生徒から恐れられる『青薔薇』の彼女は根暗ボッチな俺の嫁

白波ハクア

文字の大きさ
7 / 11

学校での二人(3)

しおりを挟む

「ってことで、出席番号順にクジを引いてくれ」

 …………ぅん?

 何がどうしてそうなったのか。
 確認のために顔を上げ、ああ、と納得した。
 間宮先生の後ろ。黒板に白いチョークで大きく書かれていたのは、三文字の単語。

『席替え』

 別に、これは珍しいことではない。
 学生であれば何度か経験する、ちょっとしたイベントだ。

 ……だが、今は二年生になって一ヶ月と少し。クラスで席替えをするにはまだ早すぎやしないか?

 クラスメイトも多種多様な意見に分かれている。
 いちいち説明すると面倒なので、大きく分類すると勢力は二つに分かれる。

 不満げな声を漏らす否定派と、楽しそうに声を上げる賛成派。
 見た感じでは賛成派が多いように思える。
 やはり、席替えとなれば高校生はテンションが上がるものらしい。

「まだ一ヶ月だと思う奴はいるかもしれないが、俺はもう一ヶ月だと思っている。そろそろ隣の奴と十分に交流しただろ? 最初に割り振られた席で一つのグループを作るより、席替えで友好の幅を広めたほうがいいんじゃないかなぁ……と、おじさんは思うわけよ。色んな奴と関わるってのは、将来のためにもなるだろうし、な」

 まぁ、間宮先生の言葉は一理ある。その全てが正しいとは言わないが、学生時代は特に多くと交流を広めたほうがいいのは確かだ。
 たとえ一生の付き合いではないとしても、席替えしたことで誰かと疎遠になったとしても、それは経験としてそいつの記憶に残り、将来役に立つかもしれない。

 ──って、俺が何を偉そうに語ってんだ。

 思わず苦笑する。
 だが、こうやって無駄なことを延々と考えるのも、竜胆から貸してもらったラノベに出てくる陰キャっぽいかもしれない。

 俺が内心、そのような思考を巡らせている間に、クラスは大盛り上がりを見せていた。朝の憂鬱気な雰囲気が嘘のように、誰も彼もがくじで引いた自分の番号と、黒板に記された席順を見て一喜一憂している。

 そして俺の番が回ってきた。

 さて、自分はどっち側に立たされるのか。ぼんやりと考えながら席に戻り、折りたたまれた紙切れを開くと、そこには『6』という数字が記されていた。
 黒板にある席順と照らし合わせ、小さくガッツポーズを取る。
 6番は、教室の窓側にある一番後ろの席だった。
 教師からは注目されづらいし、何より端っこはクラスでは目立たない。俺にとってはこれ以上ない、百点満点の位置だ。

 そういえば、柊はどの席になったんだ?
 視線だけを動かして彼女の席を眺めると、ちょうどこちらを見つめていた柊と目が合った。

「…………」

 柊は無言でくじの結果を見せてきた。
 その手に持つ紙切れに書かれていたのは『12』の数字──って、そこは。

「……隣じゃねぇか」

 偶然にしては出来過ぎていると苦笑しながら、俺も紙切れを見せる。
 すぐに柊は席を確認し、ハッとしたように体を硬直させた直後、嬉しそうに顔を綻ばせた。

 それはあまりにも可憐で、俺は一瞬だけ、その笑顔に見惚れてしまった。

 席替えをしたことにより、俺の周囲は随分と変わった。
 教室で一番目立たない位置を得たはずなのに、なぜか妙に視線を感じる。その原因は俺の隣の席──柊小雪の存在が大きい。
 だが、それだけでは俺まで注目される理由にはならない。

 なら、どうして俺もクラスメイトの視線を浴びることになっているのか?
 それは柊に問題があると言っていいだろう。

「……………………」

 そう、先程から柊が無言でこちらを見てくるのだ。
 じっと見つめられるだけなら、まだ他人のふりをして遠回しに『こっち見るのをやめろ』と言えたんだが、ちらちらと遠慮しがちに見てくるものだから、それを一方的に遠ざけるのは罪悪感が半端ない。

 柊よ、俺のことを見過ぎだ──と直接言えたら、どんなに楽だっただろう。

 ただでさえ朝の挨拶でクラスメイトに衝撃を与えてしまったのだから、これ以上の接触は抑えるべきだ。
 俺達が『友人』になるのは、まだ早い。
 今はまだ、大人しくしているべきだ。

 そう、思っていたのに────。

「……………………はぁぁぁぁ……」

 溜め息を一つ。もう、ああだこうだ考えるのはやめだ。
 俺の『目立ちたくない』という目標のためだけに、他人を巻き込み、寂しい思いをさせるのは違う。
 現に、柊がしょんぼりと肩を落としている姿を見ただけで動揺してしまったのは、他でもない俺自身だ。……その時点で、この先我慢なんて到底不可能だろう。

「まさか、あの柊と隣の席になるなんてな」
「っ、」

 誰かに向けて言ったわけではない、ただの独り言。
 俺が言葉を発したことで、柊は大きく体を震わせ、口をパクパクと開閉させていた。

 ……まだ、学校での距離感を掴み切れていないのだろう。
 本当に、人と話すのが苦手なんだなと内心苦笑する。あんなに話したそうにしていたのに、未だに柊が自分から声を掛けようとしてこない。

 なら、ここは俺から動くしかない。

 たとえそれが陰キャらしくない行動だとしても。
 不器用な許嫁を助けるためなら、お安い御用ってやつだ。

「……まぁ、これも何かの縁だ。唯一の隣ってことで、仲良くしてくれ」

 ぶっきらぼうに。だが、しっかりと隣を見て、俺は手を差し伸べる。
 柊は眉一つも動かさず、一見すると無関心を貫いているような表情をしているが、彼女は今、これ以上ないくらいに戸惑っているのがわかった。

「どうして、あいつが……」
「運が良かっただけだろ」
「一度挨拶を返されたくらいで調子に乗りやがって、あの……誰だっけ?」
「轟だよ。ほら、竜胆にいつも絡まれてる可哀想な奴」

 朝のこともあり、クラスメイトは俺達の動向を監視するように眺めている。
 下手なことは言えない。だから、柊──わかってくれ。

「……あ、ぇと……」

 耳を澄ましていなければ聞き逃してしまう、か細い声。
 どうしたらいいのかと、彼女の視線が語っている。

「…………、ええ」

 結局、柊が口にしたのは『一言』とは言い難い二文字の言葉のみだった。
 どこまでも冷たく、相手の気持ちなんて考えないような突き放した雰囲気を、柊はその身に纏っている。

 そうだ。それでいい。

 青薔薇はそうでなければ困る。
 俺が一方的に話しかけ、柊はそれを受け流す。

 少しずつ、氷が溶けるようにゆっくりと、青薔薇の花弁を開かせてやればいい。
 それを続けていけば、いつか彼女も普通に人と接することが出来るはずだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『出来損ない』と言われた私は姉や両親から見下されますが、あやかしに求婚されました

宵原リク
恋愛
カクヨムでも読めます。 完結まで毎日投稿します!20時50分更新 ーーーーーー 椿は、八代家で生まれた。八代家は、代々あやかしを従えるで有名な一族だった。 その一族の次女として生まれた椿は、あやかしをうまく従えることができなかった。 私の才能の無さに、両親や家族からは『出来損ない』と言われてしまう始末。 ある日、八代家は有名な家柄が招待されている舞踏会に誘われた。 それに椿も同行したが、両親からきつく「目立つな」と言いつけられた。 椿は目立たないように、会場の端の椅子にポツリと座り込んでいると辺りが騒然としていた。 そこには、あやかしがいた。しかも、かなり強力なあやかしが。 それを見て、みんな動きが止まっていた。そのあやかしは、あたりをキョロキョロと見ながら私の方に近づいてきて…… 「私、政宗と申します」と私の前で一礼をしながら名を名乗ったのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

処理中です...