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第60話 親馬鹿
しおりを挟む夜になり就寝時間が近づいてきた頃、ベッドの上で筋肉痛と戦っていた私の元に、ティアとティナの二人が片手に櫛を持って駆け寄って来た。
「シェラローズさま! しっぽ! やって!」
「ティアの次はティナ!」
満面の笑顔でそれぞれの櫛を差し出す二人に、私は困ったように頬を掻いた。
「二人とも、今更だけど私がやっちゃっていいの? 二人が自分でブラッシングした方がいいんじゃないかしら?」
そう言うと、二人揃って絶望したような表情になり、泣きそうになりながら私の両腕に絡みついた。
「なんで!? シェラローズさま、ティアのこときらいになった?」
「おりこうにするから! だから、ティナのこときらいにならないで!」
体を揺さぶられることで体が悲鳴をあげるが、私はそれを顔に出すことなく、誤解させてしまったことを謝罪した。
「違うのよ。獣人にとって尻尾はその人の誇りでしょう? 今日、ティナが侍女に触られて拒絶しているのを見て、私も遠慮するべきなのかなって思ったのよ」
私が双子の尻尾をブラッシングするようになったのは、つい最近のことだ。
いつも通り過ごしている時、目の前で揺れる二本の尻尾を見て、「ふわふわ度が足りない」と感じたのが事の始まりだった。
『二人ともそこに並びなさい! 私が毛並みを整えてあげる!』
『『えっ!?』』
──という会話があり、驚く二人をベッドに並ばせて交互にブラッシングを始めたのだ。
その時はティアもティナも拒絶しなかったし、私自身、獣人と尻尾のことを忘れてしまっていたので、かなり強引にやってしまったと反省している。
それからは彼女達の方からブラッシングを頼んでくるようになったのだが、このままやり続けるのもどうなのか? と思った私は一度、二人の考えを尊重することにしたのだ。
「ティアは、シェラローズさまにさわってもらえたら、うれしいよ?」
「ティナも同じ! なんかね、シェラローズさまは、ぽかぽかするの!」
「……ぽかぽか?」
「うんっ! おむねがぽかぽかして、もっとさわって! っておもうの!」
「だからシェラローズさまには、さわってほしいの! さわっていいのはシェラローズさまだけだよ!」
「ほんとうのパパにもママにもさわらせなかったもん! さわっていいのはシェラローズさまだけ!」
──だって、と二人は声を揃える。
「「シェラローズさまがだいすきだから!」」
◆◇◆
「ってことがあったのよ! もう可愛すぎて、一時間くらいブラッシングしてあげたわ! エルシアには『いつまで起きてるんですか!』って怒られちゃったけど……」
私はその時のことを思い出し、早口で双子の可愛さを自慢していた。自分でも興奮しているのだなと感じる。嬉しいという気持ちを隠せず、足をバタつかせて「きゃー」と年相応の声を出す。
「…………そうか。よかったな」
対して、私の話し相手は心底呆れたように適当な呟きで返し、半顔でこちらを見つめていた。
「ちょっとサイレス。あなた反応が薄いわよ! 私が折角、あの二人の可愛さを教えてあげているというのに!」
「……朝早く店に突入され、いきなり我が子自慢されたこっちの身にもなれ」
「あら、それは悪かったわね」
口では謝罪するが、悪いことをしたという気持ちはない。
「相変わらず、あの双子のことが大好きなのだな」
「それはそうでしょ。仮初めとは言え、私の子供なのよ? 可愛くないと思うわけないじゃない」
私の望みが叶うのであれば、このままずっと共に生活したいくらいだが……それを口にしてはいけない。もしあの双子が私の呟きを聞いたのなら、あの子達はその通りにしてしまうだろう。
それは双子の将来を、私が決めてしまうのと同じだ。
「ええ、でも……いつかは反抗期ってものが来るのよね? 私、あの子達に拒絶されたら、ショックで国を滅ぼしてしまいそうだわ」
「子供に拒絶されたくらいで国を滅亡させるな。お前なら本当にやってしまいそうだから、なおさらタチが悪い」
「わからないわよ? 確かに私の体には宝玉が宿って一部の力は取り戻したけれど、まだ完全に融合していないもの。全力は出せないわ」
私の言葉に、サイレスは首を傾げた。
「……? どうしてだ? 折角手に入れた自分の力だ。全て引き出してしまえばいいだろう」
「だって、完全に融合したら、名実共に魔王が君臨することになるのよ。正体を隠していたとしても、魔王の復活くらいは知らされるわ。……となれば、どうなると思う?」
サイレスは少し考え、やがて「ああ、なるほど……」と結論を導き出した。
「勇者の誕生だな?」
「正解よ」
──魔王が再びこの地に立つ時、勇者もまた現れる。
それが伝承となっているため、不容易に復活出来ないというのが、正直なところだった。
「まぁ、完全な力を取り戻せなくても、この時代では十分に戦えるから問題ないわ。──それより! あの子達の反抗期対策を考える方が最優先よ!」
「それは大丈夫だろう。あの双子に限って、反抗期は来ない」
「……どうしてサイレスがそれを言えるのよ」
「勘というやつだ」
「ふーん? ……まぁ、いいわ」
私はジト目を伏せ、世間話はここまでにして本題に入った。
「そっちは上手くやっているのかしら?」
「今のところ、問題ない。聞かされた時はどうなるかと心配だったが、案外やれるものだな」
「そりゃそうでしょ。私が指示しているのだから、失敗はあり得ないわ」
私が今日ここに来た真の理由は、秘密裏に進めている計画の定期報告を受けるためだった。
以前、初めてこの店に来た時にちょこっと言った『新しいお金稼ぎ』というのが、その計画だ。
やることは簡単だ。ガロンドを筆頭に商業が得意な者達で小さな商会を建ち上げ、それを少しずつ拡大していく。規模が大きくなれば商業への影響力が上がるので、後は波に乗り私の指示に従って物を売り捌けば、自然と大金が舞い込んで来るという仕組みだ。
何台かアトラフィード家の金で馬車を買い、御者として各地に散らばらせてあるので、ここでは手に入らない珍しい素材や食材などが手に入る。ここらで商品を売れば、それだけでも金になる。
ちなみに出資者は私だが、今はまだ匿名にしてある。6歳の少女が主になっている商会なんて、誰も興味を示さないだろう。
私が貴族の舞台に上がり、公爵家としての影響力を増したら匿名を外すのもありだ。そうすれば我が商会は更に力を増し、今まで以上に金が入るようになる。
──勿論、商業だけが目的ではない。
各地に部下を配置しておくことで、情報収集にも役立てられる。もし遠出した時なんかは、そちらに配置した部下とコンタクトを取り、色々と優遇させることも可能だ。
一手の先に、もう一手。
管理は大変だが、それに見合った利益が大きい。
「これが、今の状況だ」
サイレスから、我が商会の報告書を手渡される。
びっしりと書かれた文字を流し読みした私は、「ほう?」と感心の声を洩らした。
「思った以上に進出しているわね。全体の二割……しかも、帝国領にまで行っているなんて」
「このまま拡大させるか?」
「……いいえ、それ以上はまだ早いわ。商会を始めてまだ少ししか経っていない。部下が優秀だからどうにかなっているけれど、これ以上行動範囲を増やしてしまったら、いざという時に対処が遅れてしまう。急に進出して来たというだけで注目は上がっているはずだから、まずは人員確保に専念して。ちゃんと使える者を……って、そこはあまり心配していないわ。人選はガランドに任せる。……そうね。100人くらいになったら、範囲を拡大していいわ。彼は今どこに?」
「この国で一番大きい商会の者と話に行っている。戻るのはまだ時間が掛かるだろうな」
「それじゃ、このことを伝えておいてくれる?」
「了解した」
他にも報告があったら、アトラフィード家に届けるように。私はそう言い、立ち上がった。
「もう行くのか? まだゆっくりしていてもいいんだぞ?」
「この後、あの子達の勉強を見てあげる約束をしているのよ」
「朝一番にここに来たのは、それが理由か……」
「ご名答。それじゃね」
勉強会に遅れたら、双子の機嫌を損ねてしまう。
それだけは避けるべく、私は早めに帰路に着いた。
勿論、ケーキのお土産は忘れずに購入した。
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