双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

6.悪い噂

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「王妃殿下のお茶会?」
 夕食の席で、父レオナルドが突然そんなことを言い出した。
「王妃殿下から直々のご招待だ。明日は一緒の馬車で城に行くから、準備をしておくように」
 お茶会と言えば、大人の女性の交流の場だ。母親のいない子供には縁のないもので、システィーアが連れて行ってもらったことは一度もない。異母妹がお茶会に連れて行ってもらう度に、自慢げに話してくるだけのものであった。
 首を傾げるシスティーアに、向かい席で食べていた異母弟ライオットが、いいなぁと声を上げた。
「おいしいお菓子がたくさん出るんだと姉様が言ってました。僕も食べたいなあ」
 まだ幼くて連れて行ってもらったことのないライオットの発言にくすりと笑ってから、システィーアは父の方へ視線を戻す。
「お父様、何故お茶会に私が招待されたのでしょう? お父様は明日は普通にお仕事ですよね?」
 普通、お茶会に子供だけで招かれることはない。何か粗相をした場合、責任が取れないからだ。
 父はしばらくシスティーアの顔を見つめてから視線を落とした。
「ティア、その⋯⋯すまない。気づいてやれなくて。王妃殿下に言われたのだよ。セシルはお茶会にいつもクレアリリーを連れてくるが、ティアを連れてきた事は一度もない、と。⋯⋯ティアに、会ってみたいそうだ」
「まあ、王妃殿下が? でもまた、なんで急に?」
 言いづらそうに少し間を置いてから、父が大きく息を吐く。
「ティアの噂が、な。その⋯⋯あまり良くなくてな」
「噂⋯⋯?」
 システィーアは目を瞬かせた。
 噂がたつということは、最初の根拠が必要だ。そもそも、母方の祖母の屋敷に行くくらいで、他に外へ出ることがない。つまり、失態云々の前に、人の口にのぼらないはずなのだ。
 自分の行いを振り返っているうちに、父が逃げるように席を立った。
 システィーアが気づいた時にはライオットが丁度ご馳走様を言っていた。

 翌朝。
 なるべく地味めのドレスをとマリアナに頼んだシスティーアは、鏡の前で諦めた顔をする自分を見つめた。
 異母妹と競い合うように派手さを極めようとしていたのだから、システィーアのクローゼットの衣装にはフリルやリボンが沢山だ。その上、失礼がない服という条件に照らし合わせると、色さえも選べなくなる。きついピンクか赤しかない。
 似合わなくはないが、キツい印象が攻撃的に見える。悪い噂とやらを払拭するのであれば避けたい色だ。
 システィーアは仕方なく、赤いドレスで部屋を出た。

 父とともに馬車に乗り込んで着いた先。王城を見上げて、システィーアは感嘆の声をあげた。
 我が家も大きいとは思っていたが、流石お城。規模が違った。
 白い煉瓦を積み上げた城壁に囲まれた幾つもの白亜の建物。壁の上方の随所に小さな赤い石が埋め込まれていて、それが陽光を反射してキラキラと輝いて見える。
「ティア、行くよ」
 慌てて父に着いて行って通された部屋には、二人の男女が並んでお茶をしていた。金髪金眼の優しげで艶っぽい中年男性と、同色で似たような雰囲気を持つ美人女性がこちらを見る。
「待っていたぞ、レオ。この子がティアか。確かに亡くなった婦人にそっくりだ」
 うんうんと頷いている男の隣で、美女が扇子で口元を隠してシスティーアを見つめてくる。
 システィーアは父の後ろに隠れたい気持ちを堪えて、その場でドレスの裾を摘んで挨拶をした。
「どうだ、可愛かろう」
 父が唐突に娘自慢をすると、金髪男性が納得の表情で首を縦に振った。
「お前に似んで良かったな」
「あぁ、本当に」
 あまりに得意げな父を見て思わず視線を落とす。と、パシンと扇子を閉じる音がした。
「セシルから聞いていた話と違いそうね」
 何故かほっとした表情を浮かべた美人が、システィーアに微笑みかける。
「初めまして。私は王妃のルルシアーニャよ。会えて嬉しいわ」
「は、初めまして! し、システィーア・フォンベルツです。こちらこそお会い出来て光栄です、王妃殿下」
 ここはお城だし男女が隣同士で座っていたので、部屋に入った時からなんとなく予想していたのだが、父のフランクさに騙された。つい会釈をしそうになって、慌てて踏み止まる。
「私はこの国の王エルネストだ」
「お会い出来て光栄です、国王陛下」
 うんうんと再度頷いた後、国王が王妃の方を見てから立ち上がった。
「ルル、これで問題あるまい?」
「はい、問題ございません。ありがとうございます、陛下」
 王妃も立ち上がり、退室する国王を見送る。
「私も仕事に行ってくるよ、ティア。では王妃殿下、娘をお願いします」
 国王に続いて、父も部屋を出て行く。
「まだお茶会まで時間はあるし、少しここでお話しましょうか」
 王妃に促されてシスティーアが腰を下ろすと、待機していた侍女がお茶を目の前に置いた。
 勧められたままお茶を口にし、落ち着いたところで王妃が口を開いた。
「セシルとは中央の学院で学んだ時期が同じだったの。別段仲が良かったわけではないのよ。ただ、フォンベルツ公爵に懸想してるのは有名な話だったから知っていて、とても一途で健気な芯の強い方だと言われていたわ」
 いきなり継母の話を始められて生返事を返しそうになり、システィーアは慌ててお茶で口を塞いだ。
「その彼女に貴女のことを聞くと、恥ずかしい話だがとても人様の前に出せるような子ではない、と言うのよ」
 なんとなく話が見えてきた。
 同情を誘うような顔をして話す継母の姿が容易に想像出来る。
 システィーアからすると、以前の自分と異母妹は似たり寄ったりといった感じだ。それが二人揃うと物が飛ぶほど歪み合うので、確かに人前に出せるような状態ではなかっただろう。異母妹は継母と必ず一緒に参加するのだろうし、言っていることは間違いではない。
 だが、それを正直に話す必要もないだろう。
「父から悪い噂が立っていると聞きました。それが噂の内容でしょうか?」
「そうね、多分発端は彼女でしょうね。貴女を直接知ってる人は少ないようだから。でも噂の内容というのなら、もっとあるのよ?」
 王妃は感情のない顔で、システィーアを真っ直ぐに見た。
「知りたい?」
「父が悲しい顔をするくらいなら知って対策を取りたいと思っていますが、正直に言うとどうでもいいです」
「まあ」
 王妃が驚いたような顔をするので、システィーアは首を傾げた。
「貴女は聞いていた話と全く違うのね。直接話せて、本当によかったわ」
 そう言って、王妃が教えてくれたのは、継母の話に尾びれ背びれがついた噂だった。
 我儘で癇癪持ち、傲慢で強欲、病弱、醜女、魔物憑き、呪われた子⋯⋯前半はともかく、後半のはよくわからないことになっている。
 継母がシスティーアの話をしていたのだから、異母妹だって真似して友人知人に話しているだろう。とすると、訳の分からない噂の出所の犯人は異母妹が濃厚そうだ。
 その後、普段の生活についてや最近あったことなど色々聞かれたりしてたので、システィーアはライオットがお茶会のお菓子に興味を示していたことを話した。すると、お土産としてお菓子を持って帰ってもよいというお言葉をいただけた。
 システィーアはすっかり王妃に気を許し、王妃の話はお茶会の時間が来るまで続いた。
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