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第7話 現実の厳しさを知る
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一体何者と言われても。どこにでもいるような、ごくごく普通の美少女なのですが。
「美少女……」
あ。口に出していたらしい。しかも真剣な表情をしていた殿下が、呆れの表情に変わっている!
私は顔を赤くして反論する。
「こ、これでも幼き頃より末っ子の娘として産まれ、蝶よ花よと、可愛い可愛いと言われて育てられてきたのですよ!?」
「ああ。なるほど。これからの君のことを思って厳しい事を言うようだが、身内の評価ほど当てにならないことを肝に銘じていた方がいい。現実というものは想像以上に残酷なものだ」
「し、失礼ですね! まあ、その通りですけど!」
並みの容姿だって自覚はありますよ、少しくらい!
最後は認めると、殿下はぷっと吹き出して笑い声を立てた。
「冗談だ冗談。君は可愛い」
今さら可愛いとか言われても信憑性全くゼロなのだけれども!
それでも端整な顔立ちの男性の褒め言葉を前に、ほんの少しだけ機嫌を直した。
「それでだ」
殿下はひとしきり笑った後、言葉一つで場を収めて話を切り替える。
「君は実際のところ、特別な能力者ではないのか? 家系にそういった能力者がいるとか、過去にいたとか」
「いえ。話にも聞いたことがありません。わたくし自身、殿下とお会いするまでは影が憑いているなどとも知りませんでしたし、周りの誰も気付いておりませんでした。わたくしが誰かに触れても殿下のように体調を崩したりもしませんでしたし」
「そうか。体調を崩すことに関しては私が見える人間で、特別過敏だからかもしれないが」
一瞬、殿下は視線を落として沈黙したが、すぐに目線を上げる。
「そう言えばここに来る時に君が乗った馬車で、普段は大人しい馬が珍しく暴れたと聞いたが、これまでそういった事は?」
動物は霊的な物を人より感じやすいと言う。
「あ! 言われてみれば、小さい頃からなぜか動物には嫌われていますね」
「なるほど。では、君の獣は君が苛めた動物の怨霊じゃないのか?」
この人はまた失礼な事を言った!
「お言葉ですが、わたくしは誰よりも動物を愛する動物至上主義の最高峰ですよ!? ……ただ、動物たちがなぜかわたくしを恐れて嫌うだけで」
「それはお気の毒に」
ちっともお気の毒そうと思った言い方ではありませんが、お互い様です。許しましょう。
「ああ。でも一つ、思い出したことがあります。流れの占術師様に占っていただいたことがありまして、その時にわたくしの前世は呪いを得意とする黒魔術師で、術式のために多くの動物を犠牲にしていた、などと失礼な事を言われたことがあります。そしてその業を今世も受けるだろう、などと」
「なるほど。それだ」
殿下は真面目な顔で私を指さした。
ことごとく無礼な人だ。
「何がそれだ、ですか! わたくしが行った事の結果は自分で責務を果たさなければなりません。ですが、何世代前か存じませんが、前世の人物とやらの悪行の報いをどうしてわたくしが受けなければならないのです。報いを受けるべき相手はわたくしではなく、前世のわたくしです。今のわたくしは純粋無垢で、清く正しく美しく胸を張って生きております。前世からの業など知るものですか。今のわたくしに刃向かおうなどと笑止千万、一昨日来やがれですよ!」
ふんと鼻息荒く鳴らし、腰に手を当て、決して大きくない胸を前に張り出して主張する。
「なるほど。それだ」
殿下はまた同じ言葉を繰り返した。
「業は確かに引き継いでいるんだろう。だが、純粋無垢で、清く正しく美しく、強気すぎる君に取り憑く隙が無く、むしろ跳ね返されて手を出せないというところか。弱肉強食の中で生きる動物は本能的に強いものには逆らえないからな」
私の言葉を強調するのは嫌味でしょうか。しかも結局のところは清廉潔白さではなく、強気すぎることで獣を押さえ込んでいるとおっしゃっていますね。
思わずぴくりと眉を上がったけれど。
「私もそうあるべきなのかもしれない。脇目もふらずに自分が信じた道に進む君の生き方に敬意を表するよ」
冗談めかした笑顔を消し、心まで見透かされそうな青い瞳で真っ直ぐに見つめられ、どくりと鼓動が高鳴る。
二人しかいない静かな部屋に響き渡りそうで、私は慌てて口を開いた。
「で、殿下。先ほどからわたくしの方をご覧になっておられますが、平気なのですか。獣はまだ私の側にいるのですよね?」
「ああ。いるにはいるが」
殿下は小さく笑った。
「私には君しか目に入らない」
「え?」
そ、それってどういう意味。
意味深な言葉に動揺してしまう。
「君と真っ直ぐに目を合わせている方が獣に視線が行かないと気付いた」
ですよねー。
うん。私は大丈夫です。そんなところだと思っていましたから……。
「美少女……」
あ。口に出していたらしい。しかも真剣な表情をしていた殿下が、呆れの表情に変わっている!
私は顔を赤くして反論する。
「こ、これでも幼き頃より末っ子の娘として産まれ、蝶よ花よと、可愛い可愛いと言われて育てられてきたのですよ!?」
「ああ。なるほど。これからの君のことを思って厳しい事を言うようだが、身内の評価ほど当てにならないことを肝に銘じていた方がいい。現実というものは想像以上に残酷なものだ」
「し、失礼ですね! まあ、その通りですけど!」
並みの容姿だって自覚はありますよ、少しくらい!
最後は認めると、殿下はぷっと吹き出して笑い声を立てた。
「冗談だ冗談。君は可愛い」
今さら可愛いとか言われても信憑性全くゼロなのだけれども!
それでも端整な顔立ちの男性の褒め言葉を前に、ほんの少しだけ機嫌を直した。
「それでだ」
殿下はひとしきり笑った後、言葉一つで場を収めて話を切り替える。
「君は実際のところ、特別な能力者ではないのか? 家系にそういった能力者がいるとか、過去にいたとか」
「いえ。話にも聞いたことがありません。わたくし自身、殿下とお会いするまでは影が憑いているなどとも知りませんでしたし、周りの誰も気付いておりませんでした。わたくしが誰かに触れても殿下のように体調を崩したりもしませんでしたし」
「そうか。体調を崩すことに関しては私が見える人間で、特別過敏だからかもしれないが」
一瞬、殿下は視線を落として沈黙したが、すぐに目線を上げる。
「そう言えばここに来る時に君が乗った馬車で、普段は大人しい馬が珍しく暴れたと聞いたが、これまでそういった事は?」
動物は霊的な物を人より感じやすいと言う。
「あ! 言われてみれば、小さい頃からなぜか動物には嫌われていますね」
「なるほど。では、君の獣は君が苛めた動物の怨霊じゃないのか?」
この人はまた失礼な事を言った!
「お言葉ですが、わたくしは誰よりも動物を愛する動物至上主義の最高峰ですよ!? ……ただ、動物たちがなぜかわたくしを恐れて嫌うだけで」
「それはお気の毒に」
ちっともお気の毒そうと思った言い方ではありませんが、お互い様です。許しましょう。
「ああ。でも一つ、思い出したことがあります。流れの占術師様に占っていただいたことがありまして、その時にわたくしの前世は呪いを得意とする黒魔術師で、術式のために多くの動物を犠牲にしていた、などと失礼な事を言われたことがあります。そしてその業を今世も受けるだろう、などと」
「なるほど。それだ」
殿下は真面目な顔で私を指さした。
ことごとく無礼な人だ。
「何がそれだ、ですか! わたくしが行った事の結果は自分で責務を果たさなければなりません。ですが、何世代前か存じませんが、前世の人物とやらの悪行の報いをどうしてわたくしが受けなければならないのです。報いを受けるべき相手はわたくしではなく、前世のわたくしです。今のわたくしは純粋無垢で、清く正しく美しく胸を張って生きております。前世からの業など知るものですか。今のわたくしに刃向かおうなどと笑止千万、一昨日来やがれですよ!」
ふんと鼻息荒く鳴らし、腰に手を当て、決して大きくない胸を前に張り出して主張する。
「なるほど。それだ」
殿下はまた同じ言葉を繰り返した。
「業は確かに引き継いでいるんだろう。だが、純粋無垢で、清く正しく美しく、強気すぎる君に取り憑く隙が無く、むしろ跳ね返されて手を出せないというところか。弱肉強食の中で生きる動物は本能的に強いものには逆らえないからな」
私の言葉を強調するのは嫌味でしょうか。しかも結局のところは清廉潔白さではなく、強気すぎることで獣を押さえ込んでいるとおっしゃっていますね。
思わずぴくりと眉を上がったけれど。
「私もそうあるべきなのかもしれない。脇目もふらずに自分が信じた道に進む君の生き方に敬意を表するよ」
冗談めかした笑顔を消し、心まで見透かされそうな青い瞳で真っ直ぐに見つめられ、どくりと鼓動が高鳴る。
二人しかいない静かな部屋に響き渡りそうで、私は慌てて口を開いた。
「で、殿下。先ほどからわたくしの方をご覧になっておられますが、平気なのですか。獣はまだ私の側にいるのですよね?」
「ああ。いるにはいるが」
殿下は小さく笑った。
「私には君しか目に入らない」
「え?」
そ、それってどういう意味。
意味深な言葉に動揺してしまう。
「君と真っ直ぐに目を合わせている方が獣に視線が行かないと気付いた」
ですよねー。
うん。私は大丈夫です。そんなところだと思っていましたから……。
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