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西の転生者
47.壁魔法の解除方法
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「サーティス」
フォトムに連れられて部屋に入ってきたサーティスを見て、システィーアは胸を撫で下ろした。
他の宮のことだから宮の中だけで片付けるようにと言われる可能性があったし、ケーヴィンが朝食の時間に来るかもしれなかった。それに、ケーヴィンがこの状態を見れば、リーズを呼ぶ可能性が高い。フォトムがそうしようとしたように。
リーズかケーヴィンか⋯⋯どちらが殺しに来るのかは分からないが、わざわざ弱みを見せる必要はない。
「システィーア、何故あちこちに壁がある?」
サーティスの視線の先を見ると部屋の隅にある、上と側面二つを塞いだ壁魔法に注がれていた。
「この部屋の外にも小さい壁が通路の中央に浮いていたが、あれも君の仕業だと聞いた。無駄に魔力を使うということは、さぞかし沢山の結晶ができているのだろうな?」
サーティスの整った顔が、表情を変えずにシスティーアをじっと見る。
システィーアは怒られそうな気配を察知して、視線を泳がせながら座り直した。正座だ。
「このベッドにかかっている分は寝ながら魔法を使ってしまったみたいで、その⋯⋯あまりよく覚えていなくて。そこの壁際にある分は、普段私がそちらで寝ている為です。廊下のは⋯⋯」
「普段? ベッドではなくて、あちらで寝ている?」
「はい。壁魔法の中で」
眉間を少し寄せたサーティスが、腕を組んで押し黙る。
システィーアは項垂れながら、ちらちらとサーティスの方を見た。彼の魔力に変化はない。
とんとんと指を腕に打ち付けるような動作をしていたサーティスは、システィーアを見つめた。
「この部屋では安心して眠れない、ということか?」
「この部屋というよりもこの宮では。出来るのなら、ずっと壁の中に居たいです」
正直に答えると、サーティスの片手がベッド周りの魔法壁にそっと触れた。
「私やフォトムも怖いか?」
サーティスの質問に、フォトムが固まった顔でこちらを見る。
システィーアはゆるりと首を横に振った。
「いいえ、二人とも怖くないです」
魔力を見ているのだろう。サーティスはこちらを見たままで頷いた。
「私は今日、昼から出張がある。ついてくる気はあるか?」
突然の誘いに、システィーアは目を瞬かせた。
「宮に居たくないのであれば丁度良い。実践を通して学んだ方が、理解が早いしすぐに覚えられる」
この宮から出られる?
外に行けば、生き残れる他の方法を模索することが出来るかもしれない。
「座学の方に問題がなければ、だが」
サーティスとシスティーアが同じタイミングでフォトムを見る。
「予定より進んでますので、問題ございません」
フォトムの言葉に、システィーアはぱっと喜色を顔に浮かべた。
「ならお願いします。その、ここから出られたら、になりますが」
飛びつくように返事をした後、自分の現状を思い出したシスティーアは、目の前の半透明な壁を軽く叩いた。
サーティスが観察するように辺りを見回し、暫くしてからゆっくりと口を開いた。
「壁に触れた状態で、指先から外に押し出すイメージで魔力を流しなさい。少しずつ、ゆっくりと探るように」
システィーアは言われるままに魔力の蔓を伸ばしていく。触れているところから、ピキリと小さなヒビがのびる。
「もっとゆっくり、少しずつ。そう、そのくらいゆっくりで、もっと絞って少しずつ」
壁に根を張るように、人差し指から伸びた細い糸が壁の緑に絡まっていく。それと同時に、何者も通さない強い意志のようなものが壁から伝わってくる。糸をぐいぐいと押し返して抵抗する様は、まるで生き物のようだ。
「自分が通れるように調整しなさい。自分の意思を魔力に乗せて、壊さないように気をつけながらねじ伏せて上書きするんだ」
「⋯⋯え? ねじ伏せる?」
ぐっと壁からの反発を押さえ込もうとすると、指先から出ている魔力の線が太くなって壁のヒビが大きくなる。慌てて魔力を細くし直してから上書きを試みるが、挑戦する度に壁のひび割れが拡がっていく。
「あの、これ、壊れそうなのですが、割れても大丈夫なものなのでしょうか」
恐る恐るシスティーアが尋ねると、サーティスは首を縦に振った。
「おそらく、壊れるだけだ」
「えっ」
おそらくって、何?
システィーアが動揺した途端に、キンッと高い音がした。
固まったまま動かないシスティーアの上から、ガラス片のように光を反射した壁が落ちてくる。音もなくはらはらと落ちてきた欠片は、システィーアに触れる事なく溶けるように消えていく。
システィーアは目を瞬かせて、その様子を見ていた。管理室で見た、壊れかけの世界の模型から零れ落ちていた水によく似ている。
「使われている魔力と同等かそれ以上であれば、今のように簡単に魔法を壊すことは出来る。ただ、魔法によっては破壊と同時に発動する魔法も多い。あまりおすすめは出来ない」
「おすすめは出来ないって、それなら始めに言って欲しかったです。壊れてからでは遅いではないですか」
抗議するシスティーアを、サーティスが不思議そうに見つめる。
「この壁の頑なさからすると、今の君では壊す以外に方法はない。よい練習になっただろう?」
淡々と返すサーティスに見下ろされて、システィーアは喉元まで出てきていた反論の声を飲み込んで質問をすることにした。
「発動する魔法というのは、どういうものなのですか?」
「主に攻撃魔法。稀に呪いをかけてくるものもある。魔法の解除が出来るのは上級神のお力だけだから壁に限らず、解除することも増えるだろう。壁を直すときにも必要だ。練習を怠らないように」
「上級神?」
「闇の神、光の神、地の神の三神のことですよ、システィーア様。魔法は、六神が世界に満たして下さっているお力をお借りして使えるものです。その六神の中でもお力が強い三神が、上級神となります」
フォトムの説明に頷いていると、サーティスがくるりと背中を向ける。
「昼食後には出発するので、今日の午前中の時間は準備にあてなさい」
システィーアが返事をするより早く、サーティスは部屋から出て行った。
フォトムに連れられて部屋に入ってきたサーティスを見て、システィーアは胸を撫で下ろした。
他の宮のことだから宮の中だけで片付けるようにと言われる可能性があったし、ケーヴィンが朝食の時間に来るかもしれなかった。それに、ケーヴィンがこの状態を見れば、リーズを呼ぶ可能性が高い。フォトムがそうしようとしたように。
リーズかケーヴィンか⋯⋯どちらが殺しに来るのかは分からないが、わざわざ弱みを見せる必要はない。
「システィーア、何故あちこちに壁がある?」
サーティスの視線の先を見ると部屋の隅にある、上と側面二つを塞いだ壁魔法に注がれていた。
「この部屋の外にも小さい壁が通路の中央に浮いていたが、あれも君の仕業だと聞いた。無駄に魔力を使うということは、さぞかし沢山の結晶ができているのだろうな?」
サーティスの整った顔が、表情を変えずにシスティーアをじっと見る。
システィーアは怒られそうな気配を察知して、視線を泳がせながら座り直した。正座だ。
「このベッドにかかっている分は寝ながら魔法を使ってしまったみたいで、その⋯⋯あまりよく覚えていなくて。そこの壁際にある分は、普段私がそちらで寝ている為です。廊下のは⋯⋯」
「普段? ベッドではなくて、あちらで寝ている?」
「はい。壁魔法の中で」
眉間を少し寄せたサーティスが、腕を組んで押し黙る。
システィーアは項垂れながら、ちらちらとサーティスの方を見た。彼の魔力に変化はない。
とんとんと指を腕に打ち付けるような動作をしていたサーティスは、システィーアを見つめた。
「この部屋では安心して眠れない、ということか?」
「この部屋というよりもこの宮では。出来るのなら、ずっと壁の中に居たいです」
正直に答えると、サーティスの片手がベッド周りの魔法壁にそっと触れた。
「私やフォトムも怖いか?」
サーティスの質問に、フォトムが固まった顔でこちらを見る。
システィーアはゆるりと首を横に振った。
「いいえ、二人とも怖くないです」
魔力を見ているのだろう。サーティスはこちらを見たままで頷いた。
「私は今日、昼から出張がある。ついてくる気はあるか?」
突然の誘いに、システィーアは目を瞬かせた。
「宮に居たくないのであれば丁度良い。実践を通して学んだ方が、理解が早いしすぐに覚えられる」
この宮から出られる?
外に行けば、生き残れる他の方法を模索することが出来るかもしれない。
「座学の方に問題がなければ、だが」
サーティスとシスティーアが同じタイミングでフォトムを見る。
「予定より進んでますので、問題ございません」
フォトムの言葉に、システィーアはぱっと喜色を顔に浮かべた。
「ならお願いします。その、ここから出られたら、になりますが」
飛びつくように返事をした後、自分の現状を思い出したシスティーアは、目の前の半透明な壁を軽く叩いた。
サーティスが観察するように辺りを見回し、暫くしてからゆっくりと口を開いた。
「壁に触れた状態で、指先から外に押し出すイメージで魔力を流しなさい。少しずつ、ゆっくりと探るように」
システィーアは言われるままに魔力の蔓を伸ばしていく。触れているところから、ピキリと小さなヒビがのびる。
「もっとゆっくり、少しずつ。そう、そのくらいゆっくりで、もっと絞って少しずつ」
壁に根を張るように、人差し指から伸びた細い糸が壁の緑に絡まっていく。それと同時に、何者も通さない強い意志のようなものが壁から伝わってくる。糸をぐいぐいと押し返して抵抗する様は、まるで生き物のようだ。
「自分が通れるように調整しなさい。自分の意思を魔力に乗せて、壊さないように気をつけながらねじ伏せて上書きするんだ」
「⋯⋯え? ねじ伏せる?」
ぐっと壁からの反発を押さえ込もうとすると、指先から出ている魔力の線が太くなって壁のヒビが大きくなる。慌てて魔力を細くし直してから上書きを試みるが、挑戦する度に壁のひび割れが拡がっていく。
「あの、これ、壊れそうなのですが、割れても大丈夫なものなのでしょうか」
恐る恐るシスティーアが尋ねると、サーティスは首を縦に振った。
「おそらく、壊れるだけだ」
「えっ」
おそらくって、何?
システィーアが動揺した途端に、キンッと高い音がした。
固まったまま動かないシスティーアの上から、ガラス片のように光を反射した壁が落ちてくる。音もなくはらはらと落ちてきた欠片は、システィーアに触れる事なく溶けるように消えていく。
システィーアは目を瞬かせて、その様子を見ていた。管理室で見た、壊れかけの世界の模型から零れ落ちていた水によく似ている。
「使われている魔力と同等かそれ以上であれば、今のように簡単に魔法を壊すことは出来る。ただ、魔法によっては破壊と同時に発動する魔法も多い。あまりおすすめは出来ない」
「おすすめは出来ないって、それなら始めに言って欲しかったです。壊れてからでは遅いではないですか」
抗議するシスティーアを、サーティスが不思議そうに見つめる。
「この壁の頑なさからすると、今の君では壊す以外に方法はない。よい練習になっただろう?」
淡々と返すサーティスに見下ろされて、システィーアは喉元まで出てきていた反論の声を飲み込んで質問をすることにした。
「発動する魔法というのは、どういうものなのですか?」
「主に攻撃魔法。稀に呪いをかけてくるものもある。魔法の解除が出来るのは上級神のお力だけだから壁に限らず、解除することも増えるだろう。壁を直すときにも必要だ。練習を怠らないように」
「上級神?」
「闇の神、光の神、地の神の三神のことですよ、システィーア様。魔法は、六神が世界に満たして下さっているお力をお借りして使えるものです。その六神の中でもお力が強い三神が、上級神となります」
フォトムの説明に頷いていると、サーティスがくるりと背中を向ける。
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