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7 王子との出逢いと成長(後)
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今、私の目の前にいるアレクシオ様は、その頃の甘い面影が残りつつ、受ける印象は完全に大人の男性になっている。
十五歳で隣国アードホルンに留学し、その後アードホルンとの関係が悪化したため、国賓という扱いではあるものの、ある種人質のような形で帰ってこられなくなっていたのだ。この三年間、どれだけ厳しい日々を過ごしてきたことだろう。
それを思えば、アレクシオ様が一気に大人びていてもおかしくない。
しかし、突然目の前に現れられて衝撃を受けないわけもない。
「やっと戻ってこれたよ。一年間待っていてって言ったのに、三年も待たせちゃったね」
アレクシオ様の手は以前よりも硬くごつごつしている。
最後にこの手に触れたのはいつだった? 小さい頃は手をつないで歩くこともあった。その後もダンスの練習に付き合わされたりした。最後は……、アレクシオ様が旅立つ日。ぎゅっと握られた三年前のあの日。
やっと帰ってきてくれた。そう思った。
懐かしいアレクシオ様。可愛くて、子犬みたいに人懐こくて、弟みたいなアレクシオ様。
でも、もう、違う。
それでも胸は驚くほどの喜びに満たされている。その気持ちに気づくと落ち着かくなってしまい、視線をさまよわせた。
「ルチア?」
「あ、あの、お声がとても変わっていらして、びっくりしてしまって……」
「ああ。僕はもう慣れてしまったから忘れてたよ。声変わりしたのは留学してすぐだったから」
「それに、とても大きくなられて」
親戚のおばちゃんか、と思いながらもそんなことを口走る。
「そうだね。ルチアもすごく綺麗になった。あ、もちろん子どもの頃から綺麗だったけど」
「いえ、そんな」
お世辞は昔からうまかったのを思い出した。事あるごとに、私みたいなモブまで褒めてくださるのだ。
「……それに、大きくなったよね」
「え? 私は特に伸びてませんよ?」
「いや、えっと……」
アレクシオ様の視線を胸元に感じて、一瞬にして顔に血が上る。
「なっ、なにをおっしゃって……!」
アレクシオ様から手を取り戻して身体の向きを変えたかったのに、がっちりと握られていてびくともしない。両手を取られているから、身体を離そうとすると腕が胸を強調してしまうし、腕を曲げようとするとアレクシオ様の顔が胸に近づいてしまう。
「いやぁ、もう成長期終わってるかと思ってたのに、ふふ」
「こっ、これは、少し太ったからで」
私は一体なにを言っているんだろう。
「うんうん。前は縦にばっかり伸びるって言ってたもんね。前よりも健康的になってよかった」
口ではなんでもないことのようにそう言いながらも、アレクシオ様の視線はあからさまに色を含むものだった。
(あああ、可愛い弟みたいなアレクシオ様はどこに……)
男子、三日会わざれば刮目して見よ、と言うけれど、成長期の三年は大きすぎる。
目を白黒させていると、いつの間にかシシリー様が側に来ていた。
「ふふ、サプライズは成功ね」
「ああ、シシリー、ありがとう」
「いいえ。お兄様のお願いだもの」
ようやく手を離してもらい、アレクシオ様と少しだけ距離を取る。不満そうに目を眇められ、それを誤魔化すように質問をした。
「あの、サプライズというのは……?」
「お兄様は三日前に帰国されたのだけど、そのことを秘密にしておいてくれ、っておっしゃったの。わたくしのせいですぐに気づかれてしまうのじゃないかって、ハラハラしていたのよ」
「シシリーも嘘がつけるようになったんだね」
「わたくしももう、立派な淑女ですから」
そう言って二人で肩を寄せ合ってクスクスと笑う。
(やっぱり眼福だわ……)
大きくなった二人が並ぶと一服の完成された絵画のようだし、それはもうキラキラと輝きが放たれて、ひれ伏してしまいそうな圧を感じる。
しかしそういえば、アレクシオ様が現れたことについて、この場にいる重鎮たちも驚いた様子がない。
私はここ数日、これからしばらく侍女業にかかりきりになるため、魔術塔での仕事に区切りをつけるのに忙しかった。シシリー様の準備もあったけれど、たまにしか王宮には顔を出していない。
それでも、私が王太子の帰国というビッグニュースをまったく耳にしないためには、かなりの情報統制が必要なのではないだろうか。
(どうしてわざわざそんなことしてまで何も教えてくれなかったの? どうして私だけ後回しに……)
「びっくりしたでしょう?」
昔と変わらぬいたずらっぽい表情でそう言われてしまうと、責めることもできない。
表面上は取り繕って、無難な回答をした。
「……心構えができていなかったので、どうしようかと思いました」
少しだけアレクシオ様を睨むふりをすると、嬉しそうに微笑み返された。
「ごめんごめん。でも、ルチアの反応が見たくって。あ、そろそろ行かなきゃ。シシリー、婚約者選定頑張って」
「ありがとうございます、お兄様!」
アレクシオ様も立ち会うのかと思いきや、そのまま去ってしまう。
(もしかして、私に会うために……? いいえ、シシリー様の激励のためだわ、きっと。ちょうどそこに私がいるって知っていたから、サプライズにしたのね)
再びシシリー様の裾を直しながら、私はそんなことを考えた。
十五歳で隣国アードホルンに留学し、その後アードホルンとの関係が悪化したため、国賓という扱いではあるものの、ある種人質のような形で帰ってこられなくなっていたのだ。この三年間、どれだけ厳しい日々を過ごしてきたことだろう。
それを思えば、アレクシオ様が一気に大人びていてもおかしくない。
しかし、突然目の前に現れられて衝撃を受けないわけもない。
「やっと戻ってこれたよ。一年間待っていてって言ったのに、三年も待たせちゃったね」
アレクシオ様の手は以前よりも硬くごつごつしている。
最後にこの手に触れたのはいつだった? 小さい頃は手をつないで歩くこともあった。その後もダンスの練習に付き合わされたりした。最後は……、アレクシオ様が旅立つ日。ぎゅっと握られた三年前のあの日。
やっと帰ってきてくれた。そう思った。
懐かしいアレクシオ様。可愛くて、子犬みたいに人懐こくて、弟みたいなアレクシオ様。
でも、もう、違う。
それでも胸は驚くほどの喜びに満たされている。その気持ちに気づくと落ち着かくなってしまい、視線をさまよわせた。
「ルチア?」
「あ、あの、お声がとても変わっていらして、びっくりしてしまって……」
「ああ。僕はもう慣れてしまったから忘れてたよ。声変わりしたのは留学してすぐだったから」
「それに、とても大きくなられて」
親戚のおばちゃんか、と思いながらもそんなことを口走る。
「そうだね。ルチアもすごく綺麗になった。あ、もちろん子どもの頃から綺麗だったけど」
「いえ、そんな」
お世辞は昔からうまかったのを思い出した。事あるごとに、私みたいなモブまで褒めてくださるのだ。
「……それに、大きくなったよね」
「え? 私は特に伸びてませんよ?」
「いや、えっと……」
アレクシオ様の視線を胸元に感じて、一瞬にして顔に血が上る。
「なっ、なにをおっしゃって……!」
アレクシオ様から手を取り戻して身体の向きを変えたかったのに、がっちりと握られていてびくともしない。両手を取られているから、身体を離そうとすると腕が胸を強調してしまうし、腕を曲げようとするとアレクシオ様の顔が胸に近づいてしまう。
「いやぁ、もう成長期終わってるかと思ってたのに、ふふ」
「こっ、これは、少し太ったからで」
私は一体なにを言っているんだろう。
「うんうん。前は縦にばっかり伸びるって言ってたもんね。前よりも健康的になってよかった」
口ではなんでもないことのようにそう言いながらも、アレクシオ様の視線はあからさまに色を含むものだった。
(あああ、可愛い弟みたいなアレクシオ様はどこに……)
男子、三日会わざれば刮目して見よ、と言うけれど、成長期の三年は大きすぎる。
目を白黒させていると、いつの間にかシシリー様が側に来ていた。
「ふふ、サプライズは成功ね」
「ああ、シシリー、ありがとう」
「いいえ。お兄様のお願いだもの」
ようやく手を離してもらい、アレクシオ様と少しだけ距離を取る。不満そうに目を眇められ、それを誤魔化すように質問をした。
「あの、サプライズというのは……?」
「お兄様は三日前に帰国されたのだけど、そのことを秘密にしておいてくれ、っておっしゃったの。わたくしのせいですぐに気づかれてしまうのじゃないかって、ハラハラしていたのよ」
「シシリーも嘘がつけるようになったんだね」
「わたくしももう、立派な淑女ですから」
そう言って二人で肩を寄せ合ってクスクスと笑う。
(やっぱり眼福だわ……)
大きくなった二人が並ぶと一服の完成された絵画のようだし、それはもうキラキラと輝きが放たれて、ひれ伏してしまいそうな圧を感じる。
しかしそういえば、アレクシオ様が現れたことについて、この場にいる重鎮たちも驚いた様子がない。
私はここ数日、これからしばらく侍女業にかかりきりになるため、魔術塔での仕事に区切りをつけるのに忙しかった。シシリー様の準備もあったけれど、たまにしか王宮には顔を出していない。
それでも、私が王太子の帰国というビッグニュースをまったく耳にしないためには、かなりの情報統制が必要なのではないだろうか。
(どうしてわざわざそんなことしてまで何も教えてくれなかったの? どうして私だけ後回しに……)
「びっくりしたでしょう?」
昔と変わらぬいたずらっぽい表情でそう言われてしまうと、責めることもできない。
表面上は取り繕って、無難な回答をした。
「……心構えができていなかったので、どうしようかと思いました」
少しだけアレクシオ様を睨むふりをすると、嬉しそうに微笑み返された。
「ごめんごめん。でも、ルチアの反応が見たくって。あ、そろそろ行かなきゃ。シシリー、婚約者選定頑張って」
「ありがとうございます、お兄様!」
アレクシオ様も立ち会うのかと思いきや、そのまま去ってしまう。
(もしかして、私に会うために……? いいえ、シシリー様の激励のためだわ、きっと。ちょうどそこに私がいるって知っていたから、サプライズにしたのね)
再びシシリー様の裾を直しながら、私はそんなことを考えた。
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