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第28話 聖女にはなれないけど……
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「はぁ……」
私はベッドに横たわり、深い溜め息をついた。
まさか自分の感情に混乱して逃げ出すとは……自分自身に呆れてしまう。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
側に控えていたエルシアが、心配するように声をかけてくれた。
……それは当然だ。庭でコンコッドと共に双子の面倒を見ていたと思ったら、目元を赤くしながら部屋に戻ってきたのだ。専属メイドであるエルシアが心配しないわけがない。
「何があったか、お聞きしても……?」
「…………コンコッドが、私のことを聖女のようだ、って……」
「お嬢様は『聖女』と呼ばれることに不満があるのですか?」
私は寝返りを打ち、エルシアに顔を向けた。
「私は聖女にはなれないの」
「どうして、そう思うのです?」
「うーん……」
これは言っていいことなのだろうか。
下手をしたら変な詮索をされてしまう可能性がある。
しかし、これからずっと共に行動するのだから、いつかはバレるかもしれない。
要は時間の問題だ。
であれば、別に言っても問題はないのだろう。
「ねぇ、エルシア。……もし、もしもの話だけど、私の前世がとんでもない極悪人だったとするわ。それでも貴女は私のことを慕ってくれる?」
「はい。勿論です」
エルシアからの答えは、すぐに返ってきた。
「私は前世のお嬢様を知りません。貴女が過去にどんなことをしたとしても、私は生涯をかけてシェラローズ様を慕います」
茶化している様子はなく、とても真剣な眼差しを向けてくるエルシア。
「……そう、か…………」
私は内心溜め息を吐き、両頬を思い切り叩く。
ジーンとした痛みを感じるが、おかげで気持ちを切り替えることが出来た。
「エルシア、ありがと……おかげで気持ちが楽になったわ」
感謝の言葉を述べた私は、ベッドから飛び降りた。
私のせいでコンコッドと双子を不安にさせてしまったかもしれない。
だからあの場に戻って「私はもう大丈夫」と言うのだ。
そう思って部屋を飛び出した時────
「「シェラローズさま!!」」
「うぐぉ!?」
脳裏に思い描いていた双子の声が聞こえたと思った次の瞬間、油断していた背中に二人分の衝撃が襲いかかった。
それを予想していなかった私が反応出来るわけがなく、奇妙な声が口から飛び出した。流石にみっともない姿を見せるわけにはいかないので、気合いで床に倒れることだけは踏み止まる。
「ティア、ティナ! お勉強はどうしたの?」
犯人はやはり双子だった。
二人はコンコッドと勉強会を続けているはずなのに、どうしてこんなところにいるのか。私を追いかけて来てしまったのか。
問いかけると、途端に双子はシュンと申し訳なさそうに顔を俯かせた。
「二人はシェラローズ様を案じて追いかけたのです。どうか怒らないであげてください」
「……コンコッド」
双子が走ってきた後ろから、コンコッドが優しげな微笑みを浮かべながら歩いてきた。
どうやら彼も、双子と同じだったらしい。
「コンコッド。心配を掛けてしまって、ごめんなさい……」
「……いいえ。謝るのはこちらの方です。でも、もう大丈夫なようで安心しました」
「ええ、おかげさまで」
もう難しく考えないことにした。
やはり私は聖女になんてなれない。
でも、それでも守るくらいはしてみせる。
今の私に出来ることをやっていけば、それでいいのだ。
「シェラローズ、さま……」
「──ん?」
ティアが私の服をギュッと握り、こちらを見つめていた。
「私はシェラローズさまが、だいすき。だから、私たちがまもる」
「ティナも同じだよ! 今よりもつよくなって、シェラローズさまをまもるの!」
「もうかなしい顔なんてさせない」
「そうならないように、私たちもがんばる」
「私たちがずっと──っ!」
意を決したように次々と言葉を並べる双子の唇に、人差し指を押し付ける。
「ありがとう。二人の気持ちはとても嬉しいわ。……でも、その言葉はまだ早いわ」
『ずっと』という言葉は、まだ二人には早い。
それは双子の未来を縛り付けてしまう言葉だ。
だから私は、それ以上の言葉を言わせなかった。
「──さ、まだ授業は終わっていないでしょう? 戻って続きをしましょう?」
これ以上の言葉は無用だと促してみたら、双子は不服そうに頬を膨らませてしまった。
その仕草が可愛らしくて、私は微笑みながら二つの頭を同時に撫でる。
「終わったらご褒美に美味しいお菓子をあげるわ」
「ごほうび!」
「おかし!」
「ええ、とびきり美味しいお菓子よ。だから頑張って?」
「ぜったい! ぜったいだよ!」
「やくそく。やくそく……!」
「ええ。なんなら、指切りしてもいいわよ」
頬を赤くさせて興奮したようにその場でぴょんぴょんする双子に、指切りを提案した。
だが、双子は『指切り』を知らないらしく、同時に首を傾ける。その動作がまた可愛らしく、私は柔らかい笑みを浮かべた。
「指切りというのは、絶対に守らないといけない約束がある時にするものなの。小指をこうして絡めるのよ」
私は双子と小指を絡ませ、指切りした。
これで約束は立てられた……ということになる。
「もし破ったら……大変なことになるわ」
「やぶったら?」
「どうなるの?」
「約束を破った人は、とても鋭い針を千本飲まされるのよ」
──という冗談なのだが、双子は本当なのだと信じてしまったらしく、恐怖に尻尾の毛を逆立てていた。まさかここまで信じ込まれるとは思っていなかったのだが、反応が面白かったのでこのままにしておく。
「だから指切りで誓った約束は、絶対に破ったらいけないの」
「なんか、私たちのオキテみたい!」
すると、予想外の反応がティナから返ってきた。
「掟? 白狼族の?」
「うんっ! 昔から伝わっているでんとう? なんだって! 村のお爺ちゃんたちが言ってた!」
「いちどでも主人にちかいを立てたら、にどとやぶってはいけないって……なんかいも聞かされたの」
「そのオキテをやぶるってことは、その人の『死』をいみするんだって! だから、ぜったいにやぶったらいけないの!」
「へ、へぇ……そうなのね……」
双子の言葉を途中で遮ったのは、我ながらにして『ファインプレー』だったのかもしれない。
もしあの場で誓いを立てられていたら、本当の意味で双子を縛ってしまうことになっていた。
世の中の基本常識をほとんど知らない二人にだって伝えられている『白狼族の誓い』は、白狼族にとって本当に大切なものなのだろう。
今日はそれの存在を知ることが出来て良かった。
そして、これからも双子が不意に誓いを立てないように気を付けよう。
私はベッドに横たわり、深い溜め息をついた。
まさか自分の感情に混乱して逃げ出すとは……自分自身に呆れてしまう。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
側に控えていたエルシアが、心配するように声をかけてくれた。
……それは当然だ。庭でコンコッドと共に双子の面倒を見ていたと思ったら、目元を赤くしながら部屋に戻ってきたのだ。専属メイドであるエルシアが心配しないわけがない。
「何があったか、お聞きしても……?」
「…………コンコッドが、私のことを聖女のようだ、って……」
「お嬢様は『聖女』と呼ばれることに不満があるのですか?」
私は寝返りを打ち、エルシアに顔を向けた。
「私は聖女にはなれないの」
「どうして、そう思うのです?」
「うーん……」
これは言っていいことなのだろうか。
下手をしたら変な詮索をされてしまう可能性がある。
しかし、これからずっと共に行動するのだから、いつかはバレるかもしれない。
要は時間の問題だ。
であれば、別に言っても問題はないのだろう。
「ねぇ、エルシア。……もし、もしもの話だけど、私の前世がとんでもない極悪人だったとするわ。それでも貴女は私のことを慕ってくれる?」
「はい。勿論です」
エルシアからの答えは、すぐに返ってきた。
「私は前世のお嬢様を知りません。貴女が過去にどんなことをしたとしても、私は生涯をかけてシェラローズ様を慕います」
茶化している様子はなく、とても真剣な眼差しを向けてくるエルシア。
「……そう、か…………」
私は内心溜め息を吐き、両頬を思い切り叩く。
ジーンとした痛みを感じるが、おかげで気持ちを切り替えることが出来た。
「エルシア、ありがと……おかげで気持ちが楽になったわ」
感謝の言葉を述べた私は、ベッドから飛び降りた。
私のせいでコンコッドと双子を不安にさせてしまったかもしれない。
だからあの場に戻って「私はもう大丈夫」と言うのだ。
そう思って部屋を飛び出した時────
「「シェラローズさま!!」」
「うぐぉ!?」
脳裏に思い描いていた双子の声が聞こえたと思った次の瞬間、油断していた背中に二人分の衝撃が襲いかかった。
それを予想していなかった私が反応出来るわけがなく、奇妙な声が口から飛び出した。流石にみっともない姿を見せるわけにはいかないので、気合いで床に倒れることだけは踏み止まる。
「ティア、ティナ! お勉強はどうしたの?」
犯人はやはり双子だった。
二人はコンコッドと勉強会を続けているはずなのに、どうしてこんなところにいるのか。私を追いかけて来てしまったのか。
問いかけると、途端に双子はシュンと申し訳なさそうに顔を俯かせた。
「二人はシェラローズ様を案じて追いかけたのです。どうか怒らないであげてください」
「……コンコッド」
双子が走ってきた後ろから、コンコッドが優しげな微笑みを浮かべながら歩いてきた。
どうやら彼も、双子と同じだったらしい。
「コンコッド。心配を掛けてしまって、ごめんなさい……」
「……いいえ。謝るのはこちらの方です。でも、もう大丈夫なようで安心しました」
「ええ、おかげさまで」
もう難しく考えないことにした。
やはり私は聖女になんてなれない。
でも、それでも守るくらいはしてみせる。
今の私に出来ることをやっていけば、それでいいのだ。
「シェラローズ、さま……」
「──ん?」
ティアが私の服をギュッと握り、こちらを見つめていた。
「私はシェラローズさまが、だいすき。だから、私たちがまもる」
「ティナも同じだよ! 今よりもつよくなって、シェラローズさまをまもるの!」
「もうかなしい顔なんてさせない」
「そうならないように、私たちもがんばる」
「私たちがずっと──っ!」
意を決したように次々と言葉を並べる双子の唇に、人差し指を押し付ける。
「ありがとう。二人の気持ちはとても嬉しいわ。……でも、その言葉はまだ早いわ」
『ずっと』という言葉は、まだ二人には早い。
それは双子の未来を縛り付けてしまう言葉だ。
だから私は、それ以上の言葉を言わせなかった。
「──さ、まだ授業は終わっていないでしょう? 戻って続きをしましょう?」
これ以上の言葉は無用だと促してみたら、双子は不服そうに頬を膨らませてしまった。
その仕草が可愛らしくて、私は微笑みながら二つの頭を同時に撫でる。
「終わったらご褒美に美味しいお菓子をあげるわ」
「ごほうび!」
「おかし!」
「ええ、とびきり美味しいお菓子よ。だから頑張って?」
「ぜったい! ぜったいだよ!」
「やくそく。やくそく……!」
「ええ。なんなら、指切りしてもいいわよ」
頬を赤くさせて興奮したようにその場でぴょんぴょんする双子に、指切りを提案した。
だが、双子は『指切り』を知らないらしく、同時に首を傾ける。その動作がまた可愛らしく、私は柔らかい笑みを浮かべた。
「指切りというのは、絶対に守らないといけない約束がある時にするものなの。小指をこうして絡めるのよ」
私は双子と小指を絡ませ、指切りした。
これで約束は立てられた……ということになる。
「もし破ったら……大変なことになるわ」
「やぶったら?」
「どうなるの?」
「約束を破った人は、とても鋭い針を千本飲まされるのよ」
──という冗談なのだが、双子は本当なのだと信じてしまったらしく、恐怖に尻尾の毛を逆立てていた。まさかここまで信じ込まれるとは思っていなかったのだが、反応が面白かったのでこのままにしておく。
「だから指切りで誓った約束は、絶対に破ったらいけないの」
「なんか、私たちのオキテみたい!」
すると、予想外の反応がティナから返ってきた。
「掟? 白狼族の?」
「うんっ! 昔から伝わっているでんとう? なんだって! 村のお爺ちゃんたちが言ってた!」
「いちどでも主人にちかいを立てたら、にどとやぶってはいけないって……なんかいも聞かされたの」
「そのオキテをやぶるってことは、その人の『死』をいみするんだって! だから、ぜったいにやぶったらいけないの!」
「へ、へぇ……そうなのね……」
双子の言葉を途中で遮ったのは、我ながらにして『ファインプレー』だったのかもしれない。
もしあの場で誓いを立てられていたら、本当の意味で双子を縛ってしまうことになっていた。
世の中の基本常識をほとんど知らない二人にだって伝えられている『白狼族の誓い』は、白狼族にとって本当に大切なものなのだろう。
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