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第5章 マーへ大陸の陰謀

150.『ソワサント』(8)

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 最後の一頭が斃れて、でも、すぐには誰も動けなかった。

「……はぁ……はぁ……っ」

 何人もの苦しそうな呼吸が耳を打ち、ザザッて、いきなり樹上からウーガさんが落ちて。

「大丈夫ですか⁈」
「ウーガ!」

 俺とレイナルドさんが慌てて駆け寄ったら、ウーガさんは「あは~、もぉー……手に力が入んない。魔力切れ~」って、青白い顔で笑ってて。

「……ふっ」
「ははっ……」
「あはは! 勝ったな⁈」
「終わったな!!」

 たくさんの、歓喜の声。

「俺ももう限界……」

 剣を鞘に戻した途端に背中から大地に倒れ込んだエニスさん。魔法使いのドーガさんは問題なさそう。バルドルさんも少し顔色が悪く、手足が震えて見えるが、さりげなくクルトさんが支えているので大丈夫だろう。クルトさんも魔力は多くないけど彼の武器は魔剣なので、他のメンバーよりは顔色が良い。

「俺も魔剣が欲しい。切実に欲しい。レン、開発頼む」
「はいっ? 魔剣て開発出来るものなんですか?」
「知らん」

 ひどい。
 後方で苦笑していたレイナルドさんは、泉の周りに転がる殺人猿ムルトルグノンの屍を見て、エニスさん達のように地面に大の字になって倒れ込みながらも笑っている他のパーティの皆を見て、目を眇めた。

「全員よくやった! 魔剣無しで、50もの殺人猿ムルトルグノン相手に一人の死人も出さなかった! 俺たちの完全勝利だ!!」
「「「「おおおおぉぉぉおおっ!!」」」」

 冒険者達の勝鬨の声。
 獄鬼ヘルネル戦の時とは違った喜びと感動に胸が熱くなる。

「レン、治療を頼んでも良いか?」
「もちろんです。ポーションもどんどん使ってください」

 早口に言い合い、俺は一先ずパーティメンバーを確認する。頬を爪で裂かれたり、鞭のような腕に殴られて痣になっている場所などはあったが、どれも軽傷だ。うちのメンバーに限れば怪我より魔力不足の方が問題だ。
 初級の魔力回復ポーションを渡して服用してもらっている間に、レイナルドさんは他のパーティに、怪我人には僧侶の治癒ソワン、もしくはポーションがあること。こんな状況だから一人当たり殺人猿ムルトルグノンの魔石一つで手を打つと宣言した。
 俺自身は別に魔石も要らないのだけど……相場を荒らすなって、いつものあれだ。魔石一つで済むなら破格だと皆が言う。
 ……判っているけど、貰って嬉しくない報酬って「何だかなぁ」である。




 それからしばらくして怪我人の治療は無事に済んだが、バルドルパーティの面々がそうであるように魔力の使い過ぎで魔力回路が傷ついている場合は全身に筋肉痛のような痛みが残り、これには治癒ソワンも治療用のポーションも効果がないためしばらく休んでいるしかない。
 とは言え、1時間もすれば普通に動けるようになるのだから問題と言えば出発時間が遅れる程度だ。
 だが、もう一つの問題――俺たちは早めに出発するつもりでテントをはじめ全て片付けてからの殺人猿ムルトルグノンとの戦闘だったが、他のパーティはそうではない。
 テントを壊されたり、食材が使い物にならなくなったチームは、必然的にここでリタイアするしかなかった。
 が、ここで更なる問題が判明する。
 此処は第22階層。
 転移陣に乗るには20階層に戻るか、30階層に進むしかなく、……20階層に戻るのは当然といえば当然の結論だったが、回復役も食材も不足している状態で20階層まで戻るのは、運任せと言っても過言ではない危険な旅路になる。
 結果、自分達で戻るというパーティを除いた4つのチームが合同で頭を下げたのは金級冒険者のレイナルドさんとウォーカーさん。

「護衛をお願いします」

 ――というわけだ。
 後日、冒険者ギルドで正式な依頼書を作製するという内容で話が纏まり、一時的に二人と別れることになったのだった。
 バルドルパーティはテントも食材も無事で、僧侶の俺がいる。

「おまえ達まで戻る必要はないから先に進め。30階層に着いたらメッセンジャーを飛ばすからそれまでは29階層に留まっていろ」

 メッセンジャーは距離によるものの飛ばした階層の前後2つくらいまでは届くと実証済みだ。
 29階層の端と30階層の転移陣なら余裕である。

「久々のこのメンバーですね」
「だな」
「金級が二人いてもいなくても大切なことは変わらない。油断せず、確実に先に進むぞ」
「おー!」

 バルドルさん、エニスさん、ウーガさん、ドーガさん、クルトさん、それから俺という6人で、4日間掛けて第29階層に到達。
 レイナルドさん達からメッセンジャーが飛んで来たのは、それから2日後だった。
 野営地は常に他のパーティと共用で緊張を強いられたが特に何事もなく過ぎたが、問題は30階層で起きた。
 ただし入場前から懸念していたような、他所のパーティによる嫌がらせめいた話ではない。
 30階層で合流したのはレイナルドさんとウォーカーさんだけではなかったんだ。

「やほー!」
「今日からよろしくな、テントが楽しみだぜ」
「私は数日ぶりだけどもうレンのご飯が恋しいわ」

 二人の後方から顔を見せたのはミッシェルさん、ゲンジャルさん、アッシュさん。
 更に。

「やぁ。元気そうでなによりだ」
「大変だったみたいだね」

 そう声を掛けて来たのは、グランツェパーティの5人。
 そう、グランツェパーティまで勢揃いしていたのだ。

「何事ですか?」
「詳しい話はテントでする。29階層に戻って、出してもらってもいいか?」
「それはもちろんですけど……」

 どことなく緊迫した彼らの雰囲気に、無意識に喉が鳴る。
 その後のテントで聞かされたのは、このダンジョンで起きている異変。行方不明者が出ており、その捜索をグランツェパーティが引き受けたという話だった。
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