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第5章 マーへ大陸の陰謀
133.驚いたのはどちらか
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突然現れたイヌ科の男は、無精ひげの伸びた顔を歪めて怒る。
「獄鬼を前にして動きを止めるなんて何を考えている⁈」
「え……」
「聞いてんのかレン!」
レン、て。
俺の名前。
「……やっぱりレイナルドさん……本物、の?」
「は?」
俺だけじゃない。
クルトさんとウーガさんにも真ん丸の目で見上げられて、さすがにレイナルドさんも何かが妙なことに気付いたんだろう。
「……おまえら、此処で何をしてんだ?」
「――っ、何をしているはこっちの台詞ですよ、なんでマーヘ大陸にいるはずの人がオセアン大陸にいるんですか!!」
「俺は……」
言い掛けて、後方から来ていた騎士団がようやく追いつく。
「も、申し訳ありませんっ、我々の不手際で逃げられまして……!」
「いえ、お怪我がないのでしたら……怪我はないですか?」
「ありません。これを近付けてしまったばかりに獄鬼が恐慌状態に陥りまして……」
「獄鬼が恐慌状態だと?」
「え?」
聞き返したレイナルドさんに、騎士の皆さんも戸惑い気味。
「……レン様。あの、此方の方は……」
「うちのパーティリーダーです。プラーントゥ大陸の金級冒険者レイナルドさん」
「! 失礼致しました、連合軍ホエ11番隊です。こちらの不手際でお手数をお掛けしました!」
びしっと敬礼されて、レイナルドさんが呆気に取られている。
ちなみに彼に脳天から真っ二つにされた獄鬼は生命活動を止めた器と共にゆっくりと細かな灰に変化し消えようとしている。
「レン様、次はどこへ移動したら良いでしょうか」
「少し待ってください、皆さんは……もう戻って良さそうです」
改めて獄鬼の感知領域を拡げ、周辺どころか広場に集めている彼ら以外の反応は卵状態の獄鬼だけだと確認。
「せっかくですから一緒に戻りましょう」
そう伝えれば騎士達は揃って安堵した表情になった。
と、隊長さんなのだろう人物がメッセンジャーを使う。魔石に魔力を流すと見慣れた魔の鴎が顕現し、更に魔力を流すと目が赤くなる。
録音が始まった合図だ。
「連合軍ホエ11番隊です。対象沈黙。負傷者ゼロ。レン様と合流したため、これより広場まで護衛につきます」
報告を終えて魔力を止めれば、目は普通の黒色に戻る。そのタイミングで腕を上げることで、魔の鴎は出発の合図だと判断し飛び立つのだ。行先はたぶんホエ国の騎士団長か、その周辺だろう。
「――」
で、この一連の流れを黙って見ていたレイナルドさんが目を見開いている。
この人のこういう顔は初めて見るかもしれない。クルトさんやウーガさんにとってもそうだったみたいで、二人ともちょっとだけ笑っていた。
「レイナルドさん。たぶん話す事がいっぱいあると思うので、先ずは一緒に広場へどうですか? ゲンジャルさんやアッシュさん達はどうしているんですか」
「ぇ。あ、ああ、全員ここに来てるが……いや、待て、さっきの魔物はなんだ? しかも獄鬼が恐慌状態だと? 魔獣除けで?」
「さっきのはメッセンジャーと言って――」
説明しようとしたらクルトさんに肩を叩かれて、止められる。
「説明しても絶対に混乱するから、ゆっくり落ち着いてからの方が良いよ」
「同感。それに説明するなら全員揃ってからにしよ」
「……そうですか?」
そうなのかな。
レイナルドさんは今すぐに説明を求めるような顔をしているのだけど、……でも何も言わないところを見るとクルトさん達の意見が正しいのかもしれない。
「……グランツェさん達にはレイナルドさんと合流したことを伝えた方が良いですよね?」
「うん、それは必要」
ウーガに同意され、俺はまずグランツェさんとのメッセンジャーを取り出した。
「グランツェさん、レンです。獄鬼の残数ゼロです。マーヘ大陸からの侵入者も感知出来るほど残滓を纏った人はもういません。こちらはレイナルドさんと合流しました。他の皆さんとも合流してから広場に戻ります」
そう録音して飛び立たせてから、グランツェさんより陛下に報告すべき内容ではないかと思い至る。
自分で思っている以上に動揺しているっぽい。
改めて陛下へのメッセンジャーを起動して残数ゼロと、他の仲間と合流してから広場に戻ることを伝えて送り出したところで、今度は俺のところに魔の鴎が飛んで来る。
腕に止まらせて魔力を流すと、聞こえて来たのはグランツェさんの声だ。
『グランツェだ、了解した。……というか、なぜそこにレイナルドが?』
「ふっ……」
グランツェさんの声がちょっと上擦ってた。
動揺しているのを感じて、俺だけじゃなくクルトさん達も笑ったが、それ以上にレイナルドさんの反応が。
「待て、なんで魔の鴎からあいつの声がするんだ? どうして魔石が魔の鴎に……これは一体なんだ⁈」
なんだか楽しくなって来た。
「これはメッセンジャーですよ、いま大流行の魔導具です。レイナルドさん遅れてますねー」
「遅れてるってなんだ⁈」
「ぶはははっ」
「ふふっ……ふはっ……!」
言い合う間にも陛下からメッセンジャーが届き、此方からは追加で師匠、バルドルさんにもレイナルドさんとの合流を知らせた。
「ゲンジャルさん達とはどこで落ち合うんですか?」
レイナルドさんは胸元から時計を取り出して時間を確認する。
「隠れ家で集合予定だ、もう集まっているかもしれん。寄っていいか」
「もちろんですけど、隠れ家って?」
「オセアンで何が起きているのかを調査中だったんだ……はぁ、まさかおまえ達が此処にいるとはな」
そう言ったレイナルドさんは、それはそれは深い溜息を吐いたのだった。
「レン!」
「アッシュさん!」
はぐっと再会を喜び、ゲンジャルさん、ミッシェルさん、ウォーカーさん。
みんなどこかやつれた様子で、レイナルドさんの無精ひげにはじまり身だしなみに気を遣う余裕もなかったのがありありと見て取れたが、それでも病気や怪我をしたという雰囲気は一切なく、こうして無事に再会できた。
いろいろ聞きたいこと、話したい事はあれど、いまはオセアン大陸の獄鬼討滅戦の山場。全員で広場に戻り、陛下とレイナルドさん達を引き合わせて簡単な挨拶を済ませた後は、いよいよ俺の出番だ。
「魔力をしっかりと回復させておけ」
「はい」
陛下に頷き返し、師匠に教えられて自分で作った魔力回復ポーションを飲む。もちろん通常のそれではなく『僧侶の薬』側に入る特製の一本だ。
徐々に回復して来る魔力を実感している間にも、陛下の拡声魔法は王都の民に呼び掛ける。
戦いの終わり。
罪深き者達がすべて捕らえられたこと。
民を守るべき王が獄鬼に憑かれ、それはマーヘ大陸の陰謀だったが、トルの王族はオセアン大陸そのものを獄鬼に渡すつもりだったことなども語られた。
尋問中の録音された声もしっかりと再生されていた。
そうしている間にも、広場の周りには民衆が集まり始める。
各国の騎士達が「終わったぞ」「もう出ても大丈夫だ」「これから中央広場では王族の断罪が行われるぞ」と声を上げて回っていたからである。
今回の黒幕が誰であったのか、国民は知る必要がある。
その言葉通りだ。
本来であれば数日掛かるだろう争いを短時間で済ませられたのは、恐ろしかっただろうに堪え忍んでくれた皆のおかげ。
もう皆を苦しめる者はない。
戦いは終わったのだという、事実上の終戦宣言。
そして――。
『トルの民よ――オセアンのすべての民よ! 我は此度の獄鬼との争いの中で幾つもの奇跡を見た。僧侶以外にはどうする事も出来なかった獄鬼を相手に戦士が単身で勝利する姿。誰一人欠ける事なく戻った騎士団、冒険者達の誇らしげな姿。血の匂いも、痛みに呻く声も、苦悶の表情もここにはない。我々は勇敢なる同胞を誰一人失うことなく此処にいる! この戦において獄鬼は決して絶望への案内人ではなかった。この戦は、主神様の恩寵を我らが知る機会だった』
陛下の視線に促されて、俺は集められた獄鬼たちの前に立つ。
拡声魔法は更に語る。
『オセアンの民よ、窓を開けよ! 外に出よ! そして己が眼で奇跡の光景を見るが良い! 創世より1000年、最初で最後と言われた神託より800年――今日という日に主神様が我等に与えられたもうた祝福である!!』
……そんな大げさなと思わないでもないけれど。
そう言うことにしておけって皆が目で訴えて来るから我慢しよう。意識を集中し、王都を……ううん、もう、自分の力が及ぶ範囲全部でいい。
少しでも広い土地を。
たくさんの人たちを。
獄鬼の恐怖から遠ざけてあげて欲しい。
マーヘ大陸の好きになんか、絶対にさせない。
「浄化――!」
ぶわりと足元から巻き上がる清浄なる風の渦が俺から放たれる神力に拡げられ、遠く、どこまでも遠く吹き流れる。
力の及んだ全域に降り注いだ光の雨。
獄鬼はゆっくりとその輪郭をぼやけさせ輝く粒子となり大気に溶けた。
「ぁ……」
体から全部の力が抜けて世界が傾ぐ。
直後に抱き留めてくれた複数の腕。
意識が遠のく一瞬。
「ふね……へや……」
『扉』を出しておくのを忘れたな、って。
船の部屋になら『扉』を出しっぱなしにしているから、連れて行ってくれたらいいな、なんて。
支えてくれた誰かの腕に、そういうのも含めて、全部委ねるしかなかった。
「獄鬼を前にして動きを止めるなんて何を考えている⁈」
「え……」
「聞いてんのかレン!」
レン、て。
俺の名前。
「……やっぱりレイナルドさん……本物、の?」
「は?」
俺だけじゃない。
クルトさんとウーガさんにも真ん丸の目で見上げられて、さすがにレイナルドさんも何かが妙なことに気付いたんだろう。
「……おまえら、此処で何をしてんだ?」
「――っ、何をしているはこっちの台詞ですよ、なんでマーヘ大陸にいるはずの人がオセアン大陸にいるんですか!!」
「俺は……」
言い掛けて、後方から来ていた騎士団がようやく追いつく。
「も、申し訳ありませんっ、我々の不手際で逃げられまして……!」
「いえ、お怪我がないのでしたら……怪我はないですか?」
「ありません。これを近付けてしまったばかりに獄鬼が恐慌状態に陥りまして……」
「獄鬼が恐慌状態だと?」
「え?」
聞き返したレイナルドさんに、騎士の皆さんも戸惑い気味。
「……レン様。あの、此方の方は……」
「うちのパーティリーダーです。プラーントゥ大陸の金級冒険者レイナルドさん」
「! 失礼致しました、連合軍ホエ11番隊です。こちらの不手際でお手数をお掛けしました!」
びしっと敬礼されて、レイナルドさんが呆気に取られている。
ちなみに彼に脳天から真っ二つにされた獄鬼は生命活動を止めた器と共にゆっくりと細かな灰に変化し消えようとしている。
「レン様、次はどこへ移動したら良いでしょうか」
「少し待ってください、皆さんは……もう戻って良さそうです」
改めて獄鬼の感知領域を拡げ、周辺どころか広場に集めている彼ら以外の反応は卵状態の獄鬼だけだと確認。
「せっかくですから一緒に戻りましょう」
そう伝えれば騎士達は揃って安堵した表情になった。
と、隊長さんなのだろう人物がメッセンジャーを使う。魔石に魔力を流すと見慣れた魔の鴎が顕現し、更に魔力を流すと目が赤くなる。
録音が始まった合図だ。
「連合軍ホエ11番隊です。対象沈黙。負傷者ゼロ。レン様と合流したため、これより広場まで護衛につきます」
報告を終えて魔力を止めれば、目は普通の黒色に戻る。そのタイミングで腕を上げることで、魔の鴎は出発の合図だと判断し飛び立つのだ。行先はたぶんホエ国の騎士団長か、その周辺だろう。
「――」
で、この一連の流れを黙って見ていたレイナルドさんが目を見開いている。
この人のこういう顔は初めて見るかもしれない。クルトさんやウーガさんにとってもそうだったみたいで、二人ともちょっとだけ笑っていた。
「レイナルドさん。たぶん話す事がいっぱいあると思うので、先ずは一緒に広場へどうですか? ゲンジャルさんやアッシュさん達はどうしているんですか」
「ぇ。あ、ああ、全員ここに来てるが……いや、待て、さっきの魔物はなんだ? しかも獄鬼が恐慌状態だと? 魔獣除けで?」
「さっきのはメッセンジャーと言って――」
説明しようとしたらクルトさんに肩を叩かれて、止められる。
「説明しても絶対に混乱するから、ゆっくり落ち着いてからの方が良いよ」
「同感。それに説明するなら全員揃ってからにしよ」
「……そうですか?」
そうなのかな。
レイナルドさんは今すぐに説明を求めるような顔をしているのだけど、……でも何も言わないところを見るとクルトさん達の意見が正しいのかもしれない。
「……グランツェさん達にはレイナルドさんと合流したことを伝えた方が良いですよね?」
「うん、それは必要」
ウーガに同意され、俺はまずグランツェさんとのメッセンジャーを取り出した。
「グランツェさん、レンです。獄鬼の残数ゼロです。マーヘ大陸からの侵入者も感知出来るほど残滓を纏った人はもういません。こちらはレイナルドさんと合流しました。他の皆さんとも合流してから広場に戻ります」
そう録音して飛び立たせてから、グランツェさんより陛下に報告すべき内容ではないかと思い至る。
自分で思っている以上に動揺しているっぽい。
改めて陛下へのメッセンジャーを起動して残数ゼロと、他の仲間と合流してから広場に戻ることを伝えて送り出したところで、今度は俺のところに魔の鴎が飛んで来る。
腕に止まらせて魔力を流すと、聞こえて来たのはグランツェさんの声だ。
『グランツェだ、了解した。……というか、なぜそこにレイナルドが?』
「ふっ……」
グランツェさんの声がちょっと上擦ってた。
動揺しているのを感じて、俺だけじゃなくクルトさん達も笑ったが、それ以上にレイナルドさんの反応が。
「待て、なんで魔の鴎からあいつの声がするんだ? どうして魔石が魔の鴎に……これは一体なんだ⁈」
なんだか楽しくなって来た。
「これはメッセンジャーですよ、いま大流行の魔導具です。レイナルドさん遅れてますねー」
「遅れてるってなんだ⁈」
「ぶはははっ」
「ふふっ……ふはっ……!」
言い合う間にも陛下からメッセンジャーが届き、此方からは追加で師匠、バルドルさんにもレイナルドさんとの合流を知らせた。
「ゲンジャルさん達とはどこで落ち合うんですか?」
レイナルドさんは胸元から時計を取り出して時間を確認する。
「隠れ家で集合予定だ、もう集まっているかもしれん。寄っていいか」
「もちろんですけど、隠れ家って?」
「オセアンで何が起きているのかを調査中だったんだ……はぁ、まさかおまえ達が此処にいるとはな」
そう言ったレイナルドさんは、それはそれは深い溜息を吐いたのだった。
「レン!」
「アッシュさん!」
はぐっと再会を喜び、ゲンジャルさん、ミッシェルさん、ウォーカーさん。
みんなどこかやつれた様子で、レイナルドさんの無精ひげにはじまり身だしなみに気を遣う余裕もなかったのがありありと見て取れたが、それでも病気や怪我をしたという雰囲気は一切なく、こうして無事に再会できた。
いろいろ聞きたいこと、話したい事はあれど、いまはオセアン大陸の獄鬼討滅戦の山場。全員で広場に戻り、陛下とレイナルドさん達を引き合わせて簡単な挨拶を済ませた後は、いよいよ俺の出番だ。
「魔力をしっかりと回復させておけ」
「はい」
陛下に頷き返し、師匠に教えられて自分で作った魔力回復ポーションを飲む。もちろん通常のそれではなく『僧侶の薬』側に入る特製の一本だ。
徐々に回復して来る魔力を実感している間にも、陛下の拡声魔法は王都の民に呼び掛ける。
戦いの終わり。
罪深き者達がすべて捕らえられたこと。
民を守るべき王が獄鬼に憑かれ、それはマーヘ大陸の陰謀だったが、トルの王族はオセアン大陸そのものを獄鬼に渡すつもりだったことなども語られた。
尋問中の録音された声もしっかりと再生されていた。
そうしている間にも、広場の周りには民衆が集まり始める。
各国の騎士達が「終わったぞ」「もう出ても大丈夫だ」「これから中央広場では王族の断罪が行われるぞ」と声を上げて回っていたからである。
今回の黒幕が誰であったのか、国民は知る必要がある。
その言葉通りだ。
本来であれば数日掛かるだろう争いを短時間で済ませられたのは、恐ろしかっただろうに堪え忍んでくれた皆のおかげ。
もう皆を苦しめる者はない。
戦いは終わったのだという、事実上の終戦宣言。
そして――。
『トルの民よ――オセアンのすべての民よ! 我は此度の獄鬼との争いの中で幾つもの奇跡を見た。僧侶以外にはどうする事も出来なかった獄鬼を相手に戦士が単身で勝利する姿。誰一人欠ける事なく戻った騎士団、冒険者達の誇らしげな姿。血の匂いも、痛みに呻く声も、苦悶の表情もここにはない。我々は勇敢なる同胞を誰一人失うことなく此処にいる! この戦において獄鬼は決して絶望への案内人ではなかった。この戦は、主神様の恩寵を我らが知る機会だった』
陛下の視線に促されて、俺は集められた獄鬼たちの前に立つ。
拡声魔法は更に語る。
『オセアンの民よ、窓を開けよ! 外に出よ! そして己が眼で奇跡の光景を見るが良い! 創世より1000年、最初で最後と言われた神託より800年――今日という日に主神様が我等に与えられたもうた祝福である!!』
……そんな大げさなと思わないでもないけれど。
そう言うことにしておけって皆が目で訴えて来るから我慢しよう。意識を集中し、王都を……ううん、もう、自分の力が及ぶ範囲全部でいい。
少しでも広い土地を。
たくさんの人たちを。
獄鬼の恐怖から遠ざけてあげて欲しい。
マーヘ大陸の好きになんか、絶対にさせない。
「浄化――!」
ぶわりと足元から巻き上がる清浄なる風の渦が俺から放たれる神力に拡げられ、遠く、どこまでも遠く吹き流れる。
力の及んだ全域に降り注いだ光の雨。
獄鬼はゆっくりとその輪郭をぼやけさせ輝く粒子となり大気に溶けた。
「ぁ……」
体から全部の力が抜けて世界が傾ぐ。
直後に抱き留めてくれた複数の腕。
意識が遠のく一瞬。
「ふね……へや……」
『扉』を出しておくのを忘れたな、って。
船の部屋になら『扉』を出しっぱなしにしているから、連れて行ってくれたらいいな、なんて。
支えてくれた誰かの腕に、そういうのも含めて、全部委ねるしかなかった。
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