑っていた。どうやらお見通しだったらしい。敵わないなぁ。
「フォルス家が旦那様の力で再誕する……そう考えるとありかもしれませんね」
「うーん、ちょっと大げさだけど、要はこの屋敷と同じことが出来ればと思うよ」
そう言ってターニャに笑いかけると、彼女は思い出したかのように、「あっ」と呟いた。
「そういえばソニアちゃんですが、最近ようやく体調も戻ってきたみたいで、この屋敷で働きたいって言っています。雇うってことで良いんですよね?」
「うん、それでいいよ。ただまだ病み上がりだから、あんまり大変な仕事はさせないでね」
「奥様のお陰でメイド達の負担も減っていますし、そもそもそんな大変な仕事なんてありませんよ」
ターニャの言う通り、シアは魔法でこの屋敷にかなり貢献してくれている。アークゲート家でやっていたようにメイドや執事達の業務量の軽減になっているみたいだ。
アークゲート家でもやっているから大変じゃないのかなと思って一度シアに言ったけど、全く問題ないって言っていたから大丈夫なんだと思う。
それにしても、ソニアちゃんが回復したみたいで本当に良かった。数日前に倒れる姿を見ているからずっと心配していたし、ちょくちょく彼女の元に顔を出したりしていたからね。
「ですが、その内あのフォルス家の屋敷に移るんですよね? ならソニアちゃんとしては戻る感じになるかもしれませんね」
「とはいえ父上から業務の引継ぎの問題もあるし、もうしばらくはかかりそうだけどね」
次期当主になったからと言ってもすぐ当主になるわけじゃない。じっくりと引継ぎをする必要だってあるし、しばらくは実家の方に顔を出すことにもなるか。
「ああ、そういう感じなんです――」
「旦那様ぁ!」
隣で何かつぶやいたシアの言葉を遮って、ジルさんが大きな声を上げる。陽気なようだけど、目じりが下がっていて、俺を見つめていた。
「た、例えフォルス家の方に行ったとしても、このジル! 旦那様の手伝いをいたします! いえ、させてください!」
「え? ええ?」
突然の事に困惑していると、手を添えたターニャが小さな声で教えてくれる。
「ジルさん、実はここ数日心配しているんです。もし旦那様が実家に行ったら、自分はここに置き去りにされるんじゃないかって」
「いや、ジルさんにはお世話になっているし、俺の事をよく知っている人でもあるから、フォルス家の屋敷に移ってもついてきて欲しいよ」
というか、この領地は父上の領地をごく小範囲で切り取っているだけだから、元通りに合併させてもほとんど問題がない。それに人が少なくなる可能性があるこの屋敷にジルさんを一人置いていくわけもない。
俺の言葉にジルさんは感激したのか、満面の笑みを浮かべた。
「おぉ! このジル、一生ついていきますぞ!」
そう言ってさらにお酒を呷るジルさんを、ターニャはジトっとした目で睨みつけた。
「……これは明日、素面の時に説教ですね」
「……まあ、そうだよね。あんまり飲み過ぎないように注意しておいて」
いつもはジルさんがターニャを説教することが多いんだけど、こと酒に関してはジルさんが注意されることが多い。流石に年が大きく離れたターニャに説教されるのは堪えるようで最近は酒の量が減っていたけど、心配で増えてしまったのかもしれない。
ごめん、ジルさん。でもターニャの説教は受けようね。俺は心の中で合掌した。
「実際、ローエンさん一人では当主に成り立てのノヴァさんを支えるのは難しいでしょうから、ジルさんの力添えはありがたいことです。むしろそれでも足りないくらいでしょうけど」
当主として活動するシアは業務量の大体の予想がついているのか、ちょっと心配になることを言う。けどその言葉の途中で、ふと気づいたことを聞いた。
「ねえシア、もしかしてだけど、あのときローエンさんになんか言った?」
「あのとき?」
「ローエンさんがソニアちゃんを頼むって言ったとき。頭を下げたローエンさんに近づいて、何か言ってたでしょ?」
思いついたように「あぁ」と呟くシア。
「大したことじゃないですよ。ゼロードを切り捨ててノヴァさんを支持してくださいってお願いしただけです。色々考えた結果、ノヴァさんを支持すると決めてくれたみたいですね」
「そういうことだったのか」
あの時はソニアちゃんの事しか考えていなかったけど、シアはその先も考えていてくれたらしい。ありがたいと思ったその時、ターニャが恐る恐る口に出した。
「あの奥様……まさかと思いますが今回のソニアちゃんの一件……」
ターニャの言葉に、シアはにっこりと笑って返した。
「ターニャさん? 心外です。私は確かにノヴァさんのために色々してあげたいと思っていますが、ノヴァさんが嫌だなと思うことは絶対にしないです。
ソニアちゃんをゼロードが害するような絵を描くくらいなら、その絵を破り捨てて別の絵を一から描きます」
「……そうですよね」
「ターニャ嬢、そんなわけないでしょう。奥様は旦那様第一優先。我らが旦那様を支える人は数多けども、奥様に勝る支えなど居ないのですから」
「……ジルさん、良いこと言ってますけど、酔ってるからどうせ全部明日忘れてるんだろうなって思うと、あんまり心に響かないです」
「あらあら、あんまり褒めても何も出ませんよ?」
ニコニコ笑顔でそういうシアを横目で見て、微笑む。
きっとシアなら、手段を選ばなければ何でもできるはずだ。そのくらいの力を彼女は持っている。
でもシアは俺の事を考えてくれて、しかも俺に考える余裕もくれる。妻として相談に乗ってくれることもある。それがありがたくて、心が温かくなった。
ふと、見られていることに気づいたシアが俺の方を向いて、微笑む。手が伸びてきて、テーブルの下でゆっくりと優しく、俺の手の甲に被せるように重ねる。。
左手を返してその手を握り返す。二人して微笑む雰囲気にゆっくりとだけど胸が高鳴り始める。
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不意に、ジルさんの声が響き渡った。
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