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第6章 変遷する世界
163.連休の過ごし方(2)
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リーデン様の言葉をどう解釈したらいいのか悩む。
一糸纏わぬってつまり……裸の事だけど、それに慣れる……?
無意識に視線がリーデン様の胸元に移り、すーっと下に……。
「ぁっ……待っ……リーデン様がお風呂に入るってことですか⁈」
「そうだが」
「一人で、ですよね?」
「……それでは意味がないだろう」
眉間に皺を寄せた顔はとても不機嫌そうだが、聞けば聞くほど受け入れ難い。だってお風呂ってことはお互いに肌かだ。タオルを巻く、水着を着る、そうやって温泉に入る混浴施設の話も聞くけど個人的に言わせてもらえばそれは「風呂」じゃないと思ってる。
って、話しが逸れたけど、そもそも自宅の風呂である。
お互いに膝を抱えて座らないとぶつかる……いや、触れてしまうような浴槽で。
至近距離に、裸の好きな人がいると想像してみて欲しい。
「ぅぁっ……」
やばい。
思わず声が出るくらいには、まずい。
だって意識しないわけがないじゃないか!
「レン」
「ひぅっ」
耳元に響く低い声と、握るだけじゃなく指が絡められた手。
とても目を合わせられるような心境じゃないから顔を上げられなかったが、その息遣いで彼が笑ったのは感じ取れた。
「いまの、おまえの心境が、そのまま俺の心境だ」
「……え?」
「緊張するのはおまえだけではない」
「う……」
嘘だぁと言い掛けて、以前のリーデン様の話を思い出す。
神様で、年齢は4桁。
彫刻みたいに整った見た目だけじゃなく俺一人くらい軽々と抱き上げられる引き締まった筋肉。今までに付き合った相手がいないなんてどう考えても無理があるし、恋人がいなくたって、大人の割り切った関係くらいあって当然だと思っていた。
だけど――。
「……緊張するんですか?」
「いまもしている」
「なん、で?」
「……おまえに拒否されたらどうしようかと」
びっくりした。
え。
「待っ……あの、昨日まで……その……」
好きですと告白して以降、キスを除けば性的な接触に数えられるような行為は片手で足りるし、それも一方的に俺がされるばかりで、何のために成人前に雌体になったのか疑問に思う事さえあった。
なのに今の言い様だと、まるで。
「俺が拒否するって思って、何もしなかったんですか?」
「疲れていただろう?」
「それは……はい」
後半なんて特に、だ。
他所のパーティと一緒に行動するのも、連日の討滅戦も、心身共に疲れていたのは否めない。
「レンの性格では翌日の精神状態にも影響しそうだった」
「あー……」
そうか。
どうして何もしないのかなって考えたのと同じくらい、実際にしてしまったらきっと皆の顔が見られないなって考えた。
一緒に攻略しているわけでもないのに、いつでも会える好きな人。
トゥルヌソルに大切な人を置いてきている仲間の事を考えるとズルをしているように思えてならなかったからだ。
「それならそうと、ちゃんと説明しておいてください。俺なりに悩むことだってあったんですからね」
「ほぅ。そんなに俺としたかったか」
「そ、……~~っ」
肯定も否定も出来なくて口を噤んだら、リーデン様が声を上げて笑う。
「もう知りませんっ。お風呂はご自由にどうぞ、一人で入って試行錯誤したらいいと思います!」
「ふっ……すまん。一人では意味がないと言っただろう、頼む」
「イヤです! 大体、慣れるって何なんですか、そんなの」
「風呂ならば裸なのが自然だろう?」
自然と言われて少し迷ったが、まぁ、うん。
「風呂という空間で当然の恰好をしているだけだと思えば難易度も下がる気がするんだ」
「難易度?」
また意外な言葉が出て来て戸惑う。
この人……神様は、さっきから何が言いたいんだろうか。
「リーデン様」
「なんだ」
「回りくどい言い方は止めて欲しいです。つまりどういうことですか? 要点だけを簡潔に、一言でお願いします」
真っ直ぐに見上げて問い質したら、リーデン様は至極真面目な顔で少し考えてから、言う。
「レンと風呂に入りたい」
「……えー……っと」
うん、とても簡潔だった。
お風呂の準備は終わらせてあった。
するかもしれないって思ったら、やっぱりお風呂は必須だし、煩悩を掃うためやたら真剣に浴槽や床を磨いてしまったのも結果オーライというか、なんというか。
二人一緒に脱衣所に立つと、普段は充分な広さだと思っていたスペースがとても狭く感じられる。
いまは広さなんかどうでもいいね!
内心で頭を抱える。
だってここからどうするの。
自分が先に脱ぐのか、リーデン様に脱いでもらうのか、どっちが精神的に耐えられるのかまったく想像が付かない。
「レン」
「は、はいっ」
「脱がそうか?」
「――」
何てことだ、相手の服を脱がすという方法もあったらしい! ……って違う!
「先ほどから赤くなったり青くなったりと忙しそうだ」
「それは……だって、急にお風呂を一緒になんて言うから……」
「ふむ」
「ちょっ、うぷっ」
唐突に手が伸びて来て、シャツを脱がされる。
しかもそれで動揺している隙にボトムスも下着と一緒に降ろされてあっという間に素っ裸だ。
「リーデン様⁈」
「風呂に入るのに着衣は要らないはずだ」
「それはそうですがっ」
「判っているなら、ほら、先に中に入っていろ」
「はぅあっ」
トンと背中を押されて浴室に押し入れられた。
しかもこの後はどうしたらいいのかを迷う間もなく、リーデン様も入って来る気配。脱いでますよね、は、裸ですよねっ、俺は視線をどこに固定したら……!
「レン」
「はいっ」
「髪を洗ってやりたいんだが」
「……え?」
頭上から声がするので見上げたら、そこに逆さまに映るキレイな顔。
「髪って、俺の?」
「ああ。その後で俺の髪を任せたい」
「それなら、はい。構いませんけど……」
最初に会った時は地面を引きずるくらい長い髪で、頭上には大きな枝角があった神様は、この神具『住居兼用移動車両』Ex.で暮らすようになってからはどちらも「邪魔だ」と言って、髪は背中の半分くらいまで、角は1センチも伸びれば折ってしまうようになった。
洗ってあげるのに支障はない。
が、思わず振り返ってしまうと同時に引き締まった胸筋が視界を覆うから心臓に悪い。
下は見ない、絶対に見ない!
バタバタと洗面所から取って来たタオルを突き出し、どうか腰に巻いて下さいとお願いした。
***
読んで頂きありがとうございます。
お気付きでしょうが明日はゆるめですがR-18です、ご注意ください。
一糸纏わぬってつまり……裸の事だけど、それに慣れる……?
無意識に視線がリーデン様の胸元に移り、すーっと下に……。
「ぁっ……待っ……リーデン様がお風呂に入るってことですか⁈」
「そうだが」
「一人で、ですよね?」
「……それでは意味がないだろう」
眉間に皺を寄せた顔はとても不機嫌そうだが、聞けば聞くほど受け入れ難い。だってお風呂ってことはお互いに肌かだ。タオルを巻く、水着を着る、そうやって温泉に入る混浴施設の話も聞くけど個人的に言わせてもらえばそれは「風呂」じゃないと思ってる。
って、話しが逸れたけど、そもそも自宅の風呂である。
お互いに膝を抱えて座らないとぶつかる……いや、触れてしまうような浴槽で。
至近距離に、裸の好きな人がいると想像してみて欲しい。
「ぅぁっ……」
やばい。
思わず声が出るくらいには、まずい。
だって意識しないわけがないじゃないか!
「レン」
「ひぅっ」
耳元に響く低い声と、握るだけじゃなく指が絡められた手。
とても目を合わせられるような心境じゃないから顔を上げられなかったが、その息遣いで彼が笑ったのは感じ取れた。
「いまの、おまえの心境が、そのまま俺の心境だ」
「……え?」
「緊張するのはおまえだけではない」
「う……」
嘘だぁと言い掛けて、以前のリーデン様の話を思い出す。
神様で、年齢は4桁。
彫刻みたいに整った見た目だけじゃなく俺一人くらい軽々と抱き上げられる引き締まった筋肉。今までに付き合った相手がいないなんてどう考えても無理があるし、恋人がいなくたって、大人の割り切った関係くらいあって当然だと思っていた。
だけど――。
「……緊張するんですか?」
「いまもしている」
「なん、で?」
「……おまえに拒否されたらどうしようかと」
びっくりした。
え。
「待っ……あの、昨日まで……その……」
好きですと告白して以降、キスを除けば性的な接触に数えられるような行為は片手で足りるし、それも一方的に俺がされるばかりで、何のために成人前に雌体になったのか疑問に思う事さえあった。
なのに今の言い様だと、まるで。
「俺が拒否するって思って、何もしなかったんですか?」
「疲れていただろう?」
「それは……はい」
後半なんて特に、だ。
他所のパーティと一緒に行動するのも、連日の討滅戦も、心身共に疲れていたのは否めない。
「レンの性格では翌日の精神状態にも影響しそうだった」
「あー……」
そうか。
どうして何もしないのかなって考えたのと同じくらい、実際にしてしまったらきっと皆の顔が見られないなって考えた。
一緒に攻略しているわけでもないのに、いつでも会える好きな人。
トゥルヌソルに大切な人を置いてきている仲間の事を考えるとズルをしているように思えてならなかったからだ。
「それならそうと、ちゃんと説明しておいてください。俺なりに悩むことだってあったんですからね」
「ほぅ。そんなに俺としたかったか」
「そ、……~~っ」
肯定も否定も出来なくて口を噤んだら、リーデン様が声を上げて笑う。
「もう知りませんっ。お風呂はご自由にどうぞ、一人で入って試行錯誤したらいいと思います!」
「ふっ……すまん。一人では意味がないと言っただろう、頼む」
「イヤです! 大体、慣れるって何なんですか、そんなの」
「風呂ならば裸なのが自然だろう?」
自然と言われて少し迷ったが、まぁ、うん。
「風呂という空間で当然の恰好をしているだけだと思えば難易度も下がる気がするんだ」
「難易度?」
また意外な言葉が出て来て戸惑う。
この人……神様は、さっきから何が言いたいんだろうか。
「リーデン様」
「なんだ」
「回りくどい言い方は止めて欲しいです。つまりどういうことですか? 要点だけを簡潔に、一言でお願いします」
真っ直ぐに見上げて問い質したら、リーデン様は至極真面目な顔で少し考えてから、言う。
「レンと風呂に入りたい」
「……えー……っと」
うん、とても簡潔だった。
お風呂の準備は終わらせてあった。
するかもしれないって思ったら、やっぱりお風呂は必須だし、煩悩を掃うためやたら真剣に浴槽や床を磨いてしまったのも結果オーライというか、なんというか。
二人一緒に脱衣所に立つと、普段は充分な広さだと思っていたスペースがとても狭く感じられる。
いまは広さなんかどうでもいいね!
内心で頭を抱える。
だってここからどうするの。
自分が先に脱ぐのか、リーデン様に脱いでもらうのか、どっちが精神的に耐えられるのかまったく想像が付かない。
「レン」
「は、はいっ」
「脱がそうか?」
「――」
何てことだ、相手の服を脱がすという方法もあったらしい! ……って違う!
「先ほどから赤くなったり青くなったりと忙しそうだ」
「それは……だって、急にお風呂を一緒になんて言うから……」
「ふむ」
「ちょっ、うぷっ」
唐突に手が伸びて来て、シャツを脱がされる。
しかもそれで動揺している隙にボトムスも下着と一緒に降ろされてあっという間に素っ裸だ。
「リーデン様⁈」
「風呂に入るのに着衣は要らないはずだ」
「それはそうですがっ」
「判っているなら、ほら、先に中に入っていろ」
「はぅあっ」
トンと背中を押されて浴室に押し入れられた。
しかもこの後はどうしたらいいのかを迷う間もなく、リーデン様も入って来る気配。脱いでますよね、は、裸ですよねっ、俺は視線をどこに固定したら……!
「レン」
「はいっ」
「髪を洗ってやりたいんだが」
「……え?」
頭上から声がするので見上げたら、そこに逆さまに映るキレイな顔。
「髪って、俺の?」
「ああ。その後で俺の髪を任せたい」
「それなら、はい。構いませんけど……」
最初に会った時は地面を引きずるくらい長い髪で、頭上には大きな枝角があった神様は、この神具『住居兼用移動車両』Ex.で暮らすようになってからはどちらも「邪魔だ」と言って、髪は背中の半分くらいまで、角は1センチも伸びれば折ってしまうようになった。
洗ってあげるのに支障はない。
が、思わず振り返ってしまうと同時に引き締まった胸筋が視界を覆うから心臓に悪い。
下は見ない、絶対に見ない!
バタバタと洗面所から取って来たタオルを突き出し、どうか腰に巻いて下さいとお願いした。
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お気付きでしょうが明日はゆるめですがR-18です、ご注意ください。
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