文字の大きさ
大
中
小
408 / 878
連載
合流④
オークの巣を離れてルームに入る。
まずはアリスの様子を見ると、シルフィ達にお乳を上げていた。落ち着いたようや。
嗽、手洗いして、鷹の目の皆さんがブラッシングをしてくれる。
私はお地蔵さんにお祈り。
「神様、今回の件の原因を教えてください」
お祈りしてみたが、お返事なし。
今日はお留守か。仕方なか。
諦めて振り返ると、黒髪のイッケメン時空神様が。まさか、わざわざいらっしゃってくれた。
「時空神様」
本日お一人様だ。
「久しぶりだな」
最後にお会いしたのは、魔境に向かう前だった。
「あの時空神様」
「今回の件だろう? すまんが、直接の原因は今は話してやれん」
「そうですか」
やっぱり。
「だが、いままでに起きた魔物の氾濫(スタンビード)の原因の大まかな説明はできるぞ」
おおっ、ありがたやっ。
魔物の氾濫(スタンビード)の原因は大まかに3つ。
1つ、地脈に含まれる魔力の悪影響により、魔物がハイになる。下級や、特に人型の魔物が強く影響を受ける。これには差が出る。すごく少ない数の場合もあれば、あのパーヴェルさん達を襲ったオルク達。自分達の巣を空にするまでおかしくなる。
2つ、ダンジョンより何かしらの理由で特殊個体が出てきて、近しい種族の魔物を操る。今回の蜘蛛達かな? もしくは冷蔵庫ダンジョンみたいにたまにうっかりさんの魔物が零れ落ちるのが、一匹ではなく大量に溢れる。野良ダンジョンの場合は、特有個体。冷蔵庫ダンジョンのように街と共存しているダンジョンは、大量の魔物が溢れる傾向にある。ただ、冷蔵庫・軍隊ダンジョンのように常に冒険者が潜っているものは、大量に溢れる事はない。常に間引きしている状態だからだそうだ。ダンジョンのサイズによるが、階層が1桁のダンジョンから溢れる魔物は、たかが知れてる。出ても1桁の数。冷蔵庫・軍隊ダンジョンで恐いのは数年おきに、上位魔物が零れ落ちるのだ。シュタインさんにケガさせた熊ね。
3つ、この2つが複雑に絡んで発生する。
「なるほど」
「もっと詳しく説明してやりたいが、色々制約があってな」
きっと、あまり介入出来ないんやろうなあ。
「始祖神様よりの依頼はいつから取りかかる?」
「あ、イシス達の従魔登録してから直ぐに。雪が降るような冬に入る前に」
「そうか。何かあれば、直ぐに始祖神様に報告をしてくれ」
「はい」
時空神様がお帰りの様子。
私は慌てて、セレクトショップダリアから焼き菓子詰め合わせを幾つかタップ。
「どうぞ、時空神様」
「すまんな。ちょっと来ただけなのに」
「いえいえ、神様に来て頂けて、恩恵があるんです。どうぞ」
「ありがとう。チビ達が喜ぶ」
焼き菓子の箱を抱えて、時空神様が消える。響く、てってれってー。
見送って、私は不安になってきた。
始祖神様からもそうだが、時空神様からも何かあれば呼ぶように言われた。何かあるんやろうか? 漠然とした不安なんやけど。基本的に、こちらに介入出来ないはずの神様が、報告するようにって、何かあるんやないかな? うーん、うーん、うーん。分からん。
「姉ちゃん、どうしたん?」
途中でダイニングキッチンに来た晃太が、聞いてくる。
「いや、何でもないよ」
深く考えたら深みに嵌まりそうや、やめた、ご飯の準備せんとね。
「さ、今日は皆頑張ったから、色々食べよう」
『ユイッ、油淋鶏なのですっ』
『エビ、エビ、エビッ』
『我はなんでもいいのだが、肉がいいのだ』
『ピザヲ所望スル』
従魔の部屋で大人しくしていた面々が、騒ぎだす。
うん、考える暇なしや。
数日間かけて、カルーラに戻る。
「………………………………」
城門の警備の皆さんが、イシスを見て無言になる。
「新しい従魔です」
「………………………………はい。ギルドまで同行します」
「ありがとうございます」
あらかじめイシスとオシリスの事は報告してあるので、ギルドは問題なかったが、途中の道すがらの視線が辛かった。
やっぱり迫力満点のイシスが注目を集めてしまい、主人の私にも視線が集まる。分かってますよ、言いたいこと。また増えてるとか、え、大丈夫なん? でしょう。イシスは気にもしないし、オシリスも知らん顔。いちいち気にしてたらキリがない。
いそいそとパーティーハウスに戻る。
「わんわんっ」
花が飛び出してくる、あはははん、ぽちゃぽちゃ。仔達は母にわーっと群がる。
「はいはい、お帰り」
「ただいま。問題なかった?」
「特にはなかね」
「そうね、良かった」
ぞろぞろとパーティーハウスへ。ただ、イシスの体躯ではパーティーハウスに入れないため、倉庫を経由してルームに。倉庫が大きくて良かった。
パーティーハウスにルージュが魔法のカーテンを広げてくれる。ルームに全員入る。
仔達はアレスを先頭に中庭に走り出していった。しばらく遊んでおくれ。嗽、手洗いして、と。
よし、今後の話をせんとね。
行程に関しては、晃太とホークさん、ビアンカとルージュ、イシスに任せることにした。
「なあ、この山、なんかあるん? 神様気にしとったし」
晃太が地図を示す。視線は先代エリアボスであるイシスに。
『先代ノ話デハ、触レテハナラヌモノダト』
なんや物騒な感じ。
「この山自体が?」
晃太が質問、イシスは首を横に。
『違ウ、コノ山ノ中ニ潜ムモノニ手ヲ出ダスナ、トイワレタ。ダカラ、飛行デキル我々デモ近付カナイヨウニシテイル。下カラハコノ山ニハ入レヌカラナ』
「それって何やねん?」
それそれ。
『サア』
かっくん。肝心な所がっ。
『ダガ、コノ山ニ関シテハ、魔境ガ形成サレル頃ノ話。詳シク知ルモノハイナイ』
「そうな」
うーん。
『でも、以前、この辺りをアレスと回った事があるのです』
『そうね。何もなかったわよ』
ビアンカとルージュは山には行かなかったが、アレスのへいへい行くぜ行軍に付き添い、爆走したそうだ。だけど、記憶に残るようなことは起きなかったと、うーん。イシスにしても山の上は飛行したことはないが、周囲を旋回したことはあるが、こちらも何もなかったと。
単純に考えて、ビアンカとルージュが行った後に何かしら起きたんかな? それが基本的には見守る位置にある神様でも口を出さなくてはならない状況になっているんやかいな?
あ、怖くなってきた。
『ユイ、どうしたのです?』
『動揺しているわ。大丈夫よ、私達がついてるわ』
ビアンカとルージュがそっと寄り添ってくれる。ありがたい。
「そやね。そうやね。ありがとうビアンカ、ルージュ。とにかくくるっと回るだけ回ろうかね。何かあれば直ぐに神様に報告で」
それくらいかな。
行程に関しては、ノワールの灯火の女神様のブースト頼りに、騎乗して進む。結局またお世話になります。
準備して、数日以内には出発や。
いよいよ出発の前の日の夜。
寝静まった夜、目が覚めてしまい、トイレの帰りに、中庭のベンチにぽつん、とホークさんが座っているのを発見。もしかしたら、ミノラさんの事で悩んだりしてるのかな? ど、どうしよう。声かけた方がいいかな。1人で考えたい時だってあるだろうし、余計なお世話になるのも嫌だし。うーん、どうしよう。
散々悩んで、夜は寒くなってるからね、風邪引きますよって、感じで声かけて引っ込もう。
よし、中庭のドアを開ける。
「ホークさん」
ドアの音で気がついたホークさんが振り返る。
「ユイさん」
「風邪引きますよ」
「はい、もうすぐ休みます」
よし、いいかな。引っ込もう。だけど、なんだか、このままでいいのかな? たまには1人で考えたい時もあるはずだけど、まるであの時のような感じがする。ミノラさんの話を聞いた時のようや。
「ホークさん、どうしました?」
咄嗟に出た言葉に、ホークさんが少し驚いた顔。
「いや、大した事は、ないですが、はい」
珍しく歯切れの悪いホークさん。もしかしたら、私、余計なお世話やないかな? やっぱり、引っ込んだ方がいいかも。
「あの、ユイさん」
なんて考えていると、ホークさんが声をかけてきた。
「少し、話を聞いてもらえませんか?」
本当に珍しい。やけど、お願いされたし、頼りにされていると思うとちょっと嬉しいかな。
私はホークさんの隣に腰かける。
そっと、横顔を見ると、少しだけ、頬が赤い気がする。あ、もしかして熱?
「ホークさん、もしかして、具合悪いんや………」
「ユイさん」
ホークさんが私の言葉を遮った。どうしたんやろう?
「あ、はい」
「今から俺が話すこと、聞いたら忘れて貰えませんか?」
「忘れる? なんでです?」
何で? 何でかって思ったけど、ホークさんの顔が、何やら悩みの表情。あ、そうせんといかんやつや。
「特別ボーナスってことで」
そこまで言われたらね。
「分かりました。忘れます」
はい、誓います。
「兄とミノラの話は以前しましたよね」
「はい」
忘れてない。エマちゃんとテオ君を産んで、ホークさんのお兄さん、ファルコンさんを待ち続けた女性。最終的にはエマちゃんとテオ君を置き去りにしたけど、私には、どうしてもミノラさんが全部悪く思えない。勝手な思いだけどね。
「エマもテオも無事に成人して、今、ユイさんの庇護下にあります。色々ありましたが、現状は2人にとっていいし決して悪い状況ではないと思います。俺も、ユイさんに買って貰って現状恵まれていると思っています」
「そ、そうですか?」
あの時、リティアさんから聞いてマーファを飛び出して、首都に急いで向かった。ノワールのお陰で早く着いたし、ビアンカとルージュのちゅどんドカンで資金も十分だった。負傷したホークさんとエマちゃんを救ったのは神への祈りと、時空神様、魔力を提供してくれたビアンカとルージュのお陰や。
「だけど、最近与えてもらってばかり、それがまるで当たり前のように感じてしまって。欲張るようになってしまって。強欲になってしまったと」
「え。そんなことないですよね」
ホークさんはいつも遠慮がちだ。とてもそうとは思えない。
「いいえ、俺は戦闘奴隷として、望んではいけないものを望んでいます」
それは何? 気になる。
ホークさんは真っ直ぐ私をみる。
「俺は、家庭を築きたい」
その真っ直ぐな言葉は、私の中にある、何かをごっそり抉り取った。
まずはアリスの様子を見ると、シルフィ達にお乳を上げていた。落ち着いたようや。
嗽、手洗いして、鷹の目の皆さんがブラッシングをしてくれる。
私はお地蔵さんにお祈り。
「神様、今回の件の原因を教えてください」
お祈りしてみたが、お返事なし。
今日はお留守か。仕方なか。
諦めて振り返ると、黒髪のイッケメン時空神様が。まさか、わざわざいらっしゃってくれた。
「時空神様」
本日お一人様だ。
「久しぶりだな」
最後にお会いしたのは、魔境に向かう前だった。
「あの時空神様」
「今回の件だろう? すまんが、直接の原因は今は話してやれん」
「そうですか」
やっぱり。
「だが、いままでに起きた魔物の氾濫(スタンビード)の原因の大まかな説明はできるぞ」
おおっ、ありがたやっ。
魔物の氾濫(スタンビード)の原因は大まかに3つ。
1つ、地脈に含まれる魔力の悪影響により、魔物がハイになる。下級や、特に人型の魔物が強く影響を受ける。これには差が出る。すごく少ない数の場合もあれば、あのパーヴェルさん達を襲ったオルク達。自分達の巣を空にするまでおかしくなる。
2つ、ダンジョンより何かしらの理由で特殊個体が出てきて、近しい種族の魔物を操る。今回の蜘蛛達かな? もしくは冷蔵庫ダンジョンみたいにたまにうっかりさんの魔物が零れ落ちるのが、一匹ではなく大量に溢れる。野良ダンジョンの場合は、特有個体。冷蔵庫ダンジョンのように街と共存しているダンジョンは、大量の魔物が溢れる傾向にある。ただ、冷蔵庫・軍隊ダンジョンのように常に冒険者が潜っているものは、大量に溢れる事はない。常に間引きしている状態だからだそうだ。ダンジョンのサイズによるが、階層が1桁のダンジョンから溢れる魔物は、たかが知れてる。出ても1桁の数。冷蔵庫・軍隊ダンジョンで恐いのは数年おきに、上位魔物が零れ落ちるのだ。シュタインさんにケガさせた熊ね。
3つ、この2つが複雑に絡んで発生する。
「なるほど」
「もっと詳しく説明してやりたいが、色々制約があってな」
きっと、あまり介入出来ないんやろうなあ。
「始祖神様よりの依頼はいつから取りかかる?」
「あ、イシス達の従魔登録してから直ぐに。雪が降るような冬に入る前に」
「そうか。何かあれば、直ぐに始祖神様に報告をしてくれ」
「はい」
時空神様がお帰りの様子。
私は慌てて、セレクトショップダリアから焼き菓子詰め合わせを幾つかタップ。
「どうぞ、時空神様」
「すまんな。ちょっと来ただけなのに」
「いえいえ、神様に来て頂けて、恩恵があるんです。どうぞ」
「ありがとう。チビ達が喜ぶ」
焼き菓子の箱を抱えて、時空神様が消える。響く、てってれってー。
見送って、私は不安になってきた。
始祖神様からもそうだが、時空神様からも何かあれば呼ぶように言われた。何かあるんやろうか? 漠然とした不安なんやけど。基本的に、こちらに介入出来ないはずの神様が、報告するようにって、何かあるんやないかな? うーん、うーん、うーん。分からん。
「姉ちゃん、どうしたん?」
途中でダイニングキッチンに来た晃太が、聞いてくる。
「いや、何でもないよ」
深く考えたら深みに嵌まりそうや、やめた、ご飯の準備せんとね。
「さ、今日は皆頑張ったから、色々食べよう」
『ユイッ、油淋鶏なのですっ』
『エビ、エビ、エビッ』
『我はなんでもいいのだが、肉がいいのだ』
『ピザヲ所望スル』
従魔の部屋で大人しくしていた面々が、騒ぎだす。
うん、考える暇なしや。
数日間かけて、カルーラに戻る。
「………………………………」
城門の警備の皆さんが、イシスを見て無言になる。
「新しい従魔です」
「………………………………はい。ギルドまで同行します」
「ありがとうございます」
あらかじめイシスとオシリスの事は報告してあるので、ギルドは問題なかったが、途中の道すがらの視線が辛かった。
やっぱり迫力満点のイシスが注目を集めてしまい、主人の私にも視線が集まる。分かってますよ、言いたいこと。また増えてるとか、え、大丈夫なん? でしょう。イシスは気にもしないし、オシリスも知らん顔。いちいち気にしてたらキリがない。
いそいそとパーティーハウスに戻る。
「わんわんっ」
花が飛び出してくる、あはははん、ぽちゃぽちゃ。仔達は母にわーっと群がる。
「はいはい、お帰り」
「ただいま。問題なかった?」
「特にはなかね」
「そうね、良かった」
ぞろぞろとパーティーハウスへ。ただ、イシスの体躯ではパーティーハウスに入れないため、倉庫を経由してルームに。倉庫が大きくて良かった。
パーティーハウスにルージュが魔法のカーテンを広げてくれる。ルームに全員入る。
仔達はアレスを先頭に中庭に走り出していった。しばらく遊んでおくれ。嗽、手洗いして、と。
よし、今後の話をせんとね。
行程に関しては、晃太とホークさん、ビアンカとルージュ、イシスに任せることにした。
「なあ、この山、なんかあるん? 神様気にしとったし」
晃太が地図を示す。視線は先代エリアボスであるイシスに。
『先代ノ話デハ、触レテハナラヌモノダト』
なんや物騒な感じ。
「この山自体が?」
晃太が質問、イシスは首を横に。
『違ウ、コノ山ノ中ニ潜ムモノニ手ヲ出ダスナ、トイワレタ。ダカラ、飛行デキル我々デモ近付カナイヨウニシテイル。下カラハコノ山ニハ入レヌカラナ』
「それって何やねん?」
それそれ。
『サア』
かっくん。肝心な所がっ。
『ダガ、コノ山ニ関シテハ、魔境ガ形成サレル頃ノ話。詳シク知ルモノハイナイ』
「そうな」
うーん。
『でも、以前、この辺りをアレスと回った事があるのです』
『そうね。何もなかったわよ』
ビアンカとルージュは山には行かなかったが、アレスのへいへい行くぜ行軍に付き添い、爆走したそうだ。だけど、記憶に残るようなことは起きなかったと、うーん。イシスにしても山の上は飛行したことはないが、周囲を旋回したことはあるが、こちらも何もなかったと。
単純に考えて、ビアンカとルージュが行った後に何かしら起きたんかな? それが基本的には見守る位置にある神様でも口を出さなくてはならない状況になっているんやかいな?
あ、怖くなってきた。
『ユイ、どうしたのです?』
『動揺しているわ。大丈夫よ、私達がついてるわ』
ビアンカとルージュがそっと寄り添ってくれる。ありがたい。
「そやね。そうやね。ありがとうビアンカ、ルージュ。とにかくくるっと回るだけ回ろうかね。何かあれば直ぐに神様に報告で」
それくらいかな。
行程に関しては、ノワールの灯火の女神様のブースト頼りに、騎乗して進む。結局またお世話になります。
準備して、数日以内には出発や。
いよいよ出発の前の日の夜。
寝静まった夜、目が覚めてしまい、トイレの帰りに、中庭のベンチにぽつん、とホークさんが座っているのを発見。もしかしたら、ミノラさんの事で悩んだりしてるのかな? ど、どうしよう。声かけた方がいいかな。1人で考えたい時だってあるだろうし、余計なお世話になるのも嫌だし。うーん、どうしよう。
散々悩んで、夜は寒くなってるからね、風邪引きますよって、感じで声かけて引っ込もう。
よし、中庭のドアを開ける。
「ホークさん」
ドアの音で気がついたホークさんが振り返る。
「ユイさん」
「風邪引きますよ」
「はい、もうすぐ休みます」
よし、いいかな。引っ込もう。だけど、なんだか、このままでいいのかな? たまには1人で考えたい時もあるはずだけど、まるであの時のような感じがする。ミノラさんの話を聞いた時のようや。
「ホークさん、どうしました?」
咄嗟に出た言葉に、ホークさんが少し驚いた顔。
「いや、大した事は、ないですが、はい」
珍しく歯切れの悪いホークさん。もしかしたら、私、余計なお世話やないかな? やっぱり、引っ込んだ方がいいかも。
「あの、ユイさん」
なんて考えていると、ホークさんが声をかけてきた。
「少し、話を聞いてもらえませんか?」
本当に珍しい。やけど、お願いされたし、頼りにされていると思うとちょっと嬉しいかな。
私はホークさんの隣に腰かける。
そっと、横顔を見ると、少しだけ、頬が赤い気がする。あ、もしかして熱?
「ホークさん、もしかして、具合悪いんや………」
「ユイさん」
ホークさんが私の言葉を遮った。どうしたんやろう?
「あ、はい」
「今から俺が話すこと、聞いたら忘れて貰えませんか?」
「忘れる? なんでです?」
何で? 何でかって思ったけど、ホークさんの顔が、何やら悩みの表情。あ、そうせんといかんやつや。
「特別ボーナスってことで」
そこまで言われたらね。
「分かりました。忘れます」
はい、誓います。
「兄とミノラの話は以前しましたよね」
「はい」
忘れてない。エマちゃんとテオ君を産んで、ホークさんのお兄さん、ファルコンさんを待ち続けた女性。最終的にはエマちゃんとテオ君を置き去りにしたけど、私には、どうしてもミノラさんが全部悪く思えない。勝手な思いだけどね。
「エマもテオも無事に成人して、今、ユイさんの庇護下にあります。色々ありましたが、現状は2人にとっていいし決して悪い状況ではないと思います。俺も、ユイさんに買って貰って現状恵まれていると思っています」
「そ、そうですか?」
あの時、リティアさんから聞いてマーファを飛び出して、首都に急いで向かった。ノワールのお陰で早く着いたし、ビアンカとルージュのちゅどんドカンで資金も十分だった。負傷したホークさんとエマちゃんを救ったのは神への祈りと、時空神様、魔力を提供してくれたビアンカとルージュのお陰や。
「だけど、最近与えてもらってばかり、それがまるで当たり前のように感じてしまって。欲張るようになってしまって。強欲になってしまったと」
「え。そんなことないですよね」
ホークさんはいつも遠慮がちだ。とてもそうとは思えない。
「いいえ、俺は戦闘奴隷として、望んではいけないものを望んでいます」
それは何? 気になる。
ホークさんは真っ直ぐ私をみる。
「俺は、家庭を築きたい」
その真っ直ぐな言葉は、私の中にある、何かをごっそり抉り取った。
感想 867
あなたにおすすめの小説
「今日限りで君を解雇する」――20年仕えた地味なメイドですが、料理も手紙も暗殺者対策も私がやっていました
「エナメル。今日限りで君を解雇する」
20年仕えた屋敷をクビになった、地味なエルフのメイド・エナメル。
だが、晩餐会の料理も、侯爵への手紙も、調度品の手配も、屋敷を狙う暗殺者の処理も――すべて彼女が陰で支えていたものだった。
エナメルが去ったあと、屋敷は少しずつ綻び始める。
一方の本人は、そんなことも知らず。
「さて。次はどこで雇っていただきましょう」
地味で目立たないベテランメイド・エナメルの、新しい奉公先探しが始まる。
※本作は『メイドのエナメルは今日も静かにお仕えします』シリーズの第1作です。本作単体でもお楽しみいただけます。
異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった
高校の英語の授業中、勇者召喚で僕たちクラスメイト7名は異世界にやって来た。
目的は魔王討伐では無くて、高難易度ダンジョンの封印?!
でも僕ユイトのスキルは「貯金箱」、エイジは「犬」。
役立たず認定で、二人とも城を追放されてしまった。
のんびり暮らそうとしたけどそうもいかなくなって。
僕たちは奇妙なスキルを駆使して異世界で生き延びる。
緩~いファンタージ物語です。のんびりと書いていきます。
本文はなるべく簡潔に、サクサク進むようにしています。
暇つぶしに読んでいただいて、楽しんでくださると嬉しいです。
なろう様にも投稿。
捨てられた幼女ですが、公爵家に拾われたら家族みんなの愛が重すぎました
幼い頃に母親に捨てられ、孤児院で暮らしていた少女リリア。
「役に立たなければ、また捨てられる」
そう思い、いつも“いい子”でいようとしていた彼女は、ある日、公爵家の馬車を助けたことをきっかけに屋敷へ招かれる。
そこで待っていたのは、娘に甘すぎる公爵夫妻に、妹を構いたがるレオン、そしてリリアを甘やかしたい使用人たち。
戸惑いながらも、少しずつ公爵家に居場所を見つけていくリリア。やがて夫妻から「私たちの娘になってほしい」と告げられて――。
これは、捨てられないために“いい子”でいようとしていた少女が、重すぎるほどの愛情に包まれ、本当の家族を見つけていく物語。
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
番の証が出ないと捨てられたので、神様に確かめてもらいます
「番の証が出ぬからだ」
和平のために獣人国へ嫁いで四年。獣王ガイウス様との儀式は三度、三度とも証は出ませんでした。「人間の娘では神は認めぬ」——そう言われて、離宮へ。
雨漏りの下で眠り、井戸をさらい、畑を耕して。泣かなかったのは強いからではありません。獣人には、匂いでわかってしまうから。
嫁ぐ前に三年かけて読み込んだ婚姻法典。その第四章に、こうありました。
『既に誓いを結びたる者が、重ねて他者と誓いを立てんとする時、神は後の誓いを認めず』
——証が出なかったのは、わたしが人間だからではない。
長老会に申し立てたのは、解釈の確認だけ。わたしは悪くない、とは一言も書きませんでした。
遡誓の儀で神殿に浮かんだのは、六年前の秋の「成立」と、わたしの三度の「不成立(重複)」でした。
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます
「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」
竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。
ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。
夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
土下座する王妃の座などいらないので、冒険者に転職します。
「私が愛しているのはエルナ。君だけだ」
エルナは自分の夫でありハーメルン王国の国王であるカメルを愛していた。
彼がどれほど自分より隣国の聖女を優先しようとも。
結婚して二年が経っても初夜を迎えたことがなかろうとも。
しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
*ゆるい設定です。不快に思われる方はブラウザバックをお願いします。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。