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憂いごと
しおりを挟むその後はアンドレとダンスを踊った。
腐っても王子なのでクイックステップという難しいダンスも難なくリードをする。
楽しそうに笑いながら踊るアンドレを見て、サーシャはこの笑顔が本当の笑顔なのかな、と感じた。
続いて二曲目も誘われたが、さすがに婚約者でもないのに踊れない。渋るアンドレから何とか逃げ切り、リチャードと踊ることになった。
曲はスローフォックスだ。
「さっきはどこに行っていたんだ?」
「えっあ・・・ちょっとアンドレ殿下とテラスでお話を」
「へぇ。ダンスも踊ってたよね」
「え、えぇ。舞踏会ですから」
「・・・確かに。ねぇ孤児院だけどさ、いつ行ける?できれば早めに行きたいんだけど」
ご機嫌ななめなのかリチャードの口調は少しキツく感じた。
「それなんですが・・・ちょっと野暮用ができそうで、日程は少し待ってくれませんか?」
「野暮用?」
サーシャは仕方なく、先程あったアンドレとナタリアのことを全て話した。
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「アンドレ様・・・とっても素敵な方だった・・・」
用意された客室まで戻ってきたナタリアは、頬を染めポーッとしていた。
「世の中にはあんなに美しい人もいるのね・・・」
マルセルもこの国では一二を争う美丈夫だ。
しかしアンドレは別次元に美しかった。地上に舞い降りた女神といわれても信じてしまうほどに。
「アンドレ様を見た後じゃマルセル様なんて紙くずね。あ~お茶会楽しみだわ!!何着ていこうかな」
真実の愛を誓い合った者の言葉とは思えない台詞を言いながら、ナタリアはマルセルに買わせた様々なドレスに手をやる。
やはりアンドレの髪や瞳の色に合わせた方がいいだろうが、形が気に入らないと一人うんうん考え込んでいた時ふと思った。
「そういえば・・・おねー様はなんでアンドレ様と二人でテラスにいたのかしら・・・」
まさかおねー様もアンドレ様を狙ってる?
そう思い至ると焦燥感で落ち着いていられなかった。
顔立ちはナタリアには負けるが、サーシャは上品で勉強もできる。
必ずナタリアを選ぶとは限らないのだ。いや、もう既にサーシャの毒牙にアンドレは掛かっているかもしれない。
ナタリアは勝手に脳内で完結をしていた。
「たっ大変!私がアンドレ様を救わなくっちゃ!!」
そう言い放つとバタバタと音をたて、とある部屋へと向かった。
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舞踏会が終わり、侯爵家の屋敷に向かう馬車の中でサーシャは父である侯爵に今日のことを報告していた。
「そうか・・・ではまた王城に行かねばならぬのか」
「はい・・・面倒くさ・・・億劫ですわ」
「ははは!面倒臭いと言っていいんだよ。今は私とサーシャしかいないんだからね」
侯爵はサーシャの頭をポンポンと優しく叩く。
「しかしナタリアにも困ったものだな。マルセル殿下なら上手く手綱を引いてくれるかと思っていたが」
「えぇ。期待外れでしたわね。今日もたくさんの令嬢と楽しくダンスしておりましたし」
「こら、言葉が過ぎるぞ。・・・サーシャには申し訳ないがそのお茶会でナタリアが粗相をしないよう見張っててくれないか?アンドレ殿下に何かあったら国際問題だからな」
正直行きたくない。ナタリアには常識が通用しないのだ。
しかしナタリアはまだ侯爵家の人間。何かあった後では遅いので渋々頷く。
「お父様の頼みなら断れませんわ・・・」
こうしてアンドレとナタリアのお茶会にサーシャは強制参加することになった。
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