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西の転生者
12.おにぎりへの道
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「成る程⋯⋯」
システィーアはフォークを置いて、盛大に溜息をついた。
先日、レイダンが持って来てくれたお米は、どちらの品種も玄米なのだそうだ。片方は茶色いのだが、もう片方の品種は白く濁っていて、この時点で既に違っていた。その米をそのまま炊いてもよかったのだが、やはり白い米が食べたい。となると、する事は一つだ。料理人に手伝ってもらい、頂いた玄米を小分けにして瓶に入れ、延々と棒で突く。
しかしここで問題が発生した。在来種の方は上手く精米されたのに対し、お酒用の米は砕けて粉々になってしまったのだ。
仕方がないので白米の食べ比べは諦めて、籾摺りに成功した白米と、二種の玄米を食べ比べてみたのだが、圧倒的すぎた。
「確かにこれでは売れないわ」
そう言いながら、一緒に炊いていた在来種で出来たご飯を手で握る。システィーアの小さな手では少し歪な形になるが、気にせず皿に並べていく。
その隣りで試食していた料理長が目を白黒させる。
「同じコメという植物なのに、全く違いますね。こちらは随分とパサついています」
「収穫後に干すはずだから、こっちの品種だけ水分が足りないのも不思議な話よね。そういう性質の品種なのかしら?」
システィーアはうーんと唸りながら考え込んだ。
米の粒も品種改良前のものより小さいし、すぐに砕けて粉になる。パサパサしていて食べられたものでもないし、本当に美味しいお酒になるのだろうか。システィーアは前世で、お米にこだわりがあった訳ではない。単におにぎりが好きだったと言うだけで、専門知識がある訳ではないのだ。さらに言えば、お酒を好んで飲む方ではなかったので、お酒のことはもっとわからない。
まあ、この国にも輸出しているくらいだし、売れる程に美味しいのだろう。
でもすぐに粉になるなら、お酒よりも米粉にした方が良いのではないだろうか。米粉を使った料理は前世にもあったので、イメージがしやすい。
「パンはどうかしら」
「は?」
米粉の定番と言えばパンかと思ったのだが、料理長は理解し難そうな顔をしている。素で聞き返して来た料理長にわかる様に、まだ瓶に入ったままになっている米の粉を指し示した。
「小麦の代わりにあの米の粉を使ってパンを焼くの。まだかなり目が荒いから、綺麗に砕かないとね」
粉になった米が勿体ないと言っても、料理長はあまり気乗りしない様子だったが、テキパキと動いてくれる。
その間にシスティーアは自作の小さなおにぎりを頂くことにした。
「あぁ、美味しい⋯⋯」
恋焦がれた味を急ぐように口に入れれば、懐かしい味が口一杯に広がった。思わずギュッと目を閉じて噛み締める。その度に塩味と甘味が感じられて、システィーアは半分泣きながら、それらをぺろりと平らげたのだった。
そして迎えた夕飯の時間。
夕食のパンとは別に、小さな籠に入った小ぶりのロールパンが出た。試食品を夕飯で出すという暴挙に、システィーアはとても驚いた。
「おや? 今日はパンが二種類もあるな」
「本当だ」
普段、食卓に並ぶパンは一種類なので、父レオナルドと異母弟ライオットも驚いている。
「システィーアお嬢様考案のコメパンでございます」
「何だと⁈」
執事がパンの紹介をした途端に、父が目の色を変えて小さな籠を見つめた。
「お父様、そのパン、まだ試作の段階ですの。味の保証は出来ません」
「味の保証が出来ないものを出す程、我が家の料理長は愚かではない。料理長が認める程の出来だったのだろう。一つ私に取ってくれ」
「僕も! 僕も食べたいです」
システィーアより先にパンを給仕に取ってもらった二人が、勢いよくパンを口に入れる。遅れてシスティーアもパンを手に取った。
見た感じはただの白パンだ。膨らみは足りていない気がするが、ほんのり暖かくて食欲を唆る匂い。焼きたてのパンを朝以外に食べるだなんて、なんだか新鮮な気分になってくる。
「甘いです、姉上!」
システィーアがパンを口に運ぶ前に、目を輝かせたライオットが興奮気味にそう言うと、すぐ様また口にパンを放り込んだ。
「面白い食感だな。なんか、こう⋯⋯むちゃむちゃ? してて、甘くて美味しいな」
「お父様、その表現の仕方はあまり美味しそうに聞こえないです」
笑いながら口に入れると確かに、ほんのり甘くてもちもちとした食感が口の中に広がった。ご飯として食べた時の残念感は、面影すら見られない。味には期待していなかったのだが、これは思わぬ副産物だ。
父は気に入ったのか既に2個目を口に入れている。
「成る程成る程、コメというのはこういうものだったか。これはどっちの品種だ?」
「品種改良済みのお酒にする米のほうです。米を粉にして、小麦粉の代わりに使うのです」
「ふむ、ではウ国に連絡を入れておこう」
「お父様」
システィーアが食べたいのはおにぎりであって、パンではない。粉になった米が勿体無いので、パンにしただけなのだから。その為には品種加工された米ではなく、在来種の米がどうしても欲しいのだ。
「品種改良済みの米と一緒に、在来種の米の籾も分けてもらえるようにお願い出来ませんか。私は在来種の方の米が欲しいのです」
「モミ? しかし、在来種の方は水が不足しているせいで取引できないという話ではなかったか?」
「お父様、籾とは米の種のことです。在来種の籾と米の栽培の仕方を、このコメパンと交換でどうにか手に入りませんか?」
「我が領で栽培するのか?」
「いえ、庭で育てたいのです」
自分が食べたいだけなのだから、そんなに沢山作る必要はない。第一、水が足りないと言うのにそんな暴挙、とても出来ない。
父はふむ、と考えながらあごを撫でる。
「このパンならウ国の酒と共にこの国でも売れるだろう。粉にするだけで売れるとなると、向こうには利益が大きすぎる気もするが⋯⋯まあ、ティアの手柄だしな。ティアはそれで構わないのか?」
「はい! 私はおにぎりが欲しいのです」
こくりと頭を縦に振ったシスティーアを見て、父も決意したように頷いた。
「出来るだけのことはしてみよう」
そうしてフォンベルツ公爵邸にウ国からの感謝と一緒に、米の山と一握りの籾、ウ国出身の年配夫婦が届いた。
システィーアはフォークを置いて、盛大に溜息をついた。
先日、レイダンが持って来てくれたお米は、どちらの品種も玄米なのだそうだ。片方は茶色いのだが、もう片方の品種は白く濁っていて、この時点で既に違っていた。その米をそのまま炊いてもよかったのだが、やはり白い米が食べたい。となると、する事は一つだ。料理人に手伝ってもらい、頂いた玄米を小分けにして瓶に入れ、延々と棒で突く。
しかしここで問題が発生した。在来種の方は上手く精米されたのに対し、お酒用の米は砕けて粉々になってしまったのだ。
仕方がないので白米の食べ比べは諦めて、籾摺りに成功した白米と、二種の玄米を食べ比べてみたのだが、圧倒的すぎた。
「確かにこれでは売れないわ」
そう言いながら、一緒に炊いていた在来種で出来たご飯を手で握る。システィーアの小さな手では少し歪な形になるが、気にせず皿に並べていく。
その隣りで試食していた料理長が目を白黒させる。
「同じコメという植物なのに、全く違いますね。こちらは随分とパサついています」
「収穫後に干すはずだから、こっちの品種だけ水分が足りないのも不思議な話よね。そういう性質の品種なのかしら?」
システィーアはうーんと唸りながら考え込んだ。
米の粒も品種改良前のものより小さいし、すぐに砕けて粉になる。パサパサしていて食べられたものでもないし、本当に美味しいお酒になるのだろうか。システィーアは前世で、お米にこだわりがあった訳ではない。単におにぎりが好きだったと言うだけで、専門知識がある訳ではないのだ。さらに言えば、お酒を好んで飲む方ではなかったので、お酒のことはもっとわからない。
まあ、この国にも輸出しているくらいだし、売れる程に美味しいのだろう。
でもすぐに粉になるなら、お酒よりも米粉にした方が良いのではないだろうか。米粉を使った料理は前世にもあったので、イメージがしやすい。
「パンはどうかしら」
「は?」
米粉の定番と言えばパンかと思ったのだが、料理長は理解し難そうな顔をしている。素で聞き返して来た料理長にわかる様に、まだ瓶に入ったままになっている米の粉を指し示した。
「小麦の代わりにあの米の粉を使ってパンを焼くの。まだかなり目が荒いから、綺麗に砕かないとね」
粉になった米が勿体ないと言っても、料理長はあまり気乗りしない様子だったが、テキパキと動いてくれる。
その間にシスティーアは自作の小さなおにぎりを頂くことにした。
「あぁ、美味しい⋯⋯」
恋焦がれた味を急ぐように口に入れれば、懐かしい味が口一杯に広がった。思わずギュッと目を閉じて噛み締める。その度に塩味と甘味が感じられて、システィーアは半分泣きながら、それらをぺろりと平らげたのだった。
そして迎えた夕飯の時間。
夕食のパンとは別に、小さな籠に入った小ぶりのロールパンが出た。試食品を夕飯で出すという暴挙に、システィーアはとても驚いた。
「おや? 今日はパンが二種類もあるな」
「本当だ」
普段、食卓に並ぶパンは一種類なので、父レオナルドと異母弟ライオットも驚いている。
「システィーアお嬢様考案のコメパンでございます」
「何だと⁈」
執事がパンの紹介をした途端に、父が目の色を変えて小さな籠を見つめた。
「お父様、そのパン、まだ試作の段階ですの。味の保証は出来ません」
「味の保証が出来ないものを出す程、我が家の料理長は愚かではない。料理長が認める程の出来だったのだろう。一つ私に取ってくれ」
「僕も! 僕も食べたいです」
システィーアより先にパンを給仕に取ってもらった二人が、勢いよくパンを口に入れる。遅れてシスティーアもパンを手に取った。
見た感じはただの白パンだ。膨らみは足りていない気がするが、ほんのり暖かくて食欲を唆る匂い。焼きたてのパンを朝以外に食べるだなんて、なんだか新鮮な気分になってくる。
「甘いです、姉上!」
システィーアがパンを口に運ぶ前に、目を輝かせたライオットが興奮気味にそう言うと、すぐ様また口にパンを放り込んだ。
「面白い食感だな。なんか、こう⋯⋯むちゃむちゃ? してて、甘くて美味しいな」
「お父様、その表現の仕方はあまり美味しそうに聞こえないです」
笑いながら口に入れると確かに、ほんのり甘くてもちもちとした食感が口の中に広がった。ご飯として食べた時の残念感は、面影すら見られない。味には期待していなかったのだが、これは思わぬ副産物だ。
父は気に入ったのか既に2個目を口に入れている。
「成る程成る程、コメというのはこういうものだったか。これはどっちの品種だ?」
「品種改良済みのお酒にする米のほうです。米を粉にして、小麦粉の代わりに使うのです」
「ふむ、ではウ国に連絡を入れておこう」
「お父様」
システィーアが食べたいのはおにぎりであって、パンではない。粉になった米が勿体無いので、パンにしただけなのだから。その為には品種加工された米ではなく、在来種の米がどうしても欲しいのだ。
「品種改良済みの米と一緒に、在来種の米の籾も分けてもらえるようにお願い出来ませんか。私は在来種の方の米が欲しいのです」
「モミ? しかし、在来種の方は水が不足しているせいで取引できないという話ではなかったか?」
「お父様、籾とは米の種のことです。在来種の籾と米の栽培の仕方を、このコメパンと交換でどうにか手に入りませんか?」
「我が領で栽培するのか?」
「いえ、庭で育てたいのです」
自分が食べたいだけなのだから、そんなに沢山作る必要はない。第一、水が足りないと言うのにそんな暴挙、とても出来ない。
父はふむ、と考えながらあごを撫でる。
「このパンならウ国の酒と共にこの国でも売れるだろう。粉にするだけで売れるとなると、向こうには利益が大きすぎる気もするが⋯⋯まあ、ティアの手柄だしな。ティアはそれで構わないのか?」
「はい! 私はおにぎりが欲しいのです」
こくりと頭を縦に振ったシスティーアを見て、父も決意したように頷いた。
「出来るだけのことはしてみよう」
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