59 / 63
第三章 精霊の泉
7
しおりを挟む
見つかった子どもたちは六つの部屋に、それぞれ辛うじて全員が座れるくらいの人数が押し込められていた。
荒くれ者たちが暴れた神殿の入口付近が最も開けていて、広い空間だったため、テオフィロは拘束した男たちを端へ移し、ここに子どもたちを移動させるよう指示した。
手前の部屋から順に、騎士の先導で、子どもたちがゆっくりと階段を降りて来る。
『ふむ……どの子も多少弱ってはいるが病人はいないようだな』
「わかりますか」
『当然だ』
肩の上で胸を張る神獣の見立てにホッとした。
病人がいないだけで保護後の対応が幾分か楽になる。
一つ目の部屋から全員が移動し終えると、二つ目の部屋からの移動が始まる。一部屋に押し込められていた子どもの数は三〇弱で、年齢層は一〇歳前後が大半。
「フィー」
ルキノが小声で呼び、目配せしてくる。
彼が示したのは移動済みの子どもたちの中では一番背が高い男の子だ。全体的に細すぎるが、顔付はしっかりとしている。
「話を聞いてくる」
「お願いします」
そんな遣り取りでルキノを送り出したテオフィロは、一つ息を吐いてから荒くれものたちに視線を戻す。
「さて、私の質問に答える準備は出来たか」
冷ややかな視線に魔力を乗せれば荒くれものたちはすぐに落ちた。
ルキノが話を聞いたのはもうすぐ一五歳になるジンという名の少年だった。
出身はレンブロー、南は世界樹の森、北はケルネイディア王国と国境を接している国だ。八歳の時に母親の手伝いがしたくておつかいに出たのだが、その途中で襲われた。気付けば他の子どもたちと一緒に馬車の荷台に詰め込まれていて、以降、ずっとここで生活しているという。
半年に一度くらいの頻度で新しい子どもが増え、年長になるにつれて下の子の面倒を見るのが彼の役割になっていった。いまでは赤ん坊の世話をすることもあるらしい。
「その赤ん坊だが、両親は此処にいた子たちらしい」
「ああ……エイミーさんとクノンさんのような……」
「年に五、六人くらい増えていたってさ」
昨夜のエイミーの話を思い出し、彼女と同じような境遇の被害者がどれくらいいるかと思うと怒りで腹の底が重たくなった。
「……赤ん坊が増えているという割には、子どもばかりですね」
「成人してしばらくすると違う場所に連れて行かれるんだってさ。次は自分の番だったって、ジンが」
「違う場所というのは」
「分からないらしい。でもって子どもの数がこんなに多いのは一昨日からで、半分以上の子は他の神殿から連れて来られたみたいだ。そっちは」
「此処は誘拐犯たちの溜まり場だったようです」
先ほどの男たちから聞き出した内容を信じるなら、ここは神殿とは名ばかりの、他国から子どもを連れ去って来た連中が寝泊まりする場所であり、子どもを取引する場所でもあり、今回は視察が予定されていた二カ所の神殿から子どもたちを隠すための場所だった。
周りに民家のない郊外だ。
赤ん坊が泣いても気付かれる心配がないからか、生まれたばかりの頃から三歳くらいまでの子と、親元に帰りたくて騒ぐ子、そんな子たちの面倒を見る子が、ここの主な住人だ。
「なんつーか……ここまでやってて国は関係ありませんなんて有り得るか?」
「さあ。彼らがどんな言い訳をするかは実際に聞いてみないと……」
「班長!」
階段の近くから魔導部隊の魔導士が声を張り上げた。
「こっち、調剤室があったんですがヤバいです。ラベルに書いてある用途が本当なら、フィッセン王国じゃ法律違反で即逮捕ですよ」
そんな報告にイヤな予感を覚えつつ、ニョルズ、ルキノ、バズーとそちらへ足を運べば、一応は棚の上に整理整頓されている薬瓶。そのラベルには、女性の排卵を促す効果や、男性の精力を強めるための薬の名前が記載されている。
効果だけを見れば悪いものでは無さそうだが、フィッセン王国でこれらが禁止されているのは副作用がひどいからだ。それこそ、成人したとはいえ体がまだ未完成な少年少女に使用したら重大な後遺症を残しかねない。
ジンの言葉を思い出して、体が震えた。
成人した子どもたちはいまどこにいるのだろうか。
「班長」
別の魔導士が調剤室の外から呼ぶ。
「あの町の子どもたちがいました」
「! 本当か」
「本人に確認しました。住んでいた町、両親、兄弟の名前も一致していますし、一緒にいる子どもたちも同じ町の出身でリストと合致しました。間違いないかと」
「良かった。あの幼い弟妹には良い報告が出来そうだ」
この国に来て初めてかもしれない朗報に、ほんの少しだけ彼らの表情が和らいだ。――ケルネイディア王国の王太子ベルンダードが彼らと合流したのは、それから約二時間後だった。
荒くれ者たちが暴れた神殿の入口付近が最も開けていて、広い空間だったため、テオフィロは拘束した男たちを端へ移し、ここに子どもたちを移動させるよう指示した。
手前の部屋から順に、騎士の先導で、子どもたちがゆっくりと階段を降りて来る。
『ふむ……どの子も多少弱ってはいるが病人はいないようだな』
「わかりますか」
『当然だ』
肩の上で胸を張る神獣の見立てにホッとした。
病人がいないだけで保護後の対応が幾分か楽になる。
一つ目の部屋から全員が移動し終えると、二つ目の部屋からの移動が始まる。一部屋に押し込められていた子どもの数は三〇弱で、年齢層は一〇歳前後が大半。
「フィー」
ルキノが小声で呼び、目配せしてくる。
彼が示したのは移動済みの子どもたちの中では一番背が高い男の子だ。全体的に細すぎるが、顔付はしっかりとしている。
「話を聞いてくる」
「お願いします」
そんな遣り取りでルキノを送り出したテオフィロは、一つ息を吐いてから荒くれものたちに視線を戻す。
「さて、私の質問に答える準備は出来たか」
冷ややかな視線に魔力を乗せれば荒くれものたちはすぐに落ちた。
ルキノが話を聞いたのはもうすぐ一五歳になるジンという名の少年だった。
出身はレンブロー、南は世界樹の森、北はケルネイディア王国と国境を接している国だ。八歳の時に母親の手伝いがしたくておつかいに出たのだが、その途中で襲われた。気付けば他の子どもたちと一緒に馬車の荷台に詰め込まれていて、以降、ずっとここで生活しているという。
半年に一度くらいの頻度で新しい子どもが増え、年長になるにつれて下の子の面倒を見るのが彼の役割になっていった。いまでは赤ん坊の世話をすることもあるらしい。
「その赤ん坊だが、両親は此処にいた子たちらしい」
「ああ……エイミーさんとクノンさんのような……」
「年に五、六人くらい増えていたってさ」
昨夜のエイミーの話を思い出し、彼女と同じような境遇の被害者がどれくらいいるかと思うと怒りで腹の底が重たくなった。
「……赤ん坊が増えているという割には、子どもばかりですね」
「成人してしばらくすると違う場所に連れて行かれるんだってさ。次は自分の番だったって、ジンが」
「違う場所というのは」
「分からないらしい。でもって子どもの数がこんなに多いのは一昨日からで、半分以上の子は他の神殿から連れて来られたみたいだ。そっちは」
「此処は誘拐犯たちの溜まり場だったようです」
先ほどの男たちから聞き出した内容を信じるなら、ここは神殿とは名ばかりの、他国から子どもを連れ去って来た連中が寝泊まりする場所であり、子どもを取引する場所でもあり、今回は視察が予定されていた二カ所の神殿から子どもたちを隠すための場所だった。
周りに民家のない郊外だ。
赤ん坊が泣いても気付かれる心配がないからか、生まれたばかりの頃から三歳くらいまでの子と、親元に帰りたくて騒ぐ子、そんな子たちの面倒を見る子が、ここの主な住人だ。
「なんつーか……ここまでやってて国は関係ありませんなんて有り得るか?」
「さあ。彼らがどんな言い訳をするかは実際に聞いてみないと……」
「班長!」
階段の近くから魔導部隊の魔導士が声を張り上げた。
「こっち、調剤室があったんですがヤバいです。ラベルに書いてある用途が本当なら、フィッセン王国じゃ法律違反で即逮捕ですよ」
そんな報告にイヤな予感を覚えつつ、ニョルズ、ルキノ、バズーとそちらへ足を運べば、一応は棚の上に整理整頓されている薬瓶。そのラベルには、女性の排卵を促す効果や、男性の精力を強めるための薬の名前が記載されている。
効果だけを見れば悪いものでは無さそうだが、フィッセン王国でこれらが禁止されているのは副作用がひどいからだ。それこそ、成人したとはいえ体がまだ未完成な少年少女に使用したら重大な後遺症を残しかねない。
ジンの言葉を思い出して、体が震えた。
成人した子どもたちはいまどこにいるのだろうか。
「班長」
別の魔導士が調剤室の外から呼ぶ。
「あの町の子どもたちがいました」
「! 本当か」
「本人に確認しました。住んでいた町、両親、兄弟の名前も一致していますし、一緒にいる子どもたちも同じ町の出身でリストと合致しました。間違いないかと」
「良かった。あの幼い弟妹には良い報告が出来そうだ」
この国に来て初めてかもしれない朗報に、ほんの少しだけ彼らの表情が和らいだ。――ケルネイディア王国の王太子ベルンダードが彼らと合流したのは、それから約二時間後だった。
33
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる