悪役令息は愛を知れば無敵なのです

柚鷹けせら

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第三章 精霊の泉

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 ケルネイディアの王太子ベルンダードと合流したのはテオフィロたちが郊外の神殿で子どもたちを保護してからおよそ二時間後のことだった。

「どんな言い訳をしてくれるのか楽しみですね」

 不敵な笑みと共に呟かれたテオフィロの言葉は、フィッセン王国から来た全員の共通の思いだ。
 王都内に建立された神殿は三カ所すべて自分たちによって捜索され、その実態が暴かれた。まず、郊外の神殿でテオフィロたちを出迎えた荒くれ者たちは近隣の国々から子どもたちを攫っていた犯罪者だった。
 ベッドが六台も入れば歩く隙間もなくなるような部屋に数十人の子どもが押し込められていたことは虐待の一種だし、その子らが誘拐された被害者だったこともそうだ。調薬室に並べられていた薬は、この国でも禁制のものばかりだった。
 更に、アンジェリカたちが捜索に入った二カ所目の神殿。
 そちらには妊娠している少女四人を含む成人済みの男女が二〇人いて、その半数が禁制の薬を服用したせいで後遺症に苦しんでいると知らせがあった。
 テオフィロが転移で行き来し、治癒魔術で後遺症の症状を緩和させることは出来たが、きちんと体が回復するまでには長い時間が掛かるだろう。
 彼らからの証言で、成人した子はほとんど生きていないことが判明した。
 大半は郊外の神殿近くにある墓場に埋められていると聞いて騎士たちが調査に向かえば、大きく掘られた穴の中に無造作に放り込まれた何十人分もの骨を発見した。
 情報ギルドのメンバーの中には子どもとの再会が叶った者もいたが、もう二度と会えないという事実を突き付けられた者の方が多かった。
 ただ、一つ。
 神官たちがデータの記録を徹底していたおかげで「孫」がどの子なのかを判別することは容易だった。受け継がれた面影が彼らを絶望から救ってくれることを願わずにはいられない。
 たった二時間の間にそれだけのことがあったから、ベルンダードたちが「どんな言い訳」をするのか、フィッセン王国の面々は再び彼らと顔を合わせるのを心待ちにしていたのだ。
 郊外の神殿前に止まった馬車から降りて来たベルンダードと、彼の側近二人は、護衛を連れて建物の中に入って来た。
 入ってすぐのホールにいた一〇〇人以上の子どもたちは、ニョルズの簡易健康診断の後に、騎士団による炊き出しで腹を満たし、一階から三階までの空き部屋全部を使って改めて部屋割りをして、順番に事情聴取、それ以外の子どもたちは待機中。捕まえた誘拐犯たちは拘束した状態でホールの隅に放置されている。

「オルトラーニ侯爵令息」

 そんな空間に響き渡ったベルンダードの声。
 テオフィロは、手の空いている騎士たちと今後の予定など相談していたが、呼ばれたからには返事をしないわけにはいかない。

「意外に早かったですね」

 そう皮肉たっぷりに応じれば相手が怯んだのが分かった。
 とはいえベルンダードの一国の王太子だ。気持ちを立て直すのに時間は掛からなかった。

「お迎えが遅くなり申し訳ありません。馬車は用意して来ましたので、どうぞ城へお戻りください」
「城へ?」
「大神官たちの供述が取れましたので、その御報告をさせて頂きたく」
「それはここでも出来ますよね」

 テオフィロが淡々と言い返せば、ベルンダードの後ろに控えていた側近たちが苛立って声を上げようとした。が、テオフィロの後ろに控えていたルキノに睨まれて黙らされる。
 そんな周囲の遣り取りに気付いているのか否か、ベルンダードは喉を鳴らした。

「……ここで、報告をしろと?」
「我が国で誘拐された子どもたちがここにいたので保護したばかりです。まだ全員から話を聞き終えていませんし、夕飯の時間も近い。彼らを放ってはいけません」
「それは、騎士たちに任せればよいのでは」
「生憎ですが信頼できるのはフィッセン王国から共に来た彼らだけです。それでなくとも二カ所目の神殿でも子どもたちを保護してこちらの戦力を二分しているのです。指揮官が現場からいなくなるなんて有り得ません」

 テオフィロは自分を指揮官と称したけれど、そんなのは建前だ。
 彼と、神獣がここにいることが、どれほど効果的な牽制になっているのか。

「……では、どこか部屋を用意してもらえますか。可能であればまずはオルトラーニ侯爵令息、あなただけに話を聞いてもらって、貴方の判断で彼らと情報共有してもらいたいのですが」

 ベルンダードが探るような視線を向けてくる。

「つまり、その部屋に私一人で貴方と対話しろと」
「私の側近二人が同席します」
「ずいぶん勝手な要求だとは思いませんか」
「……我々三人が同席したところで、貴方になんの危険があるというのでしょう。大陸一の魔導士殿」

 それは明らかな挑発。
 普通に考えれば魔導士一人に敵三人なんて不利に決まっているが、テオフィロは普通ではない。ましてやベルンダードがそう提案して来るのは、きっと何かしら企んでいるからだろう。
 警戒しているのはお互い様。
 で、あれば――。

「仕方ありませんね。その条件で構いません。ただし扉のすぐ傍にはルキノとニョルズに控えていてもらいます」
「感謝します」

 ベルンダードが笑う。
 テオフィロも微笑み返し、肩の上のニョルズをルキノの肩に移動させた。
 会話はない。
 ただ視線を交わしただけだったが、彼らにはそれで充分だった。
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