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第6章 変遷する世界
176.重み
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特例というからには内容によって相応の条件がつくらしいのだけど、今回の、条件を満たしていない銀級冒険者を金級に昇級させる件では他大陸の偉い人達が承認してくれたことが判明した。
一枚目を連名で出してくれたのがギァリッグ大陸フォレ国の獅子王と騎士団長、迷宮担当大臣さん。
条件付きで承認するという二枚目はキクノ大陸で、ネージュ国の王様、迷宮担当大臣さん、文化育成大臣さんの連名で出してくれた。うちの大臣さんやレイナルドさんが「レンはキクノ大陸が好き」「米料理が上手で美味い」「生魚を食べたがっている」……といった話題を提供した結果、俺が正式にキクノ大陸を訪問し食文化の育成と普及に一役買ってくれるならという条件が付けられたらしい。
もちろん「行きます!」と即答だ。
特例に必要なのは三か国以上の承認だそうで、これらの書面を以て特例が認められたわけだけど。
「なんでギァリッグ大陸も?」
「一緒に討滅戦に参加していた白金冒険者達が全員賛成したから、らしい。単純に戦力になると判断したからだろう。マーヘ大陸に派遣した同僚は人質同然になっている現状、強い味方は多い方が良い」
「あとは銀級ダンジョン『ソワサント』で身内を助けてもらったお礼だね」
大臣さんがニコリと笑う。
第17階層で赤いアライグマに襲われていたパーティを助けた。そのメンバーが王族の関係者だろうって推測は聞いていたけど、実際にそうだったってことだろうか。
「他の大陸から異論が出てるわけでもないんだ、人助けしたご褒美だと思って素直に受け取っとけ」
承認はプラーントゥ、オセアン、キクノ、ギァリッグから受けたが、特例の承認可否は7大陸全てに向けられて行われている。参加していないマーヘはともかくインセクツとグロット大陸からも拒否がなかったのは獄鬼除けの魔導具のおかげっぽいし、巡り巡ってってことかな。
「本当に金だ……」
帝都ラックの冒険者ギルド。
必要書類の提出と、メール帝国の大臣さん、うちの大臣さん、更に金級パーティのメンバーも立ち合いのもと一人ずつ順番に昇級手続きが行われ、更新されたネームタグを手にしたクルトさんがそれを翳して呟く。
金でコーティングされたネームタグは心なしか今までより重く感じられる。
「本当にこれで金級冒険者になっちゃたんですね」
「おう。同族相手の戦に巻き込むための昇級だから祝い難いがな」
必要な条件を満たしていないのだ、祝われても困るって皆の顔に書いてある。
俺も同感だ。
「ところで年齢制限の時は入場許可を有効にするって聞きましたけど、今回はどうやったんですか? 踏破していない銀級ダンジョンを踏破済みには出来ないでしょう」
「ああ。今回は『昇級に際し銀級以下のダンジョンの踏破数免除』だな」
「へえ」
……ん?
金級以上と、銀級以下の冒険者には大きな差があるため、今日付けで金級になった俺達は別室でそれらの説明を受けた。
一つ、金級ダンジョンへの入場許可。
一つ、貴族ではないが所属する国から冒険士爵を授かり、子爵以下の貴族からの無理難題――例えば金級ダンジョンで何々の素材を採って来いなどと言った命令を拒否することが出来る。
一つ、貴族ではないが冒険士爵の特別権利として中級貴族と同等の優遇を得ると共に国の要請に従う義務を負う。
一つ、冒険者ギルドに掲示されている依頼、またはダンジョン内で問題が発生した場合にはその解決のため助力を惜しんではならない。
大まかに言うとこの四つに関して細かく指導され、はっきり言って2時間程度の説明1回で把握しきれるものではなかったけど、そう言ったらレイナルドさんが一言。
「判らなくなったら俺に訊け」
はい。
そうさせて頂きます……。
「ところで今回の特例の内容……『昇級に際し銀級以下のダンジョンの踏破数免除』って……この書き方だと、まるで白金級への昇格にも免除するみたいに聞こえるんですけど」
「ああ。そうだが」
あっさりと肯定するレイナルドさんには、さすがのエニスさんやウーガさんまでギョッとしている。
バルドルさんなんてカチンコチンに固まっている。
「いくら金級のタグを持ってたって、銀級ダンジョンにはどうしても荒くれ者が多い。今回は異常事態が起きていたせいで大きな問題は起きなかったが、主神様と縁深いおまえに何かあったら……と考えると安全策を取りたいのが世界の共通意見だ」
それは、俺に何かあったらリーデン様が世界を壊しちゃうとか、そういう懸念?
いくら何でも心配のし過ぎだと思うけど……。
「それに、銀級ダンジョンは世界に44カ所あるが、どこも常に冒険者で溢れてる。あのテントを人目に触れさせる機会も極力減らしたいんだ」
あー……それは、同意見。
幾ら内部拡張型のテントに見せかけているとは言え、食事などで違和感を持たれないよう気を遣うのはかなりしんどかった。
「トゥルヌソルを拠点に決めるなら、いずれは捜索命令が出る場合に備えてプラーントゥ大陸の銀級ダンジョン六つを踏破しておく必要はあるだろうが、まぁプラーントゥ大陸内ならまだ安全だしな」
レイナルドさんの説明に、大臣さん達が「うんうん」と当然の顔で頷いているけれどバルドルパーティの四人はなんとも言えない顔をしている。
クルトさんも、どちらかというとそちら側。
俺としてはテントを提供した側なので申し訳ないと思う……。
「おまえら、また自分達がズルしていると思ってるだろ」
「……だって」
そんなことを呆れた顔で言うレイナルドさんだけど、不思議と声は柔らかい。
「だったら、もうダンジョンであのテント使わないって言えるか?」
「……」
無理だ。
無言で顔を見合わせたけどみんなの意見が一致しているのは疑いようがない。
それはレイナルドさんにも伝わっているようで、彼は肩を竦めて「だろ」って。
「あのな、おまえ達が銀級ダンジョン『ソワサント』の44階層でどれだけの魔物を狩ったか覚えているか?」
「確か……200匹以上……?」
「そうだ。連戦に続く連戦の、最後の44階層で200匹以上の魔物を狩ったのは白金級パーティと俺達だけだ」
「え……」
「でもそれはあのテントのおかげでしっかりと休めたから……」
それに200匹どころかグランツェパーティは倍の400以上だったし、レイナルドパーティはその更に上だった。
でも、だから――。
「そうだ。つまり、長期戦になってもしっかりと戦えるヤツってのは上にいた方が世界のためなのさ。テントをはじめとした野営具はもちろん、パーティメンバーの個性も含めてな」
個性?
個性……考えていたら、視線を感じたので顔を上げる。と、なぜか皆が俺を見てる。
「な、なんですか……?」
「いや……はぁー……そうか、俺たちの覚悟なんて、まだ全然だってことか」
「そういうことだ。とっくに巻き込まれているんだから諦めろ」
「はー……」
え。
なんだろう。
よくわかんないけどモヤる!
一枚目を連名で出してくれたのがギァリッグ大陸フォレ国の獅子王と騎士団長、迷宮担当大臣さん。
条件付きで承認するという二枚目はキクノ大陸で、ネージュ国の王様、迷宮担当大臣さん、文化育成大臣さんの連名で出してくれた。うちの大臣さんやレイナルドさんが「レンはキクノ大陸が好き」「米料理が上手で美味い」「生魚を食べたがっている」……といった話題を提供した結果、俺が正式にキクノ大陸を訪問し食文化の育成と普及に一役買ってくれるならという条件が付けられたらしい。
もちろん「行きます!」と即答だ。
特例に必要なのは三か国以上の承認だそうで、これらの書面を以て特例が認められたわけだけど。
「なんでギァリッグ大陸も?」
「一緒に討滅戦に参加していた白金冒険者達が全員賛成したから、らしい。単純に戦力になると判断したからだろう。マーヘ大陸に派遣した同僚は人質同然になっている現状、強い味方は多い方が良い」
「あとは銀級ダンジョン『ソワサント』で身内を助けてもらったお礼だね」
大臣さんがニコリと笑う。
第17階層で赤いアライグマに襲われていたパーティを助けた。そのメンバーが王族の関係者だろうって推測は聞いていたけど、実際にそうだったってことだろうか。
「他の大陸から異論が出てるわけでもないんだ、人助けしたご褒美だと思って素直に受け取っとけ」
承認はプラーントゥ、オセアン、キクノ、ギァリッグから受けたが、特例の承認可否は7大陸全てに向けられて行われている。参加していないマーヘはともかくインセクツとグロット大陸からも拒否がなかったのは獄鬼除けの魔導具のおかげっぽいし、巡り巡ってってことかな。
「本当に金だ……」
帝都ラックの冒険者ギルド。
必要書類の提出と、メール帝国の大臣さん、うちの大臣さん、更に金級パーティのメンバーも立ち合いのもと一人ずつ順番に昇級手続きが行われ、更新されたネームタグを手にしたクルトさんがそれを翳して呟く。
金でコーティングされたネームタグは心なしか今までより重く感じられる。
「本当にこれで金級冒険者になっちゃたんですね」
「おう。同族相手の戦に巻き込むための昇級だから祝い難いがな」
必要な条件を満たしていないのだ、祝われても困るって皆の顔に書いてある。
俺も同感だ。
「ところで年齢制限の時は入場許可を有効にするって聞きましたけど、今回はどうやったんですか? 踏破していない銀級ダンジョンを踏破済みには出来ないでしょう」
「ああ。今回は『昇級に際し銀級以下のダンジョンの踏破数免除』だな」
「へえ」
……ん?
金級以上と、銀級以下の冒険者には大きな差があるため、今日付けで金級になった俺達は別室でそれらの説明を受けた。
一つ、金級ダンジョンへの入場許可。
一つ、貴族ではないが所属する国から冒険士爵を授かり、子爵以下の貴族からの無理難題――例えば金級ダンジョンで何々の素材を採って来いなどと言った命令を拒否することが出来る。
一つ、貴族ではないが冒険士爵の特別権利として中級貴族と同等の優遇を得ると共に国の要請に従う義務を負う。
一つ、冒険者ギルドに掲示されている依頼、またはダンジョン内で問題が発生した場合にはその解決のため助力を惜しんではならない。
大まかに言うとこの四つに関して細かく指導され、はっきり言って2時間程度の説明1回で把握しきれるものではなかったけど、そう言ったらレイナルドさんが一言。
「判らなくなったら俺に訊け」
はい。
そうさせて頂きます……。
「ところで今回の特例の内容……『昇級に際し銀級以下のダンジョンの踏破数免除』って……この書き方だと、まるで白金級への昇格にも免除するみたいに聞こえるんですけど」
「ああ。そうだが」
あっさりと肯定するレイナルドさんには、さすがのエニスさんやウーガさんまでギョッとしている。
バルドルさんなんてカチンコチンに固まっている。
「いくら金級のタグを持ってたって、銀級ダンジョンにはどうしても荒くれ者が多い。今回は異常事態が起きていたせいで大きな問題は起きなかったが、主神様と縁深いおまえに何かあったら……と考えると安全策を取りたいのが世界の共通意見だ」
それは、俺に何かあったらリーデン様が世界を壊しちゃうとか、そういう懸念?
いくら何でも心配のし過ぎだと思うけど……。
「それに、銀級ダンジョンは世界に44カ所あるが、どこも常に冒険者で溢れてる。あのテントを人目に触れさせる機会も極力減らしたいんだ」
あー……それは、同意見。
幾ら内部拡張型のテントに見せかけているとは言え、食事などで違和感を持たれないよう気を遣うのはかなりしんどかった。
「トゥルヌソルを拠点に決めるなら、いずれは捜索命令が出る場合に備えてプラーントゥ大陸の銀級ダンジョン六つを踏破しておく必要はあるだろうが、まぁプラーントゥ大陸内ならまだ安全だしな」
レイナルドさんの説明に、大臣さん達が「うんうん」と当然の顔で頷いているけれどバルドルパーティの四人はなんとも言えない顔をしている。
クルトさんも、どちらかというとそちら側。
俺としてはテントを提供した側なので申し訳ないと思う……。
「おまえら、また自分達がズルしていると思ってるだろ」
「……だって」
そんなことを呆れた顔で言うレイナルドさんだけど、不思議と声は柔らかい。
「だったら、もうダンジョンであのテント使わないって言えるか?」
「……」
無理だ。
無言で顔を見合わせたけどみんなの意見が一致しているのは疑いようがない。
それはレイナルドさんにも伝わっているようで、彼は肩を竦めて「だろ」って。
「あのな、おまえ達が銀級ダンジョン『ソワサント』の44階層でどれだけの魔物を狩ったか覚えているか?」
「確か……200匹以上……?」
「そうだ。連戦に続く連戦の、最後の44階層で200匹以上の魔物を狩ったのは白金級パーティと俺達だけだ」
「え……」
「でもそれはあのテントのおかげでしっかりと休めたから……」
それに200匹どころかグランツェパーティは倍の400以上だったし、レイナルドパーティはその更に上だった。
でも、だから――。
「そうだ。つまり、長期戦になってもしっかりと戦えるヤツってのは上にいた方が世界のためなのさ。テントをはじめとした野営具はもちろん、パーティメンバーの個性も含めてな」
個性?
個性……考えていたら、視線を感じたので顔を上げる。と、なぜか皆が俺を見てる。
「な、なんですか……?」
「いや……はぁー……そうか、俺たちの覚悟なんて、まだ全然だってことか」
「そういうことだ。とっくに巻き込まれているんだから諦めろ」
「はー……」
え。
なんだろう。
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