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西の転生者
40.手紙
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システィーア達を囲むように移動した彼等は、全員が灰色のフード付きマントを羽織っていた。
その数、五人。
システィーアは早くなった自分の鼓動を感じて、胸元を強く両手で押さえた。
五人も後を追ってきていたのに、今の今、姿を表すまで全く気が付かなかった。サーティスに言われてからずっと、魔力の蔓が見える状態のままにしていたというのに、だ。
「何用か」
ライガーの冷静な声が響く。
五人の中で中央に立つ人物が、ぱさりとフードを脱いだ。くすんだ金の髪と金眼の、頬が痩けた男だった。
「どうも、闇の管理者様方。私らはそちらのお嬢様宛に手紙を預かっていましてね。少々お嬢様をお貸しいただけないかと」
男が懐から一枚の封筒を取り出す。
「⋯⋯手紙?」
緊張からか、掠れた小さな声がシスティーアの口からこぼれる。
にっこりと笑う男が、手紙を持つ手をこちらへと向ける。
「ご家族の方からですよ」
⋯⋯お父様から⁈
システィーアは、大きく目を見開いて男を見た。
父からの手紙は、喉から手が出るほど欲しい。けれど。
今の状況がシスティーアに、二の足を踏ませた。
男の薄っぺらい笑みに、全員が揃いのマント。男が話している間に、湖を背にしたシスティーア達を中心にして、半円状に広がって行く手を塞いでいる。包囲しているとしか思えない。
それに、手紙を届ける為だけに、父が五人も雇うとは思えない。雇用費の無駄だ。
「直接システィーア様にお渡しするよう、言付かっております」
男は手紙を受け取ろうとしたライガーから数歩距離をとってそう言った。
「その手紙」
フードを目深に被ったサーティスが、システィーアの前に出る。
「システィーアの家族から直接手渡されたものではあるまい。どこの誰に依頼された?」
「⋯⋯おっしゃる通り、直接お預かりしたものではありません。その、依頼者の情報は、契約上、教えられません」
男が変わらぬ様子で話し始めると、サーティスの魔力の蔓が足元からゆっくりと、灰色のマントを着た五人の方へそれぞれ伸びていく。じわじわと黒い蔓が伸びて近づくにつれ、男の顔色が変わる。
「火の契約か?」
「⋯⋯はい」
「依頼内容は本当に手紙を渡すだけか?」
冷や汗を流しながら、男は硬直した。時折、口をはくはくと動かすが声は出ない。
「うああああああっ!」
突然の叫び声に、システィーアは思いきり肩をびくつかせた。
声のした方を見ると、一番端に立っていた灰色マントを羽織った人が、その場でナイフを振り回している。まるで気でも触れたかのようだ。
それを見たサーティスから、小さな溜息が零れた。
「本当の目的は管理者の命か」
「違っ⋯⋯チッ」
言葉を途中で止めて、男は面倒くさそうな顔で舌打ちした。
「ああもう、面倒くせぇ。折角の好機に、何で闇のと一緒に行動してんだよ。さっさと受け取りに来りゃいいのに、動かねえし。本当、面倒くせぇ」
男がぱっと手紙から手を離す。ひらりひらりと手紙が地に落ちると、すらりと長い刃物⋯⋯剣を取り出した。剣を持つ手は、側から見てもわかるほどに小刻みに震えている。
「おい、殺るぞ!」
男の左右に立つ二人が、やはり震えながら、ゆっくりと得物を取り出す。
「あ、あああああっ!」
自分を奮い立たせるように大きな声をあげた男が、剣を振り上げて突っ込んでくる。それと同時に男の仲間の得物を取り出していた片方も、同じように突っ込んでくる。もう片方は叫び声をあげながら、こちらに背を向けて走り出す。
ライガーが男の剣を軽々といなし、いつの間にか棒状になっている腰紐で遠くに薙ぎ払う。
もう一人も同じようにいなして、棒で腹部を突く。
あっという間の出来事にシスティーアが呆然としていると、再び叫び声が聞こえた。
そちらを見ると、逃走を選んだ一人と、それを見て続いたと思われる一人が、黒い蔓に巻き付かれた状態でうつ伏せに倒れていた。意識があるのかはここからでは分からないが、手足が痙攣しているのか、ひくついているのが見える。
システィーアは口元を両手で押さえながら、恐怖で震える自身をなるべく縮めて堪える。
「管理者に手を出すは、管理者を選んだ神に逆らうに等しい。大罪を犯しておいて、逃げられると思わないことだ」
そう言ったライガー目掛けて、立ち上がった男が剣を片手に、再び突っ込んでくる。
ライガーがまた簡単にいなし、足を引っ掛けて転ばせる。
男は再度立ち上がろうとしたが、うまくいかずに頭を押さえて蹲った。
「何の、これしき⋯⋯」
歯を食いしばって顔を上げた男は、青かった顔を白くして目を見開いた。
視線の先にはフードから顔を出したサーティスがいる。
「ひっ⋯⋯」
怯えながらもすごい速さで、男は地面に額をこすりつけた。
「話はとりあえず監獄で聞くか」
冷たく見下ろすサーティスがそう言った時に、タイミングよく馬車の音が聞こえてきた。
じっと目を凝らしてみていると、御者台にフォトムの姿が見えた。
知っている者の登場に、システィーアは小さく息を吐いた。
馬車が目の前に止まると、ライガーが黒い蔓の巻き付いた男たちを積み込んでいく。
「これは一体⋯⋯」
驚いているフォトムにライガーがかいつまんで説明すると、明らかにホッとした顔でシスティーアを見た。
「闇の管理者であるサーティス様が一緒だったので心配の必要はなかったでしょうが、ご無事で安心しました」
システィーアがフォトムに小さく頷いて返すと、ひょいっとサーティスに持ち上げられた。
ぎょっとしてサーティスを見るが、再びフードを被っていて顔は見えない。
「乗車定員数超えているので安全とは言い切れないが、ここに残るよりはいいだろう」
サーティスがフォトムの隣にシスティーアを降ろす。そしてその隣にサーティスが腰掛けた。
すぐに馬車は動き出し、システィーアは左右を見てからほっと息を吐いた。一先ず、山場は越したようだ。
ホッとしたのも束の間。父からの手紙のことを思い出し、システィーアは目的地に到着するまで、意気消沈して手を強く握りしめた。
その数、五人。
システィーアは早くなった自分の鼓動を感じて、胸元を強く両手で押さえた。
五人も後を追ってきていたのに、今の今、姿を表すまで全く気が付かなかった。サーティスに言われてからずっと、魔力の蔓が見える状態のままにしていたというのに、だ。
「何用か」
ライガーの冷静な声が響く。
五人の中で中央に立つ人物が、ぱさりとフードを脱いだ。くすんだ金の髪と金眼の、頬が痩けた男だった。
「どうも、闇の管理者様方。私らはそちらのお嬢様宛に手紙を預かっていましてね。少々お嬢様をお貸しいただけないかと」
男が懐から一枚の封筒を取り出す。
「⋯⋯手紙?」
緊張からか、掠れた小さな声がシスティーアの口からこぼれる。
にっこりと笑う男が、手紙を持つ手をこちらへと向ける。
「ご家族の方からですよ」
⋯⋯お父様から⁈
システィーアは、大きく目を見開いて男を見た。
父からの手紙は、喉から手が出るほど欲しい。けれど。
今の状況がシスティーアに、二の足を踏ませた。
男の薄っぺらい笑みに、全員が揃いのマント。男が話している間に、湖を背にしたシスティーア達を中心にして、半円状に広がって行く手を塞いでいる。包囲しているとしか思えない。
それに、手紙を届ける為だけに、父が五人も雇うとは思えない。雇用費の無駄だ。
「直接システィーア様にお渡しするよう、言付かっております」
男は手紙を受け取ろうとしたライガーから数歩距離をとってそう言った。
「その手紙」
フードを目深に被ったサーティスが、システィーアの前に出る。
「システィーアの家族から直接手渡されたものではあるまい。どこの誰に依頼された?」
「⋯⋯おっしゃる通り、直接お預かりしたものではありません。その、依頼者の情報は、契約上、教えられません」
男が変わらぬ様子で話し始めると、サーティスの魔力の蔓が足元からゆっくりと、灰色のマントを着た五人の方へそれぞれ伸びていく。じわじわと黒い蔓が伸びて近づくにつれ、男の顔色が変わる。
「火の契約か?」
「⋯⋯はい」
「依頼内容は本当に手紙を渡すだけか?」
冷や汗を流しながら、男は硬直した。時折、口をはくはくと動かすが声は出ない。
「うああああああっ!」
突然の叫び声に、システィーアは思いきり肩をびくつかせた。
声のした方を見ると、一番端に立っていた灰色マントを羽織った人が、その場でナイフを振り回している。まるで気でも触れたかのようだ。
それを見たサーティスから、小さな溜息が零れた。
「本当の目的は管理者の命か」
「違っ⋯⋯チッ」
言葉を途中で止めて、男は面倒くさそうな顔で舌打ちした。
「ああもう、面倒くせぇ。折角の好機に、何で闇のと一緒に行動してんだよ。さっさと受け取りに来りゃいいのに、動かねえし。本当、面倒くせぇ」
男がぱっと手紙から手を離す。ひらりひらりと手紙が地に落ちると、すらりと長い刃物⋯⋯剣を取り出した。剣を持つ手は、側から見てもわかるほどに小刻みに震えている。
「おい、殺るぞ!」
男の左右に立つ二人が、やはり震えながら、ゆっくりと得物を取り出す。
「あ、あああああっ!」
自分を奮い立たせるように大きな声をあげた男が、剣を振り上げて突っ込んでくる。それと同時に男の仲間の得物を取り出していた片方も、同じように突っ込んでくる。もう片方は叫び声をあげながら、こちらに背を向けて走り出す。
ライガーが男の剣を軽々といなし、いつの間にか棒状になっている腰紐で遠くに薙ぎ払う。
もう一人も同じようにいなして、棒で腹部を突く。
あっという間の出来事にシスティーアが呆然としていると、再び叫び声が聞こえた。
そちらを見ると、逃走を選んだ一人と、それを見て続いたと思われる一人が、黒い蔓に巻き付かれた状態でうつ伏せに倒れていた。意識があるのかはここからでは分からないが、手足が痙攣しているのか、ひくついているのが見える。
システィーアは口元を両手で押さえながら、恐怖で震える自身をなるべく縮めて堪える。
「管理者に手を出すは、管理者を選んだ神に逆らうに等しい。大罪を犯しておいて、逃げられると思わないことだ」
そう言ったライガー目掛けて、立ち上がった男が剣を片手に、再び突っ込んでくる。
ライガーがまた簡単にいなし、足を引っ掛けて転ばせる。
男は再度立ち上がろうとしたが、うまくいかずに頭を押さえて蹲った。
「何の、これしき⋯⋯」
歯を食いしばって顔を上げた男は、青かった顔を白くして目を見開いた。
視線の先にはフードから顔を出したサーティスがいる。
「ひっ⋯⋯」
怯えながらもすごい速さで、男は地面に額をこすりつけた。
「話はとりあえず監獄で聞くか」
冷たく見下ろすサーティスがそう言った時に、タイミングよく馬車の音が聞こえてきた。
じっと目を凝らしてみていると、御者台にフォトムの姿が見えた。
知っている者の登場に、システィーアは小さく息を吐いた。
馬車が目の前に止まると、ライガーが黒い蔓の巻き付いた男たちを積み込んでいく。
「これは一体⋯⋯」
驚いているフォトムにライガーがかいつまんで説明すると、明らかにホッとした顔でシスティーアを見た。
「闇の管理者であるサーティス様が一緒だったので心配の必要はなかったでしょうが、ご無事で安心しました」
システィーアがフォトムに小さく頷いて返すと、ひょいっとサーティスに持ち上げられた。
ぎょっとしてサーティスを見るが、再びフードを被っていて顔は見えない。
「乗車定員数超えているので安全とは言い切れないが、ここに残るよりはいいだろう」
サーティスがフォトムの隣にシスティーアを降ろす。そしてその隣にサーティスが腰掛けた。
すぐに馬車は動き出し、システィーアは左右を見てからほっと息を吐いた。一先ず、山場は越したようだ。
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