公爵令嬢に転生した魔王様の平和を望むセカンドライフ

白波ハクア

文字の大きさ
70 / 78

第68話 混乱する侍女

しおりを挟む



「…………ふぅ」

 魔法具の製作に取り掛かり、ひと段落した私は一息。

「…………ふむ、思ったよりも作業工程に滞りができているわね」

 部屋に取り付けられた時計を眺めながら、私はティーカップの縁に口を付けた。


 作業を開始してから、すでに三時間が経過している。
 その間、私は一切休むことなく手を動かし続けていた。

 それでも魔法具の完成には至っていない。


「やっぱり、間に合わせで用意した機材では限度があるか……」

 魔王城に設置していた研究所には、現在、この地下室を埋め尽くす機材達の何十倍もの量があった。

 一応、今回用意したものは全て忠実に再現したが、やはり広さの問題で断念した機材は多くある。品質が落ちることのないよう、よく考えて運び込んだが、その代わりに作業効率は大きく下がってしまうのが痛い。


「この調子で、双子の誕生日までに間に合うかしら?」

 ずっと地下室に籠っているわけにはいかない。

 夜になれば一度屋敷に戻る必要があるし、私には剣術の稽古や魔法の研究、双子との遊び相手と、やることが沢山ある。その間にできた暇な時間で作り上げるには、少し厳しいものがあった。


「せめてもう一人、助手が居れば良かったのだけれど……流石にそれは無理よねぇ」

 私ほどの技術は望まないが、それでも最低限の基礎知識を得た者を助手としなければ意味がない。
 ……そして、現代でそのような人材を探すのは、ほぼ不可能と言っても良いだろう。


「あの、お嬢様? それは何をしているのですか?」

 それまでずっと口を挟まなかったエルシアだったが、私の緊張が緩んだのを察したのか、機材達とテーブルに転がる部品を指差し、質問を投げかけてきた。


「うーん、本当は出来てからのお楽しみだったのだけれど……まぁいいか」

 完成にはまだまだ遠い。
 それまでずっと疑問を持たせるのも悪いと思い、私は正直に教えることを決めた。


「魔法具を作っているのよ」

「魔法具、ですか?」

「……ああ、ごめんなさい。今はアーティファクトって言った方が、まだ親しみがあるかしら?」

「へぇー、アーティファクトを……って、アーティファクトぉ!?」


 ガタッと、エルシアは慌ただしく立ち上がった。
 ……うん、これくらいの反応は予想していたので驚かない。


「アーティファクトって、あのアーティファクトですか!?」

「えっと、魔力を流すだけで誰でも魔法と同じ効果を引き出すことができる道具。というアーティファクトなら、その認識で間違っていないわ」

 エルシアは口を大きく開き、何も言わなくなった。
 ……いや、何も言えなくなったと表現した方が正しいか。

「あの、お、お嬢様? アーティファクトというのはですね、遥か昔に作られた古代兵器で、それを作り出す技術は現代に残っていないと言われていて……だからこそ世間では高価に扱われていてですね?」

「残っているわよ」

「へ?」

「だって今作っているじゃないの、そのアーティファクトを。ちゃんと技術は残っているわ」

「いやそうですけど、えぇ? 本当にこの人、アーティファクト作ってる……?」


 若干、素が出始めているエルシア。
 ここまで驚かれるのだから、実際に作り上げた時にはどのような反応をしてくれるのだろうかと、私の期待は膨らむ。


「え、だって、アーティファクトって世界中の研究者が集っても再現不可能だったって……それを作っているの? うちのお嬢様が? なんで? えぇ? はぁ?」

 混乱しすぎて語彙力を失っている。
 そこまでは想定していなかったため、私はサイレスに助けを求めた。


「諦めろ、こいつはそういう奴だ」

「…………あなたは、お嬢様の目的を知っておきながら、私に黙っていたのですか?」

「そういう命令だったからな。許せ。俺も最初聞いた時は驚いたが、この主人はそういう奴なのだと思ったら気が楽になったぞ」

「私はお嬢様の専属メイドで、お嬢様は公爵家の人間なのですよ? そんなお方が、アーティファクトの製造法を熟知しているとか……気が楽になるわけないじゃないですか」

「ああ、そうだな。こいつには『自重』という言葉を学んでほしいと、俺も思っている」


 失礼な配下だ。
 私だって『自重』くらいの文字は知っている。

 だが、自重して満足のいく魔法具を作れるわけがないだろう。


 ──研究者たる者、手加減無用。
 私はいつだって、その精神で作品に取り掛かるのだ。


「お嬢様。このことは彼以外に話しました?」

「いいえ。エルシアで二人目よ」

「…………では、絶対に私達以外の誰にも口外しないと、お約束ください」

「それは無理な話ね」

 エルシアのお願いには応えてやりたいけれど、残念ながらそれは難しい。

 だって──


「これは双子への誕生日プレゼントにする予定だから」

「………………………………は、」

「は、どうしたの?」

「はぃぃいいいいいいいいいい!?!??!???」


 うおっ、びっくりした。
 初めてエルシアの大絶叫を聞いた気がする。

 シェラローズの記憶を辿っても、彼女がここまで声を荒げたことはなかった。
 だから本当に初めてで驚いてしまった。


「アーティファクトを、あの双子の、誕生日プレゼントにする!? はぁっ!?」

「一応言っておくけど、これはアーティファクトじゃなくて、魔法具よ」

「んなもん今はどうだっていいです!」


 私としては良くないのだが……。


「わかるぞ。お前の気持ち、俺にもよくわかる」

 サイレスが親身になって頷いている。
 だが、彼の同情は残念ながら届いていないようだ。


「あ、わかった!」

 私は、パンッと両手を叩く。

「エルシアも魔法具が欲しいんでしょう? 双子の分が終わったら作ってあげるから、それまで大人しくしていなさいな」


 それまで慌ただしかったエルシアの動きが、ピタリと止んだ。

 やはり、彼女も欲しかったの────




「そういうことじゃなーーーーーーーーい!!!」

 今日一番の声が、地下室に反響した。

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。 逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、 “立て直す”以外の選択肢を持たなかった。 領地経営、改革、そして予想外の縁。 没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。 ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

処理中です...