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西の転生者
53.渇望
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この世界は不思議だ。
例えば、半球形の大地。
例えば、結晶化する血液。
例えば、魔法。
ここで暮らす人々にとってはこれが当然のことで、何一つ不思議だなんて思わないのだろう。だから、そう思ってしまう自分はここでは異端者なのかもしれない。
システィーアはぼんやりとそんなことを思いながら、目の前の光景を見ていた。
ベッドに横たわっている人の腹部辺りをミルミリアの発光する白い蔓が、まるで包帯のようにぐるぐるまきにしている。それはしばらくすると解かれ、傍で固唾を飲んで立ち尽くしていた女性にミルミリアが声をかけた。泣きながら頭を下げるその女性にミルミリアが、しばらくは安静にさせるように言う。
立ち上がったミルミリアの後ろに続いて、システィーアは建物の外へと出た。
呪い解除の手伝いをした翌日から、システィーアはこうしてずっとミルミリアの後をついて回っていた。容体によってはミルミリアの指示の元、壁魔法を使用する。
ミルミリアは魔力の探知範囲がサーティスより広い。サーティスは悪意ある魔力を感じ取るらしいが、ミルミリアは体調により変質した魔力を探し出すらしい。そうやって光魔法が必要な人を見つけては治療して回るのを、もう何年も前からしているのだという。
本来これは各地にいる光の神官達の仕事なのだそうだ。以前は、どうしても高い魔力が必要な重篤な病人・怪我人の時のみ、光の管理者が呼ばれていたのだと、ミルミリアが歩きながら教えてくれる。
元々、闇、光、壁の神官の数は多くなかった。人は闇、光、壁、水、火、風の六種全ての魔力を持って生まれるのが普通なのだが、それぞれの魔力量には個人差があったからだ。なかでも闇、光、壁の三つは一定以上の魔力量を持つ者が極端に少ない。そして一定量の魔力を有していても、それを使いこなせるかはまた別の話になるのだそうだ。
その元々多くなかった神官の人数をさらに減らす要因となったのが、頻繁に行われた壁の管理者の代替わりだった。
壁の管理者の不在期間が長い為に世界の壁にヒビが入り、水が不足し、死者が増えて魔物が蔓延る。干からびた大地が急激に増加し、食糧難の国が相次ぐ。それによって、今まで国に保護されていたはずの光の神官達が、殆どの国で使い潰されていく。かといって国の保護下から出ようものなら、金銭目当ての者などに簡単に誘拐されたり監禁されてしまう。相当な魔力量を持つ光の神官でなければ、出産、成長、治癒を司る光の魔法で人を害することが出来ず、自衛が出来ないからだ。
そうやって使い手が一気に数を減らしてしまったので忙しいのだと、ミルミリアはシスティーアの前を歩きながら小さく溜息をこぼした。
「システィーアが器用な子で助かったよ。繊細な魔力操作をするのに、普通はかなり修練が必要だからね」
もう何度も耳にした言葉を聞きながら、システィーアは曖昧な返事をした。前を歩くミルミリアの後頭部をぼんやりと見る。
あの女性の呪いの解除を手伝った時のことが評価されたのは、システィーアにとって正直、嬉しいことではあった。けれどもそれで、そういう部分を伸ばした方が良いからと、ミルミリアの手伝いを毎日することになるとは思ってもみなかった。さらにさらにいうと、こんなに休み時間がないだなんて予想もしていなかった。これでは未来に向けた打開策を考えているゆとりすらない。
ミルミリアが探知した方へと歩いて、治療を見学かもしくは手伝いを延々と繰り返すというルーティーン。朝食を宿で終えたらすぐに出発、昼食は進行方向に出店があればそれを急いで頂くので、のんびりとは食べられない。日が傾いてきたら宿へ戻ってくる。
歩き慣れていない足を引きずるようにしてベッドの上に倒れ込めば、そこから動くのは至難の業だ。不思議と翌朝には元気になっているのでなんとかついていけているが、そろそろ限界だ。精神的に。
特に徒歩での移動が、システィーアの精神をガリガリ削る。
興味を引くお店があっても素通りしなければいけないからだ。足を止めても、注意をされて手を引かれて歩くことになるだけ。既に経験済みである。
移動中に弾む会話はなく、話すのはほぼミルミリアだけだ。その話の全てが魔法使用時の改善箇所や反省点である。
せめて周囲の誰かがちょっとした雑談でも始めてくれれば。そう思って何度か話しかけたりもしてみたが、尋ねたことに返答はあっても全く言葉のキャッチボールにならない。最初の二、三日で投げた。
こんな時、リプルがいてくれたらなぁ。
自分とあまり歳の変わらない、快活な管理神官見習いのことをシスティーアは思い出す。しかしあそこにはシスティーアの命を狙っている者がいるはずなのだ。あそこから離れられて少し距離が取れて気持ち安心できることを感がえれば、これくらいは我慢すべきなのだろう。
なのだが。せめて。
「おにぎりが食べたい」
システィーアは溜息と一緒に、ぽつりと小さく吐き出した。
そのおにぎりと一緒に思い出したのは、艶やかに微笑む茶色の瞳とさらりと風に揺れる髪。揺れる黄金の稲穂を後ろに従えるレイダンの姿が、なんだかとても懐かしい。
彼は元気にしているだろうか。
システィーアはぼんやりと記憶の中の彼を思い出しながら、歩を進めるのだった。
例えば、半球形の大地。
例えば、結晶化する血液。
例えば、魔法。
ここで暮らす人々にとってはこれが当然のことで、何一つ不思議だなんて思わないのだろう。だから、そう思ってしまう自分はここでは異端者なのかもしれない。
システィーアはぼんやりとそんなことを思いながら、目の前の光景を見ていた。
ベッドに横たわっている人の腹部辺りをミルミリアの発光する白い蔓が、まるで包帯のようにぐるぐるまきにしている。それはしばらくすると解かれ、傍で固唾を飲んで立ち尽くしていた女性にミルミリアが声をかけた。泣きながら頭を下げるその女性にミルミリアが、しばらくは安静にさせるように言う。
立ち上がったミルミリアの後ろに続いて、システィーアは建物の外へと出た。
呪い解除の手伝いをした翌日から、システィーアはこうしてずっとミルミリアの後をついて回っていた。容体によってはミルミリアの指示の元、壁魔法を使用する。
ミルミリアは魔力の探知範囲がサーティスより広い。サーティスは悪意ある魔力を感じ取るらしいが、ミルミリアは体調により変質した魔力を探し出すらしい。そうやって光魔法が必要な人を見つけては治療して回るのを、もう何年も前からしているのだという。
本来これは各地にいる光の神官達の仕事なのだそうだ。以前は、どうしても高い魔力が必要な重篤な病人・怪我人の時のみ、光の管理者が呼ばれていたのだと、ミルミリアが歩きながら教えてくれる。
元々、闇、光、壁の神官の数は多くなかった。人は闇、光、壁、水、火、風の六種全ての魔力を持って生まれるのが普通なのだが、それぞれの魔力量には個人差があったからだ。なかでも闇、光、壁の三つは一定以上の魔力量を持つ者が極端に少ない。そして一定量の魔力を有していても、それを使いこなせるかはまた別の話になるのだそうだ。
その元々多くなかった神官の人数をさらに減らす要因となったのが、頻繁に行われた壁の管理者の代替わりだった。
壁の管理者の不在期間が長い為に世界の壁にヒビが入り、水が不足し、死者が増えて魔物が蔓延る。干からびた大地が急激に増加し、食糧難の国が相次ぐ。それによって、今まで国に保護されていたはずの光の神官達が、殆どの国で使い潰されていく。かといって国の保護下から出ようものなら、金銭目当ての者などに簡単に誘拐されたり監禁されてしまう。相当な魔力量を持つ光の神官でなければ、出産、成長、治癒を司る光の魔法で人を害することが出来ず、自衛が出来ないからだ。
そうやって使い手が一気に数を減らしてしまったので忙しいのだと、ミルミリアはシスティーアの前を歩きながら小さく溜息をこぼした。
「システィーアが器用な子で助かったよ。繊細な魔力操作をするのに、普通はかなり修練が必要だからね」
もう何度も耳にした言葉を聞きながら、システィーアは曖昧な返事をした。前を歩くミルミリアの後頭部をぼんやりと見る。
あの女性の呪いの解除を手伝った時のことが評価されたのは、システィーアにとって正直、嬉しいことではあった。けれどもそれで、そういう部分を伸ばした方が良いからと、ミルミリアの手伝いを毎日することになるとは思ってもみなかった。さらにさらにいうと、こんなに休み時間がないだなんて予想もしていなかった。これでは未来に向けた打開策を考えているゆとりすらない。
ミルミリアが探知した方へと歩いて、治療を見学かもしくは手伝いを延々と繰り返すというルーティーン。朝食を宿で終えたらすぐに出発、昼食は進行方向に出店があればそれを急いで頂くので、のんびりとは食べられない。日が傾いてきたら宿へ戻ってくる。
歩き慣れていない足を引きずるようにしてベッドの上に倒れ込めば、そこから動くのは至難の業だ。不思議と翌朝には元気になっているのでなんとかついていけているが、そろそろ限界だ。精神的に。
特に徒歩での移動が、システィーアの精神をガリガリ削る。
興味を引くお店があっても素通りしなければいけないからだ。足を止めても、注意をされて手を引かれて歩くことになるだけ。既に経験済みである。
移動中に弾む会話はなく、話すのはほぼミルミリアだけだ。その話の全てが魔法使用時の改善箇所や反省点である。
せめて周囲の誰かがちょっとした雑談でも始めてくれれば。そう思って何度か話しかけたりもしてみたが、尋ねたことに返答はあっても全く言葉のキャッチボールにならない。最初の二、三日で投げた。
こんな時、リプルがいてくれたらなぁ。
自分とあまり歳の変わらない、快活な管理神官見習いのことをシスティーアは思い出す。しかしあそこにはシスティーアの命を狙っている者がいるはずなのだ。あそこから離れられて少し距離が取れて気持ち安心できることを感がえれば、これくらいは我慢すべきなのだろう。
なのだが。せめて。
「おにぎりが食べたい」
システィーアは溜息と一緒に、ぽつりと小さく吐き出した。
そのおにぎりと一緒に思い出したのは、艶やかに微笑む茶色の瞳とさらりと風に揺れる髪。揺れる黄金の稲穂を後ろに従えるレイダンの姿が、なんだかとても懐かしい。
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