双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

49.犯人の目的

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 しばらく路地を複雑に進んでから、男は小さな小屋の前で足を止めた。
 その掘立て小屋は、斜めになった木製の支柱に寄り掛かるように建っていた。今すぐにでも倒壊しそうだ。
 その中に、システィーアは淡い緑色の魔力があるのを感じ取った。誰かいるようだ。
 男はシスティーアを担いだまま、そのまますっと中へと入っていく。
「ノア⋯⋯?」
 掠れた女性の声が、隅にあるやや暗いベッドの上から聞こえた。
 男はシスティーアを降ろすと、女性に向かって膝をついた。
「はい。管理者様をお連れしました」
 男によってシスティーアを拘束していた布が、するすると解かれていく。
 それをシスティーアは、ただ立ち尽くしたままで見ていた。
 状況が理解できない。
 薄暗く狭い室内を見回してから入り口の方に視線を向けると、システィーアを連れてきた男が、すっと入り口を塞ぐように立って威圧してきた。どうやら帰す気は無いらしい。
「管理者様。このような場所においでくださいましたのに、何のおもてなしも出来ないこと、お許しください」
 女性が寝台に上半身を起こした体勢のままで軽く頭を下げた。ほつれた糸のように乱れてはいるが、一つに纏められた黒に近い灰色の長い髪。不健康な程に痩せこけた頬と、こちらを見る落ち窪んだ青灰色の瞳に、この倒壊寸前に見える小屋に住んでいるにしては不釣り合いな整った生成りの衣服を着て、綺麗で暖かそうな掛け布をかけている。
 そして、首には黒いモヤの出ている首輪がはまっていた。
 システィーアを管理者と呼ぶからには、フォンベルツ家の娘としてではなく管理者として用があるのだろう。
 システィーアは震えそうになる気持ちを押し込めて、強く手を握る。努めて冷静を装い、女性を見ながらゆっくりと口を開いた。
「私に、何の御用ですか?」
「見てわかるだろう?」
 苛立ったような声色で答えたのは、システィーアの後方に立つ男だ。
「管理神官らしき男を付き従えていたんだ。間違いなく、お前は管理者のはずだろう? 何故、呪いを前にして解除しようとしないんだ」
「⋯⋯呪い?」
「ノア、管理者様に不敬ですよ」
「ですが、管理者のせいで⋯⋯」
「ノア」
 女性のよく通る声に止められて、男がぐっと口を閉じる。
「管理者様はまだお若いですから、代替わりされたばかりなのかもしれません。この若さですし、何年も前のことなどご存知ないでしょう」
 よく分からない話をする二人の横でシスティーアは、この場所がどの辺りなのかを知る為に、フォトムの魔力を探すことにした。
 自分の胸元にある紋に集中する。遠くへ遠くへと蔓を伸ばしていくイメージで広げていくが、思っていたより伸びなかった。
 見覚えのない、何人もの小さな魔力が移動しているのはわかる。だが肝心の、フォトムの魔力は範囲内にはない。
 もっと感知する範囲を広げるには、どうすればいいのだろうか。
 ふと、システィーアは監獄に行く道中でのことを思い出した。あの時、システィーアは襲撃者達の接近に全く気づけなかった。もしかしたらあの時みたいに、見落としている可能性もあるかも知れない。
 広範囲の魔力を感知が出来ないなら、せめてサーティスみたいに精度が高ければ良かったのに。
 小さく溜息を洩らした所で、システィーアは視線に気づいてゆっくりと視線をあげた。
「管理者様?」
 心配そうにこちらを見つめる女性に視線を合わせると、彼女はホッとした様子で息を吐いた。
「管理者様、私の首についている呪いの解除をお願いします」
 魔法の解除のことなら午前中に教わったが、呪いの解除については聞いていない。それとも魔法の解除と呪いの解除は同じなのだろうか。
 どうしたものかと思案しているシスティーアを、男がきつく睨んだ。
「光の管理者は世界の人々に、平等に癒しを与えるはずだろう? 何故、呪いを解くのを渋る? 滅んだ国の出身者は人ではないと、そうお前も言うのか?」
 睨まれたことで肩を震わせて身を縮こませたシスティーアは、大きく目を見開いた。
 今、この男は、光の管理者と言わなかったか?
 システィーアは男から距離を取るように一歩下がってから、首を横に振った。
「元々はお前達の所為だというのに!」
「ノア⋯⋯」
 力無く俯く女性が、男を諫める気配はない。
 システィーアが更に後ずさると、男は怒った勢いで距離を詰めてくる。
「あの、私は⋯⋯」
「お前達管理者がきちんと役目を果たさなかったから、世界から水が失われた」
 システィーアが勇気を出して発した声は、男の声にかき消される。
「水がないから土地は枯れ果て、多くの餓死者が出た。その死者を弔う神官の数が足りず、多くの死者が魔物と化した」
 一歩後ずさると、また一歩詰め寄られる。
「奴らが国内を荒らし回るのを、俺たちでは止めることが出来ない。憎いお前達管理者を待つしか無いんだ!」
 後ずさっていたシスティーアの背中に、トンと何かが当たる。慌てて振り返り、それが隙間だらけの粗末な壁であることを悟って、サッと血の気が引く。
「魔物が浄化されても、何故か水不足は解消されない。また死者が魔物化をし、管理者によって浄化される。それを繰り返すだけだ。死を待つだけの国を、皆、泣く泣く捨てたのだ。そんな、心身共に疲弊した我らを⋯⋯」
 男がぎりりと歯を噛み締め、鋭い目つきでシスティーアを睨みつける。
 逃げ場を失ったシスティーアは息を飲んで、迫ってくる手を見た。
「大国の奴らは弱みに付け込み、家畜のように扱った!」
 胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる。
「っぐ⋯⋯」
「⋯⋯ノア!」
 怖い!
 男の腕を自分から外そうと手に力を入れた瞬間。

 キンッ。

 目の前で高い音がするのと同時に、背後の壁が崩れ落ちる。
 ぐらりと傾ぐ身体に何かが巻きつき、声を上げる暇も無く、後ろへ引っ張られて何かにぶつかった。
「うっ⋯⋯」
 衝撃に声を漏らすと、黒い衣服を纏った腕が胴に回って、引き寄せられるように持ち上げられた。
 はっとして顔を上げた時には、先程まで居た小屋は、埃を巻き上げて瓦礫の山と化していた。
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