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第6章 変遷する世界
191.大陸奪還戦(7)
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スィンコ国の国境警備隊が駐留していたのだろう小さいながらもベッドやキッチンが設えられている小屋は人気がなくなって久しいようで、埃の溜まった床には獣の足跡すらついていない。
「無人だな」
念のために周辺を確認していた誰もがそう結論付ける。
「ここから二時間くらい歩くと街がある。一先ずそこを目指すが……ゲンジャル、ウーガ、アッシュ、先行して偵察を」
「任せろ」
経験を積ませる意図もあるだろうし、今まで別々のパーティだったメンバー間の信頼を築くという意味も含んだ人選に、ウーガさんは珍しく表情を硬くしていたが、すぐに気を取り直したのか身体強化で脚力を伸ばした。
何かあればメッセンジャーが飛ぶ。
そういう理解で、それぞれに移動を開始した。
セイス国同様に黒ずんだ大地、今にも崩れ落ちそうな木々。
更に、セイス国内を歩いていた時よりどんどん強くなっていく獄鬼の気配にさっきからぞわぞわが止まらない。
「オセアン大陸の、トル国にいた時とも比べ物にならないくらい獄鬼の気配が充満しています……」
あの時だって国の中枢にいた人達のほとんどが取り付かれていて、さらにマーヘ大陸からの侵入者もいたのに、それ以上に濃いなんてどれだけの被害が既に出ているのか想像するのも嫌になる。
「俺たちより北にいる連合軍が心配だな」
「はい……」
進むほどに緊張感を増しながら国境から最寄りだという街を目指して歩いた。
ゲンジャルさんのメッセンジャーが飛んで来たのが、それから約1時間後。
『ヤバい。待ち伏せてる。町の連中が殺される。そこで止まれ』
緊迫したゲンジャルさんの声に、やっぱり……と思ったのは俺だけじゃないはず。何も聞いていなかったセイス国とは違い、プラーントゥ・オセアン・キクノ・ギァリッグ・グロットという5大陸による連合軍がマーヘ大陸に上陸する事をカンヨン国の味方には知らされていたから街に住んでいる人々を盾にして待ち伏せるなんて作戦が取れたに違いないんだ。
「これだけ大地が荒れてしまうと隠れる場所もないな」
ゲンジャルさん達が戻るのを待ちながら辺りを見渡してみるが、見渡す限り黒ずんで荒れている土地には物陰に潜めそうな岩も、木の一本もなく、これだけ見通しが良ければ大人数で接近するのは遠目にもはっきりと判別出来てしまうだろう。
それから15分ほどで戻って来たゲンジャルさん達の話しを聞いて確信する。
不用意に近付くのは絶対にダメだ。
「気配殺して出来る限り近付いたが、町の住人だろう獣人が17人、出入口の門の側にはりつけられてた」
「は……なんて?」
「ウーガが遠耳で聞いた話だが」
言って、ゲンジャルさんに視線を向けられたウーガさんは青白い顔で後に続く。
「連合軍が近付いたら片っ端から殺していけ……きっと僧侶がいる、自分たちがここで終わりなら村の全員道連れだ、って」
「な……っ」
「
空気が張り詰める。
話を聞く皆の感情が怒りに傾いていくのを肌で感じる。
「話の内容からして獄鬼憑きなのは間違いないと思うが、そうじゃなくても敵に回っている連中がいるのはマーヘ大陸だ。連中にはレンっていう規格外の僧侶がいる点については伏せたままだから広範囲の浄化を掛けてしまえばそれで済むが、それ以外の敵には存在に気付かれて人質の身に危険が及ぶ」
「同じ獣人が敵に回っているのがとことん厄介だ」
「本当にな」
このまま進めば気付かれて町の住人が殺される。
俺が広範囲の浄化を実行したら獄鬼以外の敵に気付かれて、やはり町の住人が危険に晒される。
一番良いのは敵側に気付かれないよう人質が集められている場所に潜入して真っ先に危険を排除する方法だけれど、姿を消したり、変身したりなんて手段は残念ながら持ち合わせていない。
見通しの良い何もない大地を正面から行く以外、移動手段もない……。
「……あの……俺の見た目って、まだ子どもに見えますか?」
「……なんだ急に」
聞いたら全員が警戒を露わにした。
そんなおかしなことを言うつもりはないのだけど……。
「例えばですけど、冒険者にとても見えない格好の子どもがよろよろ街に近付いて行ったら、どうなりますか?」
「……捕まるんじゃね?」
「住民が集められている場所に連れていかれるかどうかは判らんが」
俺を見る目が怖い。
とても冷たい視線を浴びて風邪を引きそうだ。
「どこかに連れていかれるとして……俺一人だと思っていたらいきなり魔豹が3頭も現れたら驚きますよね……?」
「……そりゃあ驚くだろう」
応えてくれたのはゲンジャルさん。
レイナルドさんとバルドルさんは頭を抱えてるし、クルトさんは泣きそうな顔でこっちを見ている。うん、なかなか怖いことを言っている自覚はある。
でも、敵が獄鬼だけじゃないっていう現状で有効な手段があるなら検討の余地はあるはず。
何せこの世界に来て2年半。
規格外の僧侶とはいえ、つい最近まで銀級だったし、自分を見た獄鬼は一人残らず浄化済み。俺の人相がマーヘ大陸に伝わっているとは考え難いし、ましてや国際会議に出席しなかったマーヘ大陸には魔石から魔物が顕現するって話、メッセンジャーと、獄鬼除けという新種の魔導具についても伝えられずにいるのだから騙されてくれる可能性は充分だ。
もちろん、裏切者がいなければ、という前提だけど。
「無人だな」
念のために周辺を確認していた誰もがそう結論付ける。
「ここから二時間くらい歩くと街がある。一先ずそこを目指すが……ゲンジャル、ウーガ、アッシュ、先行して偵察を」
「任せろ」
経験を積ませる意図もあるだろうし、今まで別々のパーティだったメンバー間の信頼を築くという意味も含んだ人選に、ウーガさんは珍しく表情を硬くしていたが、すぐに気を取り直したのか身体強化で脚力を伸ばした。
何かあればメッセンジャーが飛ぶ。
そういう理解で、それぞれに移動を開始した。
セイス国同様に黒ずんだ大地、今にも崩れ落ちそうな木々。
更に、セイス国内を歩いていた時よりどんどん強くなっていく獄鬼の気配にさっきからぞわぞわが止まらない。
「オセアン大陸の、トル国にいた時とも比べ物にならないくらい獄鬼の気配が充満しています……」
あの時だって国の中枢にいた人達のほとんどが取り付かれていて、さらにマーヘ大陸からの侵入者もいたのに、それ以上に濃いなんてどれだけの被害が既に出ているのか想像するのも嫌になる。
「俺たちより北にいる連合軍が心配だな」
「はい……」
進むほどに緊張感を増しながら国境から最寄りだという街を目指して歩いた。
ゲンジャルさんのメッセンジャーが飛んで来たのが、それから約1時間後。
『ヤバい。待ち伏せてる。町の連中が殺される。そこで止まれ』
緊迫したゲンジャルさんの声に、やっぱり……と思ったのは俺だけじゃないはず。何も聞いていなかったセイス国とは違い、プラーントゥ・オセアン・キクノ・ギァリッグ・グロットという5大陸による連合軍がマーヘ大陸に上陸する事をカンヨン国の味方には知らされていたから街に住んでいる人々を盾にして待ち伏せるなんて作戦が取れたに違いないんだ。
「これだけ大地が荒れてしまうと隠れる場所もないな」
ゲンジャルさん達が戻るのを待ちながら辺りを見渡してみるが、見渡す限り黒ずんで荒れている土地には物陰に潜めそうな岩も、木の一本もなく、これだけ見通しが良ければ大人数で接近するのは遠目にもはっきりと判別出来てしまうだろう。
それから15分ほどで戻って来たゲンジャルさん達の話しを聞いて確信する。
不用意に近付くのは絶対にダメだ。
「気配殺して出来る限り近付いたが、町の住人だろう獣人が17人、出入口の門の側にはりつけられてた」
「は……なんて?」
「ウーガが遠耳で聞いた話だが」
言って、ゲンジャルさんに視線を向けられたウーガさんは青白い顔で後に続く。
「連合軍が近付いたら片っ端から殺していけ……きっと僧侶がいる、自分たちがここで終わりなら村の全員道連れだ、って」
「な……っ」
「
空気が張り詰める。
話を聞く皆の感情が怒りに傾いていくのを肌で感じる。
「話の内容からして獄鬼憑きなのは間違いないと思うが、そうじゃなくても敵に回っている連中がいるのはマーヘ大陸だ。連中にはレンっていう規格外の僧侶がいる点については伏せたままだから広範囲の浄化を掛けてしまえばそれで済むが、それ以外の敵には存在に気付かれて人質の身に危険が及ぶ」
「同じ獣人が敵に回っているのがとことん厄介だ」
「本当にな」
このまま進めば気付かれて町の住人が殺される。
俺が広範囲の浄化を実行したら獄鬼以外の敵に気付かれて、やはり町の住人が危険に晒される。
一番良いのは敵側に気付かれないよう人質が集められている場所に潜入して真っ先に危険を排除する方法だけれど、姿を消したり、変身したりなんて手段は残念ながら持ち合わせていない。
見通しの良い何もない大地を正面から行く以外、移動手段もない……。
「……あの……俺の見た目って、まだ子どもに見えますか?」
「……なんだ急に」
聞いたら全員が警戒を露わにした。
そんなおかしなことを言うつもりはないのだけど……。
「例えばですけど、冒険者にとても見えない格好の子どもがよろよろ街に近付いて行ったら、どうなりますか?」
「……捕まるんじゃね?」
「住民が集められている場所に連れていかれるかどうかは判らんが」
俺を見る目が怖い。
とても冷たい視線を浴びて風邪を引きそうだ。
「どこかに連れていかれるとして……俺一人だと思っていたらいきなり魔豹が3頭も現れたら驚きますよね……?」
「……そりゃあ驚くだろう」
応えてくれたのはゲンジャルさん。
レイナルドさんとバルドルさんは頭を抱えてるし、クルトさんは泣きそうな顔でこっちを見ている。うん、なかなか怖いことを言っている自覚はある。
でも、敵が獄鬼だけじゃないっていう現状で有効な手段があるなら検討の余地はあるはず。
何せこの世界に来て2年半。
規格外の僧侶とはいえ、つい最近まで銀級だったし、自分を見た獄鬼は一人残らず浄化済み。俺の人相がマーヘ大陸に伝わっているとは考え難いし、ましてや国際会議に出席しなかったマーヘ大陸には魔石から魔物が顕現するって話、メッセンジャーと、獄鬼除けという新種の魔導具についても伝えられずにいるのだから騙されてくれる可能性は充分だ。
もちろん、裏切者がいなければ、という前提だけど。
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