109 / 133
利用価値
しおりを挟む
「お掛けください。何か飲みますか?」
「長いするつもりは無いから良い。」
「そうですか。」
そう言ってオーナーは自分の分のグラスにワインを注ぎ、俺の対面に腰掛けた。
「それで、お話というのは?」
「単刀直入に言おう。ルビィから手を引いてくれないか?」
オーナーは少し困った顔をしながら首を傾げる。
「失礼ですがあの娘と貴方はどう言った関係で?」
「俺の今の雇い主だよ。本当はただの店番だったんだが、アンタらと縁を切るって事を別枠で依頼されてな。」
手入れされた立派な髭をいじりながら少し考えてオーナーは答えた。
「申し訳ございませんが、あの娘は手放せません。」
「そもそもルビィに貸した金は全額返されてるんだろう?もうアイツに付きまとうのはお門違いじゃないか?」
「貸した金の話じゃないんですよ。私は商人だ。今ある金よりも、これから生み出す金の方が大事なんですよ。」
オーナーそう言ってグラスのワインに少し口をつけた。
ルビィにも同じ事を言われたが、お互いが商人と言うだけに根本にあるものが同じなのだろう。
「それはつまり、ルビィは金の卵を産む鳥だから手放せないと、そういう事か?」
「あの娘はね、常人が倍の時間かかる返済を不利な条件でやりきったんですよ。その才能は確かなものだ。私の会社は是非にも彼女に継がせたい。」
商人としての実力を認めた上で身内に抱き込んで金を産ませようという魂胆なわけか。
「継ぐのはお前の息子じゃダメなのか?」
「アレは作る才はあっても売る才が無い。この店の商品の4分の1は息子が作っておりますが、我儘な性格もあって売る方には回れませんよ。」
「なるほどなぁ……。」
ルーファスに服を作る才能があるのは意外だったが、何となく納得させられてしまった。
確かにアイツに商売人は向いていないだろうし、ルビィは実績もあり、他に店を構えられるほどには優秀なのだろう。
「だが、ルビィの意思はどうなる?ハッキリ言ってアンタの息子の事をあまりよく思っていないだろう。」
「……貴方は自分の利益を考える時、他人の利益を考えますか?」
「……そうか。そういう人間だったか。」
このオーナーだからこそ店はここまで大きくなったのだろう。
「アンタの最終的な到達点はどこだ?」
「私はね、商売が好きなんですよ。どのようにすればお客様が商品を手に取ってくれるのか、どのような金額なら快くお買い上げ頂けるのか。そういう駆け引きが好きなんです。だから私はもっと沢山の人間達と商売がしたい。この国を出てね。」
「それで跡継ぎが欲しかったわけか。だが、アンタもよく分かっているはずだ。それで納得しなかった人間は、もう店を利用しないということを。」
「……確かに。なら貴方ならどうしますか?店を畳んで自分の夢を追いますか?それとも夢を諦め一生の後悔を背負いますか?」
「夢があるなら今の店などいらん。たとえ路頭に迷う結果になっても俺はロマンを追い求める。」
「なんとも若々しい発想だ。私のように年老いたものにはそんな決断は出来んのですよ。」
寂しそうに笑うオーナーに俺は少しだけ苛立ちを覚える。
「自分の夢の為に誰かを犠牲にするのなら、それほど虚しい夢も無いだろう。俺はそう思うよ。」
「いえ、私は自分の夢の為に全てを利用しようとしているだけです。貴方もその考えは理解できるのでは?」
確かに立場が違えば俺も同じ考えになっていたかもしれない。
今の俺は自分の目的のためにルシウスやソールを利用してエリクシールを探そうとしているんだからな。
「どうやらお互いに納得のいく結論には至らないらしいな。」
「そのようですね。ですがこのままだとルビィは私に黙って私の知らない土地で商売をしてしまうでしょう。ここでどれだけ討論しても私の負けではあります。」
「アンタの財力ならそのくらい探し当てられるだろう?だから俺は手を引けと言いに来たんだ。」
俺がタバコに火をつけると、オーナーは黙って机の上に灰皿替わりの小皿を用意してくれた。
そして俺のタバコを興味深そうに見ている。
「……。」
「……めっちゃタバコ見てるな。そんなに気になるか?」
話そっちのけで子供のように俺のタバコに食いついている。
その目は森でカブトムシを見つけた少年のように輝いていた。
「失礼失礼。実は私が貴方と会いたかったのは、先の大会の時に使っていたその魔道具が気になったからなんですよ。」
「灰すら勿体ないから皿を用意したのか。」
「そうです!!私珍しい魔道具には目が無くて!!」
成程これが本当の姿というところか?
「いやー、1度近くで見たかったんですよ。それってどのような効果があるんですか?リスクなどの副作用はあったりします?一成さんの世界では他にどのような魔道具が、」
「待て待て。」
いや、これは逆にチャンスかもしれないな。
「オーナーさんよ。俺がそれを語るのは良いが、俺への見返りは用意しているのか?情報は金より重い事もあるぞ?」
さてさて、どう出るかな?
流石にこの程度でルビィを諦めるようなことは無いと思うが。
「教えてくださるんですか!?それならばルビィは諦めましょう!!」
「チョロかったー。めっちゃチョロいじゃねぇかー。」
なんで早くこの話しなかったんだよ。
前半の話何だったんだよ。
「その代わり、しっかりと詳細にお願いいたしますよ?」
「分かった。分かったからこれ以上寄るな。まずはこのタバコについてだが……。」
「長いするつもりは無いから良い。」
「そうですか。」
そう言ってオーナーは自分の分のグラスにワインを注ぎ、俺の対面に腰掛けた。
「それで、お話というのは?」
「単刀直入に言おう。ルビィから手を引いてくれないか?」
オーナーは少し困った顔をしながら首を傾げる。
「失礼ですがあの娘と貴方はどう言った関係で?」
「俺の今の雇い主だよ。本当はただの店番だったんだが、アンタらと縁を切るって事を別枠で依頼されてな。」
手入れされた立派な髭をいじりながら少し考えてオーナーは答えた。
「申し訳ございませんが、あの娘は手放せません。」
「そもそもルビィに貸した金は全額返されてるんだろう?もうアイツに付きまとうのはお門違いじゃないか?」
「貸した金の話じゃないんですよ。私は商人だ。今ある金よりも、これから生み出す金の方が大事なんですよ。」
オーナーそう言ってグラスのワインに少し口をつけた。
ルビィにも同じ事を言われたが、お互いが商人と言うだけに根本にあるものが同じなのだろう。
「それはつまり、ルビィは金の卵を産む鳥だから手放せないと、そういう事か?」
「あの娘はね、常人が倍の時間かかる返済を不利な条件でやりきったんですよ。その才能は確かなものだ。私の会社は是非にも彼女に継がせたい。」
商人としての実力を認めた上で身内に抱き込んで金を産ませようという魂胆なわけか。
「継ぐのはお前の息子じゃダメなのか?」
「アレは作る才はあっても売る才が無い。この店の商品の4分の1は息子が作っておりますが、我儘な性格もあって売る方には回れませんよ。」
「なるほどなぁ……。」
ルーファスに服を作る才能があるのは意外だったが、何となく納得させられてしまった。
確かにアイツに商売人は向いていないだろうし、ルビィは実績もあり、他に店を構えられるほどには優秀なのだろう。
「だが、ルビィの意思はどうなる?ハッキリ言ってアンタの息子の事をあまりよく思っていないだろう。」
「……貴方は自分の利益を考える時、他人の利益を考えますか?」
「……そうか。そういう人間だったか。」
このオーナーだからこそ店はここまで大きくなったのだろう。
「アンタの最終的な到達点はどこだ?」
「私はね、商売が好きなんですよ。どのようにすればお客様が商品を手に取ってくれるのか、どのような金額なら快くお買い上げ頂けるのか。そういう駆け引きが好きなんです。だから私はもっと沢山の人間達と商売がしたい。この国を出てね。」
「それで跡継ぎが欲しかったわけか。だが、アンタもよく分かっているはずだ。それで納得しなかった人間は、もう店を利用しないということを。」
「……確かに。なら貴方ならどうしますか?店を畳んで自分の夢を追いますか?それとも夢を諦め一生の後悔を背負いますか?」
「夢があるなら今の店などいらん。たとえ路頭に迷う結果になっても俺はロマンを追い求める。」
「なんとも若々しい発想だ。私のように年老いたものにはそんな決断は出来んのですよ。」
寂しそうに笑うオーナーに俺は少しだけ苛立ちを覚える。
「自分の夢の為に誰かを犠牲にするのなら、それほど虚しい夢も無いだろう。俺はそう思うよ。」
「いえ、私は自分の夢の為に全てを利用しようとしているだけです。貴方もその考えは理解できるのでは?」
確かに立場が違えば俺も同じ考えになっていたかもしれない。
今の俺は自分の目的のためにルシウスやソールを利用してエリクシールを探そうとしているんだからな。
「どうやらお互いに納得のいく結論には至らないらしいな。」
「そのようですね。ですがこのままだとルビィは私に黙って私の知らない土地で商売をしてしまうでしょう。ここでどれだけ討論しても私の負けではあります。」
「アンタの財力ならそのくらい探し当てられるだろう?だから俺は手を引けと言いに来たんだ。」
俺がタバコに火をつけると、オーナーは黙って机の上に灰皿替わりの小皿を用意してくれた。
そして俺のタバコを興味深そうに見ている。
「……。」
「……めっちゃタバコ見てるな。そんなに気になるか?」
話そっちのけで子供のように俺のタバコに食いついている。
その目は森でカブトムシを見つけた少年のように輝いていた。
「失礼失礼。実は私が貴方と会いたかったのは、先の大会の時に使っていたその魔道具が気になったからなんですよ。」
「灰すら勿体ないから皿を用意したのか。」
「そうです!!私珍しい魔道具には目が無くて!!」
成程これが本当の姿というところか?
「いやー、1度近くで見たかったんですよ。それってどのような効果があるんですか?リスクなどの副作用はあったりします?一成さんの世界では他にどのような魔道具が、」
「待て待て。」
いや、これは逆にチャンスかもしれないな。
「オーナーさんよ。俺がそれを語るのは良いが、俺への見返りは用意しているのか?情報は金より重い事もあるぞ?」
さてさて、どう出るかな?
流石にこの程度でルビィを諦めるようなことは無いと思うが。
「教えてくださるんですか!?それならばルビィは諦めましょう!!」
「チョロかったー。めっちゃチョロいじゃねぇかー。」
なんで早くこの話しなかったんだよ。
前半の話何だったんだよ。
「その代わり、しっかりと詳細にお願いいたしますよ?」
「分かった。分かったからこれ以上寄るな。まずはこのタバコについてだが……。」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる