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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第116話 フォルスの屋敷に引っ越し
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引継ぎ作業が終わった後は早かった。父上はリーゼロッテの母様を連れて屋敷を出て行く準備もしていて、俺が屋敷に移住する前に離れた場所にある小さな別邸へと移っていった。
ところで俺が普段使っていた小さな屋敷に関しては、今後は使用する機会が極端に減る。
元々持っていた領地は小さいものだし、フォルス家の領地から切り取ったもの。それを戻すだけだからだ。
それに生活の拠点を俺の屋敷から実家の屋敷に移すので、家具などを一式持っていく必要があった。つまりそれまで居た屋敷は閑散としたものになるわけで、「このタイミングで親睦会するしかないです!」というターニャの言葉に後押しされて、本当に小さい規模だけどパーティのようなものをやったりした。
参加したのは俺の屋敷の使用人たちと、アークゲートからはオーロラちゃんやユティさん、それに使用人の方々だ。
リサさんはメイド達の間に交じって楽しそうにしていたし、ラプラスさんには正式に挨拶をしたりした。全員が全員楽しそうで、大成功だった。
準備がちょっと大変だったけど、皆が喜んでくれるなら今後もたまにのタイミングで実施してもいいかもしれない。
そして引っ越しの当日、俺とシアは手を繋いだ状態でゲートを通って、実家へとやってくる。門を通り抜けた先には、ローエンさんが頭を深く下げて待っていてくれていた。
「お待ちしておりました、旦那様」
「こんにちはローエンさん、ジルさんは来てる?」
引っ越すにあたって、ターニャを除くメイドや執事は後から合流することになっている。一方で俺の補佐を務めてくれるジルさんは少し早めに実家に足を運んでくれていた。
ちなみにもう一人の補佐であるラプラスさんはアークゲート家から今日の早い時間にシアがゲートを使って連れて来てくれたので、俺の後ろにターニャと並んで立っている。
「はい、執務室に入って資料を確認しています。執務室までご案内しますので、こちらへどうぞ」
「あ、旦那様、私はここで別行動を……少し話をつける相手がいますので」
ローエンさんに促されてすぐに、ターニャが俺に耳打ちしてくる。
話をつける相手と言うのが誰なのかが分かり、俺は頷いた。頭を小さく下げた俺の専属侍女は、やや足早に厨房の方へと向かっていく。
その背中を見送りながら俺はローエンさんの後に従って屋敷の中に入り、執務室を目指す。父上がいなくなったからか屋敷は変に静かで、見慣れている筈なのに違う屋敷のようにも感じられてしまった。
道すがら誰にも会うことはなく、執務室へ。ローエンさんが扉を開けば、その奥には見慣れた執務机が目に入る。それと同時に、手前の長椅子に腰かけて紙に目を通しているジルさんもだ。
「おぉ、旦那様、ようこそおいでくださいました」
「ジル殿、ここは旦那様の執務室ですが」
「……おぉ、これはローエン殿に一本取られましたな」
「いいよローエンさん。ジルさんも元気そうで何より」
ついこの前の親睦会ではお酒を浴びる程飲んでいたけど、今はケロッとしている。
でもやっぱり裏表のない活発なジルさんと話すのは嬉しい気持ちになるな。
「ジルさん、これからよろしくお願いします」
「これはこれは再度ご丁寧に……ともに力を合わせ、旦那様を支えていきましょうぞ」
「はい、ぜひ」
ラプラスさんとジルさんが微笑みあう。二人はこの前のパーティでも顔を合わせているけど、今回は再度の挨拶。相性が良いのか、雰囲気も悪くない。アークゲートとフォルスということでちょっと心配していたけど、杞憂だったようだ。
「旦那様、ラプラス殿とジル殿は別室を、ターニャ殿に関してはこの部屋の中に執務机を入れるという事でよろしかったですかな?」
「うん、それでお願い」
ターニャは続投して俺に一番近い位置で支えてもらうように頼んだ。だからこの新しい環境でも、彼女はかつてと同じように俺の側にいてくれる。
ちなみに頼んだ時には「仕方ないですね」と言っていたけど、口角が上がっていたことは記しておく。
「家具や荷物などの搬入はもう少ししたら行う予定です。すでに業者にも話をつけてありますし、私のゲートを使えばすぐでしょう」
「本当、力を貸してくれてありがとうね」
俺の屋敷の荷物を片付けるときも、シアの魔法にはかなり世話になった。今回の引っ越しだって、ゲートの魔法がなければかなりの労力がかかっていた筈だ。
お礼を言われたシアは穏やかに微笑んで、首を横に振る。
「いえ、こんなことは些細なことです。いくらでも私の力を当てにしてください。私も嬉しいですから」
「そっか……そうだね」
二人して微笑みあっていると、伺うような形でローエンさんがゆっくりとこちらに近づいてきた。
「その……旦那様、ソニアについてなのですが……」
ローエンさんの言葉に彼の方を向く。今まで彼が旦那様と呼んでいたのは父上だったから、ちょっと不思議な感じは抜けない。
「うん、彼女は元気だよ。もちろんこっちの屋敷に来てもらうつもりだけど、ちょっと経った後になるかな。今は休みを出して、実家に戻って貰ってる。向こうの屋敷では簡単な仕事をやって貰っていたから、こっちの屋敷でもそれは変わらずって感じ」
「彼女は素晴らしいですぞ。ターニャ嬢が、後継者にすると言ってましたからな」
「後継者……ですか?」
「ああ、いえ、言葉の綾みたいなものです。結構気にかけてくれているみたいで、将来的にはメイド長のような立場にまでしたいみたいで」
気にかけているというよりも、少し弱い溺愛に近い。仕事はあまり量がないけど、終わった後にメイドとしての心得や業務内容などの授業をしている姿を良く見かける。
ちなみにソニアちゃんも結構勉強熱心な子らしく、「ターニャ先生!」と元気に呼んでいた。あの調子なら将来は優秀なメイドさんになってくれるはずだ。
「そうですか……それは良かったです。本当に」
彼女の地獄を知っているローエンさんは安堵のため息を吐く。昔は冷たい人のように思っていたけど、今は年相応のお爺ちゃんという感じに目を細めて微笑んでいた。
「さて、ちょっと執務室の中を色々見てみるよ」
一応引き継ぎの際にここには来ていたけど、自分の勝手にできるという意味ではまだ場所があいまいな部分もある。とりあえず執務室を見て、その後は屋敷のいろんな場所を確認しようと、そう決めた。
「それでは、私はちょっと行くところがあるので、少し失礼しますね」
「行くところ?」
シアの言葉に首を傾げる。彼女の予定に関してはターニャから聞いているけど、どこかに出かけるような予定はなかった気がしたけど。
そう思っていると、シアはちょっと悪戯っぽい笑顔を浮かべた。オーロラちゃんの笑顔に似ているなと、ほんの一瞬思った。
「私の一番の仕事はノヴァさんの妻ですし、妻の仕事と言えば家の管理です。一足先に、私は屋敷を確認してきますね」
「ああ、そういうことね。うん、行ってらっしゃい」
「はい」
そう言って、シアは執務室を後にする。扉が閉じるのを見届けた後に、俺は執務室の確認へ取り掛かった。
ところで俺が普段使っていた小さな屋敷に関しては、今後は使用する機会が極端に減る。
元々持っていた領地は小さいものだし、フォルス家の領地から切り取ったもの。それを戻すだけだからだ。
それに生活の拠点を俺の屋敷から実家の屋敷に移すので、家具などを一式持っていく必要があった。つまりそれまで居た屋敷は閑散としたものになるわけで、「このタイミングで親睦会するしかないです!」というターニャの言葉に後押しされて、本当に小さい規模だけどパーティのようなものをやったりした。
参加したのは俺の屋敷の使用人たちと、アークゲートからはオーロラちゃんやユティさん、それに使用人の方々だ。
リサさんはメイド達の間に交じって楽しそうにしていたし、ラプラスさんには正式に挨拶をしたりした。全員が全員楽しそうで、大成功だった。
準備がちょっと大変だったけど、皆が喜んでくれるなら今後もたまにのタイミングで実施してもいいかもしれない。
そして引っ越しの当日、俺とシアは手を繋いだ状態でゲートを通って、実家へとやってくる。門を通り抜けた先には、ローエンさんが頭を深く下げて待っていてくれていた。
「お待ちしておりました、旦那様」
「こんにちはローエンさん、ジルさんは来てる?」
引っ越すにあたって、ターニャを除くメイドや執事は後から合流することになっている。一方で俺の補佐を務めてくれるジルさんは少し早めに実家に足を運んでくれていた。
ちなみにもう一人の補佐であるラプラスさんはアークゲート家から今日の早い時間にシアがゲートを使って連れて来てくれたので、俺の後ろにターニャと並んで立っている。
「はい、執務室に入って資料を確認しています。執務室までご案内しますので、こちらへどうぞ」
「あ、旦那様、私はここで別行動を……少し話をつける相手がいますので」
ローエンさんに促されてすぐに、ターニャが俺に耳打ちしてくる。
話をつける相手と言うのが誰なのかが分かり、俺は頷いた。頭を小さく下げた俺の専属侍女は、やや足早に厨房の方へと向かっていく。
その背中を見送りながら俺はローエンさんの後に従って屋敷の中に入り、執務室を目指す。父上がいなくなったからか屋敷は変に静かで、見慣れている筈なのに違う屋敷のようにも感じられてしまった。
道すがら誰にも会うことはなく、執務室へ。ローエンさんが扉を開けば、その奥には見慣れた執務机が目に入る。それと同時に、手前の長椅子に腰かけて紙に目を通しているジルさんもだ。
「おぉ、旦那様、ようこそおいでくださいました」
「ジル殿、ここは旦那様の執務室ですが」
「……おぉ、これはローエン殿に一本取られましたな」
「いいよローエンさん。ジルさんも元気そうで何より」
ついこの前の親睦会ではお酒を浴びる程飲んでいたけど、今はケロッとしている。
でもやっぱり裏表のない活発なジルさんと話すのは嬉しい気持ちになるな。
「ジルさん、これからよろしくお願いします」
「これはこれは再度ご丁寧に……ともに力を合わせ、旦那様を支えていきましょうぞ」
「はい、ぜひ」
ラプラスさんとジルさんが微笑みあう。二人はこの前のパーティでも顔を合わせているけど、今回は再度の挨拶。相性が良いのか、雰囲気も悪くない。アークゲートとフォルスということでちょっと心配していたけど、杞憂だったようだ。
「旦那様、ラプラス殿とジル殿は別室を、ターニャ殿に関してはこの部屋の中に執務机を入れるという事でよろしかったですかな?」
「うん、それでお願い」
ターニャは続投して俺に一番近い位置で支えてもらうように頼んだ。だからこの新しい環境でも、彼女はかつてと同じように俺の側にいてくれる。
ちなみに頼んだ時には「仕方ないですね」と言っていたけど、口角が上がっていたことは記しておく。
「家具や荷物などの搬入はもう少ししたら行う予定です。すでに業者にも話をつけてありますし、私のゲートを使えばすぐでしょう」
「本当、力を貸してくれてありがとうね」
俺の屋敷の荷物を片付けるときも、シアの魔法にはかなり世話になった。今回の引っ越しだって、ゲートの魔法がなければかなりの労力がかかっていた筈だ。
お礼を言われたシアは穏やかに微笑んで、首を横に振る。
「いえ、こんなことは些細なことです。いくらでも私の力を当てにしてください。私も嬉しいですから」
「そっか……そうだね」
二人して微笑みあっていると、伺うような形でローエンさんがゆっくりとこちらに近づいてきた。
「その……旦那様、ソニアについてなのですが……」
ローエンさんの言葉に彼の方を向く。今まで彼が旦那様と呼んでいたのは父上だったから、ちょっと不思議な感じは抜けない。
「うん、彼女は元気だよ。もちろんこっちの屋敷に来てもらうつもりだけど、ちょっと経った後になるかな。今は休みを出して、実家に戻って貰ってる。向こうの屋敷では簡単な仕事をやって貰っていたから、こっちの屋敷でもそれは変わらずって感じ」
「彼女は素晴らしいですぞ。ターニャ嬢が、後継者にすると言ってましたからな」
「後継者……ですか?」
「ああ、いえ、言葉の綾みたいなものです。結構気にかけてくれているみたいで、将来的にはメイド長のような立場にまでしたいみたいで」
気にかけているというよりも、少し弱い溺愛に近い。仕事はあまり量がないけど、終わった後にメイドとしての心得や業務内容などの授業をしている姿を良く見かける。
ちなみにソニアちゃんも結構勉強熱心な子らしく、「ターニャ先生!」と元気に呼んでいた。あの調子なら将来は優秀なメイドさんになってくれるはずだ。
「そうですか……それは良かったです。本当に」
彼女の地獄を知っているローエンさんは安堵のため息を吐く。昔は冷たい人のように思っていたけど、今は年相応のお爺ちゃんという感じに目を細めて微笑んでいた。
「さて、ちょっと執務室の中を色々見てみるよ」
一応引き継ぎの際にここには来ていたけど、自分の勝手にできるという意味ではまだ場所があいまいな部分もある。とりあえず執務室を見て、その後は屋敷のいろんな場所を確認しようと、そう決めた。
「それでは、私はちょっと行くところがあるので、少し失礼しますね」
「行くところ?」
シアの言葉に首を傾げる。彼女の予定に関してはターニャから聞いているけど、どこかに出かけるような予定はなかった気がしたけど。
そう思っていると、シアはちょっと悪戯っぽい笑顔を浮かべた。オーロラちゃんの笑顔に似ているなと、ほんの一瞬思った。
「私の一番の仕事はノヴァさんの妻ですし、妻の仕事と言えば家の管理です。一足先に、私は屋敷を確認してきますね」
「ああ、そういうことね。うん、行ってらっしゃい」
「はい」
そう言って、シアは執務室を後にする。扉が閉じるのを見届けた後に、俺は執務室の確認へ取り掛かった。
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