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第6章 変遷する世界
157.魔物の氾濫(4)※戦闘有り
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「三時の方向、ラララの大群!!」
「範囲魔法が打てるヤツはいるか⁈」
「いけるわ!」
一匹なら大人の男の拳程度の大きさで脅威にはなり得ないが、最小でも必ず20匹前後の群れで襲い掛かって来ては人の足から這い上がって目玉や……以下略だが、いろいろ恐ろしい魔物が、いまは三時の方向から100以上が群れて此方側に攻め込んできている。
その知らせに真っ先に手を上げたのはミッシェルさん。
「アレは二度と近付かせないわよ……!」
って、よろしくない思い出があるらしい。
「充分に引き付けてから撃て!」
「言われなくても!」
目を輝かせたミッシェルさんが魔杖に魔力を込め始め最初の一撃同様の術式を空に描き始める。
同時、飛んで来た魔の鴎はグランツェさんからの知らせ。
『砂浜、フレッシーで二人負傷』
「行きます!」
それを聞いて即座に声を上げたのは後方支援に徹していた銀級冒険者達だ。
戦闘が始まってそろそろ1時間――後方でひたすら味方を増やす作業に追われている俺が直接見られるのは遠距離攻撃が基本の魔法使いと弓士の戦いだけだが、常に行き交う魔の鴎の声から、こちらが優勢に進んでいるのは伝わってくる。
問題は、戦闘が始まる前だった。
白金級冒険者、金級冒険者は普段通りに武器を振るい魔物を屠っていくのに対して銀級冒険者は普通に動けたのが半分、残りの半分は怯えながらも戦う、戦えないから後方支援に徹する、そして逃げるのどれかを選んだ。
銀級ダンジョンの一般的なレべルの魔物なら集まった全員が問題なかったのかもしれない。
でも、此処で戦う魔物は3ヵ月近くも放置され図らずも強化されてしまっているのだ。
レイナルドが以前に言っていた『目指す者』と『諦められない者』の違いが何となくだが判ってしまった。
「いまから3名向かいます」
グランツェさんとの魔の鴎にそれだけを伝えて飛ばし、俺は足元に山積みになっている魔石から味方の顕現を再開した。
既に80頭近い魔豹が味方となり戦場を疾走しているが、まるでノコギリザメみたいな見た目のくせに海から弾丸よろしく飛んで来たフレッシーに貫かれて魔石に戻った子がいれば、冒険者を庇って喉を食い破られた子もいる。
冒険者達はそういう魔石も後方支援を選んだ銀級冒険者に託し、此処に集めてくれるから、もう一度顕現する事は出来るのだが、以前から何度も世話になっている3頭と違って魔石の区別が付かないのが申し訳なく思えた。
「力を貸してね」
青色の魔石から顕現したのは砂浜で冒険者を襲った、鋼の剣より硬い甲羅に覆われているせいで魔法攻撃しか効かない蟹、ルクバブクリエ。
赤色の魔石から顕現したのは17階層でも遭遇した赤いアライグマ、ラトンラヴル。
蟹は頼めば土の地面でも移動可能で、獣の牙から冒険者を守ってくれた。
ラトンラヴルは砂浜で火魔法を放ちまくっている。
「レン、ラララは要らないわよね!」
「そ、そうですね」
小さくても群れて魔物の全身を這いずり回るのは結構な脅威では……と思ったけど、ミッシェルさんの顔を見て「要りません」と断言した。
数を顕現するのも大変だが、余計なことを言うべきではないもんね!
「そうよね、なら遠慮なく!」
ミッシェルさんがにやりと笑う。
一際鮮やかな赤い閃光が空を輝かせ、迫り来る鼠の群れに落ちた炎。
「終焉の炎檻!!」
周囲の冒険者達に悲鳴を上げさせるほどに烈しく、熱く、空から地上を流れ落ちる灼熱の滝は、彼方にいた頃にテレビでしか見た事のない噴火した山を流れる火砕流に似て見えた。
いくらダンジョンの地形が数日で元に戻るといはいえ遠慮がなさ過ぎではないだろうか。
「火球!」
「土槍!」
ミッシェルさんの火魔法から逃れて迫る鼠は、他の魔法使いや、後方に控える剣士たちの武器で次々と殲滅されていく。
「うふふふふ根絶やしよっ、ラララは一匹残らず駆逐よ……!」
……うん、今後もラララは絶対に顕現すまい。
それに、海から飛び出してくるのが唯一の攻撃手段になるフレッシーも、毒の霧みたいなものを吐き出しながら移動するため広範囲に被害を出しかねない真っ赤な薔薇……根をタコの足みたいにクネクネさせながら移動するプワズンローズも味方として顕現するつもりはない。
そういう取捨選択はこちらに一任されている。
「頼むね」
俺が送り出す魔物たちはダンジョンの魔物と比べると明らかに色合いが違うから冒険者達が敵味方の区別が出来なくて混乱することもない。
放置されたダンジョンの、想定外の脅威に、オセアン大陸の皇帝陛下は頭を抱えたそうだが、実際に脅威と相対した冒険者達が後に此処で体験した『魔物との共闘』を感謝する事になるなんて、この時の俺は考えても見なかった。
もちろん皆が皆、そうじゃないし。
魔物と共闘なんてゴメンだと拒否する人も、自分が扱えないからろくでもないと否定する人もいる。
たぶんそういうところも「目指す者」「諦めない者」そして「諦めてしまう者」の違いなんだ。
「くっ……」
盾を構え、魔物のヘイトを集め四方から攻撃されながらも耐えるバルドルさん。
それによって魔物の敵意から逸れ確実な攻撃態勢を取れるクルトさんやエニスさんが確実な攻撃で以て敵の機動力を奪い、倒す。
戦いの終わりはまだ見えないが、でも、彼らは間違いなく「目指す者」だった。
「範囲魔法が打てるヤツはいるか⁈」
「いけるわ!」
一匹なら大人の男の拳程度の大きさで脅威にはなり得ないが、最小でも必ず20匹前後の群れで襲い掛かって来ては人の足から這い上がって目玉や……以下略だが、いろいろ恐ろしい魔物が、いまは三時の方向から100以上が群れて此方側に攻め込んできている。
その知らせに真っ先に手を上げたのはミッシェルさん。
「アレは二度と近付かせないわよ……!」
って、よろしくない思い出があるらしい。
「充分に引き付けてから撃て!」
「言われなくても!」
目を輝かせたミッシェルさんが魔杖に魔力を込め始め最初の一撃同様の術式を空に描き始める。
同時、飛んで来た魔の鴎はグランツェさんからの知らせ。
『砂浜、フレッシーで二人負傷』
「行きます!」
それを聞いて即座に声を上げたのは後方支援に徹していた銀級冒険者達だ。
戦闘が始まってそろそろ1時間――後方でひたすら味方を増やす作業に追われている俺が直接見られるのは遠距離攻撃が基本の魔法使いと弓士の戦いだけだが、常に行き交う魔の鴎の声から、こちらが優勢に進んでいるのは伝わってくる。
問題は、戦闘が始まる前だった。
白金級冒険者、金級冒険者は普段通りに武器を振るい魔物を屠っていくのに対して銀級冒険者は普通に動けたのが半分、残りの半分は怯えながらも戦う、戦えないから後方支援に徹する、そして逃げるのどれかを選んだ。
銀級ダンジョンの一般的なレべルの魔物なら集まった全員が問題なかったのかもしれない。
でも、此処で戦う魔物は3ヵ月近くも放置され図らずも強化されてしまっているのだ。
レイナルドが以前に言っていた『目指す者』と『諦められない者』の違いが何となくだが判ってしまった。
「いまから3名向かいます」
グランツェさんとの魔の鴎にそれだけを伝えて飛ばし、俺は足元に山積みになっている魔石から味方の顕現を再開した。
既に80頭近い魔豹が味方となり戦場を疾走しているが、まるでノコギリザメみたいな見た目のくせに海から弾丸よろしく飛んで来たフレッシーに貫かれて魔石に戻った子がいれば、冒険者を庇って喉を食い破られた子もいる。
冒険者達はそういう魔石も後方支援を選んだ銀級冒険者に託し、此処に集めてくれるから、もう一度顕現する事は出来るのだが、以前から何度も世話になっている3頭と違って魔石の区別が付かないのが申し訳なく思えた。
「力を貸してね」
青色の魔石から顕現したのは砂浜で冒険者を襲った、鋼の剣より硬い甲羅に覆われているせいで魔法攻撃しか効かない蟹、ルクバブクリエ。
赤色の魔石から顕現したのは17階層でも遭遇した赤いアライグマ、ラトンラヴル。
蟹は頼めば土の地面でも移動可能で、獣の牙から冒険者を守ってくれた。
ラトンラヴルは砂浜で火魔法を放ちまくっている。
「レン、ラララは要らないわよね!」
「そ、そうですね」
小さくても群れて魔物の全身を這いずり回るのは結構な脅威では……と思ったけど、ミッシェルさんの顔を見て「要りません」と断言した。
数を顕現するのも大変だが、余計なことを言うべきではないもんね!
「そうよね、なら遠慮なく!」
ミッシェルさんがにやりと笑う。
一際鮮やかな赤い閃光が空を輝かせ、迫り来る鼠の群れに落ちた炎。
「終焉の炎檻!!」
周囲の冒険者達に悲鳴を上げさせるほどに烈しく、熱く、空から地上を流れ落ちる灼熱の滝は、彼方にいた頃にテレビでしか見た事のない噴火した山を流れる火砕流に似て見えた。
いくらダンジョンの地形が数日で元に戻るといはいえ遠慮がなさ過ぎではないだろうか。
「火球!」
「土槍!」
ミッシェルさんの火魔法から逃れて迫る鼠は、他の魔法使いや、後方に控える剣士たちの武器で次々と殲滅されていく。
「うふふふふ根絶やしよっ、ラララは一匹残らず駆逐よ……!」
……うん、今後もラララは絶対に顕現すまい。
それに、海から飛び出してくるのが唯一の攻撃手段になるフレッシーも、毒の霧みたいなものを吐き出しながら移動するため広範囲に被害を出しかねない真っ赤な薔薇……根をタコの足みたいにクネクネさせながら移動するプワズンローズも味方として顕現するつもりはない。
そういう取捨選択はこちらに一任されている。
「頼むね」
俺が送り出す魔物たちはダンジョンの魔物と比べると明らかに色合いが違うから冒険者達が敵味方の区別が出来なくて混乱することもない。
放置されたダンジョンの、想定外の脅威に、オセアン大陸の皇帝陛下は頭を抱えたそうだが、実際に脅威と相対した冒険者達が後に此処で体験した『魔物との共闘』を感謝する事になるなんて、この時の俺は考えても見なかった。
もちろん皆が皆、そうじゃないし。
魔物と共闘なんてゴメンだと拒否する人も、自分が扱えないからろくでもないと否定する人もいる。
たぶんそういうところも「目指す者」「諦めない者」そして「諦めてしまう者」の違いなんだ。
「くっ……」
盾を構え、魔物のヘイトを集め四方から攻撃されながらも耐えるバルドルさん。
それによって魔物の敵意から逸れ確実な攻撃態勢を取れるクルトさんやエニスさんが確実な攻撃で以て敵の機動力を奪い、倒す。
戦いの終わりはまだ見えないが、でも、彼らは間違いなく「目指す者」だった。
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