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第6章 変遷する世界

164.連休の過ごし方(3)※R18

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 ※すみません、途中で切れなくて長くなりました。R-18です。苦手な方はご注意ください。




 ***

 神具『住居兼用移動車両』Ex.の浴室は、アパート暮らしだったあの頃に比べれば格段に広く、たぶんだけど一軒家……注文住宅の平均と比べても、特注でないと実現しないんじゃないかってくらい広く感じる。それは、湯舟が埋め込み式で、湯が冷めたら残念だと思って風呂の蓋をしたままにしてあるのも一因かな。
 どもあれ、そういう理由で大人二人で入ったって何の問題もなく、洗い場で向かい合って座りながら髪を洗っていても手足が壁にぶつかることはない。

「どうだ?」
「もう少しゴシゴシしてもらっても……さすがに爪は痛いので、指の腹で擦る感じって言ったら伝わりますか?」
「ふむ。こうか」
「そうです、そうです」

 人に頭を洗ってもらうなんていつ以来かを考えて、もしかしたら院長先生と一緒に風呂に入っていた小学校低学年の頃以来じゃないかと気付く。
 その時はどんな感じだったかまるで思い出せないが、洗ってもらうって意外に気持ちいい。いつのまにか風呂椅子が二つあったのには驚いたが、家そのものが不思議空間なので考えるのは早々に止めておく。
 差し出すような形になった頭は、いま泡だらけだ。

「これは何の香りだ? すっきりしているが」
「ミントがメインですよ。フレッシュ系のハーブがいろいろ合わさっているみたいです」
「……言われてみれば確かにミントのようだが……面白い配合だな」

 面白い、とは微妙な感想だ。
 こっちの世界――ロテュスには石鹸もシャンプーも、何なら髪の艶出しオイルも存在している。
 鉄級フェ―ルンダンジョンからそれらのレシピがドロップ済みだからだ。
 相変わらずの獣人世界はレシピそのものの無香料が主流になっているが、中には薬師が研究した花の香り付き、葉っぱの匂い付きというのも流通しているらしく、そのおかげか、はたまた現物ではないからか、スキル『通販』で購入したそれらを使っても外出可能なので俺個人はもっぱら地球産を使用している。
 稼いだお金はロテュスで使うんじゃないのかって?
 もちろんそれは大事だが、洗い終えた後の仕上がり、指通り、しかもシャンプーとリンスが一つになっていて手間要らずなど、こういうのは良い方に慣れてしまうとなかなか……ね。

「シャワーは適温でセットしているので、こっちのレバーを上に回るとシャワーが、下に回すと蛇口からお湯が出ます」
「わかった」

 泡が沁みると痛いので目を瞑ったままの説明になるが、ここで暮らすようになってからもうすぐ3年だ。相手に伝わるように説明するのだって何の問題もない。
 洗い終わって目を開けると、そこには真顔のリーデン様。

「どうだ?」
「気持ち良かったです」
「そうか」
「はい。次は俺の番ですね」
「頼む」

 言って、俺が洗いやすいように頭を下げてくれるが、体格差もあって背中や腰が痛くなりそうだ。どっちがいいかなと少し考えてから自分が立つことにした。

「もうちょっと体を起こしても大丈夫です」
「ん」

 それから、長くてサラサラの、白に限りなく近い薄紫色の髪を洗っていく。
 白菫色、霞色なんて言い方もあるらしいけど、それよりは紫に近くて、綺麗で、優しい春の朝焼けの色。

「こんな風にリーデン様の髪に触るのは初めてですね」
「感想は?」
「少し緊張しますけど、楽しいです」
「そうか。俺は髪を洗うという行為自体が初めてだが、悪くない」
「痛かったり、くすぐったかったりはしませんか?」
「平気だ」

 その言葉にホッとして、続けた。
 お風呂の入り方なんて人それぞれだろうけど、院長先生に「上から洗う」と教えられた俺は最初に頭、顔、そして体を洗ってから湯舟に入る。
「最初に身体を洗ってしまったら、頭を洗って流したシャンプーで体をベタベタにしたまま寝なきゃいけなくなるぞ」なんて教え方をされたからだ。

「随分と愉快な御仁だな」
「まぁ、そうですね。何人もの孤児を育てた人ですし。はい、顔あげてください。髪は後ろに流しますよー」

 そう声を掛けながら、気付く。
 困った。
 リーデン様の長い髪をこのままにしておいたら体を洗う時に石鹸塗れになるし、湯舟に入る時にもよろしくない。

「髪ゴムを用意しておけば良かった……」
「何か足りないものがあるのか?」
「長い髪を結んでおくのに髪ゴムが必要で……ちょっとスキル『通販』で買ってきます」
「待て。髪ゴム……ゴム……これか」

 ぶつぶつと小声で呟いていたリーデン様の手に、不意に光りが集まって来る。しばらくして光が象ったのは以前の世界ならどこにでも売っていた覚えがある茶色の髪ゴム。

「すごい! 魔法ですか?」
「いや、ただの取り寄せ……のようなものだ。カグヤがラーゼンのこれを楽そうだとひどく羨ましがったことがあってな。天界エデンに幾つか置いてあったのを思い出した」

 聞けば第五席カグヤ様は長い黒髪の女性で、その手入のためには常に下級神の皆様が駆り出されるんだとか。それに対してセミロングの第一席ラーゼン様が一人で手早く結ぶのを見て、髪ゴムを欲しがったんだって。

「結局は無意味だったが」
「なんでですか」
「カグヤの髪が長すぎて、自分ではどうにもならなかった」
「あー……」

 それは、なんというか、残念でしたねとしか言えない。
 結果として第一席ラーゼン様が差し入れたそれは天界エデンで『ご自由にお取りください』扱いになったそうだ。
 今回はありがたくお借りしたそれでリーデン様の髪を結いあげる。

「ロテュスにはゴムってないんですか?」
「まだ発見に至っていないのだろう。あれは確か……いや、おまえの冒険に水を差すような真似はすまい」
「それは聞けませんね」

 くすくすと笑いつつ、結び終えて正面から確認する。
 短くなったわけじゃないのに今までさらりと流れていた髪が見えなくなっただけで、イメージが変わる。

「……卑怯なくらいカッコいいです」
「惚れ直したか」
「ぅぐ……」

 惚れ直すも何もない。
 さっきから意識し過ぎて平静を装うのも大変だし、本人が全部気付いているだろうにそういうことを言うのは意地悪だ。

「体洗っちゃいます!」
「ふっ」

 泡立ちの良くなるボディタオルに、八つ当たりっぽく乱暴な手つきで石鹸を擦り付けて泡立てたら、まずは首の後ろ、背中、それから――。

「……レン、おいで」
「っ……」

 ビクッて震えてしまったのは、怖いからじゃない……と思う。
 けど、いよいよなのかと思ったら。
 うん。
 緊張、だ。
 心臓が飛び出るってこういうことかと思う現象が実際に体の中で起きているような、変な感じ。

「おいで」

 手を引かれて前に回り、目が合う。

「嫌がることはしない。約束する」

 声を出そうとしたのに喉がひりついてしまい頷く事しか出来なかった。
 顎を取られてキスを一つ。

「この泡は増えるのか?」
「え。あ、お湯を足して、石鹸を擦れば幾らでも……」
「……あぁ、これは楽しいかもしれない」

 試すなり、どんどん増える泡を手に取りながら笑うリーデン様は子どもみたいだ。

「レン。この泡で俺もおまえを洗ってもいいか?」
「……っと、はい……」

 ううう静まれ心臓。
 洗うだけ、洗うだけ……って念じながら、俺もボディタオルを伸ばしてリーデン様の首から肩、胸を擦っていくが、こんもりした泡を付けながら俺の身体を洗っ……いいや、違う。もう、撫でていくリーデン様の手が明らかにヤラシイ!
 首筋や肩、腕、胸、腹……手の平で撫でるように洗っているつもりらしい彼は、微笑っている。

「ぅっ……」
「これを外しても?」

 訊かれたのは、俺が腰に巻いているタオルだ。リーデン様に渡した時にちゃんと自分の分も用意して早々に隠させてもらったけど、ヤラシイ洗い方のせいでソレが中から存在を主張し始めていて、隠した意味がなくなっている。
 だからって露わにされるのは別の話で。

「ダメ、です!」
「ふむ……なら、ここだ」
「えっ」

 腕を引かれ、座らされたのはその右腿の上。
 しっかりと腰を抱かれるも反射的に抵抗しようとして足が動き。

「っ」
「え」

 脛に当たった固いモノ。

「……これって……」
「……おまえに触れられればそうなる」
「俺に……」

 ごくり、喉が鳴った。
 手を伸ばしてしまったのはほとんど無意識だし。
 タオルの上からなぞるように指を滑らせたのだって、本当に、他意はなくて。

「……おっきい……」

 ぐってリーデン様の体が揺れた。

「え……」
「レン……いまは洗う時間だ」
「えっ、ひゃっ……!」

 俺が落ちないよう腰を抱いた腕はそのままに、リーデン様の左手がタオルの下に潜り込んで腿から関節、膝裏から表、そして脛、ふくらはぎというように全身を余すことなく泡と一緒に撫でていく。
 足首、踝、かかと、足裏、指の間。

「ひゃんっ」

 くすぐったいくすぐったい!
 リーデン様が満足そうに笑っている。

「待って! 待って待ってっ」
「ダメだ」
「やっ、ひぁっ、やんっ!」

 石鹸の泡のせいで足の指と指の間を滑るように撫でられる度、ゾクゾクした感覚が腹の奥のほうに溜まっていく。終いには小指を抓まれるだけで息が詰まるし、体全体が痙攣するみたいに震える。

「リーデン様待って、ダメ、そこヤダッ」
「ならば反対だな」
「はンっ」

 腰の結び目を解かれて反対の、さっきと同じように腿から関節を通って足先までを余すことなく泡だらけにしていく大きな手。
 解かれたタオルが重力に従って俺の股間を覆っているのがひどく生々しくて、震える。
 完全に勃ってしまった。
 触りたい。
 扱きたい。
 解放したい。
 本能で延ばした手は、だけど捕まってしまう。

「レンは俺を洗ってくれるのではなかったか?」
「りぃでんさま……っ」

 意地悪に笑った彼は腰を抱き上げ、いつの間にか至近距離にあった風呂椅子に俺を座らせると、巻いて欲しいと頼んだ自分の腰のタオルを取り払ってしまった。
 自然、そこに視線が吸い寄せられた。
 髪と同じ色の陰毛を押し上げて存在する欲情は、神様も一人の男だって言う証。

「……怖くはないか?」
「え?」
「おまえのものに比べると禍々しく凶悪な見た目だ。こんなものに身体を穿たれるのは、恐ろしくないか?」

 えっと……これはどう反応したらいいんだろうと迷って、自分も初めてだと言っていたリーデン様の顔を思い出した。
 俺以外に比較対象がいないから不安になった?
 っていうか、それって普通に俺に対して失礼じゃない?? 決して粗末なものではないと思ってたんですけど!
 動揺、羞恥、混乱、困惑……ぐるぐるして、あーってなって。
 でも最終的な答えは「怖くないです」しかなかった。
 これが尻にって考えたら無理としか思えないけど、そうじゃない。

「リーデン様と繋がりたくて儀式を受けたんですよ……大丈夫、です」
「……そうか」

 そっと微笑ったリーデン様は、俺の脇に手を入れて立ち上がらせると、最後、タオルで隠れていた部分も丹念に泡で撫で上げていった。
 おかげで俺は情けない声を何度も上げる羽目になるし、密着しているのと、体格差のせいで腹でリーデン様のそこを擦ることになるし、合間に何度もキスをして、焦らされて、シャワーで泡を流し終える頃にはヘロヘロのデロデロだった。

「湯に浸かるのは後だ」
「んっ……」

 異論は認めないって感じの強い口調で言われたら頷くしかないし、リーデン様が髪ゴムを外すと同時に二人を包み込んだ温かくて強い風は彼の魔法で、あっという間に自分達だけじゃなく浴室全体が乾いていた。
 抱き上げられて連れていかれたのは寝室。
 ベッドに降ろす動作はとても丁寧だったけど、飢えた獣みたいな目と、息遣いに、俺はどうしようもなく興奮してしまった。

「……本当にいいな?」
「ん……お願いします……」

 腕を伸ばす。
 リーデン様は微笑う。

「それは此方の台詞だ」

 大きく広げた足の間に身体を入れ、覆いかぶさって来る大きな体。首に腕を回して引き寄せれば噛みつくようなキスが降って来る。
 その内にぐちゅ……と絡みつく様な水音と共に秘孔に差し込まれた長い指。
 風呂場で散々に弄られたそこは、緊張と不安と、それ以上の期待で彼を待っている。

「レン、愛している」
「俺も……愛しています」

 言い慣れない台詞に戸惑うけど、心は満たされて。
 腰を引き寄せられ、触れる先端。

「ゆっくりと呼吸を」
「んっ……」

 吸って、吐く。
 弛緩した体に、ゆっくりと押し入って来る大きな熱。

「呼吸を止めるな」

 ゆっくり、ゆっくり……意識的に繰り返す深い呼吸に合わせるように体の深いところが埋められていくのが判る。

「ぁっ……」
「っ……」

 腰を浮かせられた直後にぐっ……と挿れられてお腹の奥が一段重くなった。

「……は、い……った?」
「あぁ……辛くないか?」

 頷き、下から持ち上げられているような感覚が不思議過ぎて下腹部に触れてみた。
 触れれば間違いなく自分の肌なのに、確かに感じる他者の気配は魔力感知か気配感知を鍛えすぎたせいだろう。中にいるのはリーデン様に間違いないのに、本人は目の前にいるから、誰か他の……そう、例えば赤ちゃんがいるみたいな!
 そう思ったらとてつもなく愛しくなってしまって、撫でた。

「かわいい……」
「……っ」

 途端、それが存在感を増す。
 リーデン様が苦しそうに顔を歪めた。

「レン……それは俺を試しているのか……?」
「へ?」

 急に何ですかって、言葉は彼の迫力に呑まれる。
 ほんと、なに⁈

「ぁっ……!」

 膝裏を持たれ、体全体で体重を掛けるみたいにして更に奥まで穿たれる。

「ひぁっ、あ……っ」

 押しては引き、深く、時に浅く。
 抜き差しされるたびに「これが前立腺だ」と教えられたしこりを擦られて堪らなくなる。揺さぶられる振動に合わせて零れるだけだった声が熱を帯びるまでそう時間は掛からなかった。

「はんっ、あっ、ぁんっ」
「……レン……レン、気持ちいか?」
「んっ、いっ……そ、そこばっかり、ヤダ……っ」
「本当に?」
「――っ、ぁ……!」

 じわじわと全身に広がっていく甘い痺れ。
 溜まるばかりの熱を吐き出したくて自分の下腹部に手を伸ばしたらリーデン様が小さく笑う。

「ヤラシイな、レン。我慢出来ないか」
「出来な……っ」
「いいよ、自分でして見せてごらん。気持ちいい顔を、声を、もっと、もっと俺に晒してくれ」
「やっ、だめ……ぁあっ!」
「っ……」

 あっけなく吐精すると同時にリーデン様からは苦悶の呻きが零れ出た。
 一瞬だけ止まった律動は、しかしすぐに再開され、吐き出したばかりの熱だって更に猛々しく体の奥から燃え上がる。

「ぁっ、はっ、やぁっ」
「レン……レン……!」
「ぁぁんっ、りぃぇ……きもちぃ……すき……っ」

 抱き締め合って腕を伸ばし、キスを強請る。
 正気に戻った時のことなんて考える余裕もない。いまは、ただ、この人と全部一つになれたらって、そう思った。
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