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第5章 マーへ大陸の陰謀
134.その後のオセアン大陸
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浄化の後はいつも通りに昏睡状態に陥った。
後で聞いたら、今回の浄化はトルの王都どころかトルの国土の2割くらいを覆ったそうで、その一部は国境を越えてメール国にも及んだそうだ。
届く範囲全部って願ったせいかな。
俺は未だかつてないほどの神力を使い果たし、結果、7日間も眠り続けてしまった。
で、目覚めた途端に「やり過ぎだ」とリーデン様に叱られた。
そう。
目が覚めたらそこにいたのはリーデン様で、つまり俺は、無事に神具『住居兼用移動車両』Ex.に移動させられていたのだ。
昏倒した時に支えてくれたクルトさんが俺の呟きを拾ってくれていて、同じく聞こえてはいたものの意味不明だったレイナルドさんに「船の部屋に『扉』があって、その先に主神様がいるんだと思います」って伝えてくれた。
俺の船室は皆で集まれる空間と寝室がしっかりと区切られていて、神具『住居兼用移動車両』Ex.の『扉』は寝台の奥の壁際に設置してある。
「普通の扉にしか見えないんだが間違いないのか」
「うぉっ、この部屋オカシイぞ⁈」
「見た事のない造りだな……」
「はいはい主神様がお越しになられるのでレンくんを降ろしたら閉めますよ!」
珍しく主導権を握ったクルトさんがレイナルドさんやグランツェさんを追い払って玄関扉を閉めたのだと教えてくれたのは、リーデン様だ。
神具『野営用テント』のあれこれを開発した時に17人(俺含)には見えるようにしておいて良かったとつくづく思ったけど、こっちの皆には目覚めた後で「心配させたこと」と「驚かせたこと」で二倍怒られた。
それ以上は怒られたくなかったので、クルトさんの機転のおかげで7日間で目覚められたことは秘密。まさかリーデン様の傍に戻らなかったら1カ月近く目覚めなかっただろうなんて自分でも想像してなかったからね!
とまぁそんなわけで、俺が聞いた話のほとんどは一週間後に要点だけを纏めたって感じのとてもシンプルな報告だったが、リアルタイムでその場にいたウーガさんやエニスさんが当時の周囲の反応を添えてくれたおかげでとても面白かった。
レイナルドパーティの5人は獄鬼除けよりもメッセンジャーの方に興味津々。魔豹にはそれ以上の関心を示したものの、魔石が不足しているから「自分の分は自分で用意しろ」と言われた結果、メール国海岸沿いの銀級ダンジョンに飛び込んだそうだ。
しかもこの銀級ダンジョンはグランツェパーティも踏破済み。
俺が寝込んで動けない状況だったこともあり、参加希望者を募って行けるメンバー総出で下層の魔物狩りをした結果、魔の鴎や魔豹を含む700以上の魔石を持ち帰ったんだって!
おかげでパーティからパーティへのメッセンジャーが充実したのはもちろん、個人間のメッセンジャーを手に入れた人も。俺も「お土産だ」ってクルトさんとの間のメッセンジャーを持つことが出来たし、師匠は実験が進むとご満悦。
ちなみに魔豹を顕現出来ると新たに判明したのはレイナルドさんと魔法使いのミッシェルさんだ。
「戦略が広がるぞ!」って子どもみたいに大興奮だったらしい。
そのレイナルドパーティがオセアン大陸にいた理由については、マーヘ大陸でそういう計画があることを現地で知ったからで、しかし潜入中の身である彼らは大っぴらに動けない。
予定通りに進んでいれば俺達がオセアン大陸にいる頃だと気付き、同行しているはずの大臣さんに相談すべく此処に移動して来たんだそうだ。
しかし帝都ラックの港に俺たちの船が見当たらない。
そればかりかやけに物々しい雰囲気で、プラーントゥ大陸から何隻もの小型船が移動して来ている。
聞けば俺たちの船が大陸の反対側から各国に移動し、プラーントゥ大陸からは僧侶を含む銀級以上の冒険者達が続々と到着していた時期に被っているから、タイミングが悪かったんだろう。
しかし「これはおかしい」と確信したレイナルドさん達は問題のトル国に潜入し情報を集めることにしたらしいが、そっちに到着したらしたで治安は荒れ放題。
手の届く範囲でトルの人たちを保護していた場所が、彼らが言った「隠れ家」だった。
獄鬼除け、メッセンジャー、更には『浄化』なんていう新技。
「規格外に磨きが掛かり過ぎだ」って、……うん、精神衛生上、誉め言葉として受け取っておくことにした。
――そんなこんなで迎えた11月8日。
ようやくリーデン様からもお墨付きをもらって行動の制限も解除され、改めて全員で今後の予定を相談する。
場所はいつも通りプラーントゥ大陸の船上、居住区三階端の俺の部屋。
エニスさん、ヒユナさんと師匠の部屋から向こうを割り当てられたレイナルドパーティの5人は再会初日に比べればスッキリ、綺麗になっていたが、やっぱりやつれていて、マーヘ大陸でどれだけ苦労していたのかが伺える。
妙なやる気に満ちているのは解放感のせいかな?
「さて今後の予定だが、クルト、バルドルパーティの4人はレンの付き添いで鉄級、銅級ダンジョンの攻略。グランツェパーティは……金級ダンジョンに挑戦しに行くか?」
「いいのか?」
「構わない、どのみちしばらくは此処で足止めだ」
「足止め、ですか?」
どういう意味かと聞き返せば、レイナルドからは「マーヘ大陸をこれ以上は放置出来ない」と。
「陛下ともこの数日間で話し合ったが、他の大陸にも周知し、獄鬼と手を組んだマーヘ大陸の中央5カ国を叩く。放置しておけば、次に狙われるのはインセクツ大陸だ」
レイナルドの確信めいた断言は、この一年で集めた情報に裏打ちされた事実なのだろうと判る。
「あの国の貴族と獄鬼が組んだらと想像すると……頭が痛い」
「だな」
グランツェが額を抑え、ディゼルが頷く。
同意しているのは他の面々も同じだった。
インセクツ大陸と言えばクルトさんの故郷がある南の大陸で、大きさで言うとオセアン大陸の倍。
一番力を持っているトカゲの王様が治めるラビラントの国から西4カ国――つまり地図で言うとマーヘ大陸の真下に位置する4つの国は、先祖返りした姿の獣人族が大半の、クルトさん曰く「暑いのと、虫を食べる習慣さえなければ訪れやすい土地」だ。
対して大半の獣人族がそうであるように耳と尻尾だけが特徴の獣人族が多く、他所よりも人族が多いのは東3カ国。
クルトさんの故郷は東端のアベイラという国にある。
こちらの3国はいつかも聞いた「貴族至上主義」が顕著で、選ばれた血統の自分達は貧しい連中をどう扱ってもいいのだと公言している。
では、東と西、どちらがマーヘ大陸と手を組んだら厄介かと言ったら、答えは「どちらも」。
何せ敵は獄鬼だ。
マーヘ大陸が獄鬼と手を組んでいる事実、そして僧侶にしか対応出来なかった強敵がいまや魔導具一つで誰にでも対処可能になったと知っているのはプラーントゥ大陸とオセアン大陸のみ。
このまま情報を共有せず、マーヘ大陸とインセクツ大陸が手を組んでしまえば、世界規模の戦争に発展する可能性があまりにも高い。
「その前に何としても手を打つ必要がある」
「つまり他の大陸を味方に?」
「ああ。思い掛けない手土産も出来たしな」
「手土産って……あ、獄鬼除け?」
「メッセンジャーもだ」
グランツェが言うと、レイナルドも大きく頷いた。
「セルリーからはまだ改良の余地があると聞いたが、開発したばかりにしては上々過ぎる性能だ。獄鬼除けには個数の制限があるが、メッセンジャーにはそれもない。これの使用許可をチラつかせれば、獄鬼とマーヘ大陸が手を組んだという話を信じるかどうかは別にしても、此方側の陣営に付かせることは可能だろう。もちろんおまえの許可を得られれば、だが」
「皆さんのお役に立てるなら拒否する理由なんてありません」
「そうか」
良かったと皆が微笑う。
でも待って欲しい。
「なんで俺の許可? 少し手伝ったのは確かですけど、必要な術式はギァリッグ大陸とオセアン大陸と、あとは国が管理している証紋の術式を文官さんが準備してくれましたし、使えるように組み立てたのは師匠やオクティバさん達ですよ?」
「術式じゃないわ、レン」
言ったのは師匠。
「魔石に魔力を注いだら魔物が顕現すること。イメージ次第で魔獣に姿を寄せられること。それを発見したのがレンだっていう点が重要なの」
「なんでですか?」
「それが術式じゃないからさ」
「はい??」
意味が解らない。
だが、噛み砕いて説明された内容を要約すると、術式なら作成者を登録することで、他者が利用する場合にはロイヤリティが常に開発者の口座に振り込まれるけれど、『魔石に魔力を注いだら魔物が顕現する』と言う知識が知れ渡ってしまえば、利用者を把握することは出来なくなるし、開発者の権利も守られなくなってしまう。
「それは……守ってもらう必要なんてないでしょう? 開発なんて大仰なことじゃないし、ちょっとした思い付きで言ったら出来ちゃっただけで」
「その『ちょっとした思い付き』が重要なんだよ」
苦笑いのクルトさん。
「冒険者ってのは奥の手は秘匿しておくものだ。魔石を使って魔物を仲間にすることが出来るなら、ダンジョンの攻略がどれだけ楽になるか想像がつくか?」
「でも魔の鴎はまだしも、銀級の魔豹になると顕現できる人が一気に減るんですよ? 言うほど役に立たないと思いますし、むしろ鉄級や銅級の魔物を使って悪いことをする人が現れる可能性が出て来たんじゃ……」
「なるほど、そこに思い至る想像力はあるわけだ」
「……バカにしてますか?」
「いいや、感心した」
ふふっと、俺とレイナルドさんの遣り取りに周りの皆が笑っている。
「その辺りは、各国が証紋確認の時に罪状としてしっかり明記されるよう法を整備すればいい。プラーントゥ大陸ではそれで充分に抑止力になるし、他所は他所で対応したらいい話だ。余所の事までおまえが気に病む必要はない」
それはいわゆる身分証紋の照合具のアップデートというやつだ。
獄鬼とマーヘ大陸の関りを知っていながら黙認しているのは罪だっていうのも、現在のプラーントゥ大陸では罪状として記載されるようになっている。
要は、国が法を制定して公布することがアップデートの条件で、魔石から魔物・魔獣を顕現する場合の順守すべき決まりも既に草案が上がっているそうだ。
うちの大臣さんは仕事が早い!
「おまえが秘匿したいと望むならこれ以上は広めない方法を考えなければいけないが、既にオセアン大陸では周知されたも同然だし、難しい。出来れば許可してもらいたいと思う」
「その代わり、メッセンジャーみたいに魔石から魔物を顕現して完成する術式を開発した場合には必ずレンにも開発料が支払われるように定めるわ」
「……はい?」
何ですって⁇
「今回のメッセンジャーに関しても勿論だ。陛下とも交渉済みで、術式の利用料は1羽につき500G。この価格をレンと、セルリー、グランツェパーティ、国、遠話の術式、録音の術式の開発者それぞれで割る」
グランツェパーティに関しては、オクティバさんとヒユナさんが個人で関わったものの、一人1割も貰えるほどの貢献はしていないからパーティで契約するんだそうだ。
そうするとパーティの口座に振り込まれるので、クランハウスの家賃、食費、ダンジョン踏破の際の準備費用とかに使えるようになる。
で、その比率が「4:2:1:1:1:1」。
「4って……!」
いくら何でも貰い過ぎじゃないだろうか。
500Gの4割ってことは、1羽あたり200Gだ。今回の獄鬼討滅戦だけでも100羽以上の魔の鴎の魔石に術式を刻んだ。
とんでもない額になる。
「待ってくださいっ、あの、俺の4から1をバルドルパーティ、1をレイナルドパーティに入れてください!」
「は?」
「俺ら何もしてないぞ」
バルドルさんが不愉快そうに眉を寄せるが、そうじゃない。
「俺のダンジョン攻略数を揃えるためにバルドルパーティには付き合ってもらってるんですよね?」
「それはレイナルドから契約料を貰ってる」
「それ以上に無茶苦茶なことをしていると思います!」
身を乗り出して言い切れば「自覚はあるのか……」と呆れられた。
「いっぱい心配掛けたり、お世話になっているので、契約料の上乗せです!」
「上乗せ……」
「それとレイナルドパーティには俺のためにたくさん負担して頂いているので少しでも返金させて下さい。師匠への授業料や素材代も負担してくれたんでしょう?」
「あー……」
「なので、どうか!」
土下座する勢いでお願いしたら、師匠が溜息を一つ。
フォローしてくれるのかと思ったら――。
「いいんじゃない? どうせしばらくしたら私の取り分はレンに加算されるし」
「ほぁっ⁈」
「私の遺産相続人」
ピシっと指を差されて内心で悲鳴を上げる。
減らしたはずなのに増えるってどういうこと!
レイナルドが苦笑交じりに息を吐いた。
「まぁ、配分についてはレンの要望に応えるとして……本当に公開していいな? 秘匿しておけばまちがいなく奥の手になるが」
「奥の手なら他にあります。それより配分の――」
「は?」
「え?」
あ。
元々このメンバーには明かすつもりだったので知られた事は別に良いのだが、数分後、特別室の中央に、天井に頭が付くのではないかというくらい大きなユキヒョウが鎮座する光景に皆が呆然としていた。
でもほら、これこそ俺と師匠にしか出来ない正に奥の手じゃないですか。
「規格外が過ぎる……」
頭を抱えるレイナルドさんの横で、師匠が「自分にも出来る……!」と目を輝かせていたのがちょっと嬉しかった。
後で聞いたら、今回の浄化はトルの王都どころかトルの国土の2割くらいを覆ったそうで、その一部は国境を越えてメール国にも及んだそうだ。
届く範囲全部って願ったせいかな。
俺は未だかつてないほどの神力を使い果たし、結果、7日間も眠り続けてしまった。
で、目覚めた途端に「やり過ぎだ」とリーデン様に叱られた。
そう。
目が覚めたらそこにいたのはリーデン様で、つまり俺は、無事に神具『住居兼用移動車両』Ex.に移動させられていたのだ。
昏倒した時に支えてくれたクルトさんが俺の呟きを拾ってくれていて、同じく聞こえてはいたものの意味不明だったレイナルドさんに「船の部屋に『扉』があって、その先に主神様がいるんだと思います」って伝えてくれた。
俺の船室は皆で集まれる空間と寝室がしっかりと区切られていて、神具『住居兼用移動車両』Ex.の『扉』は寝台の奥の壁際に設置してある。
「普通の扉にしか見えないんだが間違いないのか」
「うぉっ、この部屋オカシイぞ⁈」
「見た事のない造りだな……」
「はいはい主神様がお越しになられるのでレンくんを降ろしたら閉めますよ!」
珍しく主導権を握ったクルトさんがレイナルドさんやグランツェさんを追い払って玄関扉を閉めたのだと教えてくれたのは、リーデン様だ。
神具『野営用テント』のあれこれを開発した時に17人(俺含)には見えるようにしておいて良かったとつくづく思ったけど、こっちの皆には目覚めた後で「心配させたこと」と「驚かせたこと」で二倍怒られた。
それ以上は怒られたくなかったので、クルトさんの機転のおかげで7日間で目覚められたことは秘密。まさかリーデン様の傍に戻らなかったら1カ月近く目覚めなかっただろうなんて自分でも想像してなかったからね!
とまぁそんなわけで、俺が聞いた話のほとんどは一週間後に要点だけを纏めたって感じのとてもシンプルな報告だったが、リアルタイムでその場にいたウーガさんやエニスさんが当時の周囲の反応を添えてくれたおかげでとても面白かった。
レイナルドパーティの5人は獄鬼除けよりもメッセンジャーの方に興味津々。魔豹にはそれ以上の関心を示したものの、魔石が不足しているから「自分の分は自分で用意しろ」と言われた結果、メール国海岸沿いの銀級ダンジョンに飛び込んだそうだ。
しかもこの銀級ダンジョンはグランツェパーティも踏破済み。
俺が寝込んで動けない状況だったこともあり、参加希望者を募って行けるメンバー総出で下層の魔物狩りをした結果、魔の鴎や魔豹を含む700以上の魔石を持ち帰ったんだって!
おかげでパーティからパーティへのメッセンジャーが充実したのはもちろん、個人間のメッセンジャーを手に入れた人も。俺も「お土産だ」ってクルトさんとの間のメッセンジャーを持つことが出来たし、師匠は実験が進むとご満悦。
ちなみに魔豹を顕現出来ると新たに判明したのはレイナルドさんと魔法使いのミッシェルさんだ。
「戦略が広がるぞ!」って子どもみたいに大興奮だったらしい。
そのレイナルドパーティがオセアン大陸にいた理由については、マーヘ大陸でそういう計画があることを現地で知ったからで、しかし潜入中の身である彼らは大っぴらに動けない。
予定通りに進んでいれば俺達がオセアン大陸にいる頃だと気付き、同行しているはずの大臣さんに相談すべく此処に移動して来たんだそうだ。
しかし帝都ラックの港に俺たちの船が見当たらない。
そればかりかやけに物々しい雰囲気で、プラーントゥ大陸から何隻もの小型船が移動して来ている。
聞けば俺たちの船が大陸の反対側から各国に移動し、プラーントゥ大陸からは僧侶を含む銀級以上の冒険者達が続々と到着していた時期に被っているから、タイミングが悪かったんだろう。
しかし「これはおかしい」と確信したレイナルドさん達は問題のトル国に潜入し情報を集めることにしたらしいが、そっちに到着したらしたで治安は荒れ放題。
手の届く範囲でトルの人たちを保護していた場所が、彼らが言った「隠れ家」だった。
獄鬼除け、メッセンジャー、更には『浄化』なんていう新技。
「規格外に磨きが掛かり過ぎだ」って、……うん、精神衛生上、誉め言葉として受け取っておくことにした。
――そんなこんなで迎えた11月8日。
ようやくリーデン様からもお墨付きをもらって行動の制限も解除され、改めて全員で今後の予定を相談する。
場所はいつも通りプラーントゥ大陸の船上、居住区三階端の俺の部屋。
エニスさん、ヒユナさんと師匠の部屋から向こうを割り当てられたレイナルドパーティの5人は再会初日に比べればスッキリ、綺麗になっていたが、やっぱりやつれていて、マーヘ大陸でどれだけ苦労していたのかが伺える。
妙なやる気に満ちているのは解放感のせいかな?
「さて今後の予定だが、クルト、バルドルパーティの4人はレンの付き添いで鉄級、銅級ダンジョンの攻略。グランツェパーティは……金級ダンジョンに挑戦しに行くか?」
「いいのか?」
「構わない、どのみちしばらくは此処で足止めだ」
「足止め、ですか?」
どういう意味かと聞き返せば、レイナルドからは「マーヘ大陸をこれ以上は放置出来ない」と。
「陛下ともこの数日間で話し合ったが、他の大陸にも周知し、獄鬼と手を組んだマーヘ大陸の中央5カ国を叩く。放置しておけば、次に狙われるのはインセクツ大陸だ」
レイナルドの確信めいた断言は、この一年で集めた情報に裏打ちされた事実なのだろうと判る。
「あの国の貴族と獄鬼が組んだらと想像すると……頭が痛い」
「だな」
グランツェが額を抑え、ディゼルが頷く。
同意しているのは他の面々も同じだった。
インセクツ大陸と言えばクルトさんの故郷がある南の大陸で、大きさで言うとオセアン大陸の倍。
一番力を持っているトカゲの王様が治めるラビラントの国から西4カ国――つまり地図で言うとマーヘ大陸の真下に位置する4つの国は、先祖返りした姿の獣人族が大半の、クルトさん曰く「暑いのと、虫を食べる習慣さえなければ訪れやすい土地」だ。
対して大半の獣人族がそうであるように耳と尻尾だけが特徴の獣人族が多く、他所よりも人族が多いのは東3カ国。
クルトさんの故郷は東端のアベイラという国にある。
こちらの3国はいつかも聞いた「貴族至上主義」が顕著で、選ばれた血統の自分達は貧しい連中をどう扱ってもいいのだと公言している。
では、東と西、どちらがマーヘ大陸と手を組んだら厄介かと言ったら、答えは「どちらも」。
何せ敵は獄鬼だ。
マーヘ大陸が獄鬼と手を組んでいる事実、そして僧侶にしか対応出来なかった強敵がいまや魔導具一つで誰にでも対処可能になったと知っているのはプラーントゥ大陸とオセアン大陸のみ。
このまま情報を共有せず、マーヘ大陸とインセクツ大陸が手を組んでしまえば、世界規模の戦争に発展する可能性があまりにも高い。
「その前に何としても手を打つ必要がある」
「つまり他の大陸を味方に?」
「ああ。思い掛けない手土産も出来たしな」
「手土産って……あ、獄鬼除け?」
「メッセンジャーもだ」
グランツェが言うと、レイナルドも大きく頷いた。
「セルリーからはまだ改良の余地があると聞いたが、開発したばかりにしては上々過ぎる性能だ。獄鬼除けには個数の制限があるが、メッセンジャーにはそれもない。これの使用許可をチラつかせれば、獄鬼とマーヘ大陸が手を組んだという話を信じるかどうかは別にしても、此方側の陣営に付かせることは可能だろう。もちろんおまえの許可を得られれば、だが」
「皆さんのお役に立てるなら拒否する理由なんてありません」
「そうか」
良かったと皆が微笑う。
でも待って欲しい。
「なんで俺の許可? 少し手伝ったのは確かですけど、必要な術式はギァリッグ大陸とオセアン大陸と、あとは国が管理している証紋の術式を文官さんが準備してくれましたし、使えるように組み立てたのは師匠やオクティバさん達ですよ?」
「術式じゃないわ、レン」
言ったのは師匠。
「魔石に魔力を注いだら魔物が顕現すること。イメージ次第で魔獣に姿を寄せられること。それを発見したのがレンだっていう点が重要なの」
「なんでですか?」
「それが術式じゃないからさ」
「はい??」
意味が解らない。
だが、噛み砕いて説明された内容を要約すると、術式なら作成者を登録することで、他者が利用する場合にはロイヤリティが常に開発者の口座に振り込まれるけれど、『魔石に魔力を注いだら魔物が顕現する』と言う知識が知れ渡ってしまえば、利用者を把握することは出来なくなるし、開発者の権利も守られなくなってしまう。
「それは……守ってもらう必要なんてないでしょう? 開発なんて大仰なことじゃないし、ちょっとした思い付きで言ったら出来ちゃっただけで」
「その『ちょっとした思い付き』が重要なんだよ」
苦笑いのクルトさん。
「冒険者ってのは奥の手は秘匿しておくものだ。魔石を使って魔物を仲間にすることが出来るなら、ダンジョンの攻略がどれだけ楽になるか想像がつくか?」
「でも魔の鴎はまだしも、銀級の魔豹になると顕現できる人が一気に減るんですよ? 言うほど役に立たないと思いますし、むしろ鉄級や銅級の魔物を使って悪いことをする人が現れる可能性が出て来たんじゃ……」
「なるほど、そこに思い至る想像力はあるわけだ」
「……バカにしてますか?」
「いいや、感心した」
ふふっと、俺とレイナルドさんの遣り取りに周りの皆が笑っている。
「その辺りは、各国が証紋確認の時に罪状としてしっかり明記されるよう法を整備すればいい。プラーントゥ大陸ではそれで充分に抑止力になるし、他所は他所で対応したらいい話だ。余所の事までおまえが気に病む必要はない」
それはいわゆる身分証紋の照合具のアップデートというやつだ。
獄鬼とマーヘ大陸の関りを知っていながら黙認しているのは罪だっていうのも、現在のプラーントゥ大陸では罪状として記載されるようになっている。
要は、国が法を制定して公布することがアップデートの条件で、魔石から魔物・魔獣を顕現する場合の順守すべき決まりも既に草案が上がっているそうだ。
うちの大臣さんは仕事が早い!
「おまえが秘匿したいと望むならこれ以上は広めない方法を考えなければいけないが、既にオセアン大陸では周知されたも同然だし、難しい。出来れば許可してもらいたいと思う」
「その代わり、メッセンジャーみたいに魔石から魔物を顕現して完成する術式を開発した場合には必ずレンにも開発料が支払われるように定めるわ」
「……はい?」
何ですって⁇
「今回のメッセンジャーに関しても勿論だ。陛下とも交渉済みで、術式の利用料は1羽につき500G。この価格をレンと、セルリー、グランツェパーティ、国、遠話の術式、録音の術式の開発者それぞれで割る」
グランツェパーティに関しては、オクティバさんとヒユナさんが個人で関わったものの、一人1割も貰えるほどの貢献はしていないからパーティで契約するんだそうだ。
そうするとパーティの口座に振り込まれるので、クランハウスの家賃、食費、ダンジョン踏破の際の準備費用とかに使えるようになる。
で、その比率が「4:2:1:1:1:1」。
「4って……!」
いくら何でも貰い過ぎじゃないだろうか。
500Gの4割ってことは、1羽あたり200Gだ。今回の獄鬼討滅戦だけでも100羽以上の魔の鴎の魔石に術式を刻んだ。
とんでもない額になる。
「待ってくださいっ、あの、俺の4から1をバルドルパーティ、1をレイナルドパーティに入れてください!」
「は?」
「俺ら何もしてないぞ」
バルドルさんが不愉快そうに眉を寄せるが、そうじゃない。
「俺のダンジョン攻略数を揃えるためにバルドルパーティには付き合ってもらってるんですよね?」
「それはレイナルドから契約料を貰ってる」
「それ以上に無茶苦茶なことをしていると思います!」
身を乗り出して言い切れば「自覚はあるのか……」と呆れられた。
「いっぱい心配掛けたり、お世話になっているので、契約料の上乗せです!」
「上乗せ……」
「それとレイナルドパーティには俺のためにたくさん負担して頂いているので少しでも返金させて下さい。師匠への授業料や素材代も負担してくれたんでしょう?」
「あー……」
「なので、どうか!」
土下座する勢いでお願いしたら、師匠が溜息を一つ。
フォローしてくれるのかと思ったら――。
「いいんじゃない? どうせしばらくしたら私の取り分はレンに加算されるし」
「ほぁっ⁈」
「私の遺産相続人」
ピシっと指を差されて内心で悲鳴を上げる。
減らしたはずなのに増えるってどういうこと!
レイナルドが苦笑交じりに息を吐いた。
「まぁ、配分についてはレンの要望に応えるとして……本当に公開していいな? 秘匿しておけばまちがいなく奥の手になるが」
「奥の手なら他にあります。それより配分の――」
「は?」
「え?」
あ。
元々このメンバーには明かすつもりだったので知られた事は別に良いのだが、数分後、特別室の中央に、天井に頭が付くのではないかというくらい大きなユキヒョウが鎮座する光景に皆が呆然としていた。
でもほら、これこそ俺と師匠にしか出来ない正に奥の手じゃないですか。
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頭を抱えるレイナルドさんの横で、師匠が「自分にも出来る……!」と目を輝かせていたのがちょっと嬉しかった。
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