悪役令息は愛を知れば無敵なのです

柚鷹けせら

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第一章 王太子暗殺

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 今までも花祭りの日の贈り物は欠かさずしていたけれど、気持ちを自覚して初めてのイベントということもあって些か張り切り過ぎた感は否めない。ルキノをあまり良く思っていない両親でさえ彼を守る魔力に気付き、その出所を二度見するくらいには、それはもうたっぷりと魔力を注ぎ込んだ。
 宝石を担当したニョルズ曰く神具級の一品に仕上がっており、花と宝石に込められた魔力が尽きない限りはという条件も多少手を加えたことで魔力が充填可能になり、半永久的にルキノを守るものになった。しかも込められた魔力が大き過ぎて、小さなニョルズさえこれがあれば多少はテオフィロから離れても変わりなく活動出来るというのは作った本人も想像していなかったおまけ効果である。

「すっごいねぇ……コレどうやって作ったの?」

 登城するための馬車の中、アンジェリカが前傾姿勢でルキノの腰元に飾られたタッセルを見つめて呟く。
 答えたのはニョルズだ。

『まずはカップに入れた海の水に種を沈める』
「うん」
『テオフィロが魔力を注いで花を咲かす』
「うん」
『カップの中身を丸ごと固めて我の魔力で磨く』
「……丸ごと固めてって言うのは……」
「海水は蒸発した後に結晶が残るのは知っていますか?」

 事実しか語らないニョルズに変わってテオフィロが説明する。
 アンジェリカは頷く。

「塩でしょ?」
「ええ。塩には厄除けや魔除けの効果があるので、今回の素材にするには良いかなと」
「え。じゃあそれ塩なの? 舐めたらしょっぱい?」
「ちょ、おい、舐めんなよ⁈」
「さすがにしないよ。しないけど、ルキノさん舐めてみてよ」
「舐めてもしょっぱくはありません」

 テオフィロが呆れつつも応じる。

「ニョルズが言ったでしょう、彼の魔力で磨いたと。確かに素は塩ですが、それを魔力でひたすら磨いたら海水晶という鉱石に変わるのです。それが、これです」

 全員の視線がルキノの腰元で揺れるタッセルに注がれる。
 白い小さな花が海水晶のなかで水面に揺れるようにゆらゆらしている。元が塩だけに厄除け効果があり、贈る相手の健康と安全を願う花との相性は抜群だ。

「……ほえぇ、すごい石なんだねぇ」
『うむ。さすがの我でもこのままだとこれ以上の石はしんどいな』

 つまり元の大きさで、本来の力が使えるなら造作もないという意味だが、神獣が実際は翼の端から端まで百メートルあるなんて知らないアンジェリカは素直に「すごいすごい」と感心している。

「あんま見るなよ」
「良いじゃん別に減るもんじゃないし」
「減る気がする」
「そんなわけないし!」
「いいからちゃんと座れ! もうすぐ着くぞ」

 なんだかんだで打ち解けているルキノとアンジェリカ。彼女の襟元にもテオフィロが作った襟飾りが付けられている。

「……アンジェリカ嬢は、殿下たちへの贈り物は用意出来たんですか?」
「うん、バッチリ。テオフィロくんが種を用意してくれたおかげだよ」
「それは良かった」
「うん、んふふ、今日はお城にお泊りで良いんだよね?」
「……今日一日しっかりと猫を被り切れたら構いませんよ」
「やった!」
「油断してっと帰還命令が出るぞ」
「大丈夫だもん!」

 言い合う二人を他所に侯爵家の馬車はいつも通りに王城門に到着し、全員で下車。昨日まではアンジェリカは侯爵邸で勉強をしていたからテオフィロ、ルキノ、ニョルズ、そして完全に気配を消しているケイトと共に誰の案内も必要とせずに騎士棟の執務室に向かっていたのだが、今日は先触れでアンジェリカが行くことを伝えてあったため、王太子殿下と数人の侍女が出迎えのために並んでいた。

「クリス!」
「アンジュ!」

 感動の再会に思わず抱き着こうとする令嬢を、テオフィロの冷ややかな視線が制する。

「お泊りは無しにしましょうか?」
「うあっ……!」

 アンジェリカは一旦静止。
 深呼吸をして、テオフィロのエスコートで馬車を降りると殿下の前でしっかりと淑女の礼。

「お会いしたかったです、殿下」
「うむ。……うん、以前よりもさらに所作が洗練されて美しくなった」
「ありがとうございます」

 微笑む令嬢に、殿下も嬉しそうに微笑み。
 そしてテオフィロに視線を転じて睨み付けて来る。

「ご苦労だったな、オルトラーニ侯爵令息」
「殿下はますますお勉強を頑張った方が良さそうですね」

 にこりと微笑み返してやればはっきりと口元を引き攣らせる王子様。

「ふ、ふん! おまえに会うのもこれが最後だ、多少の無礼には目を瞑ってやる」
「最後と言いますと」
「アンジェリカが侯爵邸で学ぶのは昨日が最後だったのだろう?」
「え」

 これに思わずといった様子で声を上げたのはアンジェリカだ。

「それは困るよ、まだ習わなきゃいけないこといっぱいあるし!」
「な……っ」

 本気で驚いている殿下と、つい笑ってしまったテオフィロ。言われてみると今日までに王太子妃として相応しい振舞が出来るよう指導するという名目で侯爵邸に連れて行ったわけだから殿下の言い分は間違っていないのだ。
 しかし当の本人がこれで終わりは困ると言い切った。
 使用人たちと一緒に教えてきた身として、……不覚ながら口元が緩みそうになった。 

「そうですね、すぐに猫に逃げられるようではうちの使用人たちも安心出来ません」
「だよねだよね! じゃ、なくて……、これからもお願いします……」

 慌てて言葉遣いを直し、姿勢を正すが、まだまだ未熟。
 それでもまだ学びたいと自ら宣言したことは評価しても良いだろう。

「アンジェリカ嬢」
「はい!」
「花祭りの三日間はお休みです。祭りが終わったら迎えに行きますから、それまではゆっくり羽を伸ばしてください」
「いいの⁈」
「……あまりにも不甲斐ない噂ばかり聞こえて来るようでしたら連れて帰ります」
「うっ、気を付けます……!」
「では私は仕事がありますからこれで」

 アンジェリカに手本を見せるように美しく一礼したテオフィロの後ろを、ルキノ、ルキノの肩にニョルズ、そして侍女のケイトが付いていく。
 だが、ルキノは普段より一歩近くに。

「良いのか?」
「せっかくのお祭りですしね」
「そうか」

 小さく笑ったルキノが元の位置に戻る。
 彼の肩でニョルズもなんだか楽しそうで、ケイトも微笑んでいる。
 宰相閣下にもう一度話をすべく約束を取り付けないといけないようだ。




 ――と、そんな風に思っていたテオフィロは宰相に呼び出されて国王陛下の執務室に一番近い会議室に来ていた。一番近いといっても階が一つ違うのだが、いまは位置関係などどうでもいい。
 彼らが城に寄ったのは花祭りの三日間は下町の事務所に常駐になるものの書類関係の仕事は日々溜まっていくから、今日の分を受け取りに来ただけで、受け取ったらすぐに移動するはずだったのだ。
 なのに。

「隣国ケルネイディアからオルトラーニ侯爵令息へ求婚状が届いています」
「お断りします」
「ですよね……」

 わかっていたと言わんばかりの顔を真っ白にして項垂れている宰相の横で、国王陛下も疲弊しきった顔をしている。

「……もしよろしければ直接お会いして私自身でお断りしますが。使者の方がいらっしゃるならですが」
「いや……うむ……」
「主神様の加護持ちを二人も抱えているなど近隣諸国の脅威になるつもりか、とでも脅されましたか」
「うっ……」
「ソルヴィーノ男爵令嬢は王太子殿下の婚約者候補。私は一切の求婚をお断り。……お二人がそのように酷い顔をされているのは双方の板挟みになっているからなのでは?」
「……ううっ」

 言い当てられても、あくまで自分たちで何とかしなければいけないという気概は感じる。
 とはいえこうして意思確認をする辺り、こちらの考えが変わっている可能性に賭けてみたのかもしれないし、テオフィロなら自分で対応するかもという希望的観測もあっただろうが。

(だとしても、実の両親よりずっとお二人の方が好ましい)

 内心で苦く笑い、後方の侍女に声を掛ける。
 ケイトはすべて察しているようで持っていた籠を差し出して来た。

「今日から花祭りですから、こちらをお受け取りください。回復の魔力を込めているので今のお二人にはとても効果的だと思います」
「ありがとうございます」
「おお……感謝する、オルトラーニ侯爵令息。しかし……不甲斐ない王ですまぬな」
「いえ。陛下は私の意思をケルネイディアに伝えてくださったのでしょう? 主神様の加護持ちを欲しておきながら本人の意思を無視しようとするケルネイディアが無礼なのですよ」

 言ってから、ふと思う。

「もしケルネイディア以外にも、加護持ちではなく私個人に何かしらの要求をされているのでしたら纏めて相手をします」
「え……」
「一時間後に第三会議室で如何ですか?」

 それまでに事務仕事をしてしまおうと考えたテオフィロだが、宰相閣下。

「……第三では狭いと思われます」

 テオフィロは首を傾げる。

「狭い?」
「第五……いえ、第六会議室辺りで、……いや、第七でも……」
「待ってください。そんなに私を名指ししている国があるのですか?」
「すべての国ですから」
「――は?」

 宰相閣下も、国王陛下も重苦しい顔。

「花祭りに合わせていらしたすべての国が貴方との面会を希望していますよ」

 思ってもみなかった話に、テオフィロは口を開けたまま固まってしまった。
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