つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
64 / 315

第64話 仲良くね

しおりを挟む
 学校に到着し、私は校門前で二人・・の手を取って馬車から降りる。
 二人とはユリアとジェラルドさんの手だ。

 ……うーむ。やはりこれは目立つ気が。

 二人に支えられて降りる私を登校してきた他の生徒たちが、ちらちらと見ているような気がする。ただでさえ、王家の紋章が入った馬車で登校していて目立っているのに、扱いまで上級貴族のお嬢様っぽくなっている!

 こうなると下手すると、上級貴族にまで目を付けられてしまうかもしれない。その方々が相手となると対処の仕方が難しくなる。これはまずい。非常にまずいぞ。

 同乗はともかく、降車の付き添いをジェラルドさんに控えていただいた方がいいかもしれない。
 私はこくんと一つ息を呑むと、ジェラルドさんに笑顔を向けた。

「ジェラルド様、いつもエスコート、ありがとうございます。ですがユリアもおりますし、ジェラルド様は殿下の護衛官様でございますし、わたくしの様な者にまでお付き添いいただくのは大変心苦しく思っております。どうか馬車の中でお待ちいただければ」

 お願いしますお願いしますお願いします。
 願いを込めて訴えてみる。

「いいえ。降車の際が一番危険なのです。私は殿下のご命令により、ロザンヌ様の身の安全をお守りするよう遣わされております。何よりも女性にロザンヌ様の差添えをお任せして、私が馬車の中からご降車を見届けるなど、とんでもないお話です」
「で、ですよねー」

 私はひきつった笑いを返して、今度はユリアに振り返って愛想笑いを浮かべてみせた。

「え、えっと。あのね、ユリア。確かに今までやってもらっていたけれど、今はジェラルド様がしてくださっているし、ユリアまで先に降りて付き添ってくれなくてもいいのよ?」
「はい? 何でしょうか」

 聞こえていないフリをして、ユリアお得意の無表情かつ無言の圧力で問われ、私はイエ何でもありませんでしたと呟く。
 どっちも頑として譲りそうにない。私は本日の説得は諦めることにした。

「では行って参ります……けど。ユリア、あ、あのね」
「何でしょうか」
「ジェラルド様と仲良くね?」

 ユリアはぴくりと眉を上げる。

「……仲良く? しがないただの侍女とエルベルト殿下直属のお偉い護衛官長様と仲良くとは一体」
「うっ!?」

 反論されて言葉に詰まる。
 思わず横のジェラルドさんを見ると、彼も少し困った様に微笑んでいらっしゃる。

「あの。私は決して偉いわけではありませんので、できましたら普通に接していただけると」
「普通? 普通とは人によって基準が異なります。あなたにとって普通ではなくても、これが私の普つ――」

 私はユリアの口を手で慌てて押さえた。

「も、もう。ユリアったら本当に無器用なんだからっ! ジェラルド様、申し訳ありません。ユリアは有能なのですが、人との接し方だけは本当に無器用でして」
「いいえ」

 お気遣いなくと笑ってくださるジェラルドさんは大人だ。

「ユ、ユリア。ジェラルド様はね、気さくにどうぞとおっしゃってくださっているだけなのだから甘えさせていただいて」

 ユリアは納得したという体を決して見せないけれど、一応かしこまりましたと言葉にだけは出した。

「では。それでは行って参ります」
「行ってらっしゃいませ」
「はい。ロザンヌ様、どうぞお気を付けて」

 それぞれ挨拶を頂いて私は前を向いて歩き出し、しばらくは我慢して振り返らなかった。けれどやはり気になって肩越しに後ろを窺い見ると、ユリアはジェラルドさんの手を取らずにさっさと馬車に乗り込む姿が遠くに見えた。

 あぁぁぁっ。
 確かにユリアは元々人との距離が遠いけれど、ジェラルドさんにはとりわけそっけない。他の護衛官の方も同乗してくださったことがあるけれど、そこまでじゃなかったのに。と言うより全くの無関心というべきか。

 いや、待ってよ。考えようによってはジェラルドさんには特別意識しているとも言えるわけで。――いやいやいや! そっけなさが他の人より高いのは決して喜ばしいことではない。

 私がいなくなった馬車の中で、二人の間にどんな会話が繰り広げられているのだろうか。いや、会話など一切無いかもしれない。ぴんと張り詰めている空気を想像すると。

「ううぅっ。息苦しい……」

 私の喉やら胸やらが、きゅうっと苦しくなった。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

処理中です...