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2 お孫様の侍女になりました(前)
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ストーリーの詳細は覚えていない。よくある王宮ラブストーリーで、メインの攻略対象は王太子。他にも侯爵子息とか魔術師の卵とか騎士とか、隠しキャラで他国の王子とか、五人くらいいた。だが、私がその乙女ゲーム『プロムダールの庭で逢いましょう』を愛好していた最大の理由はヒロインにあった。
乙女ゲームのヒロインには、大まかに、美人で能力もあるパターンと地味平凡パターンがあると思う。このゲームは完全に前者。心根が清く優しく、さらに飛び切り美しい十代の美少女が、きらきらしい攻略対象者たちと恋をする。身分は少し低くて子爵家の側室の子なので、いろいろと乗り越えるべきイベントがあった。
私は攻略対象者よりなにより、健気で賢いヒロインに萌えていた。
「シルヴィアたん可愛いー! 嫁にしたいー!」と叫んでいた。
ただでさえ三次元の恋人もおらず、研究一筋だった上に、さらに二次元でも攻略対象者より女の子に萌えるとか、残念な女子であった。
別に同性愛者だったわけではない。シルヴィアがあまりにもツボだっただけ。まあ、恋愛対象としてのリアルな男性が多少苦手ではあって、だから乙女ゲームに逃避していたわけだけれど。
前世の死因は覚えていないが、『プロムダールの庭で逢いましょう』のハーレムエンドを見られなかったことと、書きかけの博士論文の記憶が無念として残っているから、たぶん二十代半ばで死んだのだと思う。
そして今、その世界に転生し、ヒロインのシルヴィアそっくりの孫娘と相まみえている!
なんという僥倖。
シルヴィアは結局王太子ルートだったのか、とか、祖父母世代の情報を鑑みて、こちらで死んで私の前世の世界に転生した人がゲームを作ったと考えるのが妥当か? とか、だとすると王太子周辺の情報に詳しすぎるから、かなり人物が絞れるかも、とか、諸々考えたのは、実際は数十秒ほどのことだったらしい。
「ルチア!」
「ルチアさん!」
母と王妃様の声に意識が引き戻され、辺りを見回すと、私の肩に手を置いた母をはじめとして、大人たちが心配そうにこちらを見ていた。そして最後に、泣きそうになっているシシリー様と目が合う。気合を入れて姿勢を正した。
「だい……じょうぶ、です。めまいでしょうか、少し気が遠くなっていました」
「それは大変だわ。部屋を用意させるから、休んでちょうだい」
「いえ、本当に大丈夫です」
「ルチア、無理をしてはいけないわ」
「でも、せめて王女様にご挨拶だけでも……」
それだけは譲れない、とばかりに母を見上げたら、少し驚いた顔をして、しょうがないわねと背中を押してくれた。
向き合うと、シシリアーナ様も顔を引き締めて背筋を伸ばしてくれた。
「王女殿下、はじめてお会いした矢先に失礼いたしました。ルチア・マリアンナ・デ・ラウレンティスと申します。殿下のお話相手のお役目をいただきました。これからどうぞよろしくお願いいたします」
「第一王女シシリアーナ・ディ・モンテオベルトです。よろしくお願いします。ルチアお姉さま」
ぎこちないながらもドレスを摘んでちょこんと礼をするシシリアーナ様……、可愛すぎる。よくできたでしょ、と言わんばかりの顔で王妃様を見上げ、撫でられているのも一服の絵、というか一枚のスチルのよう。
あー、鼻血出そう。
そんな、伯爵令嬢としてははしたないことを考え、どうしても顔が緩んでしまう。
「ルチアお姉さま、大丈夫ですか? お顔が赤いわ」
心配してくれるシシリアーナ様も可愛い。……いけない、頭がぼーっとしてきた。
「あらあら、お熱かしら。ご挨拶だけとなってしまい申し訳ありませんが、退出してもよろしいでしょうか」
「もちろん構いませんわよ。シシリーもルチアさんのことを気に入ったみたいだし、元気になったらまた来てちょうだい」
「ありがとう存じます」
ぎゅっと手を握ってくれるシシリアーナ様の頭を、もう片方の手で撫でながら、(あー、髪の毛柔らかいー、三次元すごいー)と思う。熱で顔を赤くして、にやけながらシシリー様を見つめる私はだいぶ気持ち悪かったのではないだろうか。
そこからは記憶があやふやだが、母に連れられてすぐに家に帰ったらしい。翌日熱が下がって目覚めたあとで、「ルチアがあんなに嬉しそうにしていたのは久しぶりよ! シシリアーナ様のおかげね!」と母が大いに喜んでいたと知った。傍からは微笑ましく映ったらしく、重畳である。
乙女ゲームのヒロインには、大まかに、美人で能力もあるパターンと地味平凡パターンがあると思う。このゲームは完全に前者。心根が清く優しく、さらに飛び切り美しい十代の美少女が、きらきらしい攻略対象者たちと恋をする。身分は少し低くて子爵家の側室の子なので、いろいろと乗り越えるべきイベントがあった。
私は攻略対象者よりなにより、健気で賢いヒロインに萌えていた。
「シルヴィアたん可愛いー! 嫁にしたいー!」と叫んでいた。
ただでさえ三次元の恋人もおらず、研究一筋だった上に、さらに二次元でも攻略対象者より女の子に萌えるとか、残念な女子であった。
別に同性愛者だったわけではない。シルヴィアがあまりにもツボだっただけ。まあ、恋愛対象としてのリアルな男性が多少苦手ではあって、だから乙女ゲームに逃避していたわけだけれど。
前世の死因は覚えていないが、『プロムダールの庭で逢いましょう』のハーレムエンドを見られなかったことと、書きかけの博士論文の記憶が無念として残っているから、たぶん二十代半ばで死んだのだと思う。
そして今、その世界に転生し、ヒロインのシルヴィアそっくりの孫娘と相まみえている!
なんという僥倖。
シルヴィアは結局王太子ルートだったのか、とか、祖父母世代の情報を鑑みて、こちらで死んで私の前世の世界に転生した人がゲームを作ったと考えるのが妥当か? とか、だとすると王太子周辺の情報に詳しすぎるから、かなり人物が絞れるかも、とか、諸々考えたのは、実際は数十秒ほどのことだったらしい。
「ルチア!」
「ルチアさん!」
母と王妃様の声に意識が引き戻され、辺りを見回すと、私の肩に手を置いた母をはじめとして、大人たちが心配そうにこちらを見ていた。そして最後に、泣きそうになっているシシリー様と目が合う。気合を入れて姿勢を正した。
「だい……じょうぶ、です。めまいでしょうか、少し気が遠くなっていました」
「それは大変だわ。部屋を用意させるから、休んでちょうだい」
「いえ、本当に大丈夫です」
「ルチア、無理をしてはいけないわ」
「でも、せめて王女様にご挨拶だけでも……」
それだけは譲れない、とばかりに母を見上げたら、少し驚いた顔をして、しょうがないわねと背中を押してくれた。
向き合うと、シシリアーナ様も顔を引き締めて背筋を伸ばしてくれた。
「王女殿下、はじめてお会いした矢先に失礼いたしました。ルチア・マリアンナ・デ・ラウレンティスと申します。殿下のお話相手のお役目をいただきました。これからどうぞよろしくお願いいたします」
「第一王女シシリアーナ・ディ・モンテオベルトです。よろしくお願いします。ルチアお姉さま」
ぎこちないながらもドレスを摘んでちょこんと礼をするシシリアーナ様……、可愛すぎる。よくできたでしょ、と言わんばかりの顔で王妃様を見上げ、撫でられているのも一服の絵、というか一枚のスチルのよう。
あー、鼻血出そう。
そんな、伯爵令嬢としてははしたないことを考え、どうしても顔が緩んでしまう。
「ルチアお姉さま、大丈夫ですか? お顔が赤いわ」
心配してくれるシシリアーナ様も可愛い。……いけない、頭がぼーっとしてきた。
「あらあら、お熱かしら。ご挨拶だけとなってしまい申し訳ありませんが、退出してもよろしいでしょうか」
「もちろん構いませんわよ。シシリーもルチアさんのことを気に入ったみたいだし、元気になったらまた来てちょうだい」
「ありがとう存じます」
ぎゅっと手を握ってくれるシシリアーナ様の頭を、もう片方の手で撫でながら、(あー、髪の毛柔らかいー、三次元すごいー)と思う。熱で顔を赤くして、にやけながらシシリー様を見つめる私はだいぶ気持ち悪かったのではないだろうか。
そこからは記憶があやふやだが、母に連れられてすぐに家に帰ったらしい。翌日熱が下がって目覚めたあとで、「ルチアがあんなに嬉しそうにしていたのは久しぶりよ! シシリアーナ様のおかげね!」と母が大いに喜んでいたと知った。傍からは微笑ましく映ったらしく、重畳である。
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