双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

46.サーティスの戸惑い3

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「これで現状をきちんと理解してくださるといいですね」
 システィーアを連れた監獄の見回りを終えて、サーティスが自室に戻ると、ライガーがそう言いながら小さな溜息を漏らした。
 予定外のことが多すぎて、疲れたのだろう。それに、滲み出た闇の魔力を近くで受けたのだ。耐えることが出来るように訓練をしていても、全く平気なわけではないのだと以前聞いたし、あの時のライガーの顔色はかなり悪かった。けろっとしていたのは、システィーアくらいだ。
「皆が私の魔力に当てられて顔色を悪くしていた時の彼女の反省具合と比べて、反応の違いが一目瞭然だった。大丈夫だろう。今日はもう休む。執務室のイーギスとエレーナにも伝えたら、皆そのまま下がってくれて良い。明日まとめて片付けよう」
「お気遣い、感謝致します」
 テキパキと湯殿の準備をしてから、ライガーが頭を下げて部屋を出て行く。
 サーティスは湯殿へ向かうと、疲れと一緒にゆっくりと息を吐いた。

 いつもより少し早い時間に目を覚ましたサーティスは、支度を整えると執務室へと向かった。
「おはようございます、サーティス様」
 既に起きて仕事をしていたイーギスから昨日の報告を受けて、未処理の書類を受け取る。
「今日の午後の出張の同行者なのですが」
「ライガーの調子次第では変更で構わない」
「では後程」
 イーギスに頷いて執務室を出る。自室に戻るとすぐに机に向かってペンを取った。
 身体を動かしていないので、外に出るより体力の消費が抑えられるはずなのだが、長時間の書類仕事はそれ以上に疲れる。
 ふと、昨日の、お店でぽやっとしていたシスティーアを思い出す。
 あの時の感情の揺れや、システィーアの対処に比べたら、書類仕事の方がまだ楽だ。
 サーティスは黙々と仕事をこなした。

 いつの間にか、起床時間になったのだろう。部屋にライガーが来るのを感じて顔を上げた。
 しかし、ライガーの魔力がいつもと違う。魔力が忙しなく揺れ動いて、落ち着かない様子だ。
 何かあったのだろうか。
 ペンを置いてライガーが来るのを待つ。
「おはようございます、サーティス様」
 静かに開けた扉からライガーが入って来る。
「何があった?」
 問うと、ライガーは困り顔で口を開いた。
「システィーア様が壁の中から出られなくなったので、助けてもらえないか、とフォトムが⋯⋯」
「壁の中から出られない?」
 意味がわからない。
 一体、システィーアは朝から何をしているのか。
 部屋の外にフォトムがいることは魔力で確認出来る。
「取り敢えず話を聞く」
 ライガーによって開かれた扉から、システィーア付きの管理神官フォトムが入ってきた。
「おはようございます、サーティス様」
 ライガーより魔力の揺れが激しい。かなり動揺しているようだ。
「何があった? 詳細に頼む」
「はい。システィーア様を起こしにお部屋へ行くと、ベッドが壁魔法で覆われていました。魔法を使ったのはシスティーア様で間違いないようなのですが、解除の仕方がわからなくて外に出られなくなっています。私は水魔法専攻で壁魔法は学んでいないので、年長の管理神官であるリーズを呼ぼうとしたのです。けれどシスティーア様が⋯⋯サーティス様にお願いするように、と」
 サーティスは息を吐きながら額を抑えた。
「⋯⋯リーズか」
 以前、管理者候補を蔑ろにしている問題を調べるために壁の管理神官達と一人ずつ話したが、リーズは最後まで調査など不必要だと言い張っていた。
 壁の管理者の宮のことは宮内の者で片付けるから口を出してくるなと、遠回しに言ってきたのだ。闇の管理者を前にしていたせいか魔力はかなり乱れていたが、それでもその考えが変わることはなかった。
 しかし、壁の管理神官達の中では、最もシスティーアに対して良くない感情をもっていたのは彼女であった。とはいえ、犯罪者達のような魔力の動きは見られなかったし、過激な言動があったわけではない。思うところがあってもこちらの話はきちんと聞いていたので、今のところは問題ないと判断した。
 見習いの片方は不在で見てはいないが、もう片方の見習いが、両方の管理者候補に好意的だったこともあり、最悪の場合は管理者候補の二人がリーズを次代に交代させればいい。
 そう、考えていた。
 管理者が困った時に頼るのを嫌がることが続くようなら、その者はもう管理神官ではない。

 取り敢えずリーズのことは後にするとして、サーティスはコートを掴むと部屋の外へと向かった。
「壁の管理神官であるのなら、壁の魔法についてもある程度学ぶべきだ。普通は見習いの時分に年配の管理神官から教わるものだろう?」
 確認のためにライガーの方をちらと見る。
「はい、そのはずです」
 通り過ぎ様に、酷く驚いたような顔をしているフォトムが視界に入った。
 当たり前のことを教わっていなさすぎる。
 サーティスには壁の管理神官達が、本来の役割を果たせているとは思えなかった。
 主人である管理者の不在期間が多かった為に上からの忠言もなく、他の管理者の元へ出向くことがないので他と比較することもない。他の宮のことに口を出さないという暗黙の決まりもあるので、他の管理神官達との繋がりもなくなる。
 先代や先先代の時には、何故問題にならなかったのだろうか。その辺りを調べてみる必要がありそうだ。まずはゼネルに聞いてみるべきか。
「ライガー、後でゼネルに面会予約を。急ぎではない」
「はい」
 システィーアの部屋の前まで来ると、フォトムが前に進み出て扉を開けた。
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