双璧の転生者

ミケメコ

文字の大きさ
53 / 57
西の転生者

53.渇望

しおりを挟む
 この世界は不思議だ。
 例えば、半球形の大地。
 例えば、結晶化する血液。
 例えば、魔法。
 ここで暮らす人々にとってはこれが当然のことで、何一つ不思議だなんて思わないのだろう。だから、そう思ってしまう自分はここでは異端者なのかもしれない。
 システィーアはぼんやりとそんなことを思いながら、目の前の光景を見ていた。
 ベッドに横たわっている人の腹部辺りをミルミリアの発光する白い蔓が、まるで包帯のようにぐるぐるまきにしている。それはしばらくすると解かれ、傍で固唾を飲んで立ち尽くしていた女性にミルミリアが声をかけた。泣きながら頭を下げるその女性にミルミリアが、しばらくは安静にさせるように言う。
 立ち上がったミルミリアの後ろに続いて、システィーアは建物の外へと出た。

 呪い解除の手伝いをした翌日から、システィーアはこうしてずっとミルミリアの後をついて回っていた。容体によってはミルミリアの指示の元、壁魔法を使用する。
 ミルミリアは魔力の探知範囲がサーティスより広い。サーティスは悪意ある魔力を感じ取るらしいが、ミルミリアは体調により変質した魔力を探し出すらしい。そうやって光魔法が必要な人を見つけては治療して回るのを、もう何年も前からしているのだという。
 本来これは各地にいる光の神官達の仕事なのだそうだ。以前は、どうしても高い魔力が必要な重篤な病人・怪我人の時のみ、光の管理者が呼ばれていたのだと、ミルミリアが歩きながら教えてくれる。
 元々、闇、光、壁の神官の数は多くなかった。人は闇、光、壁、水、火、風の六種全ての魔力を持って生まれるのが普通なのだが、それぞれの魔力量には個人差があったからだ。なかでも闇、光、壁の三つは一定以上の魔力量を持つ者が極端に少ない。そして一定量の魔力を有していても、それを使いこなせるかはまた別の話になるのだそうだ。
 その元々多くなかった神官の人数をさらに減らす要因となったのが、頻繁に行われた壁の管理者の代替わりだった。
 壁の管理者の不在期間が長い為に世界の壁にヒビが入り、水が不足し、死者が増えて魔物が蔓延る。干からびた大地が急激に増加し、食糧難の国が相次ぐ。それによって、今まで国に保護されていたはずの光の神官達が、殆どの国で使い潰されていく。かといって国の保護下から出ようものなら、金銭目当ての者などに簡単に誘拐されたり監禁されてしまう。相当な魔力量を持つ光の神官でなければ、出産、成長、治癒を司る光の魔法で人を害することが出来ず、自衛が出来ないからだ。
 そうやって使い手が一気に数を減らしてしまったので忙しいのだと、ミルミリアはシスティーアの前を歩きながら小さく溜息をこぼした。
「システィーアが器用な子で助かったよ。繊細な魔力操作をするのに、普通はかなり修練が必要だからね」
 もう何度も耳にした言葉を聞きながら、システィーアは曖昧な返事をした。前を歩くミルミリアの後頭部をぼんやりと見る。
 あの女性の呪いの解除を手伝った時のことが評価されたのは、システィーアにとって正直、嬉しいことではあった。けれどもそれで、そういう部分を伸ばした方が良いからと、ミルミリアの手伝いを毎日することになるとは思ってもみなかった。さらにさらにいうと、こんなに休み時間がないだなんて予想もしていなかった。これでは未来に向けた打開策を考えているゆとりすらない。
 ミルミリアが探知した方へと歩いて、治療を見学かもしくは手伝いを延々と繰り返すというルーティーン。朝食を宿で終えたらすぐに出発、昼食は進行方向に出店があればそれを急いで頂くので、のんびりとは食べられない。日が傾いてきたら宿へ戻ってくる。
 歩き慣れていない足を引きずるようにしてベッドの上に倒れ込めば、そこから動くのは至難の業だ。不思議と翌朝には元気になっているのでなんとかついていけているが、そろそろ限界だ。精神的に。
 特に徒歩での移動が、システィーアの精神をガリガリ削る。
 興味を引くお店があっても素通りしなければいけないからだ。足を止めても、注意をされて手を引かれて歩くことになるだけ。既に経験済みである。
 移動中に弾む会話はなく、話すのはほぼミルミリアだけだ。その話の全てが魔法使用時の改善箇所や反省点である。
 せめて周囲の誰かがちょっとした雑談でも始めてくれれば。そう思って何度か話しかけたりもしてみたが、尋ねたことに返答はあっても全く言葉のキャッチボールにならない。最初の二、三日で投げた。
 こんな時、リプルがいてくれたらなぁ。
 自分とあまり歳の変わらない、快活な管理神官見習いのことをシスティーアは思い出す。しかしあそこにはシスティーアの命を狙っている者がいるはずなのだ。あそこから離れられて少し距離が取れて気持ち安心できることを感がえれば、これくらいは我慢すべきなのだろう。
 なのだが。せめて。
「おにぎりが食べたい」
 システィーアは溜息と一緒に、ぽつりと小さく吐き出した。
 そのおにぎりと一緒に思い出したのは、艶やかに微笑む茶色の瞳とさらりと風に揺れる髪。揺れる黄金の稲穂を後ろに従えるレイダンの姿が、なんだかとても懐かしい。
 彼は元気にしているだろうか。
 システィーアはぼんやりと記憶の中の彼を思い出しながら、歩を進めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)

音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。 それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。 加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。 しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。 そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。 *内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。 尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...