双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

36.改心

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 サーティスに部屋まで送ってもらったシスティーアは、部屋に入ってすぐに足を止めた。
「お帰りなさいませ、システィーア様」
「お帰りなさいませ」
 初日の自己紹介以来、一度も顔を見ていなかった二人の管理神官の姿がそこにはあった。
 システィーアは踵を返して、そっと部屋の扉を開けると、廊下と部屋の中を交互に確認する。
「システィーア様、何をしていらっしゃるのですか?」
「その、部屋を間違えたのかと思いまして」
 へらりと愛想笑いを浮かべてそう答えると、紫の髪をオールバックにした四角眼鏡の青年が眉間に皺を寄せた。
「正真正銘、システィーア様の部屋で間違いございません」
「そ、そうですか⋯⋯」
 ソワソワと視線を漂わせていると、二人の管理神官が歩み寄ってくる。
 思わずたじろいだシスティーアの前に、二人は膝をついて首を垂れた。
「システィーア様、申し訳ありませんでした」
 謝罪の言葉を口にしたのは、糸目の中年男性だ。
「リーティア様を優先したために、システィーア様を不安にさせてしまいました」
「不安というか⋯⋯本当は、リーティアに仕えたいなら、私はそれで構わないのです。だから、謝罪の必要もありません」
 こっちに顔を出さないでリーティアの方へ行ってくれるのが、システィーアにとっては一番安心できる。だが、護衛云々の面で管理神官は必要だ。まぁ、その護衛が一番危ない可能性があるのだが。
 システィーアがぼんやりと二人の頭頂部を見ていると、糸目の中年がすっと顔を上げる。
「ありがとうございます、システィーア様。話は変わりますが、リーティア様の体調の話は聞いていらっしゃいますか?」
「はい、精神的なもので体調を崩しているとお聞きしました」
「そういう理由ですので、暫くは管理神官の担当を交換させて頂きたく思います。何かありましたら、私か、こちらのフォトムにお申し付けください」
 システィーアは頭の中で、ぽんと手を打った。
 そんな名前だったな、と。
 糸目中年の名前が思い出せなくて、考え込んでいると二人が立ち上がった。
「次は闇の管理者の宮でお勉強の予定だと聞いております。フォトムをお供にお連れください」
 黙っていたフォトムがテーブルの上から四角い革鞄を手に取ると、システィーアの後ろの扉を開けた。
「どうぞ」
 システィーアは軽く頭を下げて廊下へ出た。

 サーティスの私室に通されたシスティーアは、女性の管理神官に促されて、彼が座る机の向かい側に座った。その隣にフォトムが立つ。ふと、その顔を見上げたシスティーアは、目を瞬かせた。
 硬い表情をしたフォトムは、先程から視線を落としたままだ。まるで緊張しているかのようにも見える。
 けれど室内にはサーティスと清楚そうな女性の二人だけだし、部屋の造りはシスティーアの部屋と大差ない。家具が違う程度だ。
「フォトムは、体調でも悪いのですか?」
 フォトムの落とした視線が、ギロリとこちらを睨むように動く。
「何も、問題ございません」
 システィーアが睨まれたことにムッとすると、向かいにいたサーティスが表情を変えずに口を開いた。
「私がいるからだろう」
 言われた意味が分からなくて、システィーアは首を傾げた。
「闇の管理者の魔力は、不快感を感じるらしい。システィーアの腕に魔力を流した時と同じような感じがするのだそうだ」
 そう言えば、サーティスのコートを手にしていたリプルも、フォトムのように緊張した顔をしていた。彼女は不快感ではなく、畏れ多いと言っていたが。
「私は何も感じません」
「みたいだな」
 引き出しから皮袋を取り出しながらサーティスが答える。
「フォトムみたいに感じる人は多いのですか?」
「多いと言うより、ほぼ全員だろう」
「え? でも、闇の管理神官や他の管理者の方達がそんな素振りしてるの、見たことがありません」
「それはそうだろう。彼らは魔力を上手く動かせるし、慣れているからな。君のように何の訓練も受けていない者が、こうやって目の前で普通に座っている方がおかしい。話は終わりだ。集中」
 システィーアは慌てて胸の辺りにある紋を意識する。自分を覆う緑の蔓が見えたのでほっと息を吐いて顔を上げた。
 サーティスと目が合うと、黒い蔓に覆われた彼がこちらに手を差し出してきた。その手の中心に集まるように黒い蔓が伸びて、球状に固まっていく。それが黒い蕾の形に変わったかと思ったら、一気に花開いた。
「わぁっ⋯⋯!」
 システィーアがあまりの綺麗さに興奮して声を上げている間に、花はすごいスピードで萎れて丸くて黒い実になる。実が蔓からポトンと、サーティスの手に落ちた。
「これが管理者の結晶の作り方」
「凄い! 何これ⁈  綺麗なお花が咲いたかと思ったらすぐに実になって⋯⋯とにかく凄く綺麗!」
 興奮しながらサーティスの顔の方に視線を向けると、あまり表情を変えない彼が目を見開いてこちらを見ていた。
「そう言えば、六神のお力の影響で管理者それぞれ、魔力の見え方が違うらしい。システィーアは地の神の影響で、魔力が植物に見えたのだろう。だから他の誰も、植物など見ていない」
 そう言ってサーティスがフォトムに視線を向けると、彼は色のない顔で小さく頷いた。次いで女性管理神官に目を向けると、彼女も首を縦に振った。
「管理者ではない我々には、急に光が発生して結晶が出現したように見えます」
 女性管理神官の言葉に、システィーアは少しがっかりした顔で、サーティスの黒い結晶を見た。
「分かち合えないなんて⋯⋯そう言えば、サーティスからはどう見えるのですか?」
「そんなことより、集中が切れている」
 言われて気付いたシスティーアが、慌てて蔓が見えるようにする。
「それの維持の練習と、さっき見せた結晶の作成。結晶作成は管理者の日課だ」
 サーティスがそう言うと、隣に立っていたフォトムが震える手で鞄から大きな巾着を出して、システィーアの目の前に開いた状態で置いた。
「まずは小さい物から作成する。出来た結晶はその袋の中に」
 システィーアは大きく頷いて、自分の掌を見つめた。

 システィーアがサーティスの私室を出たのは、黄昏時。柱にはまっている結晶がほんのりと廊下を照らしていた。
 疲れた顔を整える気力もなく、フォトムの後ろを歩く。
「システィーア様」
 歩きながらフォトムが声をかける。
「サーティス様の魔力を腕に流したと話しておられましたが、その後体調などに変化はございませんでしたか?」
 システィーアは、きょとんとした。
「特に何も変わらなかったです。それよりも、フォトムの方が調子が優れないのではないですか?」
「システィーア様」
 フォトムがぴたりと歩みを止めた。振り向いたフォトムの眉間には深い皺が出来ていて、睨むようにこちらを見ている。
 沈黙が、訪れた。
 負けるものかと、睨み返す。
 するとフォトムが、困ったような顔をしてから、微かに笑った。
「⋯⋯夕食は、すぐに食べに行かれますか?」
 システィーアは虚をつかれて暫く呆けていたが、やがて小さく頷いた。
「はい、すぐに行きたいです。同行をお願いします」
 
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