つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
95 / 315

第95話 殿下が入れるお茶

しおりを挟む
 メイン料理の後はデザートだ。いや違ったそれはもう私のお腹に収まってしまった。ということで、これからは殿下指導による勉強会となる。

「これからお勉強会ですね。ご準備はできております」
「ありがとう、クロエ」

 仕事のできる侍女のクロエさんは既に隣の部屋に準備しておいてくれたらしい。殿下は彼女に礼を述べた。

 お腹がいっぱいだし、少し休んでから始めたいところだけれども、時間を置いたら置いたで眠ってしまうかもしれない。

「ユリアさん、こちらの後片付けは私がやっておくわ。殿下とロザンヌ様にご一緒してちょうだい。部屋での過ごし方はあなたが殿下に許可を取ってね」
「はい。承知いたしました」

 昼間の執務室はともかく、夜の私室に未婚の男女が二人というのもどうかということで、ユリアも一緒に部屋にいるようにとの指示だ。なるほど。

「では、殿下。わたくしは今日はここで失礼いたします」
「ああ。ありがとう」

 クロエさんが礼を取って私たちも挨拶を終えると、私とユリアは課題を取って来るために一度自分の部屋に戻る。

「ユリア、付き合わせてごめんね」

 まだ今頃なら私の部屋にいてくれる時間帯ではあるが、殿下の部屋で過ごすとなると、それなりに気が張るだろう。

「いいえ。構いません」

 殿下の部屋だからといって特別に気は遣わないので本当に構わないと思っているのか、構うけど構わないと言っているのか、表情からは分からない。ユリアのことだから前者ではあると思う。

 課題を手にした私とユリアが用意されていた殿下の部屋へと戻ると、テーブルにお茶の準備がされていて良い香りが漂っていた。
 殿下御自ら紅茶を入れている姿が目に入って私はびっくりする。ユリアとは言うと、足早に殿下の元へと向かう。

「殿下、お代わりいたします」
「いや。大丈夫だ。こう見えてもお茶を入れるのが得意なんだ」

 命令とは違う殿下の言葉に、ユリアはどうするべきか私の方に視線をやったので私は頷いた。

「承知いたしました」

 ユリアは身を引き、そのまま下がった。

「ロザンヌ嬢、座ってくれ」
「はい。ありがとうございます、殿下」
「ユリア、君も」

 この言葉にはさすがにユリアは承知することはできなかったようだ。

「殿下のご命とあっても、同席だけは致しかねます」
「しかし勉強会が終わるまで君を立たせておくわけにもいかない」

 ユリアは部屋に入ってきた時に確認していたようで、端にある小さな机を手で指し示した。

「あの机をお借りしてよろしいでしょうか」

 そこで練習着の仕立て直しをすると言う。
 ……こやつは本気だ。本気でまた騎士の鍛錬に参加するするつもりだ。

「ああ、もちろんだ」
「ありがとうございます。では」
「いや、待て。君の分もお茶を入れたからせめて持っていけ」

 ユリアは無表情の中にも面食らった表情でまた私の顔を見る。
 私が頷いたのを確認すると、ありがとうございます頂戴いたしますとカップを受け取り、そのまま端の机まで下がった。

「では、ロザンヌ嬢。始めようか」
「はい。お茶会を始めましょう」
「勉強会だ」
「……はい。お勉強会でした」

 すぐさま殿下に訂正されて渋々私は認めた。
 殿下はくすりと笑う。

「けれど、まずは冷めない内にお茶を飲もうか」
「ありがとうございます。頂きます」

 殿下に勧められて私はカップを手に取り、一口頂く。

「――っ! 美味しいです」
「そうか。良かった」

 高級茶葉はもちろん使っているのだろうけれども、お茶の入れ方で味や香りの立ち方が変わるものだ。私は自分で入れて、せっかくのお茶の良さを引き出せなかったことがあるから分かる。

 ユリアの方へとそっと振り返って見ると、彼女も感心した様子だ。普段、お茶の用意をしている彼女だからこそ、殿下の腕前が分かるだろう。

 はぁ。美味しくて幸せ。
 殿下のご婚約者様はご結婚なさったら、こんなに美味しいお茶を頂けるのだろうか。いいなぁ。羨ましいな。
 ほんわかしていると。

「では始めようか」

 情緒も何もあったものではありませんね!
 殿下のお言葉で目の前の現実に引き戻されてがっかりしたが、私は仕方なく頷いた。

「はい。お茶会を始めましょう」
「勉強会だ」
「……はい。お勉強会でした」

 私たちはまた同じやり取りを繰り返した。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

処理中です...