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西の転生者
48.宮外学習
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転移の水魔法に包まれたシスティーアは、まるで貧血を起こした時のように、視界がぐるりと回るのを感じた。バランスを保てなくなりそうになり、きつく目を閉じる。
しばらくして額を抑えながら目を開けると、雲一つない青い空と、石造りの街並み、それを囲うように枯れ木が広がっていた。
「ここがラゼスタ?」
乾燥した大地に走る細いヒビを恐々と跨いで、そろりと辺りを見回す。
一緒に転移してきた黒いフードを目深に被ったサーティスが、システィーアに頷く。
「遺体安置所を探す」
街の方へと歩き出したサーティスの後ろを、紺色のフード付きローブ姿のライガーと女性の管理神官が続いて歩き出す。そのさらに後ろをシスティーアが、紺色のロングコートを着たフォトムを連れて続く。
「すごく乾いた土地ね」
フォトムに聞こえるように声を出すと、前を歩いていたライガーが厳しい顔をして振り返る。
「転移先で不用意にそういった発言をしないよう、気をつけて下さい。ここもそうですが、こういった場所のほとんどが、水不足になる前は緑豊かな場所だったのです。いらぬ反感を買うことになりかねません」
ライガーのピリピリした様子に、システィーアはすぐに首を縦に振った。
余計なことを口にしないように、気をつけよう。
無人の石門をくぐり抜けて、枯れた街路樹が並ぶ閑散とした大通りを歩く。何人かとすれ違ったが、皆痩せ細っていて、遠巻きにじっとこちらを見ていた。何だか居心地の悪さを感じる。
システィーアは視線を意識から追い出すように手を強く握りしめた。
門近くの宿屋へと入り、情報を得たサーティスがこちらを見た。
「一室借りた。君はフォトムと部屋を出ないように。弔いが終わったら呼びに行かせる。その後、壁を張ってもらう」
サーティス達が宿を出て行くのを見送ると、システィーアとフォトムは部屋へと案内された。
続き部屋のあるそこそこ広い部屋で、奥の窓からは大通りが見える。
「この街は水不足がクラングラン王国よりも深刻なのね」
システィーアは靴を脱ぎ捨ててベッドの上に立つ。
ひび割れた大地の上に立つ建物は、遠目から見ても今にも崩れそうに見えるものが多い。
窓から見える大通りを少しの間見てから、ぴょんと飛び降りた。
「システィーア様、お行儀が悪いですよ」
フォトムの小言を聞き流しながら、システィーアは靴を履き直す。
システィーアは以前に海産物を買う為、港街のフリューシェルへ行ったことを思い出していた。海が無くなる程だ。かなり深刻な水不足だと思っていた。けれど思い出してみると、フリューシェルの街から外へと続く道に緑を見ることはできたのだ。街を行き交う人々だって、こんなに不健康に痩せ細っていなかった。
「ねぇ、フォトム。私はこの街のことを何も知らないのだけど、ここはどの辺りにあるの?」
大きな背負いかばんを下ろしたフォトムが、カバンのポケットから地図を取り出した。
「私も出発前に行き先を聞いたので、詳しくは存じません。ラゼスタの街はレルクーア王国にあるそうなので、南の島国⋯⋯この辺りのようですね」
長ソファーに挟まれたテーブルの上に地図を広げて、フォトムが指し示す。
その地図を覗き込むと、レプリシア王国のすぐ南にある島々に指は置かれていた。
「ここは世界の端の方という訳ではないのね」
「世界の端は、既に人の住める場所ではないと聞いています」
「そうなのね。⋯⋯世界の壁を早く直さないと水が増えないから、ずっと故郷に帰れないままになるのね」
フォトムが一瞬、苦い顔でシスティーアを見る。
システィーアが首を傾げると、フォトムは目を伏せて首を横に振った。
「なんでもありません。折角時間があるのですから、魔法の練習でもなさいますか?」
「そうね」
地図を片付けるフォトムを見ながら、システィーアは自分の中心に集中した。かちりとスイッチを切り替えるように、すっと魔力の蔓が見えるようになる。
サーティスは常に魔力の蔓が見えるようにしておくようにと言っていた。けれど、今のシスティーアには呼吸をするように持続させるのはまだ難しい。以前よりはスムーズにオンオフできるようにはなったが、他のことに気を取られるとすぐにオフになってしまうのだ。
「はぁ⋯⋯先は長いわね」
項垂れながら溜息を吐いていたシスティーアは、ふと顔を上げた。なんだか自分の背後の方に大きな魔力を感じる。
初めて見る黄色い魔力だ。嫌な気配ではない。
けれど、システィーアは大通りが見える窓を背にしていた。しかもここは宿屋の三階だ。
不思議に思って後ろを振り返ろうとしたところで、部屋のドアが叩かれた。
「はい」
フォトムが答えて扉を開けにいく。
システィーアも反射的にそちらに視線を向けるが、同時に後ろの魔力が静かに動き出した。
「え⋯⋯?」
身をすくめて振り返ろうとするよりも早く、魔力の持ち主がシスティーアの口に布を当てて塞いだ。
「システィーア様!」
異変に気づいたフォトムの声とともに、金属同士がぶつかり合う高い音が響く。扉を叩いた来訪者の剣とフォトムの短剣だ。
何度か高い音がした時には、システィーアは抵抗する暇もなく、布でぐるぐる巻きに拘束されていた。
「少し、管理者様をお借りする」
すぐ側から男の声がしたと思ったら、室内なのにふわりと風が舞い上がった。
えっ?
と思った時には既にシスティーアは、男に担ぎ上げられて宿屋の窓から外へ連れ出された。
「んー!」
布で口を塞がれたまま、悲鳴をあげた。強い風が顔に当たり、涙が込み上げてくる。
そしてシスティーアを担ぎ上げた男は、そのままぴょんぴょんと辺りの建物を足場にして街中を移動していく。
人の少ない枯れた街では、昼間の大通りでも人は少ない。
男はシスティーアを連れて、さらに人の少なそうな細い路地へと入って行った。
しばらくして額を抑えながら目を開けると、雲一つない青い空と、石造りの街並み、それを囲うように枯れ木が広がっていた。
「ここがラゼスタ?」
乾燥した大地に走る細いヒビを恐々と跨いで、そろりと辺りを見回す。
一緒に転移してきた黒いフードを目深に被ったサーティスが、システィーアに頷く。
「遺体安置所を探す」
街の方へと歩き出したサーティスの後ろを、紺色のフード付きローブ姿のライガーと女性の管理神官が続いて歩き出す。そのさらに後ろをシスティーアが、紺色のロングコートを着たフォトムを連れて続く。
「すごく乾いた土地ね」
フォトムに聞こえるように声を出すと、前を歩いていたライガーが厳しい顔をして振り返る。
「転移先で不用意にそういった発言をしないよう、気をつけて下さい。ここもそうですが、こういった場所のほとんどが、水不足になる前は緑豊かな場所だったのです。いらぬ反感を買うことになりかねません」
ライガーのピリピリした様子に、システィーアはすぐに首を縦に振った。
余計なことを口にしないように、気をつけよう。
無人の石門をくぐり抜けて、枯れた街路樹が並ぶ閑散とした大通りを歩く。何人かとすれ違ったが、皆痩せ細っていて、遠巻きにじっとこちらを見ていた。何だか居心地の悪さを感じる。
システィーアは視線を意識から追い出すように手を強く握りしめた。
門近くの宿屋へと入り、情報を得たサーティスがこちらを見た。
「一室借りた。君はフォトムと部屋を出ないように。弔いが終わったら呼びに行かせる。その後、壁を張ってもらう」
サーティス達が宿を出て行くのを見送ると、システィーアとフォトムは部屋へと案内された。
続き部屋のあるそこそこ広い部屋で、奥の窓からは大通りが見える。
「この街は水不足がクラングラン王国よりも深刻なのね」
システィーアは靴を脱ぎ捨ててベッドの上に立つ。
ひび割れた大地の上に立つ建物は、遠目から見ても今にも崩れそうに見えるものが多い。
窓から見える大通りを少しの間見てから、ぴょんと飛び降りた。
「システィーア様、お行儀が悪いですよ」
フォトムの小言を聞き流しながら、システィーアは靴を履き直す。
システィーアは以前に海産物を買う為、港街のフリューシェルへ行ったことを思い出していた。海が無くなる程だ。かなり深刻な水不足だと思っていた。けれど思い出してみると、フリューシェルの街から外へと続く道に緑を見ることはできたのだ。街を行き交う人々だって、こんなに不健康に痩せ細っていなかった。
「ねぇ、フォトム。私はこの街のことを何も知らないのだけど、ここはどの辺りにあるの?」
大きな背負いかばんを下ろしたフォトムが、カバンのポケットから地図を取り出した。
「私も出発前に行き先を聞いたので、詳しくは存じません。ラゼスタの街はレルクーア王国にあるそうなので、南の島国⋯⋯この辺りのようですね」
長ソファーに挟まれたテーブルの上に地図を広げて、フォトムが指し示す。
その地図を覗き込むと、レプリシア王国のすぐ南にある島々に指は置かれていた。
「ここは世界の端の方という訳ではないのね」
「世界の端は、既に人の住める場所ではないと聞いています」
「そうなのね。⋯⋯世界の壁を早く直さないと水が増えないから、ずっと故郷に帰れないままになるのね」
フォトムが一瞬、苦い顔でシスティーアを見る。
システィーアが首を傾げると、フォトムは目を伏せて首を横に振った。
「なんでもありません。折角時間があるのですから、魔法の練習でもなさいますか?」
「そうね」
地図を片付けるフォトムを見ながら、システィーアは自分の中心に集中した。かちりとスイッチを切り替えるように、すっと魔力の蔓が見えるようになる。
サーティスは常に魔力の蔓が見えるようにしておくようにと言っていた。けれど、今のシスティーアには呼吸をするように持続させるのはまだ難しい。以前よりはスムーズにオンオフできるようにはなったが、他のことに気を取られるとすぐにオフになってしまうのだ。
「はぁ⋯⋯先は長いわね」
項垂れながら溜息を吐いていたシスティーアは、ふと顔を上げた。なんだか自分の背後の方に大きな魔力を感じる。
初めて見る黄色い魔力だ。嫌な気配ではない。
けれど、システィーアは大通りが見える窓を背にしていた。しかもここは宿屋の三階だ。
不思議に思って後ろを振り返ろうとしたところで、部屋のドアが叩かれた。
「はい」
フォトムが答えて扉を開けにいく。
システィーアも反射的にそちらに視線を向けるが、同時に後ろの魔力が静かに動き出した。
「え⋯⋯?」
身をすくめて振り返ろうとするよりも早く、魔力の持ち主がシスティーアの口に布を当てて塞いだ。
「システィーア様!」
異変に気づいたフォトムの声とともに、金属同士がぶつかり合う高い音が響く。扉を叩いた来訪者の剣とフォトムの短剣だ。
何度か高い音がした時には、システィーアは抵抗する暇もなく、布でぐるぐる巻きに拘束されていた。
「少し、管理者様をお借りする」
すぐ側から男の声がしたと思ったら、室内なのにふわりと風が舞い上がった。
えっ?
と思った時には既にシスティーアは、男に担ぎ上げられて宿屋の窓から外へ連れ出された。
「んー!」
布で口を塞がれたまま、悲鳴をあげた。強い風が顔に当たり、涙が込み上げてくる。
そしてシスティーアを担ぎ上げた男は、そのままぴょんぴょんと辺りの建物を足場にして街中を移動していく。
人の少ない枯れた街では、昼間の大通りでも人は少ない。
男はシスティーアを連れて、さらに人の少なそうな細い路地へと入って行った。
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