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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第153話 VS無敗将軍(剣技のみ)
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交流会の会場から少し離れた位置にある開けた場所。そこで俺とダリアさんは向かい合っていた。俺とダリアさんは動きやすい服に着替えていて、俺の手にはシアから貰った剣が、そしてダリアさんの手には巨大な大剣が握られていた。
俺とダリアさんの間にシアが立って、俺達を順に見る。戦うことは既に会場中に知れ渡っているのか、戦いを観戦する人達は多かった。その最前列はレイさん達王族と皇族なのは言うまでもない。
「では、怪我の無いように防御魔法と結界をかけます。オーラ、念のために手伝ってもらってもいいですか?」
「はい、お姉様」
シアとオーロラちゃんにより、俺とダリアさんの体が青白い光に包まれる。俺はシアやオーロラちゃんの魔力を力に変えてしまう体質だけど、それは攻撃魔法に対してだけで、こういった防御魔法は普通に作用させられるらしい。
現に今、シアとオーロラちゃんの温かさを感じてはいるけど、体の奥底から力が湧き上がってくる感覚はなかった。前にユティさんが聞いたときは、力に変えるかどうかを俺の体が自動で選んでいる、とか言っていたっけ。
「それでは始めます。今回の戦いは純粋な剣技のみとします。私達が掛けた防御魔法が一定以上損害を受けた場合に敗北となります。怪我をすることはないので、全力を出しても問題ありません。お二人とも、準備は良いですか?」
「ああ」
「うん、問題ないよ」
シアの言葉に、俺もダリアさんも得物を構える。
相手はコールレイク帝国最強にして、無敗将軍とまで呼ばれるダリアさんだ。かなり厳しい戦いになるだろうけど、それでもなんとか食らいついてやるつもりだ。
「始め!」
声を耳にした瞬間に俺は地面を蹴る。先手必勝、まずはこっちから仕掛けることで戦いの流れを引き寄せようとしたものの。
「っ!?」
それはダリアさんも同じこと。ただ俺が驚いたのは、その速さだった。
ダリアさんの得物は見るからに重そうな大剣。だから動きはそこまで速くないと、そう無意識に思い込んでいた。でもそれはとんだ間違いで、俺以上の速さで前に出たダリアさんは既に近い位置にいた。
彼女の体がブレて、視線が空気を斬る切っ先を捉えた。体を回転させての一撃だと分かった時には無意識に体が動いて防御の構えを取る。
刹那、俺の剣に叩きこまれた重い重い一撃。シア達が力を貸すことで作られた特製の剣は余裕で耐えられたようだけど、俺自身が耐えられなかった。
腕が痺れ、衝撃が体を突き抜ける。やや後退する中で、追撃をしかけるダリアさんが見えた。目を凝らし、その動きを必死に捉えて大剣の軌道を予測。防ぐのはまだ厳しいと判断して、避けることを選択した。
「っ……速っ……」
思わず言葉が漏れる。シアと再会して彼女の力を受けたことで俺の身体能力は飛躍的に向上した。そんな今の俺でもギリギリ対処できる程の攻撃の数々。もしも以前の俺なら、最初の一撃で敗北していたことだろう。
けど、まだ捉えられる。速いし体が完全には追いついてはいないけど、追いつき始めてはいる。
必要最低限の動きで大剣を振るうダリアさんの動きをしっかりと目で見て、そして避けながら俺は攻めに転じた。降り下ろしを避けた、ここっ!
腰を下ろし、全力で突きを放つ。ギリギリ入るかと思われたその時。
ダリアさんは振り下ろした大剣を力任せに動かして、刃の腹をまるで俺との壁にするように構えた。大剣が小さな盾のようになるものの、止まるつもりはない。この角度、この威力なら攻め勝てる筈、そう思ったものの。
俺の剣の切っ先がダリアさんの大剣の腹に当たる寸前で、彼女は瞬間的に前に出た。すぐ目の前に在るものに体当たりするような動きが攻撃だと気づいたのは、俺とダリアさんの剣が直撃した直後。
「っ!」
衝撃が腕に走り、痺れる。けど衝撃はダリアさんにも伝わったみたいで、彼女も少しだけ後退していた。互いに少し距離を置いた状態。右腕の痺れが取れていくのを感じながら、頭の中で戦況を分析した。
状況は、俺の方がやや不利。
目ではしっかりと捉えられているし、体の動きもダリアさんの動きについていけつつある。けど圧倒的に経験が足りない。俺が今まで戦ったのは剣を持つ相手が主で、大剣を扱う相手とは戦ったことがない。
そんな初の大剣を扱う相手が、おそらくは世界でも上位に入る程の使い手であるダリアさんだ。シアのお陰で強くなった俺でも、今この瞬間に打開策を見つけるのは中々に骨が折れそうだ。
「……驚きました」
「?」
少し離れた位置で構えたダリアさんが不意に口を開く。言っている意味が分からなくて眉を顰めると、ダリアさんは続けてくれた。
「ノヴァ殿、あなたは大剣を扱う相手と戦ったことがない……ですよね? それなのに私とここまで打ち合えるとは。
……わが軍にぜひとも欲しい、その気持ちがますます強くなりました」
「ありがとうございます。ですが自分の居場所はこの国だと、そう思っていますので」
正確にはシアの居る場所ではあるんだけど、そう告げるとダリアさんは少しだけ口角を上げた。
「残念です。ならばこの戦いをもっと、楽しみましょう」
「はい!」
俺とダリアさんは再び地面を蹴って戦いに身を投じる。剣と大剣が、何度も何度も打ち合いを続ける。無数の刃の行き来が行われ、金属のぶつかる音が響き渡る。
見える、反応もできる。けど味わったことのないダリアさんの動きに対応が出来ない。それでも何度か大剣の鋭い攻撃をいなし、避けてダリアさんの体を捉えようとする。
けれど俺の剣がダリアさんを捉えきることはない。あっても掠ったり、上手くいっても軽傷程度。この人、避けることも上手い。
長く打ち合う中にあっても、ダリアさんの底がまるで見えなかった。圧倒的な経験の差を、理解した。
「っ!?」
だから数多くの打ち合いの中で、一つ致命的なミスをした。力を抜いたつもりはなかったけど、弾く力がほんの少し弱かった。それに気づいたのは、弾いた後すぐだった。
――来る
俺が弾いた大剣に一瞬で力が込められて、逆の方向に加速し始めるのを見る。そして同時に、その一撃には対応しきれないと判断する。もう少し力を込めていれば間に合ったはずだ。
これで敗北。けどそう思うよりも前に、無意識で体を動かしていた。
必死にダリアさんの剣技を追っていた俺の頭は最適な答えを出し、右腕に命令を出す。一瞬で伝わった命令は腕を動かして、迫る大剣という恐怖の光景の中でも正確かつ迅速に動いた。
恐れる必要はない。だって俺の体には温かな光がある。シアが、護ってくれている。
一閃、そして一突き。
ダリアさんの大剣が俺の胴体を捉えるのと、俺の渾身の突きが炸裂するのはほぼ同時――いや、ダリアさんの方が早かった。ほんの一瞬だけど、早かった。
俺達は必殺の一撃をそれぞれ放った状態で静止する。もうこれでこの戦いは終わりだって、お互いにそう感じていたから。
「そこまでです!」
大きなシアの声が響く。そして続いて、戦いの勝者が告げられた。
「勝者、ダリア・マクナカン!」
その言葉に、俺は少し落ち着いて、そりゃそうだと納得した。最後の瞬間、ダリアさんの方が早かったのは他ならない俺が一番よく分かっている。そしてその一撃に至るまでの過程でも、彼女の方が上回っていた。
そもそもこの戦いの決まりはシアとオーロラちゃんの防御魔法がどれだけ損害を受けたかで勝敗が決まる。それなのに――
「最後の瞬間」
俺の思考を停止させるように、ダリアさんの声が響いた。剣を下ろして、俺はじっと彼女の言葉の続きを待つ。
「あれは捨て身の特攻ではなかった。あなたはあの瞬間に、防御魔法を考慮に入れて立ち回った。この勝負は私の勝ちですが、戦場での戦いならば相打ちでしょうね。
少なくとも最後の突きはあなたが直前に致命傷を負っていたとしても少しも威力が落ちるようには見えなかった」
「……お恥ずかしい限りです。戦いの中で必死になってしまい、少し我を忘れてしまいました」
苦笑いするものの、ダリアさんは首を横に振った。
「いえ、最後の一撃を除いたとしても、ここまで私と打ち合えるのは少なくとも帝国にはいません。それにあなたの剣からは、本当に長い間真摯に向き合ってきたという事を十分に感じ取りました。
私はあなたとこうして戦えたことを、誇りに思います」
「ダリア将軍……ありがとうございます。ダリア将軍にそこまで言って頂けるなんて、とてもありがたいです。自分もこの戦いを、誇りに思います」
「将軍など堅苦しい言い方はよしてください。奥様と同じようにさん付けで呼んでいただければ」
「なら自分もノヴァさん、で構いません」
「……はい」
お互いに微笑んで、どちらともなく片手を差し出した。しっかりと握られる俺達の手のひら。握手をもって、この戦いは終わりを告げた。周りの人の拍手が俺達の戦いを素晴らしいものだったと言ってくれていた。
「まて……いやいや待ってくれ」
けれどそこで声を挙げたのはオズワルド陛下だった。彼は大きな声をあげて周りからの注目を集める。
「皆の者、この戦いは素晴らしかった。とても素晴らしかった。そう思うだろう?
コールレイク帝国の無敗将軍は勿論の事、素晴らしい戦いを見せてくれた。本当に素晴らしい」
そう言って見えるように拍手をするオズワルド陛下。
けどその後に、しかし、と続けた。
「だがこの二人はまだ本気ではない! やはりここまでやってくれたのだ!
どうせなら至高の戦いを見たいと思わないかね!?」
陛下が何を言いたいのかは分かった。けど俺は、今の彼があまり好きではなかった。
どこか、嫌な予感がする。チラリとシアの方を見てみれば、彼女は無言でじっと陛下を見つめていた。
「ダリア将軍の闘牙とノヴァのレティシアによる――」
「父上!」
オズワルド陛下の言葉を止めたのはレイさんだった。彼は少し焦りつつも怒った様子で叫んだあと、落ち着くために息を吐いた。
「父上……この場は私とマリアベル皇女の結婚式典です。ダリア将軍とノヴァ殿による戦技披露の場ではありません。式典の余興としては先ほどの戦いで十分すぎる……そう思いますが?」
まったくもっての正論。それを浴びせられて、オズワルド陛下は目に見えてしどろもどろになる。
「い、いや、しかし――」
「ダリアさん、ノヴァさん、防御魔法を解除しますね」
それは俺とダリアさんに向けて放たれた言葉だったけど、俺には、いやその場にいる誰もがオズワルド陛下に聞かせるための声だと感じた。
シアの声を聞いたオズワルド陛下はそちらへ視線を向けて、そして微妙そうな顔をして口を噤んだ。
さっきの陛下の言葉に言いようもない不安を何故かほんの少し覚えながら、俺はシアの防御魔法による温かさが消えていくのを感じていた。
俺とダリアさんの間にシアが立って、俺達を順に見る。戦うことは既に会場中に知れ渡っているのか、戦いを観戦する人達は多かった。その最前列はレイさん達王族と皇族なのは言うまでもない。
「では、怪我の無いように防御魔法と結界をかけます。オーラ、念のために手伝ってもらってもいいですか?」
「はい、お姉様」
シアとオーロラちゃんにより、俺とダリアさんの体が青白い光に包まれる。俺はシアやオーロラちゃんの魔力を力に変えてしまう体質だけど、それは攻撃魔法に対してだけで、こういった防御魔法は普通に作用させられるらしい。
現に今、シアとオーロラちゃんの温かさを感じてはいるけど、体の奥底から力が湧き上がってくる感覚はなかった。前にユティさんが聞いたときは、力に変えるかどうかを俺の体が自動で選んでいる、とか言っていたっけ。
「それでは始めます。今回の戦いは純粋な剣技のみとします。私達が掛けた防御魔法が一定以上損害を受けた場合に敗北となります。怪我をすることはないので、全力を出しても問題ありません。お二人とも、準備は良いですか?」
「ああ」
「うん、問題ないよ」
シアの言葉に、俺もダリアさんも得物を構える。
相手はコールレイク帝国最強にして、無敗将軍とまで呼ばれるダリアさんだ。かなり厳しい戦いになるだろうけど、それでもなんとか食らいついてやるつもりだ。
「始め!」
声を耳にした瞬間に俺は地面を蹴る。先手必勝、まずはこっちから仕掛けることで戦いの流れを引き寄せようとしたものの。
「っ!?」
それはダリアさんも同じこと。ただ俺が驚いたのは、その速さだった。
ダリアさんの得物は見るからに重そうな大剣。だから動きはそこまで速くないと、そう無意識に思い込んでいた。でもそれはとんだ間違いで、俺以上の速さで前に出たダリアさんは既に近い位置にいた。
彼女の体がブレて、視線が空気を斬る切っ先を捉えた。体を回転させての一撃だと分かった時には無意識に体が動いて防御の構えを取る。
刹那、俺の剣に叩きこまれた重い重い一撃。シア達が力を貸すことで作られた特製の剣は余裕で耐えられたようだけど、俺自身が耐えられなかった。
腕が痺れ、衝撃が体を突き抜ける。やや後退する中で、追撃をしかけるダリアさんが見えた。目を凝らし、その動きを必死に捉えて大剣の軌道を予測。防ぐのはまだ厳しいと判断して、避けることを選択した。
「っ……速っ……」
思わず言葉が漏れる。シアと再会して彼女の力を受けたことで俺の身体能力は飛躍的に向上した。そんな今の俺でもギリギリ対処できる程の攻撃の数々。もしも以前の俺なら、最初の一撃で敗北していたことだろう。
けど、まだ捉えられる。速いし体が完全には追いついてはいないけど、追いつき始めてはいる。
必要最低限の動きで大剣を振るうダリアさんの動きをしっかりと目で見て、そして避けながら俺は攻めに転じた。降り下ろしを避けた、ここっ!
腰を下ろし、全力で突きを放つ。ギリギリ入るかと思われたその時。
ダリアさんは振り下ろした大剣を力任せに動かして、刃の腹をまるで俺との壁にするように構えた。大剣が小さな盾のようになるものの、止まるつもりはない。この角度、この威力なら攻め勝てる筈、そう思ったものの。
俺の剣の切っ先がダリアさんの大剣の腹に当たる寸前で、彼女は瞬間的に前に出た。すぐ目の前に在るものに体当たりするような動きが攻撃だと気づいたのは、俺とダリアさんの剣が直撃した直後。
「っ!」
衝撃が腕に走り、痺れる。けど衝撃はダリアさんにも伝わったみたいで、彼女も少しだけ後退していた。互いに少し距離を置いた状態。右腕の痺れが取れていくのを感じながら、頭の中で戦況を分析した。
状況は、俺の方がやや不利。
目ではしっかりと捉えられているし、体の動きもダリアさんの動きについていけつつある。けど圧倒的に経験が足りない。俺が今まで戦ったのは剣を持つ相手が主で、大剣を扱う相手とは戦ったことがない。
そんな初の大剣を扱う相手が、おそらくは世界でも上位に入る程の使い手であるダリアさんだ。シアのお陰で強くなった俺でも、今この瞬間に打開策を見つけるのは中々に骨が折れそうだ。
「……驚きました」
「?」
少し離れた位置で構えたダリアさんが不意に口を開く。言っている意味が分からなくて眉を顰めると、ダリアさんは続けてくれた。
「ノヴァ殿、あなたは大剣を扱う相手と戦ったことがない……ですよね? それなのに私とここまで打ち合えるとは。
……わが軍にぜひとも欲しい、その気持ちがますます強くなりました」
「ありがとうございます。ですが自分の居場所はこの国だと、そう思っていますので」
正確にはシアの居る場所ではあるんだけど、そう告げるとダリアさんは少しだけ口角を上げた。
「残念です。ならばこの戦いをもっと、楽しみましょう」
「はい!」
俺とダリアさんは再び地面を蹴って戦いに身を投じる。剣と大剣が、何度も何度も打ち合いを続ける。無数の刃の行き来が行われ、金属のぶつかる音が響き渡る。
見える、反応もできる。けど味わったことのないダリアさんの動きに対応が出来ない。それでも何度か大剣の鋭い攻撃をいなし、避けてダリアさんの体を捉えようとする。
けれど俺の剣がダリアさんを捉えきることはない。あっても掠ったり、上手くいっても軽傷程度。この人、避けることも上手い。
長く打ち合う中にあっても、ダリアさんの底がまるで見えなかった。圧倒的な経験の差を、理解した。
「っ!?」
だから数多くの打ち合いの中で、一つ致命的なミスをした。力を抜いたつもりはなかったけど、弾く力がほんの少し弱かった。それに気づいたのは、弾いた後すぐだった。
――来る
俺が弾いた大剣に一瞬で力が込められて、逆の方向に加速し始めるのを見る。そして同時に、その一撃には対応しきれないと判断する。もう少し力を込めていれば間に合ったはずだ。
これで敗北。けどそう思うよりも前に、無意識で体を動かしていた。
必死にダリアさんの剣技を追っていた俺の頭は最適な答えを出し、右腕に命令を出す。一瞬で伝わった命令は腕を動かして、迫る大剣という恐怖の光景の中でも正確かつ迅速に動いた。
恐れる必要はない。だって俺の体には温かな光がある。シアが、護ってくれている。
一閃、そして一突き。
ダリアさんの大剣が俺の胴体を捉えるのと、俺の渾身の突きが炸裂するのはほぼ同時――いや、ダリアさんの方が早かった。ほんの一瞬だけど、早かった。
俺達は必殺の一撃をそれぞれ放った状態で静止する。もうこれでこの戦いは終わりだって、お互いにそう感じていたから。
「そこまでです!」
大きなシアの声が響く。そして続いて、戦いの勝者が告げられた。
「勝者、ダリア・マクナカン!」
その言葉に、俺は少し落ち着いて、そりゃそうだと納得した。最後の瞬間、ダリアさんの方が早かったのは他ならない俺が一番よく分かっている。そしてその一撃に至るまでの過程でも、彼女の方が上回っていた。
そもそもこの戦いの決まりはシアとオーロラちゃんの防御魔法がどれだけ損害を受けたかで勝敗が決まる。それなのに――
「最後の瞬間」
俺の思考を停止させるように、ダリアさんの声が響いた。剣を下ろして、俺はじっと彼女の言葉の続きを待つ。
「あれは捨て身の特攻ではなかった。あなたはあの瞬間に、防御魔法を考慮に入れて立ち回った。この勝負は私の勝ちですが、戦場での戦いならば相打ちでしょうね。
少なくとも最後の突きはあなたが直前に致命傷を負っていたとしても少しも威力が落ちるようには見えなかった」
「……お恥ずかしい限りです。戦いの中で必死になってしまい、少し我を忘れてしまいました」
苦笑いするものの、ダリアさんは首を横に振った。
「いえ、最後の一撃を除いたとしても、ここまで私と打ち合えるのは少なくとも帝国にはいません。それにあなたの剣からは、本当に長い間真摯に向き合ってきたという事を十分に感じ取りました。
私はあなたとこうして戦えたことを、誇りに思います」
「ダリア将軍……ありがとうございます。ダリア将軍にそこまで言って頂けるなんて、とてもありがたいです。自分もこの戦いを、誇りに思います」
「将軍など堅苦しい言い方はよしてください。奥様と同じようにさん付けで呼んでいただければ」
「なら自分もノヴァさん、で構いません」
「……はい」
お互いに微笑んで、どちらともなく片手を差し出した。しっかりと握られる俺達の手のひら。握手をもって、この戦いは終わりを告げた。周りの人の拍手が俺達の戦いを素晴らしいものだったと言ってくれていた。
「まて……いやいや待ってくれ」
けれどそこで声を挙げたのはオズワルド陛下だった。彼は大きな声をあげて周りからの注目を集める。
「皆の者、この戦いは素晴らしかった。とても素晴らしかった。そう思うだろう?
コールレイク帝国の無敗将軍は勿論の事、素晴らしい戦いを見せてくれた。本当に素晴らしい」
そう言って見えるように拍手をするオズワルド陛下。
けどその後に、しかし、と続けた。
「だがこの二人はまだ本気ではない! やはりここまでやってくれたのだ!
どうせなら至高の戦いを見たいと思わないかね!?」
陛下が何を言いたいのかは分かった。けど俺は、今の彼があまり好きではなかった。
どこか、嫌な予感がする。チラリとシアの方を見てみれば、彼女は無言でじっと陛下を見つめていた。
「ダリア将軍の闘牙とノヴァのレティシアによる――」
「父上!」
オズワルド陛下の言葉を止めたのはレイさんだった。彼は少し焦りつつも怒った様子で叫んだあと、落ち着くために息を吐いた。
「父上……この場は私とマリアベル皇女の結婚式典です。ダリア将軍とノヴァ殿による戦技披露の場ではありません。式典の余興としては先ほどの戦いで十分すぎる……そう思いますが?」
まったくもっての正論。それを浴びせられて、オズワルド陛下は目に見えてしどろもどろになる。
「い、いや、しかし――」
「ダリアさん、ノヴァさん、防御魔法を解除しますね」
それは俺とダリアさんに向けて放たれた言葉だったけど、俺には、いやその場にいる誰もがオズワルド陛下に聞かせるための声だと感じた。
シアの声を聞いたオズワルド陛下はそちらへ視線を向けて、そして微妙そうな顔をして口を噤んだ。
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