264 / 315
第264話 ユリアと雷と言い訳と(:ユリアの日常)
しおりを挟む
今日は昼間から重く暗い雲だなと思っていたら、夕方になって遠くの方で雷まで鳴り出した。音が徐々に大きくなりつつあるから、やがてもっと近付いてくるかもしれない。
「ユ、ユリアぁぁ」
ロザンヌ様が不安げな上目遣いで私を見てくる。
いつも活発なロザンヌ様がびくびくと震える姿は可愛らしい。
「きょ、今日。今日は一緒に寝ましょう。ほ、ほら。ユリアも雷怖いでしょう? 今晩はわたくしが側についててあげる」
「私は怖くありません」
とりあえず正直な気持ちを告げてみた。
「うっ。で、でもほらぁ。たまには一緒に寝るのはいいでしょう?」
「ここはダングルベール家ではありません。王宮です。いけません」
許可を取れば問題はないとは思うが、食い下がってくるロザンヌ様を軽く流す。
「でもでも」
「そんなに怖いのでしたら、殿下にお願い申し上げたらいかがでしょうか」
「なっ!? よ、夜伽だなんて、は、破廉恥な!」
ロザンヌ様は顔を真っ赤に染め上げる。
何だか酷い誤解をなさっているようだ。
「夜伽とは申しておりません。殿下に私の付き添いの許可を取っていただこうかと思ったのみです」
「――はっ。ひ、酷い! ユリアの騙し討ち!」
理不尽に責められた。
それにしても夜伽とは。どこからそういう言葉を仕入れてくるのか。
「と、とにかく。殿下とクロエさんに許可を頂くから、ユリアは夜の準備をしてきてよぉ」
「かしこまりました」
そう言われてしまっては仕方がない。私は頷くとロザンヌ様の部屋を後にして、自分の部屋へと向かった。
部屋から寝衣などを手に持った後、戻るために二階に繋がる階段を目指して廊下を歩いていると、雨風で木の葉もゆらゆらと揺れている光景が目の端に映る。
雷の音も大きさを増してきたようだ。
ロザンヌ様は今頃シーツを被って震えているのではないだろうか。
早く戻ろうと足を速めようとしたところ、背後からジェラルド様に声をかけられた。
「ユリアさん、ロザンヌ様のお部屋に行かれるのですか? 途中までご一緒してよろしいですか」
「はい」
ジェラルド様はエルベルト殿下の護衛官なので、自室は殿下のすぐ隣に配置されている。向かう先が自室ならば、同じ方向なわけで別に私の許可はいらないが、真面目なお方なのでお尋ねになったのだろう。
「今日は雷がよく鳴りますね」
「はい。ですから今夜はロザンヌ様とご一緒に過ごすことになりました。ロザンヌ様は雷が怖いのです」
私が雷を怖がっていると思われるのは不本意なので、ロザンヌ様のことを引き合いに出してしまう。
「そうなのですね。それでは今、ロザンヌ様はお心細くされていることでしょう」
もちろんこの方が、人が苦手としているものを馬鹿にしたり、嘲笑したりするような方ではないとは分かっているが。
「ユリアさんは雷が怖くはないのですか?」
「私に怖いものはありま――」
そこまで言って言葉を切る。
蛙を前に顔色を変えたのを見られていたし、苦手だと言ったことがある。今更取り繕っても仕方がない。
「蛙がありました。あの時は見苦しく取り乱して、大変申し訳ありませんでした」
「いいえ。とんでもないことです。むしろお可愛らしかったです」
目を細めて微笑むジェラルド様を前に私は目を見張った。
可愛い?
……可愛いとは何だろう。私がロザンヌ様を見るような気持ちのことだろうか。つまり小動物を見るような。ということは私はジェラルド様から小動物だと思われてい――。
突如、目の前がぱっと明るくなった。
「ユリアさん!」
次の瞬間にはジェラルド様に強く抱きしめられていた。
直後、地響きするような激しい轟音が響き渡り、庭の木が一枝、二枝落ちたかと思うと、続いて大きな塊が重たげにどさりと地に落ちるのが目に入った。どうやら雷が木に直撃したらしい。
木がきしみ崩れ落ちる音が収まった頃、ジェラルド様はようやく私から離れると気遣いの瞳で私を見下ろした。
「凄い雷でしたね」
……本当に凄い光景を目撃してしまった。
「ユリアさん、どこかお体の不調はありませんか?」
だからだ。あらためて自然の恐ろしさを痛感させられたからだ。
「ユリアさん? 大丈夫でしょうか」
何も言わない私をさらに心配したご様子で見つめ、声をかけてくださるジェラルド様に正気づく。
「だからです」
「え?」
「びっくりしたからです」
「から?」
意味を捉えきれないご様子のジェラルド様が首を傾げた。
言葉足らずだと気付いて私は追加する。
「雷が木に直撃して倒れて、びっくりしたからです。初めて見たからです」
「あ、はい」
私の言葉の意味を理解されているとは到底思えなかったが、これ以上の語彙力を求められないと判断された(かもしれない)ジェラルド様は頷いた。
「……いえ。すみません。私はロザンヌ様の所に戻らなければ。怖がっていらっしゃると思います」
凄い音で人々がわらわらと廊下に出てきた状況に私は冷静さを取り戻す。
「そうですね。私は雷の様子を見ながら、火種がないかだけ確認してから戻ることに致します」
「はい。お気を付けて」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑むジェラルド様に礼を取ると、それでは失礼いたしますと駆け足で階段に向かう。
轟音に驚いたからだ。初めて雷が落ちる瞬間を目撃したからだ。何より今、私は走っているからだ。
こんなに……鼓動が速くなっているのは。
誰かに言い訳するわけでもないのに、色んな理由を探しながら部屋に戻り、ロザンヌ様を無の心で抱きしめる。……予定だったのに、また白湯を用意する間、もやもやと理由を考える羽目になった私だった。
「ユ、ユリアぁぁ」
ロザンヌ様が不安げな上目遣いで私を見てくる。
いつも活発なロザンヌ様がびくびくと震える姿は可愛らしい。
「きょ、今日。今日は一緒に寝ましょう。ほ、ほら。ユリアも雷怖いでしょう? 今晩はわたくしが側についててあげる」
「私は怖くありません」
とりあえず正直な気持ちを告げてみた。
「うっ。で、でもほらぁ。たまには一緒に寝るのはいいでしょう?」
「ここはダングルベール家ではありません。王宮です。いけません」
許可を取れば問題はないとは思うが、食い下がってくるロザンヌ様を軽く流す。
「でもでも」
「そんなに怖いのでしたら、殿下にお願い申し上げたらいかがでしょうか」
「なっ!? よ、夜伽だなんて、は、破廉恥な!」
ロザンヌ様は顔を真っ赤に染め上げる。
何だか酷い誤解をなさっているようだ。
「夜伽とは申しておりません。殿下に私の付き添いの許可を取っていただこうかと思ったのみです」
「――はっ。ひ、酷い! ユリアの騙し討ち!」
理不尽に責められた。
それにしても夜伽とは。どこからそういう言葉を仕入れてくるのか。
「と、とにかく。殿下とクロエさんに許可を頂くから、ユリアは夜の準備をしてきてよぉ」
「かしこまりました」
そう言われてしまっては仕方がない。私は頷くとロザンヌ様の部屋を後にして、自分の部屋へと向かった。
部屋から寝衣などを手に持った後、戻るために二階に繋がる階段を目指して廊下を歩いていると、雨風で木の葉もゆらゆらと揺れている光景が目の端に映る。
雷の音も大きさを増してきたようだ。
ロザンヌ様は今頃シーツを被って震えているのではないだろうか。
早く戻ろうと足を速めようとしたところ、背後からジェラルド様に声をかけられた。
「ユリアさん、ロザンヌ様のお部屋に行かれるのですか? 途中までご一緒してよろしいですか」
「はい」
ジェラルド様はエルベルト殿下の護衛官なので、自室は殿下のすぐ隣に配置されている。向かう先が自室ならば、同じ方向なわけで別に私の許可はいらないが、真面目なお方なのでお尋ねになったのだろう。
「今日は雷がよく鳴りますね」
「はい。ですから今夜はロザンヌ様とご一緒に過ごすことになりました。ロザンヌ様は雷が怖いのです」
私が雷を怖がっていると思われるのは不本意なので、ロザンヌ様のことを引き合いに出してしまう。
「そうなのですね。それでは今、ロザンヌ様はお心細くされていることでしょう」
もちろんこの方が、人が苦手としているものを馬鹿にしたり、嘲笑したりするような方ではないとは分かっているが。
「ユリアさんは雷が怖くはないのですか?」
「私に怖いものはありま――」
そこまで言って言葉を切る。
蛙を前に顔色を変えたのを見られていたし、苦手だと言ったことがある。今更取り繕っても仕方がない。
「蛙がありました。あの時は見苦しく取り乱して、大変申し訳ありませんでした」
「いいえ。とんでもないことです。むしろお可愛らしかったです」
目を細めて微笑むジェラルド様を前に私は目を見張った。
可愛い?
……可愛いとは何だろう。私がロザンヌ様を見るような気持ちのことだろうか。つまり小動物を見るような。ということは私はジェラルド様から小動物だと思われてい――。
突如、目の前がぱっと明るくなった。
「ユリアさん!」
次の瞬間にはジェラルド様に強く抱きしめられていた。
直後、地響きするような激しい轟音が響き渡り、庭の木が一枝、二枝落ちたかと思うと、続いて大きな塊が重たげにどさりと地に落ちるのが目に入った。どうやら雷が木に直撃したらしい。
木がきしみ崩れ落ちる音が収まった頃、ジェラルド様はようやく私から離れると気遣いの瞳で私を見下ろした。
「凄い雷でしたね」
……本当に凄い光景を目撃してしまった。
「ユリアさん、どこかお体の不調はありませんか?」
だからだ。あらためて自然の恐ろしさを痛感させられたからだ。
「ユリアさん? 大丈夫でしょうか」
何も言わない私をさらに心配したご様子で見つめ、声をかけてくださるジェラルド様に正気づく。
「だからです」
「え?」
「びっくりしたからです」
「から?」
意味を捉えきれないご様子のジェラルド様が首を傾げた。
言葉足らずだと気付いて私は追加する。
「雷が木に直撃して倒れて、びっくりしたからです。初めて見たからです」
「あ、はい」
私の言葉の意味を理解されているとは到底思えなかったが、これ以上の語彙力を求められないと判断された(かもしれない)ジェラルド様は頷いた。
「……いえ。すみません。私はロザンヌ様の所に戻らなければ。怖がっていらっしゃると思います」
凄い音で人々がわらわらと廊下に出てきた状況に私は冷静さを取り戻す。
「そうですね。私は雷の様子を見ながら、火種がないかだけ確認してから戻ることに致します」
「はい。お気を付けて」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑むジェラルド様に礼を取ると、それでは失礼いたしますと駆け足で階段に向かう。
轟音に驚いたからだ。初めて雷が落ちる瞬間を目撃したからだ。何より今、私は走っているからだ。
こんなに……鼓動が速くなっているのは。
誰かに言い訳するわけでもないのに、色んな理由を探しながら部屋に戻り、ロザンヌ様を無の心で抱きしめる。……予定だったのに、また白湯を用意する間、もやもやと理由を考える羽目になった私だった。
32
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる