双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

37.説得

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 テーブルに伏せるシスティーアのすぐ近くに、静かにティーカップが置かれた。ふわりとお茶の匂いが香る。
「システィーア様、お行儀が悪いです」
 フォトムに窘められ、システィーアは渋々体勢を整えた。
 自室でくらい好きにさせて欲しい。
 そう思いながら、溜息をお茶と一緒に飲み込んだ。

 サーティスに魔法を教わるようになってから、数日。
 午前中は闇の管理者の宮へ行き、午後は自室でフォトムから魔法以外のことを教わる。
 闇の管理者の部屋で初めて魔法を教わった日から、管理神官達から感じた、歓迎されていないような冷たい感じが、フォトムからはしなくなった。むしろ、マメにこちらの動向を伺う執事のように頼もしくなった。
 最初はやはり暗殺の可能性のある管理神官なので、警戒はしていた。でも、部屋の隅を魔法で囲って寝るシスティーアをおにぎりでベッドに誘導しようとしたり、ご褒美におにぎりを準備してくれていたりなど、細やかな気配りでお世話されていたせいだろう。警戒心はいつの間にか霧散してしまった。
 フォトムは見た目通り、真面目な人でもあった。予定していた時間より早くに学習内容を終えれば、そこに追加で詰め込んでくる。逆に予定していた時間以上かかった場合は、予定していた内容が終わるまで延長される。
 こんなに詰め込んで勉強するなんて、前世の受験やテスト前くらいだ。おにぎりがあるおかげで辛うじて耐えている。だが、そろそろ休日が欲しい。
「フォトム」
「はい」
「私、もう七日以上、朝はサーティスに見てもらって、昼からはフォトムに教えてもらってるわ。お休みの日は一体いつなの?」
「何を言っているのか、分かりかねます」
 フォトムが眉間に皺を寄せて、睨むようにシスティーアを見た。 
 リプルに聞いた話によると、フォトムがこちらを睨んでくる時は大抵、悩んでいる時が多いらしい。
「毎日ずっと勉強ばかりでは効率が悪いから、お休みが欲しいと言っているの」
「⋯⋯夜、きちんと寝ていないのですか?」
 お互いがお互いを見て、目を瞬かせる。
「休日、休暇、休息日!」
「あぁ。休暇ですか」
 フォトムがポンと手を叩く。それから難しい顔をして、前で腕を組んだ。
「水不足により魔物があちこちで発生していて、皆、寸暇を惜しんで対処していますからね⋯⋯。リーティア様のおかげで疫病は終息に向かっていますが」
「え? 汚水による疫病⋯⋯だったかしら? 魔法を使わない浄水方法は、確か、レプリシア王国が発表したのでは」
 言っていて、システィーアはハッとした。主人公リーティアは、レプリシアの王女だ。
 フォトムがシスティーアの様子を見て、まるで自分のことのように誇らしげにこくりと頷いた。
「リーティア様の発案によるものです」
 システィーアは、フォトムの顔を見て理解した。
 片や、水不足時に浄化方法を発案した大国の王の娘。
 片や、我が儘、傍若無人で癇癪持ちな貴族令嬢。
 どちらかを選ぶなら、当然、前者だろう。ゲームではそんな情報は出て来なかったが、管理神官達が主人公に傾倒した理由はきっとこれだったのだ。
「⋯⋯聞いていますか? システィーア様」
 フォトムの声に、システィーアは慌てて返事をする。
「せめて水不足が解消されて、他の者達にもゆとりが出来てからでなければ、休暇を取るのは難しいです。それに、私が言うのも心苦しいですが、管理者としての責務も果たさない、悪評通りの人物か、と口さがない者達は言うでしょう。それは今のシスティーア様にはマイナスにしかなりません」
 システィーアは首を傾げた。
「ねぇ、フォトム」
「はい」
「悪評が流れている時点で、私は皆から既にマイナスに見られている。そうでしょう?」
 フォトムが言葉を濁して視線を落とすのを見て、システィーアはにっこりと笑ってみせた。
「今更だわ。壁の管理者を選ぶのは、他の管理者なのでしょう? なら、他の者がどう思おうと問題ではないと思うの。そんなことよりも、早急な修繕を必要とするのだから、休暇を取って心を休ませることで効率を上げたいと、私は言っているの」
 どの道、この世界の崩壊を防ごうと思うのなら、システィーアが管理者になってはならない。主人公がならなくてはいけないはずだ。だとすると、システィーアの悪評はあった方がいい。今後、海苔が食べれるかどうかがかかっているので、魔法の修練には全力を入れるが。
「さぼるための言い訳にしか聞こえないのですが」
 眉間に皺を寄せてこちらを睨み見るフォトムに、システィーアは思いきり溜息を漏らした。
「魔力は使い過ぎれば枯渇する。心だって同じなのよ。楽しみやご褒美で、頑張ろうって気持ちを補給するの。だからさぼる訳ではないわ。どれだけ効率が変わるか、一度試してみたらわかるわ」
 システィーアは飲みかけのお茶をそのままに、そそくさと扉へと向かった。
「システィーア様!」
 対応に困ったフォトムが、システィーアの後を追う。
 白い廊下をずんずん進んでいくシスティーアの腕を掴もうとしたフォトムの手が、掌サイズの壁の魔法に阻まれる。
「フォトム、もしも連れ戻すつもりなら、私はもっと大きな壁を作るわ」
 真剣にシスティーアがそう言うと、フォトムは両手を上げて溜息を吐いた。
「わかりました。今日はシスティーア様に従いますから、そのような魔力の無駄遣いはおやめください。ただし、今日だけです。それと、効率云々の判断は私がつけさせてもらいます。よろしいですか?」
「よっし!」
 思わずガッツポーズをしたシスティーアを、フォトムがギロリと見る。
「お行儀が悪いですよ」
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