完結済み『愛されぬお飾りの聖女ですが、どうやら私、捨てられた方が幸せになれるみたいです』

干し芋さん

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最終話 本当の居場所

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エドワードが、衛兵に引きずられるように退室していく。
その扉が閉ざされた瞬間、応接室には静寂が戻った。

私は、アレクシス様の腕に寄り添ったまま、ほう、と小さく息を吐く。
もう、あの男も、あの国も、私とは何の関係もない。

「……よかったのか? アリア」

不意に、アレクシス様が私の顔を覗き込むようにして尋ねた。
その銀色の瞳には、いつものような揶揄いの色はなく、ただ真剣な光が宿っている。

「本当に、後悔はないのだな」
「はい。もちろんです」

私は、迷いなく頷いた。

「私の居場所は、もうあそこにはありません。私の居場所は……あなたの隣だけです」

すると、アレクシス様は、たまらないといった様子で私を強く抱きしめた。
彼の心臓の音が、私の耳に直接響いてくる。

「……お前は、本当に、俺を狂わせる天才だな」

呆れたような、けれど愛おしさに満ちた声。
私は、彼の胸に顔をうずめて、くすくすと笑った。

「アレクシス様」
「なんだ」
「一つ、訂正してもよろしいですか?」
「……言ってみろ」

私は顔を上げ、彼の瞳をまっすぐに見つめる。

「私は、『偽物』ではありませんでした」
「ほう?」

面白そうに、彼が片眉を上げた。

「では、お前はやはり本物の聖女だったと?」
「いいえ、違います」

私は、首を横に振る。

「私は、聖女ではありません。でも、偽物でもありませんでした」
「……」
「私は、ただの**『アリア』**です。あなたの妻の、アリア。それ以上でも、それ以下でもありません」

聖女でも、偽物でもない。
何者でもない、ただの私。
その、ありのままの私を、この人は見つけ、愛してくれた。

私の言葉を聞いたアレクシス様は、一瞬だけ目を見開くと、やがて、その端正な顔をくしゃりと歪ませて、声を上げて笑い出した。

「は、はは……っ! そうか、そうだったな! 違いない!」

彼は、私の頬を両手で包み込むと、その額に、自分の額をこつんと合わせた。
間近で見る銀色の瞳が、熱を帯びて私を射抜く。

「ならば、アリア。俺の妻よ。もう一つ、お前に聞かねばならんことがある」
「なんでしょうか?」

「俺は、お前を世界で一番愛している」
「……はい」
「お前も、俺を愛しているか?」

それは、あまりにも真っ直ぐな、問いかけだった。
私の心臓が、きゅっと甘く痛む。

頬が熱い。
でも、もう、この気持ちに嘘はつかない。

私は、精一杯の勇気で、彼の首に腕を回した。
そして、少しだけ背伸びをして、彼の唇に、そっと自分の唇を重ねる。

「――答えは、これでは、足りませんでしょうか?」

一瞬の沈黙。
次に私を襲ったのは、全てを奪い去るような、深く、激しい口づけだった。

冬薔薇の甘い香りが、部屋中に満ちている。
ああ、なんて幸せなのだろう。

お飾りの聖女だった私が、捨てられて手に入れた、本当の幸せ。
私の人生は、あの日、絶望の淵で、この人に出会った時から、本当の意味で始まったのだ。

もう、何もいらない。
この人の腕の中が、私の、永遠の居場所だから。
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