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テストは悪だ
しおりを挟む一限目は現代文の授業だったようだ。
過去形で、しかも曖昧な言い回しになっているのは、俺が授業中ずっと眠っていたから。
俺が目覚めたのは授業終わりの号令時だ。
担当の教師が出てすぐにやってきた竜胆の言葉で、さっきの授業は現代文だったようだと初めて知った。
「相変わらず、寝起きだけは弱いんだな」
と、竜胆が呆れたように茶化してくる。
昼間はどうしても眠くなるんだ。つまらない授業なのも相まって、その誘惑はより大きくなってしまう。
つまり、悪いのは俺じゃない。この環境だ。
「ったく、もうすぐテストもあるんだ。そろそろ勉強しなきゃ恥かくぞ?」
「……手遅れだから諦めた」
「早いっての」
どうせ今から勉強しても、過去の分を取り戻すことは出来ない。
なら、無駄な足掻きをするより、満足出来る今を探したほうが何倍も人生を楽しめると思うのは、きっと俺だけではないはずだ。
「……にしても、テストか。まだ、五月だぞ」
「中間試験だったか? まぁ、これも学生の本分だ。諦めるんだな」
「チッ」
「おい舌打ちすんな」
テスト。
その言葉を聞くだけで、やる気が削がれる。
「滅べよぉ、テストぉぉぉぉ……」
「半分以上の生徒が思っていそうな言葉だな。わからんでもないが」
「よしわかった。竜胆が俺の代わりにテストやってくれ」
「いくらお前の頼みでもそれは無理だな。第一、俺の分はどうするんだよ」
「俺が代わりにやってやる」
「白紙で提出されるやつだろ、それ」
テスト。……はぁ、テストか。
本当に面倒くさい。こういう時、頭のいい奴が羨ましくなる。
「……後で、ノート」
「はいよ。しっかりと要点は抑えてあるから、ちゃんと見とけ」
こう見ると、俺よりも竜胆のほうがしっかりしている。
そう、馬鹿なはずなのに根はしっかりしている。そんな曖昧な奴こそが、竜胆という男の正体なのだ。
「たまには、自分で勉強してくれてもいいんだぜ?」
「やだ」
「……即答かよ。まぁいいけどな。俺も復習出来て勉強になるし」
つまり、竜胆の成績を引き上げているのは、俺ってことになるな。
「感謝しろ」
「やだよ。てか何にだよ」
「…………」
不意に、右側から視線を感じた。
わざわざ確認するまでもない。その視線は柊のものだろう。
……だが、悪いが今は構っていられない。
ここには竜胆がいるし、何より眠い。
「…………はぁ。そろそろ次の授業だ。寝るから帰れ」
「はいはい。……寝るのもいいが、ちゃんとお隣さんのことも構ってやれよ」
最後に余計なことを言って、竜胆は帰りやがった。
──まさか、気付いているのか?
いや、朝のことがあったから、俺のことをからかっているだけだろう。
いくら人の感情を読み取るのが得意な竜胆でも、流石に無理がある……よな?
「ああ、もう……わからねぇ……」
眠すぎて思考能力が著しく低下している今、変に考えると面倒な方へと思考が偏ってしまいそうになる。
まずは、寝るが吉。
そう思い、俺は机に突っ伏した。
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