双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

54.入学式

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 システィーアの呟きを拾っていたフォトムのおかげで、システィーアはどうにか踏ん張ることができた。というのも、サボり癖のあるシスティーアを慮って、フォトムが中央を行き来するサーティスに頼み込み、食堂のおにぎりを持ってきてくれるようになったからだ。
 本当に有難い。
 久しぶりのおにぎりは美味しすぎて、口した途端にシスティーアはボロボロと涙をこぼした。周囲の人達がぎょっとした顔をする中で、システィーアは一心不乱におにぎりを口へと運んだ。
 ミルミリアの元でのお手伝いという名の修行は、サーティスが差し入れてくれるおにぎりのおかげで大きな問題が起きることもなく、淡々と過ぎていった。

「六角宮へ戻る」
 朝食を取り終わり、今日もこれから往診だと思っていた矢先、システィーアは突然姿を見せたサーティスにそう言われた。
「おや、そう言えばそうだったね」
 頷くサーティスを見てから、ミルミリアがゆったりとした動きでシスティーアの方を向いた。
「短い間だったけど、こちらも助かったよ。ありがとうね」
 首を傾げつつもミルミリアにお礼の言葉を返すと、横にいたフォトムが嗜めるような顔でシスティーアを見た。
「システィーア様、今日は学院の入学式がございます」
 話を聞いていなかったのですか、と言いたそうな視線から逃れるように、システィーアはゆっくりと顔を横に逸らした。

 学院は六角宮の割とすぐ近くにある白く背の高い壁で囲まれた建物だった。
 大きな門を通ってその壁の中へ入ると、大きな建物の左右と中央には塔が聳え立つ。中央の塔からは大きな時計がこちらを見下ろしている。
 同じように中へと入っていく人達をチラチラと目だけで見ながら、システィーアも足を進めていく。こちらは不躾にならないようにチラチラと見ているだけのはずなのだが、周囲の人達はがっつりとシスティーアの方を見てくるので落ち着かない。
 理由はわかっている。着ている服のせいだ。
 青系統を基調、もしくは部分的に取り入れた服を着ている子達ばかりの中で、システィーアが纏っているのはいつもの真っ黒なローブである。至高色の黒は目立つ。
 可愛い青系の服を着ている周りを羨ましく思いながら、システィーアは隣を歩くリプルを見た。
 紺色のローブを着た緊張した面持ちのリプルが、システィーアと目が合うと小さく笑う。
「ドキドキしますね」
 そんな二人の後ろに、リプルと同じ紺色ローブ姿のフォトムが続く。システィーアがちらりとそちらを見ると、彼は少し困ったように眉尻を下げた。
 心外ではあるが、ここに来るまでに散々駄々を捏ねた困った子だとでも思っているのだろう。システィーアは納得がいかない気持ちを溜息にして吐き出した。
 学院内でも安全面から管理神官の同行は当たり前だというのはわかる。何度も誘拐されてる身としては、有難く思うべきだとも。
 けれど着ていく服が黒ローブなのは納得がいかない。至高色を纏って歩くということは、管理者だと宣伝しているようなものだ。安全面を考えるなら伏せるべきだし、何より皆と同じように青系の服が着たい。そう訴えたが、決まっていることだからとシスティーアの意見は通らなかった。手持ちの服が黒と白しかないので、強行も出来ない。
 管理者というのは、これで本当に各国の王族よりも上の扱いなのか。公爵邸で暮らしていた時の方が、間違いなく、遥かに贅沢な暮らしをしていた。

 色彩が恋しいと思いながら、チラチラと他の生徒の服を見ていると、後ろから女性の怒鳴るような声が聞こえてきた。
「無礼にも程があります!」
「落ち着いて。私は大丈夫だから⋯⋯」
「当たり前です! 傷一つでもついていたら、それこそ大事ですよ」
「そんな大袈裟な⋯⋯」
 振り返って見ると、大きな声の主は管理神官のリーズだった。それを諌めようと口を挟んでいるのは主人公リーティアだ。黒い布地をたっぷりと使ったフリルの多いゴシックドレスに、長い髪を綺麗に結い上げている。
 その姿を、システィーアは思わず二度見した。決まりとは一体何だったのか。
「まあ、酷い! ぶつかってきたのはそちらでしてよ⁉︎」
 その声にはっとして、システィーアは何が起きたのかとよくよく見てみる。
 彼女達に相対していたのは、システィーアの異母妹クレアリリーだった。倒れていた彼女に、近くにいたロンバルトが無言で手を差し出す。
「え?」
 思わずシスティーアは小さく声を漏らした。
 たった今思い出したが、学院の入学式に主人公とぶつかるイベントは、確かにあった。あったのだが、システィーアの記憶では主人公とぶつかるのはライバル令嬢⋯⋯自分と、である。
 そこで言うのだ。
 私は認めない、管理者であるわけがない、と。
「私は認めませんわ! 人に怪我をさせても謝らないような方、管理者であるわけがないですもの!」
 システィーアはその光景を息を呑んで暫く眺めていたが、我に返ると慌ててリプルとフォトムに小さく声をかけた。
 本来システィーアがリーティアに出会うのは学院の入学式⋯⋯それも今日ではない。システィーアが十二歳になる歳の、つまりまだ先のはずなのだ。
 とにかく、これ以上イレギュラーなことが起こる前に、ここを離れるべきだろう。
 システィーアはリプルとフォトムを連れて、本能でその場を離れた。
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